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【本編完結】公爵令嬢は転生者で薔薇魔女ですが、普通に恋がしたいのです  作者: 卯崎瑛珠
第三章 帝国留学と闇の里

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〈131〉次は学校を整えるのです




 二日目の朝、今度は約束の時間よりも少しだけ早く来たマクシム達。

 玄関ホールで、昨日と同じように迎えるレオナ、ジンライ、マリー、そしてシモンである。


「「「おはようございます」」」

「おはよう、マクシム少佐、オリヴェル、ヤン」

「おはようございます」

「おはようございます!」


 レオナは、敬称よりも肩書きで、とマクシムに言われたので、そう呼ぶことにした。『少佐』という肩書きは、結構使えるんですよ、とウインクされた。――悪い大人である。


「ヤン、どうしたの?」

 ヤンの顔が緩んでいるので、レオナがそう尋ねると

「あっ、その」

「どうかお気になさらず」

 オリヴェルが代わりに冷たい顔で言う。

「ふふ。気になるわ」

「は! 名前を覚えて頂けて嬉しいのです!」

 ヤンが素直に言い

「こら! ……申し訳ございません、レオナ様」

 オリヴェルが頭を下げる。良いコンビなのだな、と思う。

「いいえ、喜んでもらえて嬉しいわ。あのね、ブルザークでは、あえて目を合わせないと聞いたんだけど」

「「はっ」」

 二人はやはり、斜め上を見ている。

「私の目は、見て欲しいわ」

「「!」」


 恐る恐る、二人がレオナの目を見る。


「ふふふ」


 かー、とそろって赤くなる二人。


「レオナ様……」

 マクシムが、眉を下げる。

「ダメかしら?」

「……いえ。お望みとあれば」

「良かった! 目を見た方が、気持ちが通じやすいもの」

「レオナ様は、素直でいらっしゃる」

「そうかしら?」

「貴族は本心を明かしたがらないものです」

「ああ、そうね……そうかもしれない」


 目は口ほどに物を言うのだ。

 ブルザークの慣習にも、一理ある。

 が、レオナには合わない、と感じたまで。


「じゃあ、二人が無礼と言われない範囲で、お願いするわ」

「御意」

「「は!」」

 

「ところでレオナ様。出発前に」

 マクシムが言うと、オリヴェルが頷いて書類を鞄から出して、マクシムに渡す。

 それをざっと目で確認をしてから、マクシムがレオナに差し出した。

「十分ではありませんが、ご依頼の、ディートヘルム様が所持していると思われる『武器魔道具』の一覧です」

「!」

 さすが、早い。

「見ればお分かり頂けると思いますが、ご懸念の通り、魔力封じと拘束具の購入履歴があります。しかも、昨日」


 ディートヘルムは、もうその行動を、軍にかなり掌握されているのかもしれない。

 

「……そう」

「あきらかに、レオナ様達を想定しているものと思われます。警戒を致しましょう」

 昨日の今日で、ずいぶん思い切ったものだな、とレオナは呆れる。

「ええ。マリー」

「はい、拝見致します」


 マリーが素早く一覧に目を通す。

 

