罪を重ねし異世界で被る罰の話⑦
「…………ッ!?」
「何だ、貴様は!?」
「いつの間に現れた! 怪しい奴め!」
大勢いた兵士らの誰にも気づかれず、何処からともなく姿を見せた謎の軍服男の存在に、ガリアハン兵の前衛達はすぐさまカリストロスを取り囲もうとする。
ところが、微動だにしない彼の代わりに、周囲の空間から携帯対戦車弾であるAT-4 CSの発射器が幾つか出現しては、何の警告もないままにぶっ放された。当然、ガリアハン兵の装備で無反動砲の直撃を防げる訳もなく、着弾後の凄まじい爆風によって大勢が吹き散らされることとなってしまう。
「なッ……!?」
「失敬。私は雑魚になんて話しかけてはいないのですが」
カリストロスの見せた、只ならぬ攻撃を前にガリアハン兵の全員が動きを止めては固まってしまう。そんな中、カリストロスの目はこの場にいる大勢の中で、エメルドただ一人を見据えていた。それを受け、エメルドもまたその視線を見返しては、ゆっくりと前へ出てきて彼へと対峙する。
「……その力、まさかお前がグランジルバニアを瞬く間に征圧したという、異世界より招かれた者か」
「ええ、その通り。私の名はカリストロス・カリオストロ。魔王のヤツに召喚され、ひとまずはこの世界を手中に収めるべく活動しています」
そう語ったカリストロスの言葉に、周りのガリアハン兵が狼狽えるように騒めきだす。
「カリストロス……魔王によって召喚された、か……。であれば、これは僕の責任だな。仕留めたつもりであったが、魔王は滅んでいなかった上に、よもやこんな恐ろしい魔人を呼び寄せてしまうだなんて」
「……ん? その口振りですと、もしや貴方は……」
エメルドの述べた台詞に対し、ふと眉根を寄せるカリストロス。
「――ええ、彼こそが我が父を一度倒した人間の戦士。この地で勇者と讃えられている英雄エメルドですよ、カリストロス様」
すると、カリストロスのすぐ傍に、何も無い空間から一人の女性が突如、姿を現した。その女は、カリストロス同様に艶やかな長い黒髪と見目麗しい面貌、それから明らかに人外であることを示す双角が頭から生えている。
「……ッ! お前は……それに我が父とは……」
「初めまして、勇者エメルド。ワタクシはロズェリエ。先程言った通り、ワタクシは貴方がかつて打ち勝った魔王の実娘でございます。こうして直接お会いすることが出来て光栄ですわ」
「魔王の娘ですって……!?」
カリストロスのものにデザインを似せた白い軍服姿の美女が淑女らしい所作と共にそう自己紹介したことで、エメルドとフローラは同時に困惑する。エメルド、そして相棒であるフローラは過去に実際、魔王と相対して戦った間側の為、そのような反応を表すのも当然ではある。
「――ロズェリエ。あの男があの魔王を前に倒した、この世界の勇者だと?」
「はい。ですので、名実共にこの世界最強の人類の一人であります」
「ほうほう、なるほど」
そんな中、表に出てきたロズェリエから事情を聞いたことで、カリストロスは僅かながら興味をそそられたような表情を見せた。それをエメルド側も感じ取り、再びカリストロスへ向けて話をしだす。
「紹介に預かったが、僕はエメルド。エメルド・クリストルという。そして出会って早々で申し訳ないが、異世界よりの使者――いや、新たなる魔王カリストロスに、今ここで一対一の決闘を申し込みたい」
それから、唐突にそのような提案を持ちかけた事で、フローラやガリアハン兵たちは慌てた様子で彼へ注目した。
「エメルド!?」
「勇者殿……!?」
「あら、これはまた随分と不作法な。――それで、如何なされます? カリストロス様」
小馬鹿にするように、そして面白がるようにしながら話を振ったロズェリエに対し、
「決闘ねえ……。まあ、ここで戦うこと自体に代わりはありませんし、好きにしたらどうですか? そもそも勝負になればいいですけどね」
と、カリストロスはこれまた嘲笑うような様子で返した。
「その返事、了承と受け取った。――では、構えられよ」
しかしエメルドは特に表情を険しくすることもなく、静かに勇者の聖剣こと、得物である“耀きの晄剣”を構えてはカリストロスを見つめる。
「…………」
だが、カリストロスの方は面倒くさそうに戦車の残骸から降りてはエメルドと対峙こそしたものの、これといって武器を手にもしなければ、構えらしい構えも取らずにただ突っ立ったままであった。
「……もう一度言う。構えられよ」
