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剣と魔法の異世界に現代兵器を持ちこんでみた話 ~イマジナリ・ガンスミス~  作者: 矢野 キリナガ
第11章:ハーメルーナ島編
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海底遺跡に異世界で進入する話⑤


 その後、半球状の魔導器が設置されていたフロアを抜けた一行は、暫く通路やら階段を進んでいき、それからまた広くなった別のフロアへと足を踏み入れた。そして、


「うっわ、何じゃこりゃ。これまた、変な場所に出たな……」


 ハンターがフロア内に入って第一声で上げた通り、これまで見た事のないような、更に先ほどよりも奇妙な光景がそこに存在していた。


 というのも、広いフロア中に円筒形をしたガラス製の容器らしきものが、所狭しと大量に並べられているのである。人間一人がまるまる入ってしまうくらいの大きさをした謎の物体が見渡す限り設置されており、その異様な空間に一行全員が唖然とさせられた。


「一応聞くけどさ、巫女さんにこれの心当たりはある?」


「だからある訳ないっつーの。むしろ、アタシの方が訊きたいくらいよ」


「これらも魔導器の類でしょうか? 前のフロアにあったものと同じく、稼働しているものはないみたいですが……」


 フロア内に等間隔でぎっしり並ぶ謎の容器のうち、近くにあった一つを観察しながらサフィアが述べる。容器の台座にあたる部分は何やら機械装置のようになっており、計器や配管らしきもの、それから操作盤と思しきもの等が色々と取りつけられていた。


「外観だけでいうと、魔導リアクターとか魔法生物の鋳造器に似てる気がしますね。もし動いている状態なら、まだどんな用途の物なのか判別できたかもですけど……」


 それに続いて、賢者妹もまた興味深そうに構造を調べながらそう口にした。


「……ってか、よく見たら中に液体入ってるヤツがあるね。もしかして水槽とかだったりする?」


 観察を続けつつ、フロア内を全員で纏まって進んでいく途中、容器の一つに目を留めたジェドは、それを差しながらガラス製の表面をコンコンと手の甲で叩いた。


 容器内には水と殆ど変わらない透明度の液体で完全に満たされており、中身が空の場合とは明らかに異なる、特有のくぐもった音がその場に響く。


「うえっ……こっちのは、なんかばっちそうな汚水か廃油みたいのが入ってんな……。まさか中に入れてた何かが腐ってんじゃねえだろうな?」


 するとジェドのいる方とは反対側から、ハンターが気持ち悪がっている様子でそう答える声が聴こえてきた。


 彼の視線の先、そこには赤褐色で一面染まり切った、濁り過ぎてて中が全く見通せない容器が置かれていた。しかもそれは一つだけでなく、幾つもある容器群の中で結構な数が散見される。


「ふむ……中には割れてしまっている容器もあるな。床に何かの液体が零れて乾燥した跡も残っている。一体、何の為の魔導器なんだろうか……」


 また別の箇所ではルヴィスがその場に屈んで、破損した容器とその周りに散らばっている細かいガラス片、それから流れ出た中身の液体と思われる床の染みなどを調べていた。そんな各々の様子を綾美は遠目に眺めたところで、


(なんかコレ……ゲームとか映画でたまに見る、怪しい研究所とかにありそうな機械っぽくないかな……? だいたい、改造された人とかクリーチャーなんかが入れられてたりする……)


 なんてことを内心、連想していた。いわゆる、SF的な培養槽のイメージで、ホラー系のガンシューティングゲームなら容器の中にいた怪物が近づいた瞬間、外へ飛び出してきそうな代物だ。


(そもそも、ここって建物的には“神殿”なんだよね? そういう割にはこの遺跡の奥に進む程、なんだか違うもののような気がしてくるんだけど……。何なんだろう、このすごく奇妙な違和感って……)




