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ムネーモシュネー

 グオオオ――――!


 ブオッと空気が揺らんだ。竜の雄叫びだ。

 目の前に横たわっていたのは石像じゃなかった。

 白い龍。ニョロっと長い東洋風ではなく、西洋風。広げればゆうに建物を超えるであろう翼を細かく震わせ、ぶっとい脚で立ち上がるそれは、ドラゴンだ。ボディは白一色だが、その眼には力があった。カシアの目のように。

 ああ、これぞテムだ!生き物を創れる者のみが使える力を、初めて見せつけられた気がして、俺は震えた。


 ブァッ――サッ――!

 翼を広げる。その振動で膝を折りそうになり踏ん張るも、何故か身体が思うように動かない。ゲームの中では億さず対峙出来た筈なのに、今の俺はまるで産まれたての子鹿のよう。

「リンネ!!」

 ニックスがとんでくる。抱えられ、恐怖で硬直していた神経が回復した。

「ごめん!下ろせ!」

 走り出すニックスに言うも、そんな時間などない。建物から出た途端、屋根は瓦礫となって振ってきた。

 ニックスは先に避難してたテオの所まで俺を抱えたまま走り抜け、俺を下ろすと膝をついた。

「っ……」

「ごめん!大丈夫か?ニックス!……けほっ」

 辺りはもうもうと舞い散る粉塵で真っ白だ。白く塗ってたが木造建築だったようで、脆く崩れ落ちた木片がそこら辺に無惨に散らばっていた。

「すげぇ……」

 隣で空を仰ぎ見るテオにつられて上を見る。

 飛んでるよ……。カシアさん、背中に乗っちゃってるのか?

「まじか……」

 高度はないが、自分の創った物に乗り込むなど、余っ程、自分に自信が無いと出来ない事だろう。

 はっ!とあたりを見渡す。

「テオ!キリルは?」

「そこ」

 テオが指差す先を見る。建物の残骸。粉塵が舞い散り、よく見えない。

「間違いないか?テオ」

 ……頼む。

 祈るように見ていると、白い影がうっすらと見えてくる。……キリルだ。ホッと息を吐く。けほっ。

 小脇にレオンを抱え、クリスの首根っこをしっかりと掴み引きずって来る、その顔は真っ白に汚れてた。

「お……お頭!し……死ぬから!俺ら死ぬからっ……っごほっ」

 クリスが叫んでる。……っくそっ!なんかムカつくっ。さっきから心臓がおかしいし。

 キリルが来た所で俺はダヴィドの結界にならい、全員を囲む透明なシールドを創って、欠片を埋め込んだ。

 落ち着こう……俺。

「リンネ、急ぎ離脱しましょう」

 ニックスが言うが、逃げた所でどうにかなるとは思えない。

 近くに他に人がいない事をヨモギ視点で上から確認すると、俺はバックパックの中身と着ていた外套を食わせる。バックパックの中身はこの世界の文字の勉強用に持ってた本や書くための炭なんかと、緊急時に使える布だとかアルコールだ。それらをダイフクの腹の中で細かく粉砕出来るようイメージを固定し、舞い散る粉塵の中に放り投げると、俺は頭まで白くなったキリルに向き合った。

 ムカつく原因はこいつだ。無意識に声が低くなる。

「キリル、いいか?」

 キリルも何か感じたのか、いつもの気勢がない。

「置いてきてもよかったのですが、殺さないと仰ったので……」

「いや、ありがとう。大丈夫か?キリル」

「はい。でも……」

「怪我か?どこを?」

「後で褒めて下さい」

 これは意外だ。

「……おう?」

「ご褒美、期待してます」

 はぁ、こいつ、絶対次も同じ事するぞ。

「ああ、でも、次は自身の命優先にな。約束だぞ」

 多分、この世界にこんな甘い上司はいないだろう。だけど、これだけは譲れない。

 ポカンとしたキリルの頭のホコリを払ってやると、キリルは納得いかない様子で頷いた。

「…………承知致しました」

 キリルをしっかり頷かせた所で息をつき、空を見上げる。

「来るよ――!」

 横でテオが叫ぶ。テオ、お前なんでそんなに楽しそうなんだよ。でも、おかげで気分が上がってくる。そうだよ、マンガとかでやってたやつ。あれ、試してみたかったんだよな!

