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ステロ

ステロ

 深い森を抜け、木々もまばらになった林の中。俺とキリルは大きなステロと並んで歩いていた。

 前を歩くのは道案内のアルと、何やら話し込んでるテランスだ。まだ体力の戻らないラビスは、ステロが持って運んでくれてるから、ちょー楽チンだ。

 俺はキリルと繋がった縄を解きながら、ジャングルの中、のんびりと歩いていた。きっとニックス達がアイリスを引き止めてくれてる。安心感から歩みは自然と遅くなる。

「あ、そういやキリル。お前、剣をキマイラにぶっ刺したままだったろ?」

「はい。あの剣には俺のアンクが入ってたんですが、戻る気がしませんで……後でテオが探してくれると言ってましたが」

「あ、テオが探しに行ったのって、それだったのか」

「はい。見つかると良いのですが」

 かなり消沈した様子のキリル。お前……そんなに大切な物を放って来るくらいショックだったんだな。でもそれ……。

「それな、俺、持ってんだわ。どうしよう、テオ探してるかな……」

「え?」

「その……お前に謝らなきゃいけないんだが、お前の剣さ、デカくて持てなかったからアンクに戻しちゃてさ、さらに他の荷物と一緒にしちゃったもんだから、すぐに渡せない状態たんだよ」

 頭を搔く俺にキリルは立ち止まり頭を下げた。

「いえ、ありがとうございます。でも、何と一緒にしたんですか?渡せない状態とは」

「あ――怒らない?」

「ええ。リンネ様に怒れる訳ないじやないですか」

 俺はヨモギを懐から出し、手に乗せると、キリルの前に差し出した。キリルの眉間にシワがよる。

「実はさ、キマイラの毒を吸ったヨモギに持たせてて、なんだか、エグい状態なんだよな」

 優しい緑色だったヨモギは、キマイラの毒の色なのか体液なのか、毒々しい緑色になってしまっていた。その迷彩色渦巻くお腹の中枢に黒いアンク片が二つ揺らめいて見える。

「…………」

「キリル、今怒ったろ?」

「いえ、驚いただけです」

「そうか?本当にすまん。俺の頭の中ではスライムは単細胞生物でさ、分けれなかったんだ」

 キリルがヨモギから目を離し、俺を見る。

「リンネ様が殺ったんやですか?あれ」

 その目は少し驚きを含んでいる。

「え?あれってキマイラか?いや、俺は毒を盛っただけだ。まさか、自身の毒が効くとは思わなかったけどな」

「なるほど毒ですか。助けて下さりありがとうございます」

 キリルは再び頭を下げた。俺はちょっと照れくさくなってキリルにヨモギを押し付けた。

「ん?いや、俺は何もしてないし。ま、これ、このまま渡しとくよ。アンクないと困るだろ?」

 キリルはちょっと体を引いた。

「……あ――はい。ありがとうございます」

 躊躇しつつも手を伸ばし、隣でげぇぇって言ってるテランスをひと睨みすると、ヨモギを受け取り、何故か気合いを入れてから、懐にいれた。


 シュッ!

 ちょうど鬱蒼とした森の切れ目が見えてきた時だった。近くに何かが刺さったと思ったら、キリルに引き倒された。

「ステロ!ふせろ!」

 アルの焦った声に、え?と思った時にはもう遅かった。

「キュクロープスだ!キュクロープスが出たぞ――!」

 誰かが叫び、森の暗がりを覗くように、何処からともなく人が集まってきた。

「普段はこんな所に人はいないのですが、運が悪かったようです。リンネ様、下がってください。偽装を解きますので」

 腰を屈め、隠れる所を探し、森の奥を目指していると、アルが立ち上がり持っていた槌を構える。

「いや、ありがとう。気持ちだけ貰っとくよ。もう行ってくれ。ここは俺らが何とかするから」

 折角仲良くなれたアルを、人間の戦いに巻き込む訳にはいかない。

 シュッ……。

 って言ってる間に一本の矢が降ってきた。

「危ねっ!なんだよ、降って来るのか?矢って」

「はい。対象が遠い場合、上向きに放った方が効果的だと思われます」

 キリルよ。効果的にやられちゃ困るから。

 ――シュッ! シュッ!

