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【本編完結】公爵令嬢は転生者で薔薇魔女ですが、普通に恋がしたいのです  作者: 卯崎瑛珠
第一章 世界のはじまりと仲間たち

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〈11〉反省なんて、しないのです


 

 その後の学院生活にてカミロは、レオナの魔力量が膨大だからと特別扱いはせず、淡々と魔力制御の補講をしてくれたり、質問に答えてくれたりした。

 研究室で、あまりにも騎士団や魔術師団関係者? の出入りが多いので疑問に思っていたら、王国唯一のお抱え魔道具師なのだとこっそり教えてくれた。

 

「学院では公にしていないからね」

 と、シィーッとされた。

 レオナは、コクコク、と無言で頷くしかできなかった。



 

 ――先生っ! 無駄にセクシーです……尊い……



 

 ユリエはというと、相変わらずエドガーにベッタリ。

「エドガー様、さすがです! 今日のブーツも素敵ですね!」

 といった感じで、褒め褒め路線一直線のようだ。

 

 レオナが二人に関わる時間がほぼないのは幸いだが、さすがのエドガーも困り果てているのでは? と思いきや、満更でもなさそうなのが、逆にすごいなと思っている。

 

「うむ、これは馴染みの店でな、良い革が入ったと聞いて早速作ってもらったのだ」

 毎日毎日、キラキラの笑顔で持ち上げられ続けているようだから、(ほだ)されたのかもしれない。

 それで良いのか、王子? チョロすぎやしないか? と若干心配になるレオナである。


 ハイクラスルームでは、少しでも王子に顔を覚えてもらおうと、休憩時間などは特にエドガーの周りに人だかりが出来ている。だが、ユリエが常に隣にいるにも関わらず、批判めいたことは起きていない。

 むしろ二人が一緒にいるのが当たり前になりつつあり、レオナは薄ら寒いものを感じているぐらいだ。

 一方で、『薔薇魔女扱い』は、日に日に増してきている気がする。


 ――レオナは、クラス内で一言も発していないにも関わらず。


 思春期特有の残酷さだな、と割り切り、レオナは冷静でいることを日々意識していた。

 貴族とはいえこの年代、考えることは現代日本人とさほど変わらないな、と気づいたのだ。

 スクールカーストに敏感で、自身の感性よりも影響力の強いものを()としがちで、漠然とした未来への渇望と不安、現実とのギャップに焦燥を抱えて……アンバランスな橋の上にいる。


 だから、仮想の敵を排除することで、結束している。


 エドガーが()()()()()カリスマなら、こんなことにはなってはいないのだろうな、とレオナは思わず溜息をついてしまう。

 彼女が何のアクションも取っていないからこそ、成り立っているであろうバランスであるということを、このクラスの何人が気づいているのだろう?


 カミロの研究室に向かいながら

「レオナのそれって、優しさなのかなあ?」

 シャルリーヌがぽそりと言う。

 彼女は黙って耐える性質(たち)ではない。

 悪口をこれみよがしに言われてすら何もしないレオナに、多少イライラはしているのかもしれない。

 

「違うわ。面倒くさいだけ」

「ふぅん。我慢しなくても良いと思うわよ」

「シャル……」

 レオナがどう返答しようかと逡巡していると。


「ちょっと、あなた! あやまりなさいよ!」

 普通科の建物から研究棟に移動する際に通る渡り廊下で、突如金切り声が鳴り響いた。


 驚いて目を向けると、床に本や小物が散らばっており、男子学生が一人、尻もちをついている。

 

「なんとか言いなさいったら!」

 

 顔を真っ赤にして叫んでいるのは、よくフランソワーズの背後にいる典型的な金髪縦ロールの女子学生。

 確かザーラという名前で、伯爵家の令嬢である。

 腰に手を当ててふんぞり返るのは、なんというかデフォなのかな? とレオナは見るだけでゲンナリした。

 

 一方の男子学生は、こちらに背を向けているので顔は分からないが、青髪に金メッシュの入ったツーブロックで、頭の後ろで括った髪が少し解けている。

 やがてその彼がのそりと立ち上がると、結構な長身だった。ゼルくらいは有るだろう。その代わり身体は細く、ヒョロりとしている。


 ザーラは、その身長差に一瞬(ひる)んだ。


「な、な、なによ!」

「……ぶ」

「は?」

「……ぶつかってきたのは、そっち……」

「はぁ!? 平民のくせに!」

 

 レオナは思わず、シャルリーヌと顔を見合わせてしまった。


 

 ――この世界で、自分に対する悪意には向き合って来たけれど、他人に理不尽を押し付けているのは見過ごせないわなぁ〜……



 現場を見ていないので何とも言えないが、純粋に助けてあげたいな、とレオナは思い――即行動に移す。

 つかつかと近寄り、無言でテキパキと散らばった道具を拾う。

 

