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冒険者達と異世界で交戦する話

 ――ブラムド城が陥落してから、三日後。


 城塞都市カジクルベリーの中央広場には、武装した人々がぞろぞろと大勢集まっていた。


 彼等はこの世界における、《冒険者》と呼ばれる職業に就いている者たちで、専ら魔物退治を得意とする傭兵のようなものである。


 国家に縛られない独立した組織である、冒険者組合に所属しており、依頼をこなしては報酬を得て日々の糧としている。


 此度は個人ではなく、この都市に住む有力貴族たち総出の依頼であり、王城を攻め滅ぼし乗っ取った魔物の討伐という名目で集まっている。


 国の中枢機関を失っただけでなく、突如現れた謎の壁により街の外へ出ることも、街の外から応援を呼ぶことも出来なくなったカジクルベリーの人々には、国費から多額の報奨金を出してでも、現在街にいる戦力をなるべく集めて、平和を脅かす魔物を討ち取ってもらう他になかった。


 そして本日、その魔物討伐作戦が実行されようとしているのである。


「――おお! あれはまさか、アポカリプス・ナイツ?!」


 広場に集まっていた一人の冒険者の男が、四人の青年を指差して叫ぶ。


 冒険者の男が差した先には、それぞれ色の違うプレートアーマーを首から下に着込んだ、容姿端麗な騎士たちがいた。


 年齢は二十代後半といったところ。その四人の青年の誰もが、如何にも高価で強力そうな武器や装備に身を包んでいる。


「本当よ! アポカリプス・ナイツだわ!」


「まさか、アダマンランク冒険者がこの街に来てくれていただなんて!」


 因みに冒険者という職業には、その功績などに応じて階級が存在する。


 下から新参ノービス黒鉄アイアン青銅ブロンズ白銀シルバー黄金ゴールド白金プラチナと続き、最上位の階級がダイヤモンドを表すアダマント、つまり金剛アダマンである。


 アダマンランクの冒険者チームは全世界でも一桁しか存在せず、国家の枠を超えてその名前が知られているほどの、冒険者界隈に全く興味がない者でも名前を聞いたことがあると答えるくらいには、高い知名度と実力を誇る。


 その能力は、魔王を討ち取った勇者一行にも匹敵すると噂される。


「アポカリプス・ナイツがいるなら、この事態もどうにかなるぞ!」


「きゃー! 頼もしい! 四騎士様ってどの方もカッコいいわぁー!」


 若い女冒険者の黄色い歓声があちこちから響き渡る。


 アポカリプス・ナイツとは、四人の騎士によって構成されたアダマンランク冒険者チームであり、全員がアイドルのような爽やかな美形であることから、特に女性からの人気が非常に高い。


 それぞれがメイン武器を剣としており、白兵戦を得意としているが、各々がそれ以外にも専門分野を持っている。


リーダーの白騎士は魔法の弓による遠距離支援や回復もこなせるオールラウンダー、赤騎士は魔法を帯びた剣による完全攻撃特化、黒騎士は大盾による防御と引き付け役、青騎士は魔法攻撃による火力支援と補助、といった具合である。