 それを皮切りにどんどん降ってくる弓矢。矢の雨だ。キリルに庇われながらステロの方を見る。小さい丸まった体に矢が降り注ぐ。アルが必死に槌を振り回し、それを払っていた。その動きは人ではない事を思い知らされるものだった。

「クソっ」

「リンネ様!?」

 俺は唐突に立ち上がり傘をさした。

 え? 傘? 傘かよ。

 自分にツッコミながら創造を膨らませ、大きく広げると、ステロに近づき柄を地面に突き刺す。伸ばして広げて……ステロまで覆う。

 ポスポスポス……。矢の雨を弾く傘だ。

 木が邪魔で形は歪だか、地面に斜めに立て、アンクの欠片を埋める。若干、海辺でバカンスな感じになってるが、紫外線だけじゃなく、矢も防げて満足だ。

「なんっすか、これ」

 テランスが丸まったステロの腹からラビスを引っ張り出しながら聞く。ステロは頭を抱えたまま不思議そうな顔で周りを気にしていた。

「パラソルだ。雨や、お肌の大敵を凌ぐための便利アイテムだよ」

「雨ですか……。私に力があれば、雷が打てたのに……」

 アルが悔しそうに言う。俺はちょんと座ったステロの背中に回り込み、矢が刺さってないか診た。大丈夫そう。

「ステロ、ありがとう。ラビスを守ってくれて」

 ステロが嬉しそうに頷いた。

「最初に打ったのは人間ですね。それにドワーフも加担している。忌々しい、踏み潰しくれる……」 

 俺の隣でアルが歯ぎしりをしていた。

 この世界ではお互いの種族を縛る盟約の様なものはないのだろうか。俺は慌ててアルを止める。

「アルさん、喧嘩はダメだ。このまま矢の届かない所まで傘をさして移動しよう」

 シュッ!

「……っ痛――」

 腕をかすった。横からもくるの?

 テランスとキリルの目が変わる。速攻地面に向けて頭を押さえつけられた。

「わきは弱いからやめてほしーわ。ほんと、なんだよ、あいつら。こっちは何もしてないのに、理不尽だなよな……雷でも落ちないかなぁ」

『リンネ様は雷が欲しいの?』

 ステロが可愛く首を傾げる。

「ああ、昔の凄い偉人さんは天気を変えて形勢逆転したらしいんだよ。俺にその力はないがな」

 まあ、風を読んだだけって事らしいが……。

『天気。変える事が出来る……』

 ステロが呟き、両手を挙げたと思ったら。

 

 ピシャ!ド――ン!

 

 雷が落ちた。割と近くだ。

 

 ギャァァァァ!

 

 悲鳴が聞こえ、矢が止まった。

「おお!ステロ。よくやった!」

 アルの嬉しそうな声がすぐ横からした。

「え?え?今のステロがやったの?」

 驚き振り向く俺たち。

「ええ。ステロは先祖返りでして。ああ、素晴らしい!雷の精霊としての力がこんな事で覚醒するとは!」

 アルはステロの足に縋り付き、感極まって涙を流している。

「まじか……。すごいな!ステロ!」

『天気、変えられた!雨無くても雷落ちた!』

 ステロは飛び上がり大喜びだ。地面が跳ね、俺たちの体はトランポリン状態。

「ステロ……そんな事を気にしていたのか」

 アルもそうかそうかと言いながらも嬉しそう。

『うん!へへ……もう一回』

 ステロが手を掲げる。

「あ――っ!それはまた今度にしようねっ!今は逃げてくれ」

 俺は慌ててステロの足に抱きついた。

「ありがとう、ステロ。元気でな」

 ステロが掲げていた手を下ろし、腕ほどもある指で俺の頭を撫でる。

『リンネ様。また会える?』

「ああ。会いに行くよ」

 俺はその指に両手を絡め、握手をした。泣きそう。

「ステロ!行こう。このままではリンネ様らにも害が及ぶ。リンネ様、皆さまも本当にありがとうございました。また、何処かで」

「ああ、こっちこそ、色々ありがとう。礼をいうよ」

 手を軽く挙げ、急ぎ去って行くアルに、俺は手を振った。ステロも続く。

『リンネ様。またね!』

 名残惜しそうに振り向き、手を振るステロ。

 そこにまた矢が飛んできて……。

 

 ピシャ!ド――ン!

 ギャァァァァ!

 

「ふっ……」

 これでキュクロープスに手を出す奴は減るかもな。

 俺は嬉しそうなステロが見えなくなるまで手を振った。


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