表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】公爵令嬢は転生者で薔薇魔女ですが、普通に恋がしたいのです  作者: 卯崎瑛珠
第一章 世界のはじまりと仲間たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/229

〈9〉変わらないのです ヒューゴーside

残酷な表現があります。

別視点です。




 俺はヒューゴー。

 二十三歳で、ローゼン公爵家のご令嬢、レオナ様の専属侍従だ。

 公爵家には、十三歳の時にやって来て、かれこれ十年経った。

 孤児から公爵家の侍従にっていうのは、普通なら有り得ないぐらい、ものすごい出世らしいぜ。すげえだろ。


 そう、俺は産まれたばかりの赤ん坊の時、教会が運営するある街の孤児院の玄関前に捨てられていた。

 雪が降り続く寒い日だったのにも関わらず、タオル一枚で包まれていただけだったので、朝玄関掃除をしようとして見つけたシスターは、もう死んでいるのではないかと抱き上げるのが怖かったそうだ。

 残念ながら生きていたので、そのまま引き取ってくれた。

 

 それからは、シスターと、同じ境遇のガキどもと暮らした。三十人ぐらいは一緒に生活していたと思う。とにかく貧乏で、服はいつもどこかが破れていて、朝食のスープではとても足りず、いつも腹がグルグル鳴っていて、誤魔化すために井戸水をガブ飲みしては腹を下す毎日。

 昼も夜も硬いパンと根菜ぐらいしか食えてなかったが、そのうち勝手に身体が大きく丈夫になり、水汲みや畑を耕したりできるようになった頃、一番仲の良い悪友のポーが言った。

 

「なあヒューゴー、冒険者になりたくないか?」

 

 ポーは、この王国で一番有名な『創造神と王様』の絵本を何度もぱらり、ぱらりとめくっている。

 皆が繰り返し読むので紙はボロボロだし、綴じはほつれかかっているし、絵もかすれているが、ポーは宝物のように扱っている。

 その絵本は、この国の成り立ちを描いたとされる一番有名な物語で、大まかな内容はこうだ。

 


 創造神イゾラは、貧しい山間で真面目に生きるある少年に目を止める。彼は困った人を見つけると、老若男女、悪人善人問わず誰でも助け、与えられるものは何でも施し、笑顔を絶やさない。

 ある時彼は、狩りの腕を見込まれて、村同士の争いに駆り出され、命を奪われそうになる。それでも大切な人々を守りたいと願い、彼の純粋な心に胸を打たれたイゾラは、彼に魔力を与えた。

 

 強大な魔法で争いを終わらせた彼はだが人々に畏怖され、その土地を追われてしまう。それでも清廉な魂を持ち続けた彼は、冒険者として世界中を旅し、道中で人を助け、魔獣を討伐し、仲間を得て豊かな土地へと辿り着いた。そこである女性と恋に落ち、やがてその地に村ができ、さらに発展し大きくなり、ついには国となり、彼は初代国王になった。


 

 ――というものだ。

 ポーは何度も繰り返しこの物語を読んでは憧れ、毎日のように冒険者になりたいと言っていた。

「……なってやってもいいぜ。どうせここには、長く居られないんだ」

 成人となる十六歳までには、何らかの職を見つけて孤児院を出なければならない決まりだ。

 別にやりたいことなどなかったから、二人で冒険者登録ができる十歳の年に街のギルドへ行き、十二歳で小さな部屋を借りて、孤児院を出た。

 

 俺には魔力があった。裸同然の赤ん坊が、雪の夜を外で朝まで過ごせたんだ。そういうことだ。

 シスターも、どこかの貴族の不義の子なのではと、最初から思っていたらしい。

「あなたが私の指を掴んで、離さなかったものだから」

と笑って、その後あの頃は可愛かったのに、と愚痴るまでがお決まりの、元気な婆さんだ。


 部屋を借りられるくらいには、稼げる腕があった二人パーティの俺達は、それなりに街では名が通っていた。成長株だなんだと持ち上げられて、満更でもなかった。

 そして十三歳になる年、未曾有の大災害がこの国を襲った。スタンピードだ。年齢性別を問わず戦地に向かった冒険者達の目的は、名誉と報酬に尽きる。ポーもそうだった。だが、俺達にはまだ早すぎた。


 問答無用で襲いくる、見たことも無い魔獣の群れ。

 数の暴力に抗うには未熟過ぎた、と気付いても後の祭りだった。

 

