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罪を重ねし異世界で被る罰の話⑨


「……ええ、どうしてなのです?」


「それはですね、貴方にやってもらいたい役割があるからなのですよ。だから、あえて生かして残したのです」


「役割……?」


 怪訝そうに返すフローラに、カリストロスは邪な笑みを湛えて答える。


「そう。世界を一度救ったとかいう勇者の無様な敗北と死、そしてそれを行った存在とその力を世間へ広く広く知らしめていただくという、それはもう大事な大事な役割がね。――いやあ、貴方は最高に幸運ですよ。なんせ、この絶対的な死地から唯一、ほぼ無傷で生還できるのですから」


「……ッ! 誰がそんな事……!」


 カリストロスからのろくでもない要望に対し、フローラは怒りと嫌悪に満ちた眼差しで敵意を返すが、


「はあ、なんて愚かで不敬な女でしょう。カリストロス様のご慈悲が理解できないとは……。何より、貴方には拒否権なんてないのです」


 そんな彼女の態度にロズェリエは酷く呆れた目を向けた後、手にした魔杖の石突を地面に一回突き付ける。すると、離れた位置で転がっていた傷だらけのエメルドが、カリストロスとロズェリエのすぐ傍へ転移させられてきた。加えて彼の身体は、魔法による茨の蔓を巻きつけられた上で磔にされたように空中へ固定されており、千切れ掛かって落ちそうな四肢も相まって、まるで壊れたマリオネットを想わせる。


「エメルド!?」


「ほら、会話だけは出来る様にしてあげました。処刑される前に相方へ最期の挨拶をする自由を与えてあげます。ただし、カリストロスをお待たせしないよう手短に。あと、装備アイテムの効果は全て封じていますので悪しからず」


 そう告げると、ロズェリエは痛々しい姿で宙に拘束されたエメルドを魔杖の先で軽く小突いた。


「ごふっ……。はあ、はあ……フローラ……どうか、君だけでも生き延びてくれ……。本当にすまないが、後のことは……頼む……」


 ロズェリエによって、砕けた顎や裂けた口内、それから喉や肺を必要最低限なだけ治されたエメルドは息も絶え絶えに、相棒にして愛妻たる女騎士、フローラへ最期の言葉を口にしだす。


「エメルド……! 貴方を置いて私だけ逃げ延びるだなんて出来ないわ! 私は貴方と運命を共にしたい……!」


 フローラはそう答えると、得物である槍を強く握り締めた。最愛の旦那にして最強の英雄と信ずる目の前の彼がなす術無くやられた相手にどうする事も出来ないだろうが、それでも我が身可愛さにこの場を立ち去るなどという気は一切無かった。もうどうしようもないのであれば、いっそここで彼と一緒に死んでしまいたいと。


「何を言っているんだ、フローラ……。ごほっ……君まで死んでしまったら、祖国に残してきた……僕らの“未来”はどうなるんだ……? 誰が守って……育ててあげないといけなくなる……」


「…………ッ!」


 だが、エメルドの必死に紡いだ言葉にフローラは息を呑んだ。そんな彼女へエメルドは崩れて血塗れな面貌ながらも、優しく励ますような視線を返す。


「愛しているよ、フローラ。君と出逢えて、過ごせて、僕は心の底から幸せだった……!」


「私もよ、エメルド……! 私だって、貴方のこと――」


 彼から後へ続く世界への意思を託されたことで、我慢できずに涙を零すフローラ。しかし、


「あー、まだそのメロドラマ続きます? ちょっともう、そのくらいにしてもらっていいですか? いつまでもダラダラ続けられても困るので、空気読んで下さいね」


「そうそう、ワタクシはあくまで手短にと告げました。カリストロス様も機嫌を損ねられてますので、次の一言で話を終えてください。その後は即刻、勇者の処刑に移らせていただきますので」


 などと、二人に別れの挨拶を許したにも関わらず、カリストロスらは会話の途中に割り込んでは、自分達こそ空気の読めない発言を挟んだ。その心無い言葉にフローラは彼らをジロリと睨み、エメルドは疲れ切った様子で深く息をつく。


「――さようなら、フローラ。もう一度言うけど……ずっとずっと愛している」


「ええ、さようなら。私も永遠に愛しているわ。いつか必ず、会いに行くから待っててね」


「……でしたら、カリストロス様」


「さて」


 ロズェリエから促されるまでもなく、エメルドの方へ向き直ったカリストロスの右手には、先ほど使ったものとはまた別の拳銃が握られていた。それは10インチのロングバレルが取り付けられて銃身の長くなった、カスタム仕様のデザートイーグル.50AEであった。


