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§1.8. 山賊

 それから数日、問題なく一行は進んでいく。ペルクスポートからアンガストンまでは街道が通っている。それに沿って進む限り、基本的に大きな問題は起こらない。

 ただしすべてではない。その一つがここ、ヘミングス小領の山と山の間、山峡になっている部分だ。街道はここを抜けていくのだが、ここで山賊に襲われたという報告が多い。左右を山に挟まれているため、前後を押さえられると逃げ場がないのだ。

 

「ま、そういう情報があった上でここを抜けてこうって言うんだから、それは俺達への信頼の証ってことかねぇ?」


 ヴォルフがぼやく。


「ここからは道が狭くなる」


 アズノアが指摘する。

 今は荷馬車の前にフランク達“グリードベア傭兵団”、右後方にアズノア、左後方にヴォルフという配置で歩いていた。だがここから先は左右の山に挟まれ、道が狭くなる。左右には広がれない。


「だな。前と後ろどっちがいい、マギリヴラ?」


「ならヴァイクス、先導を任せる」


「あいよ」


 一行は警戒を強めたまま、山峡を進んでいく。

 そしてやはり、これだけ大荷物の馬車を山賊たちが見逃すはずもない。その気配にアズノアとヴォルフが同時に反応して剣を抜く。

 

「害意! 多いぞ」


「足音を聞く限り、前後にそれぞれ二十人とすこしといったところだ」


「この距離で数まで数えられてるようじゃ、大した連中じゃねぇな。

 坊主どもはダーシーさんにきっちり張り付いとけ。俺とアズノアで前後をやる。もしそこで取りこぼして抜けてくる連中がいたら、お前らの仕事だ」

 

「おう」


 ヴォルフはフランク達に指示を出している。

 アズノアは剣の鞘に刻んである“土砦(テッラ・ケステルム)”の魔法紋に魔力を流し込み、構造を造り上げる。足を止めた荷馬車を囲うように土の壁が隆起し、それを守る。

 

 土の壁が伸びていく中で、リェーナはアズノアの方を見ている。

 

「なんだ。何か言いたいことでもあるのか」


 リェーナは一瞬迷った後、アズノアの目をじっと見ながら言葉を紡ぐ。

 

「えっと……お気を、つけて」


「ああ。終わるまで伏せてろ」

 

 リェーナはそう言われて荷馬車に伏せて頭を抱えるようにうずくっている。マダム・ダーシーも流石に慣れているだけあって、落ち着いて馬車の荷台に伏せている。


 まもなく、馬車の前後を塞ぐようにして盗賊たちが姿を表す。数はアズノアの指摘通り、前方に二十五、後方に二十人。

 彼らは種族はまちまちだが、各々がしっかりと武装しているのは共通している。

 

「おとなしく荷物をすべて置いていくなら命まではとらない。従わないのであれば……」


 山賊の口上が終わるのを待たず、ヴォルフとアズノアが駆け出す。

 ヴォルフは左手に円盾を掲げ、それを軽く前に出しながら低い姿勢で地を這うように駆けていく。右手にはがっしりしたナックルガードのついた、曲刀のサーベル。

 対してアズノアは、“魔法の糸(マギア・フィルム)”を山肌や木々の間に渡しながらそれを足場やジャンプ台にして頭上の高さを跳ねるように駆けていく。

 

 ヴォルフは左手の盾の前に掲げながら突進し、シールドバッシュで相手の攻撃もろとも突き崩していく。あるいは相手が自分よりも体格に長ける種族であるとみるや、相手の攻撃を体の外側に受け流し、懐に入ってナックルガードで顎を殴り上げる。短い射程の武器を手にした相手は、ヴォルフ自身の長く強靭な手足を活かしてあっさりと遠間からサーベルで切り倒す。


 ヴォルフは左手に持った丸盾も右手に持った曲刀も手足のように扱い、その先々まで神経が通っているかのように取り回す。山賊たちの数がこちらよりも遥かに多いことなど意にも介さず、バッタバッタと山賊を倒していく。

 射程で勝るなら射程で、体格で勝るなら体格で、技量で勝るなら技量で、相手によって素早く適切な攻撃を繰り出し、自分の有利を押し付けていく。多少魔術の心得がある者もいたようだが、ヴォルフはその程度の攻撃は左手の盾であっさりと捌いてしまう。

 一撃で相手を()してしまうため、山賊が何人いても問題にならない。ヴォルフに近い順に一対一で倒されていく。

 ヴォルフは程なく前方の二十五人を撃破する。

 

  アズノアはヴォルフほど派手で荒々しい戦い方をしない。木々の間に“魔法の糸”を渡し、山賊たちの動きを制限しながら自らは足場とする。右へ左へ、上へ下へと跳び回り、すれ違いざまに遠間から剣を振るって山賊たちを翻弄する。

  

 そしてアズノアの動きを追いきれなくなり、アズノアを見失った相手には背後から突っ込んでいき大きく振った両手剣で彼らを両断する。

 動きを制限しているのが“糸”であると見抜き、それを賦活した武具で切り裂こうとしたものもいた。しかし糸の正確な位置は魔力視が出来なくてはつかめない。なにもない空間に向けて闇雲に武器を振り回した相手に対して、その隙をついて切り倒していく。

 跳び回り、遠間を保ち、山賊たちを苛立たせる。その動きについてこれなくなったもの、焦れてアズノアへの対応を誤ったものから刈り取られていく。


 アズノアはそうして相手の数を減らしていく。数が減ったら戦術を変える。これまで遠くから刺していたのと一転して、相手の脇をくぐるような距離まで一気に詰め、勢いを載せた一閃で相手を切り伏せる。

 賦活術で底上げした反応速度を駆使して、残る数人を勢いに任せて正面から押し切る。

 アズノアの側、後方の二十人も前方に少し遅れて倒される。

 

 ヴォルフはアズノアより先に倒し終わった分、その時間で周囲の警戒をするが、問題なしと見て刀を納める。

 

「そっちも終わったかァ? マギリヴラ」


「ああ、終わった」


「隠れてるのもいねえな。こっちに向けられてる害意はねぇぜ」


 アズノアはマダム・ダーシーたちを囲っていた“土砦”を解除する。

 中に隠れていたリェーナが顔を出す。リェーナは泥と血で汚れたアズノアを見て不安そうな顔をする。

 

「えっと、大丈夫、ですか」


「問題ない。ほとんど返り血だ。無傷とまでは言わんが、かすり傷程度だ」


 それを聞いてリェーナは安心して小さく息をつく。

 

「お前もよく落ち着いていた。パニックは伝播する」


 そう言われてもリェーナはきょとんとしている。

 

「よくやった、と言ってるんだ」


 アズノアはリェーナの頭をポンと撫でた。

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