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剣と魔法の異世界に現代兵器を持ちこんでみた話 ~イマジナリ・ガンスミス~  作者: 矢野 キリナガ
第11章:ハーメルーナ島編
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神殿の謎と異世界の島神様の話⑨


「ハンター!!」


「が……はあ……ッ!?」


 その突然の事態に誰もが驚愕する中、何よりハンター本人が一番信じられないと絶句した。心臓を狙った方の自分が、どういう訳か先に心臓を穿たれていた。そもそもそれ以前に、蝕みの短剣ダガーの猛毒を確かに食らった筈のアルテラスが、どうしてすぐ動けるようになっているのだろうか。


「ごふッ……!」


 対するアルテラスはというと、さっきまで身じろぎ一つ出来なかった無防備な有様から一変して当たり前のように立ち上がっては、ハンターの胸から爪を引き抜き、盛大に吐血している彼を床に放り捨てた。


「いやあ、危ない危ない。お主が“本気で殺す為の毒”を容赦なく使ってくれて助かった。でなければ、“コレ”の効果が発動せずに妾はやられておったかもしれんからなぁ」


 と、足元で血だまりを広げているハンターを見下ろしながら、片手に何かを摘まんだ状態でアルテラスは述べた。


 その何かとは、ハンターが人狼の導師へ相撲勝負の賞品として渡し、更にその彼が半獣の巫女へプレゼントしたバングルであった。ただし、今のそれは半分に割れて既に破損した状態になってしまっている。


「それは確か……!」




 実はハンターが渡した遺物アーティファクト、それは《僥倖たる堅輪バングル》という、一度きりではあるが運命改竄の機能を有する一種の護符アミュレットにあたるアイテムであった。


 ただし任意での効果発動は出来ない上に、強い信頼関係のある間柄の相手から贈与されて且つずっと身に着けておくことで初めて機能の対象になるという、儀式的な要素を含む故に扱い辛い代物。


 その為、ハンターもコレクション内で持て余していたことから賞品として贈呈を選んだ訳だが、とりわけ装備者の死という、運命力の介入が最も必要な事例を起こしてしまったことにより遺物アーティファクトの効果が一番悪いタイミングで発動。結果として、半獣の巫女に憑依したアルテラスに“蝕みの短剣ダガーの猛毒を受けなかった”という予期せぬ運命改竄キャンセルが働いてしまったのである。




「しかし、自分が良かれと譲った物が巡り巡って自分の命を奪う要因になろうとは……これもまた何とも、不条理よなあ」


「く、そ……テメッ……!」


「ふん、流石はその身に竜血を巡らせし者。心臓を抉り抜いても死に切れておらんとはな。――であれば、今一度改めて介錯してやろうか」


 そう呟くと、足元にて立ち上がろうとしながら睨み上げていたハンターに対し、アルテラスは右腕の爪を振るって一閃の下、その首を落とした。頭を失ったことにより、必死に踏ん張っていたハンターの身体が力なく床へと倒れ込む。


「ハンターさんッ!」


「ハンター君ッ!」


「お前ええええッ!!」


 パーティの面々が悲鳴をあげる中、ルヴィスが即座に飛び掛かっては、アルテラスへ怒りのままに剣を振り下ろした。だが、アルテラスは動じることなく、むしろ向けられた憎悪を愉しむようにして、ルヴィスからの攻撃を爪で受け止める。


「……ッ! とにかく、ハンター君を回収しないと! 魔導の引力、トラクターフォー――」


 ルヴィスが敵への攻撃を再開後、ジェドもまた急いで頭を切り替え、まずは彼の遺体を回収に掛かった。遺体が無事な状態ならば、この戦いに勝った後でコメットに蘇生してもらえるからだ。


「待って、ジェドさん! ――爆ぜよ大気、エアロバーストッ!」


 ところが、そんな彼女に賢者妹は何かへ気づいた顔をしてすぐ、ほぼ反射的に魔杖を向けては、そこから凝縮された空気の塊を放った。発射された空気の塊は魔法発動直前のジェドにあたった瞬間、破裂しては彼女を勢いよく吹っ飛ばす。


「がはッ……!」


 それによって床を激しく転がったジェドは、それに伴ってなんと左腕の義手がバラバラになってしまい、細かく破損したパーツが辺り一面へ散乱してしまった。同時に、彼女の持っていた魔杖もまた離れた場所へと飛んでいってしまった。


 しかし、それは賢者妹のせいではない。賢者妹が風属性初級魔法エアロバーストでジェドを吹っ飛ばしたその時、別方向からジェドへ飛んできた何かが彼女の義手を破壊してしまったからだ。そしてそれは、元々はジェドの義手ではなく首を狙った必殺の一撃であった。


「げほげほッ……! 一体、何――」


「ほう、よく気づいたな。お陰で奪えたのは、その珍妙なカラクリの腕だけか」


 ジェドがむせつつ起き上がろうとする中、ルヴィスが戦っている方とはまた別方向からアルテラスの声が聴こえてきた。そして実際に、そこにはまたもう一人のアルテラスが神器の爪をひるがえしつつ立っていた。


「嘘っ、何で……? 左腕の爪の方、さっきやっつけたばかりなのに!?」


 再度、二体目のアルテラスの出現に驚きを口にする綾美。ジェドの義手を破壊するという事態が起こった以上、今いる分身もまた単なる幻影ではないということになる。


生憎あいにく、この遺跡は全域が大量の魔素に溢れたマナスポットであるからな。故にマナの塊からった分身など、幾らでもすぐに作り直せるのだよ」


(くっ、無力化すべきは分身側じゃなくて、それに装備させる武器側の方だったって事……!?)


「……ッ! ジェド!」


 もう一人の前衛であるハンターがいなくなっただけでなく、実質的に万事休すな状態へ陥ったジェドを認識し、ルヴィスは彼女の元へ駆けつけようとするが、


「おっと、お主の相手は妾の方だぞ」


 それを阻止するように本体側のアルテラスが回り込み、攻撃を仕掛けながら行く手を阻んだ。ルヴィスは必死にそれを突破しようとするものの、迫りくる猛攻を前に抜けることは叶わない。


「――さて、先ほどはしくじったが二人目の首、今度こそいただかせてもらおうか」


「……ッ!」


 そんな中、分身体のアルテラスは獲物を前にした猛獣の如き目を向けつつ、厭らしく爪を閃かせながら倒れたジェドの方へ近づこうとする。だが、賢者妹から無詠唱の火属性初級魔法ファイアショットを放たれたことで、それを神器で払い除けては足を止めた。


「待ちなさい、島の神! 貴方の相手は私が先です!」


 魔杖に魔力を込めて掲げながら、必死な形相で対峙しようとする賢者妹に対し、


「む? お主の方が先に命を散らしたいと? ――よかろう。順番などすぐに回ってくるが、そんなに我先と望むなら応えてやらんこともない」


 アルテラスは嘲笑うような目つきで見返すと、ジェドから賢者妹の方へ向き直っては、爪による攻撃を仕掛ける体勢を取った。


「ち、ちょっと!?」


「ええ、相手をしてあげますから……掛かって来なさい!」


 息を呑みながらも、目を逸らさず必死に構えている賢者妹に、アルテラスは微塵の躊躇もなく、自身の述べた通りに飛び掛かった。対する賢者妹は向かってくる彼女に、魔杖から魔法を撃ち放つ――


「――崩壊ルインッ!」


 のではなく、あろうことか魔杖そのものを放り投げてしまった。


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