「……なるほど。この通りなら、問題ございません」

「そう?」

「街で買える程度のもので、レオナ様は拘束できないでしょう」

「ふふ、そうかもね」

「確かに。レオナさんですもんね」

 ジンライも、同意する。

「えっ」

「「!?」」

「マクシム少佐、そういうわけだから、いつも通りの護衛で大丈夫よ」

「ええっ!? あの、学校内に入るつもりで、許可を申請したのですが……」

 マクシムが戸惑う。

「そうだったの? ごめんなさい。でも、下手に刺激しない方が良いと思うわ」

「しかし……」

「じゃ、ヤンだけならどう?」

 マクシムはしばらく考え、

「なるほど、ヤンならば、それほど脅威には感じないかもしれません。そういたしましょう」

 と割と酷いことを言った。

「少佐! 事実でも落ち込むであります!」

 がっくう、とうなだれるヤンの背中を、ジンライが撫でて慰める。

 その様子を見ながら、レオナは一つ気がかりが思い浮かんだ。

「……シモン」

「はい」

「念のため、この一覧の裏付けをお願いできるかしら」

「かしこまりました」

「裏付け、とは……」

 また戸惑うマクシムに、レオナは事も無げに言う。

「購入履歴と実際に購入したものは、一致するとは限らないでしょう?」

「!!」

「ふむ。簡易なものと偽り、周到な用意をしている可能性もございますね。承知致しました」

 シモンが(うやうや)しくレオナから書類を受け取る。

「あの、レオナ様? 貴方様は一体……」

「ただの公爵令嬢よ?」


 三人の軍人は、必死でつっこみたいのを我慢した。



 

 ※ ※ ※



 

「うわー、すげえっすね、これ」

「あんま触んな」

 

 ジャラリと鳴る鎖の先には、手錠。

 魔力を封じる魔石が嵌め込まれている。

 同じように、首輪もあり、それにも鎖を繋げられるようになっている。

 首輪には、もっと強力な魔力封じの魔石。――時折禍々(まがまが)しく光っている。奴隷用のこの道具は、強力で希少。どんな種族でも拘束できる、その店唯一にして随一の物だ、と店主が言っていた。

 

「貴重なんだぞ」

 ニヤニヤするディートヘルムは、買い叩いた時の店主の悲鳴を、思い出していた。

 魔道具屋の店主は、ある娼婦にのめり込んで破産寸前だった。それを盾に、わずかな金額でむしり取ってきたのだ。

 

「念のため、書類上はショボイ道具を買ったことになってる」

「さーすがディート様!」

「頭良いすね!」

「賢いっす!」

「まーな」


 とはいえこんな道具を使うような事態は、避けるに越したことはないと、ディートヘルム自身にも分かっていた。

 さすがに公爵令嬢を拘束したら、逮捕されるだろう。軍から容疑がかかったら、アレクセイの権力をもってしても逃げられない。

 平民の男の方を狙って、これを見せびらかし、言うことを聞くように脅すだけのつもりだ。あの魔法は強力そうだったから、念のために用意したに過ぎない。最悪はもう一人の小柄な女子学生を狙うことになるかもしれないが……



 クソくだらねえ毎日だ、とディートヘルムは手錠を見ながら思う。

 いつからだろう。なぜか、他者を蹂躙(じゅうりん)でもしていないと、気が狂いそうになる。

 暴れる心を抑えられない。

 だから娼館に行って欲を発散して誤魔化すのだが、それにも限界があった。

 周りの男子学生たちも同様で、日に日に理性を失っていっている気がする。お互いを殴り始めるのも、時間の問題かもしれないぐらいに、理由もなしに、イラつくのだ。

 


『正直に生きよう。自然に帰ろう。心を解放しよう』

 


 頭に鳴り響くその声に、(いざな)われて――

 


 

 ※ ※ ※




「ヤン?」

「は、はい」

「落ち込んでるの?」

「うっ」

 レオナの前を歩くヤンの肩に、元気がない。

「レオナ様、どうかお気遣いなく」

 マクシムはそう言うが、元気がないよりは、あった方が良いに決まっている。

「頼りにしているわ。ほんとよ?」

「うう」

「軍曹になるのも、大変なんでしょう? マクシム少佐が、貴方を任命したのよ。自信を持って」

「はい……」


 城門でレオナの名を叫んでしまって以来、自信を失っているのかもしれないな、とレオナは思う。マナーを学びたいと言ったのも、彼なりにあがいている証拠だろう。

 レオナからしてみると、この若さで(二十歳なのだそう)平民の一兵卒(いっぺいそつ)から伍長、そして軍曹になっているのだから、十分誇るべきだと思うのだが。


「情けない部下で、申し訳ない」

 マクシムが憮然(ぶぜん)とするので

「いいえ、そんなことないわ」

 レオナはフォローを試みるが、良い言葉が見つからない。

 

