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罪を重ねし異世界で被る罰の話⑩


「……ッ! ご無事ですか、カリストロス様!」


「この程度の爆発、なんてことはありません。むしろ、私より自分の心配をした方が良いのでは?」


 鬱陶しそうに片手でパタパタと煙を払いながらカリストロスが言ったところで、ロズェリエの握っていた魔杖がいきなりベキンと音を立てて半分に折れる。加えて、ロズェリエ自身も体のあちこちに幾らか火傷を負ってしまっただけでなく、魔法による拘束を無理やり破られた反動で手足の神経に痺れを生じさせていた。


「っ……! おのれ、勇者め……!」


「にしても、自爆とはまた酔狂な真似をしたものです。――まあ、とある漫画で似たような事をした勇者に心当たりがなくもないですが。次は爆発する岩か球にでも転生するんですかねぇ――ん?」


 ロズェリエと違って殆どダメージを受けていないカリストロスはそこまで喋った後、急に何かへ気づいたかのように目を細めた。


「……なるほど。これはある意味、してやられました。細やかな嫌がらせとはこの事ですか」


「えっ? それはどういう――あっ!」


 カリストロスがジッと見つめている方向にロズェリエも目を向けた途端、彼の言った台詞の内容を理解する。カリストロスの視線の先、そこではついさっき彼が殺したフローラの遺体が青白い魔力の炎で焼かれ、マナの粒子に分解されて跡形も無く虚空へと消え去ってしまっていた。


「くっ、自爆魔法によるマナの崩壊消滅に、自身と同調させていた女の肉体も巻き込むとは小癪な……!」


「ふむ、女の方はともかく、勇者の死体が丸ごと消えたのは少し困りますね。せめて代わりの物証くらいは持ち帰りたいものですが」


「うーん……あっ、でしたら勇者の持っていた聖剣なんて如何でしょう? あの武器は我が父を倒した勇者の象徴でもありますから、カリストロス様の勝利を示す証拠品としては申し分ないかと」


「ああ、悪くはないですね。あの厨二デザインなロングソード。確か、呆気なくポッキリ折れた残骸がその辺に転がって――」


 そう言った後、カリストロスはチラチラと自分のいる周囲を見回す。しかし、


「……ありませんが?」


「うぬぬ、あの勇者……よもや自身の起こした爆発で剣すらも何処かに吹き飛ばしてしまうとは……!」


 どう探しても聖剣の残骸を見つけることは叶わず、ロズェリエは腹立たしそうに握り拳を震わせた。


「後で探しておきなさい。そこらに転がりまくっている雑兵の死体を全部ゾンビにして探せばすぐに見つかるでしょう。――む?」


 自分で探す気など毛頭無いとばかりにカリストロスが言ったところで――突然、彼の目の前の地面にて、何やら眩い光を放つ丸い陣のようなものが現れた。それも四つも。


「何です、これは?」


「これは……召喚陣!? それもこの感じは……!」


 あくまで眉根を寄せた程度のカリストロスに対し、ロズェリエは驚きと焦りの混じった表情で、視界の先に出現した謎の光円を見る。


 そうして、ブオンと魔力の旋風が巻き起こっては一瞬の閃光が生じた後、地面に描かれた陣が消え去ったと同時に、その中から出現した四人分の影がカリストロスらと相対した。その人物たちはフォルムこそ人間に近しかったが、あきらかに人ならざる要素と空気を有していた。


「おやおや。何事かと思って来てみりゃ、これまた酷い景色が広がっているねえ」


 そう開口一番に喋ったのは、褐色肌に赤い髪の筋骨隆々な若い女性であった。軽装の鎧を身に着けてはいるが、恰好は半裸に近く屈強な肉体を見せつけており、纏う雰囲気は如何にも武闘派な戦士のそれである。一言で例えるならアマゾネスと表現するのが相応しい彼女は、髪の毛先から半分が燃える炎の如く輝きながら揺らめいていた。


「実に惨たらしい有様です。この辺り一帯、そこにいる彼ら以外には命の鼓動が感じられません」


 次に口を開いたのは、艶麗な体つきに高貴な雰囲気を兼ね備えた妙齢の女性だった。先の赤髪の女とは対照的に淑やかな佇まいをした彼女は、複雑に編み込んだ青い髪に裾の長い半透明なドレス、それから天女の羽衣を想わせる帯らしきものを体に纏わせている。