 四騎士たちは、正体不明の敵に内心不安を抱いている他の冒険者や、市民たちを少しでも勇気づけようと、剣を掲げたり、にこやかに微笑んで手を振って回った。


 あまりもの女性人気に妬むような苦い顔をするものも幾らか見受けられたが、このような鬱屈とした状況だ。


 彼等の存在は多かれ少なかれ、この都市に住む者にとって心の支えになる頼もしいものとなった。


「この度、集まっていただいた冒険者の皆さま! 我々と共に協力して、王城に巣くった悪魔どもを討ち倒し、必ずやこの街に平和を取り戻し致しましょう!」


 四騎士のリーダーである白騎士が声高らかに号令をかけると、その場に集った冒険者たち全員が、武器を掲げながら希望に満ちた雄叫びを上げた。


 白騎士はその光景ににこやかに微笑んで、他の騎士たちを見やると満足そうに頷く。


 すると、そこに――


「レディース・アーンド・ジェントルメーン! みんな、盛り上がってるかなぁー?!」


 突然、悪魔がやってきた。




 ◇




 今まで賑やかに歓声が沸き上がっていた中央広場が、急にしんと静まり返る。


 冒険者たち全員が見上げた空には、翼を広げて滞空するゴスロリ風の少女――エリジェーヌがいた。


 まるで美少女アイドルのようなニコニコと笑みを浮かべてはいるが、片手には物々しい物騒な大鎌を携えている。


「はーい、司会の悪魔のお姉さんでーす。この度はぁ、魔王ちゃん主催の血みどろ☆殺戮ライブショーにお集まり頂き、誠にありがとうございまーす」


 エリジェーヌの言葉に、白騎士は目を見開いた。


「魔王、だと……?! 今、魔王と言ったのか?!」


「おー、イッケメーン。私が人間だったら推しにしてたかも!」


「話を聞け! 今、魔王と言ったかと聞いている!」


 悪魔のふざけた態度に怒鳴る白騎士を更にからかうように、エリジェーヌは微笑みながら答える。


「そうですよー。みんなが大好きなこわーい魔王ちゃんが復活しちゃいました!――というか、そもそも死んでなかったんですけどねー」


 眼前の悪魔から発せられた言葉の内容に、広場の冒険者たちはざわめきだす。


 この世界に生きる者たちにとって、魔王とは人類を滅ぼしかけた、紛れもない最大級の恐怖の対象に他ならないのだ。


「ならば、王城を乗っ取ったのも魔王のしわざか!」


「ん-、まあそういう風に考えてもらっていいよ。どうせここで死ぬ皆さんには関係ないことだし」


「何? それはどういう――」


 すると突然、四騎士を始めとした冒険者たちの前に、がしゃんともう一つの人影が現れた。


 それは鮮血のように赤い、真紅の甲冑を纏った鎧の騎士――オデュロであった。


 片腕には、彼自身の身長程もある長い刀身の、大太刀のような剣が握られている。


「何だ、お前は……?!」


「はーい、これから皆さんをぶち殺してくれる処刑人の登場でーす。まずはここを生き残らないと、王城になんて行けないぞぉー」


 面白げに茶化すエリジェーヌとは対照的に、オデュロは一切言葉を発せず、そして構えすらとることもなく、静かに佇んでいる。


白騎士は意を決すると、剣を手に取って身構えた。


「くっ、いいだろう。――我ら、アポカリプス・ナイツが相手をしてやる。お前たち、行くぞ!」


 おう、と他の騎士三人も白騎士とともに前へ躍り出る。


 赤騎士と黒騎士が前列、白騎士と青騎士が後列の陣形。


 青騎士は魔杖の機能を備えた剣を黒騎士に向けると、呪文を唱えた。


「堅牢なる光の衣にて、その身を包め。――プロテクトアーマー!」


 すると、黒騎士の全身と装備の大盾が淡い光の膜に包まれた。


 この魔法は魔力の障壁により対象を保護し、防御力を向上させるというものだ。


「まずは私が相手――」


 黒騎士が鎧の騎士に斬りかかる。彼の役割はその防御力を生かして、前線で相手の攻撃を受け止めることだ。


「だぁ――?!」


 途端、黒騎士は胴体から横一文字に斬り捨てられ、鮮血と内臓をまき散らしながら地面に転がった。


 剣だけでなく、魔法でより強固にされた筈の盾や鎧ごと、すっぱりときれいに切断されている。


 まるで居合のような一撃。


 その場にいた冒険者たちには全員、オデュロの動きが全く見えなかった。予備動作すら捉えられず、気づいた頃には黒騎士が両断されていたのである。


 その光景に女冒険者の甲高い絶叫が広場中に響き渡る。


「あっ……お、お前――ッ!」


 赤騎士は突然の事態と一瞬で仲間を失った事実に狼狽えながらも、身体は冷静に後ろへ飛び退き距離を取った。


 青騎士もまた、即座に呪文を唱える。


「疾風の如き俊足で大地を駆けろ――クイックネス!!」