その様子にエメルドは眉を顰めながらも、声を荒立てることなく律儀に再び告げるが、
「いいから早く攻撃してきたらどうです? たかだか人間相手にいちいち構える必要なんてありません」
などと、カリストロスは余裕そうに腕を組みながら答えた。因みにそれを後ろで観ていたロズェリエが、キャーカッコイイーといった感じで頬を染めながらクネクネとしていた。
「そうか……。であれば――ッ!」
そうして、数秒間の不動と沈黙。多くの者に見守られる中、まるで侍の果し合いやガンマンの撃ち合い前のような、非常にひりついた空気がその場一帯に漂う。
とはいえ、それもずっと続くことはなく、遂にエメルドが剣を振り上げると同時にカリストロスへと正面から突撃を掛けた。直後、カリストロスは無防備且つ無警戒に見えた体勢から一変、右手へ瞬時に銃身の長いリボルバー拳銃、スーパーブラックホークを出現させては、神速のクイックドロウにてエメルドへ一発だけ発砲する。
――ところが、エメルドは自身の心臓目掛けて放たれたその弾丸をなんと剣閃にて見事に弾き斬ってしまった。
「おっ」
その結果に、カリストロスは一瞬ながら感心した表情を垣間見せ、小さく声を漏らす。一方、エメルドは剣戟での防御成功後も立ち止まらず、そのままの勢いで急接近し、
「裂風真駆斬――ッ!」
カリストロス目掛けて、一撃必殺の思いを込めた全身全霊、乾坤一擲の斬撃を叩きつけた。
――が、その寸前にてエメルドの剣がパキンと折れ、刀身が半分以下になったことで剣閃はカリストロスへと届かずに空を切った。あろうことか、ついさっき弾丸を防いで弾いた部分から亀裂が走っては、剣が破断してしまったのである。
「――ッ?!」
決死の攻撃が空振りに終わった結果に驚愕の表情を見せるエメルド。しかし彼が動揺したのは、けして剣が唐突に折れてしまったからではない。斬りかかった対象があくまで“残像”であったことにだ。つまりは、仮に剣が折れてなかったとしてもどの道、エメルドの攻撃は当たらなかったのである。
そして、それに気づいたのも束の間、知らぬうちに別の位置へ動いていたカリストロスは既に銃口を標的へ向けてしまっており――もう一発分の発砲音が轟いたところで、エメルドは額を穿たれた。その場に崩れ落ちたエメルドは剣を手から放して倒れ込み、そのまま動かなくなっては、打ち砕かれた頭部の傷口から赤い血溜まりをとめどなく地面へ広げていく。
「えっ……嘘……っ」
その様子に、見ていた周りからすればほんの一瞬で起こった衝撃の事態に、誰もが信じられないといった表情で現実を認識することが出来ないでいた。あまりに瞬間的に終わってしまった勝負と勇者の死という残酷な結末に、誰もがろくでもない悪夢でも見せられているかのような感覚に陥らされる。
「――はあ、呆気ない。というか、雑魚すぎじゃないですか? よくそんなので勇者とか名乗ってましたねえ。まあ、魔王の方もクソザコでしたので、こんなものと言えばそうかもしれませんけれど」
すると、勇者を屠った当人であるカリストロスは、わざと詰まらなさそうな口調でそう吐き捨てては、手元でくるくると得物の拳銃を弄んでみせた。
「エメルド! エメルド……!」
しかし、そんな罵りも耳に入らないとばかりに、勇者たる彼の相棒にして今では愛する妻でもある女騎士、フローラは悲しみに暮れて嗚咽を口にする。
「そんな……あの勇者殿が……」
「信じられない……ああもあっさりと……」
そして、周りにいたガリアハン兵達も彼女の叫びを皮切りに、次々と絶望の表情を浮かべては意気消沈していく。
「貴様! よくも勇者殿を……!」
そのような中、兵長の男は戦意を喪失させぬように怒声を張り上げては、カリストロスを強く睨みつけた。
「あーはいはい。そう心配せずとも、すぐに貴方がたも後を追わせて差し上げますよ。偉大な勇者さま(笑)と一緒に仲良くあの世へ旅立ってください」
だが、カリストロスはもう勇者からは興味を失ったように倒れ伏した彼の傍を離れると、自分に怒鳴りかけた兵長のいる方を向いては、すっと拳銃を持った右腕を掲げる動作をした。
「…………ッ!」
それに伴って彼から向けられた視線に帯びる異様な殺気に晒されたことで、ガリアハン兵たちは強烈な恐怖から殆どの者が竦み上がってしまい、その光景を目にしたカリストロスは愉しそうにほくそんだ。
――しかしその時、カリストロスの背後から、先ほど撃たれて殺された筈のエメルドが立ち上がると同時に折れた剣を振り上げては、唐突に斬りかかってきた。




