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剣と魔法の異世界に現代兵器を持ちこんでみた話 ~イマジナリ・ガンスミス~  作者: 矢野 キリナガ
第11章:ハーメルーナ島編
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島の巫女と異世界で得た絆の話③


 これはルヴィス達がブリンスタン島及びライトリード島での戦いを終え、またハーメルーナ島に戻ってきてから数日後の話。


 半獣の巫女は自分の高祖父である族長らと共に、レヴォン諸島における四つの島の長、その全員を集めて行う“族長会議”を遂に開く為、本格的に動き出した。


 まず各島へと召集の旨を綴った手紙を送り、全ての島からすぐに参加を承諾する返事が届く。会議の開催地は、基本的に主催者の領地となるのが仕来しきたりなので、当然ながら集合場所はハーメルーナ島の族長の住まう屋敷に決定された。


 また、通常なら招かれた他の島の族長らは、自分達の所有する船で開催地に赴く。だが、今は可能な限りの時間短縮及び海の安全が完全に保障しきれていないという理由から、ルヴィス達が機竜ヴィーヴルを用いて関係者たちを送迎する事となった。そして実際にその移動が行われ、各島から族長と巫覡、他に世話役の従者が二名の計四人ずつが連れて来られた。


 そういった準備が一頻ひとしきり済んでから、ようやく族長会議を明日に控えたその日の夜――




「――さて。カップの中のコインは今、どんな状態だ?」


「裏! ……ああいや、表だ! 表!」


 綾美やルヴィス達がハーメルーナ島で寝泊まりしている借家にて、今日も半獣の巫女と彼女の弟分である人狼の導師が訪れており、その面子の中でルヴィス、ジェド、ハンター、そして人狼の導師の四人は騒がしくボードゲームに興じていた。


 しかし、人狼の導師がハンターとの同点優勝だったことに納得がいかないとごねた事で、ハンターがコインを机の上で回しては、その上から木製のカップを被せて中の様子を当てる、というシンプルな即興のゲームを提案。人狼の導師がそれに乗り、只今挑戦している真っ最中である。


「表ね。その答えに決定でいいんだな?」


「ああ、焦らさないで早く開けやがれ」


「ようし。じゃあ、コインが果たしてどうなっているか、ご覧に――」


 その時、同じ宅のボードゲームに参加していたルヴィスの爪先がテーブルの脚に当たり、ガタンと音を立ててテーブルが揺れた。


「ちょっ!? おいルヴィス! 何しやがる!」


「ああ、すまない。ちょっと飲み物を取りに行こうとしたら、足が引っかかってしまった」


 やけに大声を出して怒鳴ったハンターに、ルヴィスはわざとらしいくらい白々しい様子で返す。また、その向かいの席にいたジェドも、


「てか、ハンター君。たかが少しテーブルが揺れただけで何をそんなに慌ててるのさ。カップの中のコインが跳ねる程、強い衝撃でも無かったでしょ?」


 と、これまた白々しく答えた。


「チッ、お前ら……」


「つーか、いいからさっさとカップ開けて見せろよ。それとも、何か変なもんでも仕込んでんじゃないだろうな?」


「……いいぜ、開けてやんよ」


 ジロッとした目で訝しんできた人狼の導師からの視線に、ハンターは観念して腹を括ったように勢いよくカップを持ち上げる。


 すると、中のコインは女性の顔が描かれた面が上を向いていた。つまりはコインが表の面であることを示していた。


「よし、表だ! この勝負、オレの勝利だぜ!」


「おめでとさーん!」


 ガッツポーズをしながら叫ぶ人狼の導師に、ジェドが横からパチパチと拍手を送る。それを横目に、ハンターは恨めしそうな声でルヴィスへと話しかけた。


「――おい、ルヴィス。いくら自分がビリだったからって、嫌がらせしてくんじゃねえよ」


「はて、嫌がらせとは何のことかな? 俺には貴方が何を言っているのか、さっぱり判らないが」


「ていうか、ハンター君さ。いくら勝ちたいからって、ちょっとばかしセコすぎるんじゃないのー? 君の特技自体は地味にスゴイけどさぁー」


「おいおい、ジェドまで余計な事を……」


「ん? 何の話だ? まさかお前、本当に変な真似してたんじゃないだろうな!?」


 嬉しそうな様子から一変して再び勘ぐってきた人狼の導師に、ジェドは苦笑いを浮かべながらネタ晴らしをする。


「あー、実はねえ、ハンター君は回したコインをその場で倒さず垂直に立たせることが出来るんだ。だからルヴィスが机を揺らさなかったら、コインは表でも裏でもなかったんだよ」


