新登場する異世界の勇者様の話④
――夕刻。
助けた女性の家で昼食をご馳走してもらったレフィリアたちは、馬車を回収してから宿をとると、それから街に出て旅の装備などの補充をするために買い出しなどを行った。
このホルンの街を出発すれば、いよいよ敵地へ向かうことになるので、帰ってくるまでは途中で物資を手に入れることが出来なくなるからである。
時間をかけて念入りに支度を済ませたレフィリアたちは、出発は明日にして一度宿に戻って荷物を置きに行き、そこから夕食がとれる店を探しに行こうとする。
「買い出しのついでにいくつか目ぼしいお店を見つけておきました。レフィリアさんの好みに合えばいいですけど」
「流石はサフィアさん。そういえばこの街で有名なのはチーズフォンデュらしいですね。明日からはまた野宿だろうから、しっかり味わっておかないと……」
「チーズはベルヴェディアの特産品なのでどこも取り扱ってるとは思いますが、雰囲気の良さそうな店がわりとこの近くにありましたよ。確かですね――」
そんな会話をしながらレフィリアとサフィアは宿のロビーを出る。
すると――
「やあ、キレイなお姉さん方。夕食に行くなら良い店を知ってるぜ?」
突然、いかにも軟派そうな年上の男に声をかけられた。
――というか、それは昼間見た勇者を名乗るオレンジの髪をした青年だった。
(げっ?! この人、何でこんなところに……!)
「いえ、間に合ってますのでお構いなく」
サフィアは鬱陶しいと言わんばかりの淡々とした口調で言い放ち、レフィリアを連れてその場を通り抜けようとするが、オレンジ髪の男に行く手を遮られた。
「まあまあ、そんな冷たいこと言わないでくれよ。姉さんたち、あれだろ? 昼間、ゾンビ化したベヒモスとリッチ化した魔族を一撃で仕留めてた二人組の冒険者だろ?」
「どうしてそれを……もしかして、見てたんですか?」
「ああ、見てたぜ。何かおかしいか?」
レフィリアの問いにオレンジ髪の男はやらしい笑みを浮かべながら首を傾げる。
「いえ、あの場所から既に貴方はいなくなっていた筈ですが」
「ああ、確かに離れはしたな。だけど俺は目も耳も良いんだ。遠くの方で悲鳴が耳に届いたもんだから、建物の屋根にジャンプして様子を伺ったら魔物を倒しているアンタがたを見かけたって訳さ」
それが可能なだけの超人的な聴力と視力。目の前にいるこの男、もしかして本当に別の異世界転移者かもしれない。
「それはそうと俺があの場所にいなかったってことを“知っている”ってことは、姉さんたちもあの場所で俺の活躍を見ていたってことだよな?」
(あっ、ヤバ……!)
内心ドキッとするレフィリアを庇うように、サフィアが前に出て冷たい視線をオレンジ髪の男へ向ける。
「それで、私たちに何の用ですか? どうも偶然出会った風に見せて、ずっと私たちを待っていたかのように思えるのですけど」
「そう怖い顔をしないでくれ。俺は本当に夕食に誘っているだけだ。まあ、出待ちしてたってのは本当だけどな」
オレンジ髪の男は安心してくれと両手をあげるが、その表情はどうにもヘラヘラとしていて胡散臭い。
しかし、こちらに対して何か要件があるのは確かに思える。
「……どうします、レフィリアさん?」
サフィアの態度はあからさまに乗り気ではない。
レフィリアが同意を示すなら、即座にこの男を跳ね除けるつもりのようだ。
「――分かりました。夕食、ご一緒させていただきましょうか」
だが、レフィリアはあえて相手の誘いに乗ってみることにした。
「ちょっ、いいんですか?!」
「おっ、良いねえ! そう来なくちゃ! 俺についてくれば、ここなら美味い料理がただで食えるぜ!」
別にそれが目的ではないし、本音を言えばレフィリアもこんな男と食事なんてしたくはない。
だが目の前の男が自分からコンタクトを取って来た以上は無視する訳にもいかない。
彼がどういった人物なのかをはっきり確かめておく必要がある。
「よっし、それじゃあ早速案内するぜ! ――おっと、まだ自己紹介をしてなかったな」
オレンジ髪の男はグッと自分の胸に親指を突き立てると、自信満々な表情で二人に名乗りを上げた。
「俺様の名はアンバム・ベルンシュタイン。人呼んで勇者アンバムだ」