 赤騎士に向かってかけられた魔法は、赤騎士の身体能力を飛躍的に向上させ、瞬間的な敏捷性を強化した。


 魔法の効果を認識した赤騎士は、剣の刀身を魔力で真っ赤に赤熱させ、身体を低くしてから一気に駆け抜けると、超高速で眼前の鎧騎士に斬りかかる。


「これなら――」


 すぱぱん、と赤騎士は自身が斬られたことも認識できぬまま、一瞬でバラバラに解体された。


 鎧ごと切断された肉片が、ごろごろと地面に落ちてべちゃりと跳ねる。


 いまだにオデュロは戦いが開始された初期位置から一歩も動いてすらいない。


「くそっ……! 邪悪なるものを聖なる縛鎖にて拘束せよ――ホーリーバインド!!」


 青騎士が呪文を唱えると、オデュロの周囲から複数の光の鎖が勢いよく現れて、即座に彼の身体を縛り上げた。


「ッ――!?」


「今だ――!」


 咄嗟に白騎士は、魔法の弓から光の矢を放ち、オデュロの顔面に向かって命中させる。


 光の矢はオデュロの兜の目元、スリットの位置にきれいに直撃すると、着弾と同時に閃光を伴って激しい爆発を引き起こした。


「やったか……?!」


 オデュロの頭部からもくもくと煙が立ち上る。


 いかに強力な魔物といえど、頭部に直撃すれば致命的なダメージを与えられる筈だ。


 ――しかし、そうはいかなかった。


 煙が薄れると、傷一つついていない鎧の騎士の兜があらわになった。


 兜のスリットに目を向けても、血の一滴すら流れていないのが見て取れる。


 それもその筈だ、オデュロの鎧には中身がない。しかし、白騎士たちにそんなことを知るよしなどある訳が無かった。


「ふッ――!」


 光の鎖に拘束されているオデュロが、その身に力を込める。


 すると、光の鎖はバキンと音を経てて、強引に容易く引き千切られてしまった。


「馬鹿な、ベヒモスすら身動きを封じられる魔法だぞ……?!」


 青騎士は目の前の光景に唖然とする。


 オデュロは二人の騎士をしばらく眺めると、ゆっくりと片手に握った長剣を振り上げた。


「ッ――! 顕現せよ、我が身を護りし光の防楯――フォトンシールド!」


 咄嗟に青騎士は呪文を唱え、二人を覆うほどの大きな光の盾を目の前に出現させる。


 反射的に、敵の攻撃から少しでも自身と味方を守るために展開した、即席ながらも強固な魔力防壁だ。


 また、この光の盾は外側からの攻撃は弾くが、内側からの攻撃は可能という便利な防御魔法でもある。


 しかし――


「がッ――?!!」


 一瞬で目の前に詰め寄って来たオデュロによって、その光の盾は薄いビニールのように引き裂かれ、青騎士は頭から盾ごと真っ直ぐ、真っ二つにぶった切られた。


 光の盾は煙のように消滅し、青騎士だった肉塊と臓物が地面に広がる。


「貴様ァ――!!」


 すぐ隣にいた白騎士が、渾身の力を込めて友の仇に斬りかかる。


 これだけ隣接した距離ならば確実に殺れる。


 友の犠牲を無駄にしたりはしない。


 全ての力を集中させた一閃。


 ――しかし、手ごたえはなかった。


「ッ――?!」


 彼の目の前に鎧の騎士の姿はない。


 その時、ずぶりと自分の胸から細長いものが生えてきた。


「がはぁ……ッ!!」


 それは、鎧の騎士が持っていた長剣の刃であった。


 鎧の騎士はいつの間にか白騎士の背後に回っており、背中から甲冑ごと心臓を貫いたのである。


「い、つの……間に……」


 白騎士はもはや腕に力が入らず、剣を地面に落としてしまった。


 口からは、こみ上げてきた血がどぼどぼと溢れ流れていく。


「な、んて……強さ、だ……」


 動かなくなった白騎士からオデュロはずるっと剣を抜き、白騎士の身体がどさりと地面に横たわる。


 オデュロは一度、剣についた血を払うと、まじまじと刀身を眺めながら、ここにきてようやく言葉を発した。


「――初めて人を殺す体験をしたが……」


 そして、周りに集まっている冒険者たちに視線を移した。


「――中々に楽しいな、コレは」


 兜のスリットから覗く深淵に、金色の眼光が暗く灯る。


「う、わああああああ!!!!!!!」


「きゃあああああああ!!!!!!!」


 そこからは、酷い有様だった。


 世界でも最上位とされる有数の戦闘集団、アダマンランクの冒険者たちが数分ももたせることができず一方的に惨殺されてしまったのだ。


 そんな化け物に勝てる筈がない。


 蜘蛛の子を散らすように、広場に集った冒険者たちは一目散にその場から逃げようとする。


 しかし、無理だった。


 赤い鎧の騎士は、四騎士と戦っていた時とは一変して、まるでやる気を出したかのようにビュンビュンと激しく動き回ったのである。