 戦う人々、逃げ惑う人々、血飛沫、体液、魔法、武器がぶつかる音、馬の嘶き、腐った血肉の臭い、何かが焼ける臭い、怒号、悲鳴、雄叫び、遠吠え、断末魔。


 人間が一瞬で壊れた玩具になる、非現実的な光景に、胸が焼けるように熱いのに、肌はずっとビリビリ粟立っていた。


 目の前で簡単に命が刈り取られていく中、必死で活路を見出し走ったが、あと一歩足りなかった。

 先に事切れたポーを背負ったまま、倒れ伏した俺は、どんどん冷たくなっていく背中の親友の温度に絶望した。

 血なまぐさい土に顔を埋め、まあこの生き方で悪くはなかったかな、と思い返す。せめて、孤児院に大金を持って帰って、シスターを驚かせたかったなあ、と思ったのを最後に気を失い、目が覚めると野戦病院のベッドの上だった。

 

 親友の死臭でもって魔獣の襲撃を逃れられ、せめて墓作りをとやって来た辺境騎士団に、運良く助けられたのだそうだ。ポーはスタンピードの起こった北の森の外れに作られた、集団墓地に葬られたと聞いた。


 ――なんとなく墓には行けないまま、怪我が治ると街へ戻り、たまたま冒険者ギルドを訪れていたルーカスに出会い、令嬢の護衛にならないか? と誘われた。

 

「貴族のお嬢様の世話ぁ? 退屈なんじゃねーの?」

 

 舐められたくなくて斜に構えた俺に、ルーカスは、会えば分かる、と微笑んだ。

 手付金をもらった挙句、気に食わなかったら断るからな! と豪語して、公爵邸で当時四歳のレオナ様に会い、戦慄した。


 深紅の瞳を持った少女は、まだ四歳にも関わらず、白い肌にプラチナブロンドで、既に非常に美しい存在だった。

 その瞳の色で、この王国の誰もが知る薔薇魔女の名前が思い浮かび――何故か大衆演劇では、王子とお姫様の恋仲を魔法で邪魔する演目が人気だ。魔法必要か? と思うが、つっこんではいけないらしい、永遠の絶対的悪役だ――目が離せなかった。


「はじめまして。わたくしはレオナというの。あなたは?」

 温かく小さな両手が、俺の右手を握りしめてきたので、突然のことに戸惑い、反応ができなかった。

「なにか、かなしいことがあったのね? こんなに手をいためて……がんばったのね……」

 柔らかな手のひらが、すっかり硬くなって潰れた剣だこを撫でる。

 俺は自然と両膝を床に付き、高さの合った彼女の目を見返していた。ルビーのように煌めいている。――涙が溢れてきた。

「だいじょうぶよ。もうさみしくないわ」


 なぜ? と思った。

 

 なぜ分かるのか? 大切な人間を失い、生きる目的も失った俺の空っぽな心の内を、なぜこんな小さな子が見透かしているのか?


 レオナ様は、高価な服が汚れるのを厭わず、小さな腕で俺の頭をしっかりと抱きしめ、言った。

 

 ――温かい。言葉も、体温も。

 

「ヒューゴーというのね。よかったら、わたくしのかぞくになってくれたらうれしいわ」

 ルーカスにね、強くてかっこいい人がいいなってお願いしたら、あなたが来たのよ? と、耳元で内緒よ? と恥ずかしそうにフフッと笑うレオナ様は、まさに初々しく咲きたての一輪の薔薇のようだった。


 それから長い時間を一緒に過ごして来たのだが、未だにレオナ様は、なかなかその胸の内を明かしてはくれない。

 いつも独りで悩み、冷めた目で遠くを見やっては、何か大きなものを受け入れる、その繰り返しだった。


 あなたは、俺に家族になって、と言ったのだから、俺に生きる目的をくれたのだから、何でも言えばいいんだ。

 この命を捧げてでも、あなたの願いを叶えたいのに!

 いつでも笑って誤魔化される。俺はいつまでも与えられてばかりだ。


 メイドのマリーと戦闘訓練をしながら、そう思いを馳せる。いつになったら、ちゃんと家族になれるのだろう? と。

 

「他のことを考えていられるなんて……余裕ね?」

 

 元男爵令嬢のマリーも魔力持ちで、メイドと言っているがほぼ護衛だ。

 小柄だがその分すばしっこく、手を焼く。

 非力だが人体の急所を知り尽くしているのが非常に厄介だ。気配を消すのも上手く、油断するとあっという間に気絶させられる。

 

「レオナ様が、悩んでいらっしゃる」

 

 やれやれ、とマリーがナイフを下ろした。俺も拳を下ろす。

「お茶会で、どこぞの伯爵家の息子に、魔女のくせにって面と向かって言われたそうよ」

「あん?」

 

 いつもそうだ。

 マリーには言うのに、俺には言わない。

 同じ女だから言いやすいのか?

