プロローグ
愛しの我が娘、ユノよ……。
お前との約束を、今、果たそう。
あの男は私から解放され、自由になる事だろう。
死刑執行人が倒され、宰相であったあの男の縄が解かれた。
公開処刑場となった城の中庭は騒然とし、逃げ惑う観客に紛れ、男は仲間達に護られながら、私の前を過ぎる。
「オブシディアンの王よ、本当にこれでいいのか?あの男は必ず争いの種を撒くだろう」
大混乱の処刑場を見下ろすように設えた場所にオブシディアン国王と、エルフの王はいた。傍らに立つ、エルフの王が言う。
「ああ……分かっておる。だが、私にはどうにも出来んのだ」
私は答えた。
ユノの望みは全て叶えなくてはいけない。
それは、ユノの命を蔑ろにした自分への枷だから。
目の前で行われる大混戦。敵兵の中には我が近衛である友人も混ざっているようだ。顔は隠しているが、その太刀筋は隠せるものでは無い。彼が敵に下ったのなら、間違いなくあの男は逃げおおせる事だろう。
私は大混乱の処刑場から目を離し、空を仰いだ。
「アレス、ディオン、エドガール……。許してくれ」
私にお前たちの仇を討つ事は出来ない。
かつて共に旅した友の、その生きた証である輝石を握りしめ、私は涙を堪える。
「儂は退こうと思う」
言葉は漏れ出た。私の呟きに友人は眉を顰める。
「継ぎ手を見つけない限り、それは許さん」
「分かっておる。だが、儂は十分に生きた。友のいない人生ほどつまらぬものは無い」
もう一度彼らと旅をしたかった。
それはこの生ではなく、あの世でもいいのではないだろうか……そう思ったのだ。
この日、あの男……レジスは消えた。
パンドラの箱と共に。