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女主人公が異世界へ呼ばれる話①

 ――新生魔王軍が結成され、地上侵攻を開始してから半年後。


 過去に魔王が願いの宝珠オーブを手に入れた超古代の地下遺跡に、二人の人物が訪れていた。


「――兄さん、この遺跡が……」


「ああ、きっとそうだ。――ようやく見つけたぞ」


 一人は紅い髪をした、二十代前半頃の若い青年。


 もう一人は蒼い髪を肩まで伸ばした、同じくらいの年頃の女性。


 二人とも目元がよく似ており、エメラルドをはめ込んだかのような美しい碧眼をしている。


 いかにも旅人、というより冒険者といった格好をしている二人は、罠や魔物の気配に警戒しながら地下遺跡の中に入っていった。


「みんな、古文書に書かれてたことは嘘だって信じてなかったけど、まさか本当にあるなんて……」


「だけど、ちゃんと遺跡はあったんだから、古文書は正しかった訳だ。だとしたら、願いの宝珠オーブもここに眠っている筈さ」


「絶対に見つけましょうね――ルヴィス兄さん」


「ああ、やっと辿り着けたんだからな――サフィア」


 実はこの二人、新生魔王軍によって倒された勇者の甥と姪にあたる兄妹である。


 加えて二人組のアダマンランク冒険者でもあり、クリストル兄妹、もしくは勇者の親族であることから勇者兄妹などとも呼ばれ、その名を馳せていたりする。


 どちらも魔法剣士ではあるが、兄のルヴィスは長い両手剣を使う剣技重視のパワータイプ、妹のサフィアは片手剣の二刀流に魔法重視のスピードタイプと、対照的な戦闘スタイルをとっている。


 個人での実力も極めて高いが、息の合った二人のコンビネーションは芸術的とすらいえるもので、まだアダマンランクになったばかりの若手ながら、希望の星として冒険者たちの注目を集めていた。


 しかし、この二人を以ってしても、新生魔王軍の脅威に対しては力不足であった。


 そこで二人は、偶然故郷の王国で発見された古文書に書かれていた、世界を変えるほどの力を持った戦士を召喚できる、という古代のアーティファクトが眠る遺跡探索の勅命を受け、極秘にこの場所へやって来たのである。


 一応、遺跡の場所は現在、魔王軍側の領地であるため、目立たないよう二人だけで潜入を行っていたが、幸いこの地域一帯は魔王軍の警戒が薄く、遺跡が魔王軍に占拠されているということもなかった。