「あ、辞世の句とか読んだりします? そのくらいは許してあげないこともないですが」


「……? よく判らないが……殺すつもりなら、早く殺したらどうだ? ごほごほっ……あまりモタモタしていると、どんな手違いや間違いが起こるとも知れないぞ?」


 わざとらしい薄ら笑いを浮かべながら話しかけてきたカリストロスに対し、エメルドは大人しくしつつも鬱陶しそうなのを滲ませながら返答する。


「それもそうですねぇ。――おっと」


 と、カリストロスが口にした次の瞬間、彼の右腕はエメルドから唐突にフローラの方を向いたかと思うと、なんと彼女へ三発ほど発砲した。


「え――」


 急に轟いた銃声の後、何が起きたのかよく判らない、といった表情のままにフローラはその場へ倒れ込む。44マグナム弾より強力なデザートイーグル専用である50AE弾の直撃により、胸に空いた穴から血が一気に流れ出しては、そのまま彼女は動かなくなった。


「…………ッ?!!!」


「おや、手が滑ってしまいました。私としたことが、殺す方じゃない者を撃ってしまうとは」


「あら、カリストロス様にしては珍しいですね。まあ、たまにはそんな事もあるでしょうとも」


 フローラを明確に撃ち殺しておきながら、あまりに白々しすぎる芝居がかった口調で述べたカリストロスに、ロズェリエもまた悪ノリするような形で返答する。


「き――貴様らああああああッ!!!!!!」


 しかし、そんな二人に対し、これまであまり感情を荒立ててこなかったエメルドが、遂に憎しみを顕著に露わにしては激しく叫びをあげた。


「あらあら、カリストロス様。虫ケラ――じゃなかった、勇者サマがいよいよ怒ってしまわれましたよ?」


「喧しいですねぇ。ブチ切れるのは結構ですが、もう少しくらい静かにしてほしいものです」


 そのような彼の怨嗟を間近に受けて尚、カリストロスとロズェリエは更にわざと煽り立てるような発言をする。


「お前達、どうしてフローラを……殺すのは僕の方で、フローラは生かして帰すという話じゃなかったのか!?」


「ああ、その話ですが――すみません、ちょっと直前で気が変わりました。貴方がたがあまりにイチャついて待たせるものですから、また少し他のアイデアを思いついちゃいましてね」


「何だと……?」


 信じられないといった表情で見つめるエメルドに、カリストロスは厭らしい笑みを浮かべながら語りだす。


「第一、よく考えたら別に宣伝役は生かしておかなくてもいいのでは、と思ったのです。あえてゾンビにでもして帰した方が、よりショッキングで印象深くなるんじゃないかと。――ロズェリエも死霊操作魔法ネクロマンシーは使えますよね?」


「流石は聡明なカリストロス様。ええ、勿論扱えますとも。ついでにそこの勇者……いえ、哀れな敗北者の生首でも手土産に持たせてあげれば、もっと凄惨になって面白いのでは?」


「これ、勇者サマですって? 貴方も随分、悪趣味な発想をするものですねえ」


「いえいえ、カリストロス様ほどでは」


 などと、これまたわざとらしい小芝居でも打ちながら語りだしたカリストロスとロズェリエ。


「貴様ら……ふざけるのも大概にしてくれないか……」


 だが、そういった二人の会話に、エメルドは酷く暗い目つきで彼らを睨みながら唸った。


「これは失礼。しかし頭にきているところ悪いですが、そもそも敵の言う事を真に受ける方がどうかと思いますよ。クソザコ勇者さま」


「…………ッ!!」


「――さあて、貴方と話すことももうありませんし、さっさと処刑ころしてしまいましょうか。ま、せめて最愛の相手と運命を共にしたい、という望みくらいは叶えてあげますよ。二人分の死体を揃えて故郷の地へ届けて差し上げましょう。勿論、着払いでね」


 と、本人は面白いジョークでも言っているつもりで茶化しながら、カリストロスはエメルドを馬鹿にしきった目で見下す。


「……いいや、それには及ばない。最期の最後くらい、ささやかな嫌がらせくらいはしてみせるさ」


 ところが、ここにきてエメルドはほんの僅かながら攻撃的な笑みを浮かべたかと思うと、唐突に身体中から幾重もの細かい光の筋を生じさせては、バチバチと激しい魔力の火花を迸らせた。


「――ッ!」


「まさか……!」


 そんなエメルドの行動を目にした途端、ロズェリエが何かへ勘付いた顔をしたと同時に、慌ててカリストロスとエメルドの間に割って入る。


「フローラ、君を死後もはずかしめさせたりはしない。せめて、共に逝こう。――ラストラメント!」


 直後、エメルドは眩い閃光を伴いながら、凄まじい大爆発を起こした。当然ながら、カリストロスとロズェリエはすぐ傍から発生した強烈な爆風に思いきり呑み込まれることとなる。


 そうして、爆炎と土煙が一頻り舞い上がった後、その場所にはカリストロスとロズェリエの二人のみが残り、拘束されていた筈であるエメルドの姿は完全に消失してしまっていた。


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