「……この中に貴方の物はあって?」

 座り込んでいる彼に聞くと、ブンブンと頭を振られた。

「そう。……じゃあはい、どうぞ」

 レオナは拾った物を丁寧に整えて、ザーラに渡した。

「……なっ」

「私は、カミロ先生に用事がありますの。この道を通りたいだけですわ」

「……」

「それから、貴族や平民は今関係ないと思いますけれど。謝るのはどちらか、それだけでしょう?」

 ザーラはぶるぶる震え、レオナの差し出した物を剥ぎ取るようにして受け取る。

「あらあら。お礼も言えないのかしら」

 呆れて思わず言うレオナを、きっ! という効果音がバッチリハマるくらいに睨んだ後、ザーラは無言で走り去って行った。


「あ、ありがとう……ございました」

 ぺこり、と、いつの間にか立ち上がっていた彼は、お辞儀する。

 

「大丈夫?」

 シャルリーヌが声を掛けると

「大丈夫、です。足、踏まれてビックリしただけで……」

 と、モゴモゴ話す彼の首から鎖骨にかけて、大きな雷のタトゥーが走っているのが、着崩した制服から垣間見えて――レオナは彼の発言よりも、そちらの方が気になってしまった。

 

「あっ、コレはその生まれつきで……」

「まぁ、ごめんなさい! 不躾(ぶしつけ)でしたわね」

「いえ……」

「とっても素敵だわ。お似合いですもの」

「えっ、……! あり、がと」

「あっ、ごめんなさい、急ぎますの。ごきげんよう」

「は、はい」

 大きなぺこりに、お辞儀を返す。


 見守ってくれていたシャルリーヌにお待たせ、と言うと

「全くもう。他人に与える分、自分も(いた)わってあげなよ」

 叱られた。

 はい、ごもっともです、とションボリするレオナである。



 それからというもの、フランソワーズは『レオナ・ネガティブキャンペーン』を強化したようだ。

 ザーラにした厭味(いやみ)については、これっぽっちも後悔していないが、アレのせいで助長してしまったのなら、ただただめんどくさいな、とレオナは思っている。



「薔薇魔女様ったら、カミロ先生のお部屋に入り浸っているそうよ」

「まあ! さすがですわね」

「殿方に取り入るのがお上手ですこと」

「平民にすら媚びを売るんですのよ」

「お心が広くていらっしゃるわぁ」

 


 ――ハイハイ、ソウデスネー



 ピオジェ公爵オーギュストは、エドガーとフランソワーズを婚約させようと画策していると、アデリナから聞いている(王妃と仲が良くしょっちゅうお茶会をしているので、全部筒抜け)。

 正直どうぞどうぞ! である。

 恐らくは婚約を勝ち取るための布石(いわゆるロビー活動)なんだろう、と頭では分かってはいても、自分の悪口を聞いて平気な人間はそうそういない。

 無視する、と決めてはいても、コトバは鉛のように腹の底に溜まる。

 つまり、ムカつくものはムカつくのだ! と毎日地味に精神力を削られているレオナは、このストレスをどうにかできないか、と考えを巡らせているところだ。

 かといって、自身がフランソワーズのネガティブ・キャンペーンをできるか? と問われれば、できない。

 余計な燃料を投下することになってしまうだろうし、それ以前に……

 



 悪口って、言う方がしんどいのよね。

 自分の中の何かが失われてしまうみたいで。

 



「どうした? レオナ嬢。元気ないな?」

「……この論文難しくて。ゼル様の方こそ」

「はは、俺は自業自得とはいえ、面倒でな」

 

 放課後のカミロ研究室で、魔法制御の論文を読ませてもらいながら、複数属性の制御方法を考えているが、なかなか道筋すら見えてこなかった。

 ラザール曰く『私の感覚は私のものでしかないので、教えられるものではない。自分で自分の感覚を探すしかない』である。

 対してゼルは、先日の体術実習で講師の騎士団員に食ってかかってしまい、居残りで反省文をしたため中であった。

 

「演習場十周だの、型の様式美だの、実戦では何の役にも立たないだろ? 俺は悪くない。よって、反省などなーんも思い浮かばんぞー」

 

 ペンを鼻の下に挟みながら、ぐーっと両手を上にあげて伸びをするゼルに、思わずレオナはクスクスと笑ってしまった。確かに正論だ。

 

「あーあ。反省文出さないと単位やらんって横暴すぎるだろ。のしてもいいかな」

「ダメですよ」

 作業の手を止めて、苦笑で否定するカミロ。

「あいつ俺より弱いぞ」

「それでも。ダメです」

 

 ゼルの方が強いのは否定しないんだな、とレオナは感心する。騎士団員より強いとは、凄いのではないか。

 フィリベルトがカミロに資料を渡しながら、口を挟む。

 

「体術の様式美は、確かに実戦では無用の長物だが」

 ゼルのまだ何も書かれていない紙に、人差し指を落としながら説く。すっ、すっ、と多分『こころ』と指で書きながら。

「これから身につける者にとっては、心構えを説くのに適している。敵に相対する際の心持ちや、姿勢、覚悟、などだな」

 そしてゼルの肩をぽんぽんと叩いてふっと笑む。

 

「貴殿には退屈であろうが、なにせ『学生用』だ。許せ」



 うん? なんか、意味深?



「そう言われちゃあなあ」

 うーんうーん、と唸ってから、ゼルはよしっ! と頷いて

『次からは、初心者の心持ちで、頑張ります』

 と大きく書いた。


 レオナは、思わず吹いた。全く反省していない!


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お読み頂きありがとうございました。

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2023/1/13改稿

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