 ホバリングして、調子を整えたらしい白い龍が大きく翼に空気を孕んでいた。

「あ――火ぃくれるか?」

 ニックスが懐に火種を持ち歩いているのは知っていた。

「は?」

「急げ!」

 さて、上手くいくか賭けだな。

 ニックスから受け取った火種をケースから取り出し、まんま最後のダイフクに食わせて飛ばす。外にはその辺の塵とか空気をさらに吸わせてパンパンになったビックサイズのダイフク。これに火種の子を合体させて……。

 龍が降りてきたタイミングで、ダイフク着火!


 ぼふっ!

 ヒギャ――!ドッ――ン!

 チリチリと焦げた匂い。

 塞いでた耳を離すと、竜は見当たらない。

 ん―――微妙?やっぱ想像通りの威力じゃなかったきがする。でも、追い払えたみたいだし、まあ、多少は時間稼ぎになったかな?

「ほら、逃げるぞぉ――。空気が焼けてるかもだから、気をつけ……おい!お前ら立てよ!行くぞ!」

「くぉらぁぁぁ!――リ――ン――ネ――!」

 驚いて竜から振り落とされたか、建物のあった辺りから声がする。カシアが髪を振り乱し、恐ろしい形相で瓦礫を乗り越えて来るのが見えた。でも、やはし、竜の影は何処にも落ちてない。

「おお!竜、消えてるぞ?ラッキー!」

「ラッキーじゃないですよ……」

 ベチョンとなったダイフクを回収しているとニックスが俺の腕を引く。

「離脱!」

「おう!」

 ガラクタになった神殿を後にし、湖の上を走り出す。

「で、テランスは?」

 息を切らし走りながら、後ろにいるキリルに声をかける。

「はい、あちらに。彼は監禁されてまして。監視を捌くのに少人時間がかかりまして……」

 キリルは涼しい顔で対岸を指さした。


 やがて湖畔にラビスがデカい剣を片手に仁王立ちしているのが見えて来る。横には縄で縛られたテランス。奴ほど縄の似合う奴はいないだろう。そしてラビスほど死体の似合う……死体?……あいつら護衛だろ?大丈夫か?

 もう少しでカシアに追いつかれると言うところでラビスの所に到着した。

「ううう…………」

 周囲にうめき声が満ちている。あ、生きてるや。よくやった!親指を立てて労う。

「ふっ……」

 嬉しそう。でも、割とこっぴどくやったな、ラビス。と?

「誰だ、お前」

 ラビスの横にいる男。テランスと思ってたが?

 エメラルドグリーンの髪を後ろに流し、見るからに仕立てのいい服を着た上品な青年だ。縄で縛られ、猿轡は噛まされてるが、平然と立つ様子は気品さえ感じられる。

「テランス!!」

 流石速い!追いついたカリアが青年を見て叫ぶ。

 ラビスがすかさず青年の首にに腕を回し、ニックスの後ろに下がった。何故かキリルに引っ張られ俺も後ろにやられた。

「クソっ!お前!なにまた捕まってんだよっ!!」

 立ち止まったカリアが苛立たしげに地面を蹴る。俺は首を傾げる。

「……ごめん。確認なんだけど、こいつテランス?」

「はあ?……お前がそれを問うか?」

 あっ、思わずカシアに聞いちまったっ!