 

「ヒューは、すぐ殺気だすから言えないのって、笑っていらっしゃったわよ。修行が足りないわね」

 

 読まれたか。

 

「わざとだ」

「知ってる」

 

 なんだよ、今日はやけに絡むな?

 

「あなたは、お嬢様への愛が深すぎるわね」

 

 ……分かってる。

 

「私も苦しい」

「はっ、お前もたいがいだよな」

 

 マリーもレオナ様を愛し、なんとかしてあげたいと苦しんでいるのだ。似た者同士、慰め合うのも悪くない。何にせよ、俺達は生きている限り、一生レオナ様から離れる気はないのだから。何よりもレオナ様が一番。それ以外は、割とどうでも良い。


 果たして俺達はその夜、慰め合った。

 共犯よ? とベッドの中でマリーが笑う。

 いいぜ。一生共犯で居ようぜって言ったら、ある意味プロポーズね、とまた笑われた。

 ――なるほど、それも良いかもしれない。




 ある日、学院での魔力測定を終え、能力が明らかとなったレオナ様が動揺し、泣き崩れた。

 

「私は――これからどうなってしまうのかしら」

 

 ルーカス、マリー、そして俺は事実を打ち明けて頂けたわけだが、聞いた瞬間、ようやくレオナ様の心に触れられたという(くら)い喜びを感じてしまった。

 

 ついにこの日が来てしまった訳だが、我々は皆想定済。

 公爵閣下のご指示で、密かに備えていた。いざという時のための結界、魔法制御の魔道具、それらを使うための訓練。このレオナ様のお部屋もかなり頑丈に作られている。

 

「魔法なんて使えないし、魔力なんて分からない……だけど、強い何かが、身体の中にあるのだけは感じたの。怖い、怖いよお、こんなのいらないよお、どうしよううう、ううう」

 

 俺がレオナ様を抱き締めるわけにはいかないので、マリーに託す。拳を握り締めすぎて、手のひらから血が滴り、白手袋を濡らした。



 おい、共犯者。

 俺の分まで抱き締めて、側にいる、必ず守ると示してくれ。頼む。



「お嬢様。我々がお側におります。大丈夫ですよ、ご安心下さい」

 ルーカスが、背中をさすりながら何度も「お側に」「大丈夫です」と言う。

 マリーも、ただただギューッと抱き締めている。

 

 結局、奥様が泣き疲れたレオナ様と共寝でお休みになった後も、マリーは寝室で泣き続けた。

 幼少時代から瞳の色のせいで、薔薇魔女だの悪女だの陰口を叩かれ続けていたのを、間近で見知っている身としても、どこか絵空事であった。

 

 魔女の能力が現実となってしまったことは、それぐらい我々にとってすら非常に重たく、とてもすぐに受け入れられるものではない。

 

「心のどこかで、まさか、と思っていたの」

 

 俺が三枚目のハンカチをマリーに差し出すと、間髪入れずズビーッと鼻水をかむ。ストック足りるかな。

 

「あんなにお優しくて控えめなお方なのに……」

 

 お前が悲観してどうするんだよ、と俺は努めて軽口を装う。

 

「レオナ様が、誰かと恋愛結婚するのを見届けるんだろ? お前がウエディングドレス着せるんだろ?」

 

 そんな慎ましい夢を持つ公爵令嬢なんて、居るんだろうか。実際ここに居るわけだが。

 

「薔薇魔女? 上等じゃねーか。見合うような良い男見つけてやろーぜ。そんで、それを演劇にして、流行らせようぜ」

 

 国を滅ぼす程の魔力だから、どうだっていうんだ。悪女なんてクソ喰らえだ! 過去の女のことなんて、知るかよっ。今度は、あなたに幸せになってもらうだけだ。歴史なんて、俺がいくらでも塗り変えてやる。


 翌朝、少しだけ覚悟ができたわ、これから迷惑をかけるわね、と言われたので、なんでもないことのように答えた。


 

「俺がやることは変わらないっすけどね。ただ護るだけっす」


 

 変わらないのですよ、レオナ様。

 一緒に生きて行く。家族なのですから。

-----------------------------


お読み頂きありがとうございました。

よろしければ、是非ブクマ、評価等お願いいたしますm(__)m

励みになります!


2023/1/13改稿

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