「……ヤン」

 珍しくマリーが口を開いたので、皆が思わず立ち止まった。

「貴方の年で威厳があったら、それは単に老けているってことよ」

「えっ!?」

「貴方に求めているのは、威厳なんかじゃない。いざと言う時の機動力、体力、柔軟性。むしろ、なめられているぐらいの方がいい。最年少軍曹なんでしょう。すごいわ」

「ま、マリーさん、なぜそれを」

「ふふ。貴方のことが、知りたくて」


 ぼん!


 爆発した!? というぐらいに、ヤンの顔が一気に真っ赤になった。


「頼りにしているわ」

「はっ!」

 この二日間で、一番気合いの入った敬礼である。

 マクシムもオリヴェルも、現金なやつだな、とばかりに苦笑している。レオナも、さっき同じセリフ言ったのにー? と思わずマリーを見て笑ってしまった。


 再び歩き出しながら、

「師匠は、やっぱすげぇ……」

 とジンライが呟くと

「ジンライ様」

 マリーが険しい顔をして彼の顔を見やった。

「あうっ、すません!」

 反射的に謝ってしまうジンライに、固い顔のまま、マリーが言う。

「私の予想では、一番標的になりそうなのは、貴方です」

「俺すか?」

「ええ。さすがにレオナ様には公爵令嬢というお立場がある。私達をねじ伏せたいのなら、平民であるジンライ様を脅すのが、一番手っ取り早い」

「あー、そっすねえ」

「なぁーん」

 今日は、肩にオスカーが乗ったままのジンライは、どこか飄々(ひょうひょう)としている。

「ま、なんとかなるっすよ。な、オスカー?」

「にゃあ」

 オスカーがそのふわふわの黒い毛皮を、ジンライの頬になすりつけている。大丈夫だよ、と言っているようだ。

「……信じます」

「ウス! すげー嬉しいっす!」

「ジンライ様の()は、当たりますから。昨夜ディナーで仰っていましたが、何か思い当たることがあるのでしょう?」

「そーなんすよ……確信が持てたら、ちゃんと皆さんに話しますんで」

「思い当たること?」

 マクシムに、ジンライは言いづらそうだ。

「昨日の今日なんで、まだなんとも言えないんす」

「分かりました。それにしても、ディートヘルム様は、なぜそこまで……」

 皆が皆、首をひねる。


 グレる理由なんて、人それぞれだ。

 ちゃんと話してみないことには分からないし、話したところで分からないかもしれない。あんなに頑なになってしまったら、もうその心を紐解くのは、難しいかもしれない。

 だがそれでも。


「同じ学校に通うご縁があるからには、ともに高めあえる存在になれたら、一番理想なのだけれど……」

「レオナ様は、お優しくていらっしゃる」

 マクシムが、寂しそうに笑って、諦めたように言う。

「皆が皆、そういった心を持っていれば良いのですが」

「優しいかどうかは、分からないけれど……押し付ける気も、ないわ。ただ、学びたいだけなの」


 昨日ホンザが、帝国学校は入学するだけでも大変で、学生達は皆優秀なのだ、と言っていた。だが最近はディートヘルムに影響されてか、皆成績は下がる一方だし、暴力的な振る舞いが目立つようになってきている、と。そのため女子学生の中には身の危険を感じて、休学している者もいるのだとか。

 学校側としても対処を考えなければ、という矢先に、レオナ達が留学してきたらしい。

 

「皆と仲良くなる必要はないわ。でも、学ぶためには、環境整備も重要。つまり」

「心置きなく学ぶために、食堂とディート様の件を、片付けたいというわけですね」

 マクシムが笑う。

「ええ、その通り!」


 校門に着いた。


「さ、気合いを入れましょう」

「はっ!」

 

 ヤンがなぜか一番に返事をして、皆で笑ってしまった。



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