「はあ!? 何だそれ! コス過ぎるにも程があんだろ、オッサン!」


「ああもう、ただの他愛ない茶目っ気じゃねえか。そうマジになってカリカリ怒んなよ、ワンちゃん」


「って、認めやがったな! あと度々、そのワンちゃんって呼ぶの止めろ!」


「お前だって人のこと、オッサン呼ばわりしてくんじゃねえか! 言っとくが、まだ俺ちゃんはそんな歳じゃねえぞ!」


「ああん、逆ギレかよ!? つーか、三十過ぎたらもう十分、オッサンだオッサン!」


「はいはい、ワンちゃんもオッサンも喧嘩して喚かなーい。二人共、仲良くしようねー」


「だからワンちゃん言うな!」


「だからオッサン言うな!」


 二人が同時に大声を出し、そんなこんなの騒ぎを生温かい目で眺めていたルヴィスの隣に綾美がこそっと話しかけてきた。


「はい、ルヴィスさん飲み物。ていうか、ハンターさんって、そんな隠し芸みたいな特技持ってたんだね……」


「ああ、ありがとうアヤミさん。いやね、前に俺とジェドも彼と賭けをした時に仕掛けられたことがあってさ。そもそもコインが表か裏か、じゃなくどんな状態か、と訊いた時点で怪しいとは思ってたんだが……」


 そう言って受け取った飲み物を一口呷った後、ルヴィスはハンターに声を掛ける。


「ほら、ハンター。アヤミさんにも貴方自慢の特技とやらを見せてあげたらどうだ?」


「チッ、調子に乗りやがって……」


 ハンターは渋々コインを手に取ると、それを指でパチンと弾いてはテーブルの上で回転させた。コインは綺麗に垂直な姿勢を保ったまま数秒ほど回転し続けた後、どちらかに倒れることなく、そのままの立った状態でピタリと制止する。


「うわっ、すごい! 本当にコインが倒れずに立ってる……! ハンターさんってば、すごく器用なんだね……」


「だろー? 俺ちゃんってば、スゴイだろぉ? レフィリアの姉さん」


 綾美に褒められたことで、ニヤッと自慢げな顔を浮かべるハンターであったが、


「確かに見世物としては悪くないですけど、それを悪用するのは如何なものかと」


 綾美の後ろからやってきたサフィアに肩を竦めながら感想を述べられた。


「だよなあ、サフィア。どうかしてるよな。因みに俺は初見で見破ったけどな」


「えっ、ホントに!? ルヴィスさんもすごっ!」


「流石は兄さん、そういう手合いには騙されませんね」


「コイツ、自分の株を上げるダシに人を利用しやがったな……」


「つーかよ、結局はオレを陥れようとしてたって訳だろ? 舐めやがって、その姑息な手品が得意な指を全部噛み千切ってやろうか? オレも顎の力だったら自信があるぜ?」


 邪で攻撃的な笑みと共に白い歯を見せた人狼の導師へ、ハンターは慌てて片手をヒラヒラと振る。


「いやいや、そいつは勘弁してくれ。お前さんにやられると洒落にならん。びにそのコイン、くれてやるからよ」


「はあ? ふざけるなよ、こんなもん一枚貰ったところで――」


「あのな、そいつはただのコインじゃない。俺ちゃんが昔、遺跡から見つけたれっきとした宝物だぞ? オマケにちょこっとだが幸運値ラックの上がる護符としての効果もあるんだぜ?」


 ハンターの言葉に人狼の導師は疑うような目を数秒向けた後、テーブルの上に未だ立ったままな一枚のコインを摘み取った。


「……いいだろう。オレの勝利とアンタがセコイ事して敗けた証に貰っといてやるよ」


「あっ、貰っちゃうんだ……」


「よし、受け取ったんなら、もうこの話を後で擦るのは無しだぜ」


 清々したように言ったところで、ハンターはふと何かを思い出したような顔を浮かべた。


「っと、そういやこんな時、真っ先に口喧しく割って入ってきそうなのがいないじゃねえか。やけに静かな気はしてたけどよ」


「あー、姉ちゃんのことか? そういえば姿が見えないけど、一体何処に行ったんだ?」


 キョロキョロと借家の室内を見回す二人に、サフィアが答える。


「ああ、彼女ならコメットを連れて少し前、外に出ていきましたよ? 族長会議の前日ということもあって、ちょっと島の周辺を巡回警備みまわりしてくるとか」


「そうか、流石は姉ちゃん。今夜は各島の要人おえらいさんも集まってるし、巫女としての務めをしっかり果たしているんだな」


「巫女としての務めって、その名目で夜の散歩出かけただけだろ。しかもコメットだけ連れてって、殆どデートみたいなもんじゃねえか」


「ちょっとハンター君、言い方……」


「はっ、何がデートだ。ふざけたこと抜かすのも大概にしろよ」


 馬鹿馬鹿しいと一蹴した人狼の導師であったが、ハンターは食い下がることなく話を続ける。


「でもあの姉さん、コメットに結婚して責任取れって前に言ってたじゃねえか。しかも傍から見て判るくらい、日頃から何かとベッタリだしよ」


「あのなあ、そもそも姉ちゃんには昔から許嫁いいなずけが決まってんだよ。この島の巫女として次代を産み育て上げる役目もあるんだからさ。いくら仲良くなったからって、他所から来た人間種ヒューマンなんかとマジで結婚したりはしないっての」


「へー、そうだったんだ。因みにさ、その許嫁ってどんな人? 当然、この島の人なんだろうけど、君も知ってはいるんでしょ?」


「勿論。知ってるも何も、その許嫁ってオレのことだからな」


「「……へ?」」


 その回答に部屋の中が一瞬だけ、しんと静まり返った。


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