表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】公爵令嬢は転生者で薔薇魔女ですが、普通に恋がしたいのです  作者: 卯崎瑛珠
第一章 世界のはじまりと仲間たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/229

〈13〉令嬢だって剣術を習うのです 後


 

 うわっ

 マジか……

 間近で見るの初めてだよ!

 デケェッ

 怖ぇ!


 

 学生達が、そうザワつくのも無理はない。


 実習が始まるまでは、騎士団の成り立ちや組織、訓練方法、過去の討伐記録などを座学で学んでおり、実習の担当講師は未だ不明だったわけだが……どう見ても、あのものすごくゴツくてデカいゴリラ顔は、騎士団長ゲルルフ・ランゲンバッハその人だ。

 

 そしてその右隣に立っている、左目だけ隠れるように伸ばした、長い前髪の蒼髪(後ろは刈り込んでいる)の美青年が、副団長ジョエル・ブノワ。

 ジョエルは、ブノワ伯爵家の四男で、ローゼン公爵家の侍従を経て、王立学院卒業。

 ベルナルドの推薦で華々しく騎士団入りし、輝かしい功績でもって去年副団長に昇任したばかりの、ルーカスの弟子だ。

 出世頭でヒューゴーの兄貴分でもある。レオナの十三歳年上なので、現在二十七歳のはずである。


 それにしても、団長と副団長揃って、部下三人も伴って来るとは、騎士団は意外と暇なのだろうか? と一瞬考えたレオナだったが、ラザールと同様『宰相直々のお願い』の影響ではと気付き、またまたションボリである。

 自分の父親の影響が強すぎると、いたたまれない気持ちになるのは何故だろう? と思う。

 開き直って、エッヘンとふんぞり返れれば楽なのだろうが、レオナにそういった性分はなかった。

 その辺りが、実は周囲に舐められ、悪意のある噂を許してしまう原因でもあるのだが、本人は気づいていない。


「オホン! 騎士団長、ゲルルフ・ランゲンバッハである! 学生諸君、剣術の道は大変に険しく厳しいが、共に励んでいこう!」

 騎士団長は、武功や討伐にしか興味がなく、政策などの話が非常にやりづらいと某宰相が愚痴っていたな、とレオナは思い出す。


 角刈りで筋骨隆々、顔の各パーツが大きく、まさにゴリラな見た目で、確か三十代前半の子爵位。

 残念ながら現在まで縁談が全くまとまらないらしい。

 どんな女性も裸足で逃げ出す、と揶揄されており、凱旋パレードでもジョエルばかり女性にキャーキャー言われるから拗ねるとか何とか。

 

 まるでどこかの白狸公爵みたいだな、と想像だけでレオナがウンザリしていると

「貴殿がローゼンの娘か」

 とかなり不躾(ぶしつけ)に問われ、咄嗟の反応が出来なかった。

 学生達からも注目を浴びる。

 いきなり呼ばれる意味も分からず、無言で身構えてしまった。

「剣術実習で女性は一人だけだ。途中で王国史に変えたくなったら、いつでも言うが良い。無条件で振替を認めてやる」


 


 カッチーーーーーン!

 なんかゴリラにいきなり喧嘩売られたぞ?

 ああん? 今すぐ動物園に帰れっ!



 

「……ゴ……ご配慮に感謝いたしますわ、騎士団長」



 

 あっぶねー!

 怒りで思わずゴリラって呼びそうになったよ、ギリギリッセーフッ!


 


 後ろに並んだ三人の部下のうち、ハゲた筋肉男がニタニタしてこちらを見ている。

 さては女を見下すタイプだなと感じ、こんな下品な人間が王国の騎士とは、と信じられない思いになる。

 ジョエルの口元がギリギリしているのにも、気が付いてしまった。毎日ストレス凄そうだな、後でお茶でもご馳走しよう、とレオナは心に決めた。

 

 ゲルルフは満足そうに頷くと、学生達を見渡しながら声を張り上げた。

 

「この実習は騎士団入団への足がかりでもある! そのつもりで気合いを入れて臨め! 辛ければいつでも離脱して良いが、入団したければついてこい!」

「「「「はいっ!」」」」

 

 やる気溢れる男子諸君が初々しい。

 レオナは、あんなのに潰されないでね、と心から祈った。


「あいつ、体術の……」

 すると、テオが珍しく横で殺気を出していた。



 

 ――まさかあのハゲ筋肉か? そうなのか?



 

 背後でボソリとゼルが

「またあのハゲか。やっとくか?」

 と物騒なことを言って、ガルガルしている。

 是非! と言いたいところだが、剣を習いに来たのであって、猛獣使い志望じゃないんだよなあと、レオナは思わず半目になった。


「では早速だが、騎士団入団を考えているものはこちらへ」

 ゲルルフが自身の前を指差す。

「それ以外は、副団長のところへ並べ」

 と命じた。ジョエルが右手を上げると

「副団長様は、お優しいから安心しろよ〜ゲハハ」

 と下卑(げび)蛇足(だそく)をするハゲ筋肉。



 

 ――やっぱやっとくか?