「そしてそこの二人こそが、この血生臭すぎる光景を作り出した張本人なのだろうな。あまりに邪悪な気配がこれでもかと漂っている」


 続けて話したのは、深緑色の髪を後ろへ撫で付けた、インテリヤクザを彷彿とさせる切れ長な鋭い目つきの成人男性であった。長身痩躯の体形にスラっとしたスーツのような衣服を着ており、両腕を組んだ状態でほんの少し地面から宙に浮き上がっている。


「ううむ、あの勇者もこうならぬよう、必死に戦ったのであろうが……何とも無念であったことだろうよ」


 そして最後にそう述べたのは、岩石の如きマッシブな巨躯を有する、スキンヘッドに夕日色の口髭を生やした厳つい壮年の男性だった。全身の四分の三以上を晒した、筋肉の甲冑とでも言うべき黒い地肌には、まるで流れる溶岩の如き光の線が夥しく浮かび上がっている。


「何ですか? この謎の四人組。見たところ、どうにも人外っぽいですが」


 そんな、急に出てきては口々に喋りだした者たちの登場に、カリストロスは奇妙だと言わんばかりに目を細める。


「カリストロス様、おそらくこの四体は精霊神……その分霊体かと思われます」


 一方、ロズェリエの方は闖入者らの正体が何なのかという事を一目で看破したようで、警戒を露わにしながらカリストロスへ告げた。


「精霊神?」


「はい、この世界には各属性のマナを司る精霊の最上位存在として、精霊神というものがいるのです。そしてそれらは全部で八体いて、そのうちの幾つかと勇者は契約を交わしたと聞きます。その精霊神らが先の勇者の死に呼応する形で、自身の分身を差し向けたのではないかと」


「おや、知恵者ものしりそうな魔女が全部説明してくれたねえ。全くその通りだよ」


 自分らについて語ったロズェリエの言葉に、燃える赤い髪の女が答える。因みに彼女は火の精霊神、その名を《イグニア》という。


「私達はエメルドの死に際に抱いた悲痛な激情さけびを魂の回線パス越しに感じ取りました。そして一対何事かとその身を案じ、彼の残留魔力を辿って自己召喚を試みたのです」


 続けてそう述べた青髪の女は、水の精霊神である《アクアエリス》。


「本来であれば、我々精霊神は人間に対し、このような干渉てだすけは行わない。人類が繁栄しようと衰退しようと興味も無い。――だが、出てきた先で貴様のような者がいたとなれば話は別だ。貴様は人類どころか、この世界そのものに害を成す汚らわしさを帯びている」


 そう告げた深緑色の長髪の男は、風の精霊神たる《エルメレス》。


「まあ要するに、何だかんだで勇者の仇討ちに来てやったという事だ。貴様なのだろう? 吾輩の気に入っていた男を手酷い形でブチ殺してくれたのは。んん?」


 それから特徴的な口髭を指先で弄りつつ話したスキンヘッド男が、土の精霊神の《ロックガイナ》である。


「……あー、なるほど。つまりは勇者の置き土産って訳ですね。はいはい、結構ですよ、追加の連戦。むしろ、こっちの方があんな優男より楽しめるかもしれませんし」


 そのような精霊神たちの口上を一頻り聞き終えたところで、カリストロスは余裕に満ちた態度を全く崩さず、それどころか不敵で挑発的な笑みを浮かべてみせた。


「ぬう、吾輩たちを前に微塵も臆せぬどころか、この傲岸不遜さ……こやつ、やはり只者ではなさそうだな」


「そんな事は始めから判っている。我々が言うのも何だが、人と変わらぬ容姿に惑わされるな。そこの男は正真正銘、怪物の中の怪物だぞ」


「それにこの男……どうも私たちにとって、天敵になり得る能力を(ちから)を持っているように感じます。怖気じみた悪寒の原因はその為ではないかと」


「ああ、その気持ち悪さはアタシも感じてるよ。こりゃあ、のっけから全力でいかないとやられかねないねえ。――ひとまず、アタシは“皆の力を合わせる”べきだと思うけど、そこんとこどうだい?」


 集った全員を纏めるようにそう訊いた、火の精霊神イグニアからの提案に、


「完全に同意する」


「全く以て賛成です」


「迷うまでもなかろう」


 他の精霊神たちもまた、異論を挟まず同意見であるとすぐさま告げる。


「なれば、今ここで! 我々の力を一つにする!」


 それを聞いたことでイグニアが天に向かって唱えるように大きく叫び、四人の精霊神たちは全員同時に互いの手を合わせた。途端、再び強い光が輝いては、周囲の景色を白く塗り潰す。