 ◇




 その後、結局謎のままだったガラス容器だらけのフロアを抜けて、一行がまた少し進んだところで、


「――あのさあ、ここまで来ての正直な感想言っていい? もしかしたら、機嫌損ねちゃうかもしれないけど」


 ジェドが先頭を歩く半獣の巫女に向けて、列の後ろから声を掛けた。


「何よ、いつものアンタらしく勿体つけてないで言ったら? 怒るかどうかは内容次第だけど」


「んじゃ、遠慮なく。……ここって、島民きみらの神様のいる神殿って話だけどさ、なんかこの辺に関しては魔法関連の研究所とか実験施設みたいに見えるんだよねえ、僕」


「あ、実のところ私もです。何処にあるものも機能停止こそしていますが、見るからに特殊な魔導器だらけですし……」


 ジェドに続いて賢者妹もそのように述べ、加えてその意見には他の者たちも概ね同意といった様子であった。


 現在、一行が歩いている通路は真っ直ぐな廊下の両側に幾つも小部屋の入口が並んでおり、それぞれの室内には見慣れない器具や装置、それから賢者妹の言ったような特殊な魔導器とやらが沢山置かれているのである。


 そんな光景が道中で暫く続いたことで、


(やっぱり皆もそう思ってたんだ……。なんだか、通路の造りが病院とかっぽいなって気がしてたけど、ここの違和感の正体って多分それだよね……)


 綾美ですら、そういった感想を内心抱いていた。


「………………」


 それらの話に対し、半獣の巫女はけして不機嫌そうな様子は見せなかったものの、むしろ何と答えたらいいものか悩んでいるかのように、無言のまま先へと歩き続ける。


「まあ、巫女の姉さんも初めて来たっつーんなら、そんな事アタシに訊かれてもってしかならないわなあ……」


 その反応にハンターは気を遣ってか、同情気味に口を挟んだ。いつもならすぐ言い返されそうなものだが、今回に至っては半獣の巫女からの文句は告げられない。


 そして、またしばらくして、




「「………………………………」」




 一行は再び、空間の広くなったフロアへと立ち入ったのだが、その中の光景に一同の誰もが言葉を失っては、つい呆然と立ち尽くしてしまった。


 新たにやってきたフロア内には、先に来たことがある場所と同じガラス製の容器がとにかく大量に並べられていたのだが――今回、その全てに漏れなく“中身”が入っていた。


 容器内は透明度の高い液体で満たされているだけでなく、底の面から照明によって、中にあるものが仄かに照らし出されている。そうして、その肝心の中身とは、紛れもない“人間”そのものであった。


 男性、女性、大人、子供、とにかく色んな人間が大勢、揃って裸の状態でガラス容器に入れられては、まるで眠っているかのように目を閉じて液体の中にプカプカと浮いている。中には、身体の一部に何らかの器具や管などを取り付けられているものも見られた。


「――なあ」


「知らないわよ。こんなの、知ってる訳ないじゃない」


 ハンターから話しかけられた半獣の巫女は、驚きを通り越して逆に無表情且つ無感情となった声で、目の前の景色を見続けながらそう言い返した。


「いや、まだ何も言ってねえだろうがよ」


「むしろ、知ってた方が驚きだよね」


 ジェドがわざと冗談めかしたように言ったものの、とてもじゃないがそれで緩和できるような雰囲気ではない。


「……なるほど、この容器は人体を丸ごと入れておく為のものだったのか。しかし一体、何の為に……」


「それもですけど兄さん、このフロアの魔導器は全て、これまでのものと違って稼働しています。つまりは動力が生きていますよ」


「――っ! 言われてみれば確かに……!」


 サフィアの指摘に、ルヴィスだけでなくパーティのほぼ全員がハッとさせられる。


 今までの道中は動力の要らない魔光石による通路照明ばかりで、魔導器の残骸らしきものはそのどれもが機能を停止していたのだが、現在、目の前にあるものに関しては明らかに動作し続けているのだ。


「ていうか、ここで瓶詰めになってる連中って生きてたりすんのか? それとも――」


「いえ、このフロア内に私達以外で生者はいないようです。生体感知魔法ライフディテクションで探ってみましたけど、周りから何一つ生命反応を感じられませんでしたから……」


 と、眉間に皺を寄せながら賢者妹がすぐ答えた。つまりは、視界の中いっぱいに映る人間たちはその全員が死んでいるという事である。


(ふむ、しかし単に死体を保管しておく為の場所にも思えないな……。もしや、この容器に入られている者達は、元々生きている状態だったんじゃないのか……?)