 音速を遥かに超えた動きで剣を振り回しながら飛び跳ねまわり、嵐のように冒険者たちを殺戮していく。


「ひいいいい!! 助け――がはぁ!!」


「く、来るなああああ! こっちに来――ぐげっ……!!」


 一振りで数人。一秒で十数人。死の刃は鎌鼬のように通り過ぎるだけで、有象無象の冒険者たちを仕留めていく。


 その様子は宛ら、草刈り機の回転する刃が芝を刈っていくような横暴さだ。


 中には、プラチナランクやゴールドランクの上位冒険者で立ち向かおうとした勇気あるものもいたのだが、なすすべもなく一方的に撫で斬りにされてしまった。


 何せ、速すぎて相手が全く見えないのである。自分が殺されたことも認識できないまま、死んでいったものがほとんどだろう。


「おー、ヒャッハーしまくってるねえ、オデュロ君。動きも私と同じくらい――いや、短距離なら私よりもずっと速いんじゃない?」


 広場の上空から一部始終を眺めていたエリジェーヌは、邪魔しないようにしながらオデュロの暴れっぷりを観戦している。


「それにしても、クッソ長い刀だなぁー。まるで、どこかのイケメンなラスボスとかイケメンなお侍さんが使ってそうだよねぇー」


 そんな独り言を言いながら、エリジェーヌは何気ない動きで自分のうなじの辺りに腕を伸ばした。


 ぱしん、とそこに飛んできた矢を人差し指と中指で掴み取る。


 矢の飛んできた方角に首を向けると、そこにはエリジェーヌの飛んでいる位置よりも高い建物の屋根から狙撃手の弓兵が、彼女を狙っていた。


 弓兵の男は矢を容易く摘み取られたことに、驚きの表情をしている。


「――へえ、私とも遊んでくれるんだ」


 エリジェーヌは一瞬にして、狙撃してきた弓兵のすぐ隣まで飛んできた。


 弓兵からしてみれば、遥か遠くにいた敵がいきなり間近に瞬間移動してきたようにしか見えなかった。


「ひっ――!?」


「良い腕してんじゃん。じゃあ、これはお返しね」


 エリジェーヌは手に持っている大鎌は使わず、弓兵の男の額にデコピンをくり出した。


「がふっ――?!」


 途端、指が当たった位置の肉が弾けて抉れ、頭蓋骨の一部と脳が混じったものがまき散らされる。


 男は力を失ってがくりと倒れると、そのまま屋根から地面に向かって落ちて行ってしまった。


「うげ……力の加減って難しいなぁー。――あ、もう終わっちゃったんだ」


 高い屋根の上からエリジェーヌが見下ろすと、広場にはオデュロ以外の全てが血に濡れて横たわった、死屍累々の地獄が広がっていた。


 あれだけ絶叫に満ちていた空間は、今ではしんと寂しく静まり返ってしまっている。


 つまり、この場に集まった冒険者たちは全滅してしまったのだ。


「お疲れさまぁー。いやぁー、すっごい暴れっぷりだったねえ。私、カリストロス君はともかく、オデュロ君とは喧嘩したくないなぁ」


 ふわりと、オデュロの隣に舞い降りながらエリジェーヌはひらひらと手を振った。


「まだ、殺し足りない……もっと殺し回りたい……」


 しかしオデュロはまだ興奮冷め切らぬのか、剣を持った方の腕をかちゃかちゃと振るわせている。


「あー、オデュロ君。エキサイトしすぎてテンション上がりっぱなしなのかぁ。困ったなぁ……」


 いまだに殺気と狂気がどばどばと沸き上がっている彼は、何かして止めなければすぐにでも飛び出して行ってしまいそうである。


 しかし、下手に言葉をかけて刺激するのも飛び掛かられそうで、エリジェーヌはちょっと怖かったのだ。


 するとそこに


「――オデュロさん。一般市民は別の使い道がありますので、これ以上殺したりしないでくださいね」


 メイド服の少女、シャンマリーが姿を現した。


 彼女はいつの間にか、エリジェーヌの隣までとことこ歩いてきて二人に声をかける。


「エリジェーヌさんもお疲れ様です」


「お疲れー、でも私はほとんど何もしてないよ。ほぼ全員、オデュロ君が殺っちゃったし。……あー、これなら私も参加して、ちょっとは腕試ししたかったなぁ」


 今回のエリジェーヌの役割は、あくまでオデュロが万が一危ない状況に陥った時のバックアップ及び撤退の補助要員であった。


 そのため、集まった冒険者たちを煽りこそしたものの、なるべく観戦に徹し、必要以上に手は出さなかったのである。


 因みに、今日この時間帯に冒険者たちが一同に集まり、王城へ攻め込もうと計画していたのを事前にリサーチしたのは、市内に潜入調査していたシャンマリーだった。


「ああ、もっと殺したい……せめて、あと一区画……一区画分は人間を殺し回っては駄目か?」


「すみませんけど、今落ち着いてる時点でどうか我慢してください。きっと、殺り始めると止まらなくなると思いますので」