「ん――ん――」

 呻く青年は涙目だ。

「テランス?……なのか?」

 ちょっと猿轡を下げてみる。

「ダンナぁ!こいつら問答無用で縛りやがった!俺は自分から来るって――フガッ」

 戻す。間違いなかった。

「あ――という訳だから、そろそろ俺らはレテを出る。見逃してくれるなら、こいつは適当な所で離してやる。だが追って来るようなら、今度は容赦しないぞ」

 ラビスがグイッと腕を引く。

「――ん――」

 テランス、辛そう。

「ワシがそれを聞くとでも?お前ら全員、ここで消し去った方が、ワシにとっては楽なんじゃが?」

 グッと眉を寄せたカシアが唸るように言う。

「かもしれないがな、俺もこのアンクを預かってる身だ。はい、そうですかと渡せるわけもないし、再度喧嘩を売られるような事があれば、それ相応の報復も考えさせて貰う。あんたらがレジスに加担したって事実だけは許せないからな」

 報復って所でピクリと動く辺り、ちょっとはさっきのが効いたらしい。

「……んう――」

「ん?お前もなんかいってやれ」

 猿轡を下ろす。

「……頭も言ってたじゃないですか!本当は殺りたくねぇって!だから俺はダンナと一緒……ンガッ」

「あ――可哀想だが、こいつには俺達が安全だと確認できる所まで付き合って貰う事にするよ。大人しくしててくれれば命の保証はする……と思う……多分。じゃ、行くぞ!」

 俺が踵を返すとみんなもついて来る。最後にニックスが軽く会釈をしてカシアから離れるのが見えた。

 カシアは拳を握りしめラビスに引き摺られるテランスを見ている。

「クソっ! だから、あんな馬鹿な奴らなんか放っておけばいいと言ったのに」

 呟くような声に反応してテランスが必死に首を振り、猿轡を外してしまう。

「すまねぇ、頭。あんな奴らでも仲間だ。放っては置けなかったんだ」

「あんな素性も分からん新参者、仲間とは言えんだろう!ほんとにお前は……もし、お前に何かあってみろ……ワシは……」

 声が小さくなる。え?デキてるの?

「……っおい!リンネ!」

 お!初めて名前呼ばれたな。

 俺は足を止め、振り向くとカリアを真っ直ぐ見た。

「……認めるよ。ワシが悪かった。お前らを、殺るよう命じたのは私だ」

 キッと見つめてはいるが、その顔は先程までとは違い頼りない。

「知ってるよ。あんたらはひよって喧嘩を売る相手を間違ったんだ」

 あんたがダヴィドの臣下なら、俺らじゃなくてレジスに喧嘩を売るべきだったんだ。まあ、俺らが確実に仕留められそうな位、ひ弱そうに見えたんだろうけど。でも、有り得ない選択だ。

 はぁ――とカリアが肩を落とす。

「ひよって……か。その通りだな。体裁を取り繕う為とはいえ、レジスに手を貸す形になった事、許せぬかもしれんが……分かって欲しい。ワシはレテを護りたかったのだ」

 護る……ね。

「そうだな。あんたの話を聞く前なら、戯言かと罵ったかもしれないが、今は分からなくもない。ここには青いアンクの欠片を持った奴が大勢居るのだろ?レジスが青いアンクの持ち主なら、敵対する姿勢をとれば、一気に攻められる事になりかねんのだろう?」

「ああ。本当に嫌になるくらい察しがいいのだな」

「俺に出来ることはこれくらいしかないからな」

「ふん!どうだか……」

 呆れたように俺を見る目は少しだけ親しげだ。

 あれ?ちょっとは認めてくれた?