 ルヴィスがフロア全体を眺めながらそんな事を推測していると、今まで立ち止まっていた他の仲間達も次第に動き出しては、散り散りに分かれて室内にあるものを各々見て回り出した。


「こちらには人間以外の動物も入れられていますね」


 すると、サフィアが少し離れた区画にあった、人間が入っているものとは大きさも形状もそれぞれ異なるガラス容器群を見つけては、そう口にした。


「犬、猫、鼠……トカゲに蛇、鳥から魚、虫まで……とにかく様々な種類の生物を集めていますね。共通するとしたら、どれも魔物ではない普通の生き物といったところでしょうか……」


(うわあ、まるで標本の動物園って感じ……)


 その不可解過ぎる光景に、綾美はあからさまに引いた顔で気味の悪そうに息を呑む。色んな生き物が一様にガラス瓶へ封入された様子は、それこそホルマリン漬けにされた動物標本のイメージでしかなかった。


「あっ、こっちには妖精種らしきものまで入れられてますよ!」


 直後、別の方向から賢者妹の声が聴こえてきた。


 彼女の見ている先には、ゴブリンやノーム等に近しい、耳や鼻の尖った小人のような個体や、ピクシー等を想わせる薄い翅の生えた個体なんかがガラス容器内に収められている。


「それにしても、かなり保存状態が良いですね。妖精なんて死後、ほっとけば勝手に変異したり消滅してしまうのに……状態をそのままで保つ為の処置が施されてるのかなぁ。……っと、こっちには魔物も色々集められてます! それもすっごい数と種類!」


(うーん、やっぱりこの娘ってたまに研究者気質こういうところ見せるよね……。まあ、魔法使いなんだから当然っていえばそうなんだろうけど……)


 今いる面子の中で最年少ながら、物怖じするどころか興味深そうに近寄って中身をマジマジ観察している賢者妹の姿に、綾美は頭で理解しつつも、内心では少しだけ戸惑いを感じてしまっていた。


「わわっ、ちょっとちょっと! こっちには超マジヤバなのがあるんだけど……!」


 その時、また別の方から今度はジェドが、何やら只ならぬ様子の叫び声を上げては皆に呼びかけた。


「んだよ、超マジヤバって――うげっ!?」


 それに反応してまずハンターが振り向くと、ジェドが差した先を目にした彼は思わず驚きを示した。


 なんとそこには、人間の脳髄と神経のみを綺麗に取り出したものが、容器に入れられた状態で幾つも並べられていた。他にも解剖されて内臓だけにされたもの、それらに各種装置を取りつけたもの等、とにかくグロテスクな光景が一面に広がっている。


「……これはまた、随分と趣味が悪いな」


 そんな悍ましい展示物に対し、ルヴィスは忌々しそうな目つきで眺めながら呟いた。


「うっ……ごめん、なんかキツくなってきた……」


「アヤミ、無理しなくていいですよ。見ていて気持ちの良いものじゃないですから……」


 途端、急に気分の悪くなってきた綾美をサフィアが気遣い、その原因となっているものを視界から遮りながら、彼女に手を貸してその場に座らせる。


「全く、こんなもん見せつけられたら、流石にここは碌な場所じゃないと評価せざるを得ないな。巫女の姉さんにとやかく言ったって仕方ねえだろうが、これを神殿と呼ぶのは幾ら何でも――ん?」


 そのような悪態をつきながらハンターが半獣の巫女の姿を探すと、当の彼女は更に別の場所で何かを見つめながら、ぼうっと佇んでいることに気がついた。彼女の傍にはコメットもまた付き添っていたのだが、