 


「僕、あいつ無理だから、副団長のところ行くよ。レオナさんもでしょ?」

「テオ……」

「安心しろ、ハゲは俺がやっとくから」

 ゼルが指をポキポキしている。

「嬉しいけど、単位もらえなくなりますよ? ゼルさん」

「うぐ……」

 気持ちだけもらっときますね、とテオは迷いなくジョエルのもとへと向かった。

 

 レオナはそれを追いかけながら、何かできることがあれば良いのにと思う。

 だがまずは、きちんと講義を受けよう。話はそれからだ、と思い直す。


 学生達は、ほとんどが騎士団長前に並んだ。

 家を継ぐ予定のない貴族の子が生きて行くには、女なら嫁ぐ、男なら士官するか、事業を立ち上げるか、騎士団に入るか、がこの国ではメジャーな将来設計だ。

 勉強が苦手なら騎士団一択になるだろうし、初期教育で剣術の基本を習わせる家も多いと聞く。ジョエルのもとに並んだのは、結局テオとレオナだけだった。まあ、そもそも初心者は、剣術を選択しない。


 二つのグループに分けられた学生達を前に、騎士団長が続ける。

 

「では、この二つの組でそれぞれの実力に応じた訓練を行っていく。最終的には魔獣討伐に行く訳だが」

 

 一旦そこで言葉を切り、訓練用の片手剣に模した木刀を、何度か振って見せる。ブンブン、と不穏な音が演習場に鳴り響く。

 

「訓練の様子や、実力次第で討伐には参加を許可されない者も出てくるだろう。訓練に残っている限り、単位は与えてやるから安心しろ」

 

 騎士団には入れないと暗に言っているのは、誰にでも分かる。

 入る気がない人間にとっても、カチンとくる言い方だなとレオナは思った。

 

「強い者は、積極的に取り立てていく! まずはイーヴォのもとで学ぶように!」

 

 イーヴォと呼ばれたハゲ筋肉が、両腕をムンッと曲げて力こぶを作る。暑苦しい。

 

 挨拶を終えると、騎士団長は部下を一人連れて、演習場を去った。

 残ったのはイーヴォとおっさん、そしてジョエルの三人だ。

「うーし、早速はじめるぞ、お前ら! まずは軽く準備運動してから、演習場二十周走れ!」

 イーヴォが声を張り上げる。

 即座に従う学生達。

 おっさんが肩に木刀を担いでスクワットし始めた。ひたすら暑苦しい。

 

 それにしても、貴族の子息とはいえ、体育会系のノリに慣れている男子達に感心する。

 素直に従っており、よく見るとみんなガタイが良い。恐らく幼少時から、騎士団を目指してきた者達なのだろう。

 

「初心者組は邪魔すんなよーゲハハ」



 

 ――さっきから、ほんっとうに一言余計!

 下品だし!!



 

 思わず睨みそうになると

「……やれやれ。二人ともこちらに来てくれるかい?」

 ジョエルが渋い顔のまま、演習場の脇にテオとレオナを誘導した。

 

「ごめんね。うちはあんなのばかりじゃないんだけど、団長の一存でアレに決まっちゃってさ」

 

 二人しかいないせいか、家での兄貴モードで話してくれるジョエルに、レオナは少し肩の力を抜くことができた。

「ジョエル兄様の日々の気苦労がうかがえますわ。どうかお気になさらず」

「そう言ってもらえると助かるよ」

 破顔するジョエルは、副団長になった今でも、家で侍従をしてくれていた時と変わらなくて安心する。

 

「え? レオナさんのお兄さんなの? ……ですか?」

 とはテオ。

「あーそっか、誤解するよね。違うよー。僕は騎士団に入る前は、ローゼン公爵家で侍従をしていたんだ。レオナが小さな頃だったから、その時の名残で兄様って呼んでくれているんだよ。残念ながら、血の繋がりはないんだー」

 ちなみにヒューゴーは、頑なに兄弟子のことをジョエル様と呼ぶので寂しいそうな。

 おにーちゃんって呼んで欲しいとか、絶対無理だとレオナは知っている。


「君の名前を聞いても良いかな?」

「テオフィル・ボドワンです」

「身のこなしを見ると、初心者ってわけではなさそうだけど、どうしてこちらに?」

 ジョエルは、あくまでも優しく聞いてくれる。

「……あの、ダメですか」

「ダメではないよ?」

 

 眉尻を下げて、副団長は説明する。

 

「剣術クラスは、先程団長が言った通り、王国騎士団の登竜門なんだ。幹部候補生としての、ね」

 

 騎士団の幹部は実際貴族の子息がほとんどだから、そういうことだろう。

 

「イーヴォの、正確には団長の組に入らないということは、その選考から外れることになるよ……申し訳ないけれど、そういう不文律(ふぶんりつ)があるんだ。強い貴族の推薦があれば別だけどね。従士から始めるということになると、今度は平民でも腕自慢の子達と、騎士になるのを争うことになる。君にとっては、多少厳しい道のりになってしまうかもしれないよ」

 

 テオは苦しそうな顔をする。咄嗟に声が出た。

 

「ジョエル兄様、テオは」

「大丈夫だよレオナさん。自分で言うから」

 

 テオは、まっすぐに副団長を見た。




-----------------------------


お読み頂きありがとうございました。

よろしければ、是非ブクマ、評価等お願いいたしますm(__)m

励みになります!


2023/1/13改稿

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ゴリラと呼びそうになった描写に思わず笑ってしまいました! 個性豊かなキャラ達が織りなすやり取りが面白いです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