 兄妹は時間をかけながらも、広い地下遺跡のあちこちを調査していく。


 しかし――


「駄目だ! 願いの宝珠なんて、一つも見つからない! 一体、どこにあるというんだ……」


「兄さん。もしかして、もう持ち去られた後なのでは……? 何だか、仕掛けが解かれていたり、誰かが先に来た形跡も見受けられますし……」


「それは俺も思った……どこも苦労して辿り着いた先には、宝珠がはまってたっぽい台座しかなかったもんな……」


「あの、兄さん……ちょっと嫌なこと、思い浮んだんですけど……」


 蒼い髪の女剣士、サフィアが暗い顔をしながら述べる。


「今まで見つけた空の台座は全部で六つでしたよね」


「ああ……」


「そして。新生魔王軍の魔王直属の配下、六魔将は異世界から呼び寄せた使徒と聞きます」


「……ま、まさか――」


 紅い髪の剣士、ルヴィスも顔が青ざめる。


「ええ、考えたくはないですけど……先にここに来たのは魔王で、六魔将は宝珠の力で呼び寄せたのではないでしょうか?」


「うっわぁーーー、俺もなんか、そんな気がするー……」


 ルヴィスは壁にがっくりと項垂れる。


「――ちょっと待て。じゃあ、何で六人なんだ? 古文書によると、宝珠の数は全部で七個の筈だぞ?」


「はい。考えられるのは、宝珠の紛失や破損。もしくは手違いによる召喚の失敗や、交渉の失敗による使徒の離反。または――」


 ルヴィスは頭を上げると、希望を失っていない目でサフィアを見た。


「サフィア、七個目はまだここにあるかもしれないぞ」


「――そうですね。魔王が七個目を見つけきれなかったと信じて、もう少し探してみましょう」


 ルヴィスとサフィアは再び元気を取り戻すと、地下遺跡の探索を再開した。




 ◇




 ――半日後。


「……あー、やっぱり見つからない。というか、台座の場所すら見つからない」


「これだけ探してるのに見つからないなんて……流石に疲れます……」


 広い広い遺跡内を注意深く調べながら、兄妹はグルグルと通路を歩き続ける。


 しかし手がかりすら掴むことができず、体力を消耗した二人は一旦、休憩を取ることにした。


「だけどこのまま、何の成果も得られませんでしたー! ……って訳にはいかないからなぁ」


「はい、せめて台座の場所くらいは見つけて、宝珠の有無は確認しないと……」


「でも、その台座の場所すら見当つかないんだよなぁ……」


 ルヴィスは水筒の水を少し飲みながら、周囲を見回す。


 すると、部屋の中にあった一つの変な格好の石像に目が止まった。


「……うーん」


 ルヴィスは急に気になりだして、訝しげに目を細める。


 その石像は既に何度か調べてみたが、特に何の反応も見受けられなかったものだ。


 因みにその石像は人型をしているが口から前歯が飛び出ており、片足を上げたり両腕をそれぞれおかしな風に掲げた、とても奇妙なポーズをとっている。


「……なあ、この石像って変な見た目してるよなぁー」


「ええ、どういった意図で作られたものなんでしょうね……」


「さあ? 旧文明人のセンスはさっぱりだわ」


 そう言いながらルヴィスは石像の前まで歩いてくると、しばらく石像を眺めた後、なんと石像と同じポーズを取りだした。


「ぷっ……兄さん、いったい何やってるんですか」


 サフィアは兄の滑稽なポーズにくすくすと笑いながら、口元を手で押さえる。


「いや、何となく。面白かったか?」


「ええ、ちょっと……突然やりだすものですから」


「この石像ってポーズもだけど、なんか奇声あげてそうな見た目だよな。アヒョーとか、ウギャーとか、キシェーとか」


 ポーズだけでなく、わざと変な顔をしながらそんなことを言う兄に、サフィアは更に笑いを堪えきれなくなる。


「――ま、石像と同じポーズとったからって仕掛けが解ければ苦労もしないけどさ」


 ルヴィスは飽きたとばかりにポーズをやめると、石像に背を向けようとした。


 ――するとその時、石像のすぐ傍の壁が、ゆっくりと音を立てながら動き出したのである。


「――え?」


 ゴゴゴと石同士が擦れる音が止まり、二人の目の前には地下へと続く階段が現れた。


「「ええええええええ!???????」」


 二人の驚きの声がはもり、遺跡内に響き渡る。


 反応に困り、二人はしばらく唖然と眼前に空いた通路を見つめていた。


「おいおい、マジかよ……」


「でも兄さん、これって……」


 二人はゆっくりと、地下への階段へと歩み始める。


「誰かが入った形跡は無さそうだ。魔王も流石にあんな馬鹿らしい仕掛けには気づかなかったか……」


「兄さん、これはもしかして……もしかしてですよ……!」


「ああ、気持ちは解るがまだ逸るな。喜ぶのは、実際に宝珠をこの目で拝んでからだ……!」




 ◇




 ――二人が長い階段と通路を抜けた先には、奥に祭壇のある一室が広がっていた。


 そしてその祭壇には、夜空に浮かぶ月をそのまま降ろしたかのような、真っ白に輝く宝珠が台座に置かれていた。


「兄さん! 宝珠ですよ、宝珠!」


「ああ、すごい魔力を感じる。間違いなく本物だ……!」


「七個目はまだ遺跡に残されていたんですね、良かった……!」


 ルヴィスは宝珠を手に取ると、その神々しさに目を輝かせる。


「兄さん、もうこの部屋で召喚の儀式を行いましょう! 邪魔されないうちに!」


「そうだな。無くしたり、壊されたり、盗られたりしたらたまったもんじゃない」


 宝珠のあった部屋は儀式を執り行うのに十分な広さがあったので、サフィアは荷物から魔道具を取り出すと、速やかに召喚の準備に取り掛かった。


 ルヴィスは突然の襲撃などを警戒するため、出入り口の傍で見張りを行い、妹の安全を確保する。


 部屋の床にきれいな魔法陣を描き終えると、中央に宝珠を設置してサフィアは儀式を開始した。


 魔力を通された魔法陣がぼうっと光を放つ。


 サフィアは手ごたえを感じると、片腕を伸ばして召喚の呪文を唱えた。


「――来たれ、異界よりの使者よ。どうか私たちと共に邪悪なるものを討ち滅ぼし、人類に平和な未来を!」


 数秒後、魔法陣が激しく輝くと同時にごうごうと旋風が巻き起こる。きちんと力を入れて立っていないと吹き飛ばされそうな程に。


「おお、これは――!」


「兄さん、来ますよ!」


 そして、雷が間近で落ちたかのような、轟音と閃光。


 あまりの眩さに閉じた目を開けると、魔法陣の中央からは宝珠が消え去っており、代わりに一人の人影が立っていた。



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