 そしてその閃光が消え去ると、そこには四人分の影に代わって、身長が6メートル程もある巨大な人物が一人、只ならぬ圧力を漂わせながら佇んでいた。


「これは……四属性の精霊神が融合した!?」


「ほう?」


 自分達の目の前で四体から一つへ合体し、姿を転じた精霊神の姿に片やかなり驚いた様子で、片やちょっと面白そうな表情で出現した存在を見上げる。


 そんなカリストロス達の視界には、男性にも女性にも見える不思議な面貌に、掘り出された神像が如き豪然で逞しき肉体、それから白く光る長髪を伸ばした巨人がいたのであるが、何より特徴的なのが六本に増えた腕であった。しかもその阿修羅像が如き腕には剣や棍、槍に槌などとそれぞれ異なる武器が握られている。


「我が名は四大元素精霊神、《テレストリアス》!! 世界の敵となりし魔人よ、この場にて即刻討たせてもらう!」


「ハッ、合体してデカくなるとか、まるで戦隊ロボみたいですねえ。ま、だとしたら一体足りませんけど、それはともかく――」


 眼前へ立ち塞がった巨大な敵を前にカリストロスは怯むどころか、むしろ愉し気な笑みを垣間見せたかと思うと、大仰に右腕を掲げてはその指をパチンと鳴らした。すると、彼の傍の空間から瞬く間に巨大なガトリング砲――カリストロスが異世界転移してすぐに魔王を絶命させかけた、最強機関砲ことGAU-8 アヴェンジャーがその姿を見せた。


「まずはこのくらい、凌いでみてくださいね」


 直後、カリストロスは対峙した四大元素精霊神テレストリアスに向け、アヴェンジャーを容赦なくぶっ放す。薬莢だけで牛乳瓶ほどもある30mm弾が毎分3900発という驚異の速度で連射された訳であるが、


「がッ――!?」


 テレストリアスは防ぐ、避ける、武器で弾く等といった対応を一切取ることが出来ずに、その銃火へ思いきり晒された。本来なら、この世界だとまず勝てる者など殆どいないとされるくらい絶対的な力を持っている筈の超抜存在が、あまりにみっともなさ過ぎる有様で、その身をあっという間に粉砕されていく。


「何だ、これは……! 耐えられな――ぐあああああッ!!」


 数秒後、ろくな抵抗すら叶わず四大元素精霊神テレストリアスは全身を跡形も無く粉々にされては、マナの粒子となって消え去ってしまった。


「は――ザッコおおおおおおッ!!!! 何が四大元素精霊神、ナントカカントカー、ですか! あのクソザコ魔王でさえ少しは持ち堪えたというのに、一瞬で消滅だなんて出オチにも程があるでしょう!」


 テレストリアスが消え失せたことでアヴェンジャーの射撃を止めた後、カリストロスは酷く馬鹿にしまくった表情で、大袈裟なくらいに指を差しては罵った。


「す、素晴らしすぎますわ、カリストロス様! 分霊体とはいえ精霊神、しかもその集合体を容易く打ち破るなど……!」


「いやいや、素晴らしいって何が? あんなの、ただデカくなっただけの的じゃあないですか! 何ともまあ、馬鹿馬鹿しい! ああいや、強すぎて私、また何かやっちゃったんですかねえ! ブハハハハハハッ!!!!!!」


 ロズェリエからの称賛に対し、カリストロスは敵への嘲笑を堪えきれないと、片手で目元を覆いながらも、転げ回ってしまわんばかりの馬鹿笑いを上げた。


 あれだけ、それっぽい神聖な雰囲気を醸しておきながら、いざ攻撃してみたら何と弱くて脆いものか。これでは、もはや戦闘ではなく一方的に殺戮しただけである。とはいえ、まあそれも仕方がないだろう。だって自分は最強で無敵なのだから。所詮、幻想神秘ファンタジーでは現代兵器ミリタリーに敵わないのだから。力に差のありすぎる戦いなんて、そもそも勝負にすらなり得ない。


「ダハハハッ! アハハ! ハハハハハハハッ!!」


 だとしても、あまりに歯ごたえが無さ過ぎるのも、それはそれで困りものだ。少しくらいは敵の方にも頑張ってもらわないと、幾ら何でも詰まらなさ過ぎて――




「――貴方、魔法少女みたいな能力を使うんですね」




 その時、唐突に聞き覚えのあるだれかの声が聴こえてきた。


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