「なあ、カシア。今は見逃してくれないか?俺にはまだやらなきゃならない事があるんだ。頼む」

 ふぅ……とカリアが息を吐いた。キツイ眼差しが緩むと息を飲むほどの美人だ。

「……行くがいい。但しあまり時間はないぞ」

「ん?どういう事だ?」

「自身のアンクを失った者は、普通の人間に戻ってしまうと言う事だ。それが何を意味するか、お前なら分かるよな。ワシの主はダヴィド様一人。あの御方を無くしては生きてはいけん」

 凄いな、ダヴィドは。

 こんなにも強い信頼関係を、俺もいつか持てるようになりたいものだ。

「了解した。俺は長寿なんて望んでないしな、出来ればこのアンクは返したい。ラビス、縄をといてやってくれないか?」

 ラビスが頷き、名残惜しそうにテランスの首から腕を離した。

「ふっ、本当にお前は甘いな」

「なんとでも言え……ん?取れないのか?」

 見ればこっちに寄越されたテランスの両手はまだ繋がれたままだ。手をかそうと、黒いアンクのハマる滑らかに光る金の手枷に手を掛けた。

 繋がれているけど、ある程度自由が効くそれを見て、ひと目で甘いな、とは思っていた。これは傷つけたくない、痛くないように、と細心の配慮をされた物だ。何となく優しい気持ちになってアンクをなぞるとアンクはポロリと取れ、手枷は消えた。

「ははっ。このアンク、誰のだよ?手ぇ――挙げろ――」

 せんせー怒らないから言ってみろー!的なノリでキリルを見る。するとキリルは首を振り俺の後ろを指差した。

 カシアが手を挙げていた。真顔で。

 でも、なんか納得した。決して変な趣味だな、とか思っちゃいないよ?

「ははっ!お頭のテムを易々と外すとか……やっぱ、凄いぜ!流石ダンナ!俺が惚れた相手だぜ!」

 ……え?

「テランス!バカっ!今それをいうんじゃねぇ!」

 助けた相手に裏切られる形になり、見る間に顔を赤くし、わなわなと唇を震わすカシア。

 やっべぇよ!泣くのか?泣いちゃうのか?

「リンネ、逃げましょう……」

 ニックスが振り向き、大人しく控えてたキリルに手で合図を送る。

「え?逃げるの?」

「リンネ!お前――殺すっ!!」

 先程までの落ち着いた姿が嘘の様に、猛々しく拳を握りしめるカリアが、轟くような声で物騒な事を言い始めた。

「はぁ!?なんで俺?ここはテランスに当たるべきだろ?」

「可愛い事言わないで……さ、こちらへ」

 何言ってるんだキリル。

 でも、カシアが「殺す!絶対殺す!」とか言ってるし、これは逃げるべきかもしれない。

「リンネさまぁ――!こっちっすよぉ!」

 上から声がする。来る時に降りて来たあの木の上からだ。もう登ったのかよ、テオ。

 キリルに肩を抱かれ誘導され、ロープを持たされる。上からはテオが引っ張り、下からはキリルに強制的に押し上げられた。ファイトな一発だ。あ――みんなは手だけで易々と登れるのね。

 みんなが登った所でロープを切る。

「リィ――ンネェ――!降りてこい!勝負しろ!」

 カリアが下で叫んでる。

「何の勝負だよ!勝てば見逃すとかか?」

「戦利品はテランスでしょうね」

 キリルが言う。

「いらね――よ!」

「え――そんな事言わねぇでくだせぇ……ダンナ」

 すぐ近くで声がする。

「テランス、なんでお前までこっち来てんだよ!」

「え?だって、俺、ダンナについて行くって決めたし。ちゃんとお頭にも伝えたんだけど……」

 きちんとした襟元を緩めながら不思議そうな顔をするテランス。

「ああ、だから監禁されてたんですね」

 なるほどと頷くキリル。

「はあ!?何勝手に決めてんだよ!」

「登り始めましたよ!!急ぎ離脱!」

 ニックスが叫び、途端ラビスの肩に担がれた。

 だから!俺、自力で走れるから!後ろからテランスもついて来てるし!

「来んなって!お前が来ると、あの人もついてくんだよ!」

「だってこっちのが面白そうですやん!」

「ああああぁぁぁ――もお!」

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