 シャンマリーの申し訳なさそうな困り顔を見て、オデュロは目元を覆うように顔を手で押さえた。


「分かった。……ううむ、どうもこの身体になってから、人を斬ったり血を見たりすると、自分でもどうかと思うくらいハイになってしまうようだ……」


「この都市を完全に支配下において、準備を万全に整えたら他国に攻め込むみたいですから、その時は存分に暴れまわってくださいね。オデュロさんも、エリジェーヌさんも」


「りょうかーい。あー、もう今日は帰ったらすぐお風呂に入ろうかなぁー。血生臭いしー」


 エリジェーヌは両手を自分のうなじに回して、王城のある方角の空を見上げる。


「オデュロさんも城に戻ったら鎧を洗いましょうね。返り血がベットリついてますので」


 シャンマリーに促され、オデュロは自身についた血の跡を見る。


「……そうだな。鎧が赤くて目立たないが、これだけ血がこびりついていると、触った物を全て汚してしまいそうだ」


「ところでさぁ、オデュロ君って無双するゲームとか好き?」


 突然、エリジェーヌはオデュロの顔を覗き込みながら聞いてくる。


「ん? ええ、わりと好きですが――何でです?」


「いや、何となく頭に思い浮かんだこと聞いただけ。特に深い意味はないんだけど」


「では、地球を大きな虫とかから守るゲームなんて、したことあります?」


 今度はシャンマリーが、会話に入ってくる。


「ありますよ、ハクスラの要素なんかは大好物です。まあ、アレは無双するヤツとはジャンルが違いますが……」


「じゃあさ――」


 そんな、まるで学生の下校風景のような和やかな会話をしながら、三人は中央広場をあとにする。


 それはとても、大勢の人間を殺戮してまわった後とは思えない、非常に異様な光景であった――。







 ――ブラムド城が陥落してから、一月後。


 城塞都市全体をぐるりと囲う攻性外壁、通称《嘆きの壁》によって外へ逃げることが叶わなくなった市民たちは、復活した魔王と新たな配下たちによって燦燦たる目にあっていた。


 魔物退治の専門家である冒険者たちをまとめて始末された市民たちに、抵抗する余地など一切残されていない。


 市民たちはそれぞれ性別な年齢などによって分けられると、奴隷や家畜、はたまた素材や燃料、もしくは実験材料などにされていた。


 市民を魔物化させた労働力と、人間を材料とした生体燃料生成装置及び生命魔力抽出装置というエネルギーのリソースを確保したことにより、それを元手に魔法全般を得意とするゲドウィンは、王城と都市の大規模な改造に取り掛かった。


 そして、なんと裏側の世界である魔界と今いる地上を繋ぐ次元の穴、地獄門をたった半月ほどで完成させてしまったのである。


 本来なら地獄門は魔界の技術でも造り出すのに長い年月と多大な資材、労力を必要とするのだが、ゲドウィンはその身に備わった高度な魔法解析、魔力操作、錬成能力によって魔王が造り方を教えた地獄門を、特に苦労もなく再現できてしまった。


 この地獄門の開通という功績は大きく、魔王は魔界から魔族や魔物、魔界の資材などをありったけ搬入し、新生魔王軍を組織したのである。


 ――そこからは、破竹の勢いであった。


 完全に準備を整えた魔王は、異世界から呼び寄せたという直属の配下、《六魔将》とともに、世界各国を片っ端から蹂躙しだした。


 魔王軍の全体的な総数と規模は流石に前回の侵攻時より下回るものの、それを遥かに凌駕する六魔将の異様かつ絶大な力によって、人類は瞬く間に、またもや窮地に立たされようとしているのである。


 特に以前、魔王を倒したという勇者が六魔将の一人、《鐡火のカリストロス》によっていとも容易く殺されてしまってからは、人類側の敗北は顕著になっていった。


 そして半年たった今では、なんと世界の六割以上が魔王軍の手に落ちてしまった状況である。


 果たして人類に、再び平和な世界を拝める時代は来るのであろうか――。


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― 新着の感想 ―
Xにてご紹介いただき読ませていただいてます 主人公が魔王側なのに少し面食らってしまった感がありますが、悪がとことん悪なのは徹底しているなと思いました 現代兵器がファンタジーの世界に来たらというのは…
Xの企画より参りました。 現代兵器を次々と持ち出し、召喚した魔王も、城も、簡単に攻略していくのは爽快ですね。 人間も容赦なく殺しまくって完全に魔王です。 とは言え、異世界から召喚した人たちは全員魔王よ…
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