「………………」


 目の前の容器内にあるものを無言でジッと見続けては、それでいて手を強く握って離さない半獣の巫女にコメットはあえて何も言わず、静かに隣で立ってあげていた。


 その彼女がずっと眺めているもの、それは獣の耳と尾が生えた人間、即ち自身と似たような特徴を持った者の入ったガラス容器であった。それも一人ではなく複数、しかも老若男女問わず。


 加えてその周辺には半獣人セリアンスロープだけでなく完全な獣人もおり、更にそれら以外にもエルフやドワーフ、竜人などと、とにかく多種多様な見た目をした“ヒト”が大勢並べられていた。


「こちらは……亜人種の方々が集められているのですか」


 すると、二人の元に他の仲間達もやってきては、その視線の先に置かれた容器内の亜人たちへ、彼等もまた目を向けた。


「これまた沢山、色んな人たちがいるねえ……。こんなに様々な人種やら動物、妖精から魔物に至るまで集めて一体全体、何の為の場所なのやら……」


 情報量が多すぎてお腹いっぱい、とばかりに溜息をつきながら言ったジェドであったが、


「……ん? ちょっと待ってください。ここって、造り的には旧文明時代の建造物ですよね? でも、超古代ではエルフやドワーフみたいな亜人種はいなかったって、前にコメットさんから聞かされたような……」


 そんな最中、賢者妹が急に思い出したようにそう呟きだした。


「よく覚えていましたわね。そして、よく気づきましたね。――私もこれを見て何となくではありますが、ここがどういった場所なのか、思い当たるところが出てきましたわ」


「「えっ……!?」」


 唐突にそう言ったコメットの言葉に、パーティの仲間たち全員が一斉に彼の方を向いた。


「コメット、ここにあるのが何なのか、知ってるっていうの!?」


 彼の手を未だに握ったままである半獣の巫女が、もはや食ってかかる勢いでコメットに問いかける。


「といっても、まだ断定までは出来ませんが……おや?」


 その時、フロアの奥の方から、ポリバケツをひっくり返したような形と大きさをした何かが床から少し浮いた状態で数体、一行のいる方へ向けて近づいてくるのが見えた。


「……ッ! 敵か!?」


 その姿が目に入って即座に、それぞれが剣や杖と自らの得物に手を掛け、反射的に構えたのだが、当の浮遊物体らは一定のゆっくりした動きで寄って来ながらルヴィス達を完全に無視し、その近くに置かれているガラス容器の方へと向かっていってしまった。


 そして容器のすぐ傍まで接近した浮遊物体たちは、そのどれもが内部に格納された細長いアームのようなものを伸ばしては、台座の魔導器を何やら操作したり、アームの先から端子らしきものを装置の接続箇所へ繋げたりなどといった行動を各自取り始める。


「んん……? アイツら、一体何やってんだ?」


「皆さん、警戒せずとも大丈夫です。アレらは魔導器や施設内設備の点検、修理を行う為のゴーレムですわ。私も過去に似たものを目にしたことがありますので、無害なのは保障致します」


 攻撃の必要は無いと告げたコメットの声に、身構えていた各員は武器を降ろすと、一行のことなど全く気にせず自らの作業に専念しているゴーレムらに対して視線を向ける。


「へえ、これって言わば整備専門の傀儡クグツなんだ……。そういや、一部のダンジョンとか魔導師の工房では、設備の修繕を勝手にやってくれる自動人形オートマタを配備してたりするっていうけど……」


「確か、エステラさんも以前、似たような自律ゴーレムを使っていたことがありましたね。アレは主に運搬専用だったようですが、構造的に同じ系統ものに思えます」


「――っと、少し話が途切れましたわね。何にせよ、この施設について答えを出すには、まだちょっと判断材料を得たいところですわ。そしてこの辺りの動力が生きているのであれば、もしかしたら他に情報源となるものがあるかもしれません」



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