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剣と魔法の異世界に現代兵器を持ちこんでみた話 ~イマジナリ・ガンスミス~  作者: 矢野 キリナガ
第11章:ハーメルーナ島編
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狂う聖獣と異世界の森の謎の話④


 少しして、カリストロス以外の三人が湖のある場所までやって来る。その湖は底がよく視えるくらい澄んだ水を湛えており、とても綺麗であったのだが――女呪術師が示した地点に近づくと、水の中に何やら黒くて汚らしいゲル状の物体が散見された。それは、先程ロードランボスの撃破直後に見かけた謎の液体によく似ていた。


「うわ、何これ……。湖になんか変なのが浮いてるんだけど……」


「ただの泥や油の塊なんかじゃなさそうだな。しかし、見るからに汚らわしい毒物といった感じだ。……もしや、ランボスの群れの凶暴化はこの黒い物質が原因か?」


「うーん、その線はあるかもしれないわね。そもそもランボスは本来すごく温厚な生き物だから、先に攻撃されない限り人を襲ったりなんてしないし……。この気持ち悪い何かを摂取したことで、スカーシス病かそれに似た症状を患ってしまったのかも」


 湖畔の状態を確認しながら三人が歩いていると、目指していた大きな木を超えた所にて、先に進んでいったカリストロスがぼうっと背中を向けて立っていた。ちょうど茂みの陰になって三人からはよく判らないものの、彼はその奥にある何かを真剣な顔でジッと見続けている。


「あっ、カリスト。何か見つけたの――って……!?」


 カリストロスのすぐ後ろまで辿り着いたところで、女騎兵もこれまた驚きの表情を浮かべる。


 彼の視線の先の地面、そこには明らかに人工物である、地下へ続く通路の入口が存在した。その中はスロープ状になっていて2メートル程度の幅があり、奥の方は真っ暗でその先の様子は伺い知れない。


「ちょっ、これって……もしかして、ダンジョンの入口か何か!? でも元から開いてたってよりは、ここ最近開けられたような感じだけど……」


「………………」


 女騎兵はこの世界の冒険者ならまず大抵、誰もがするであろう反応を示したのだが、カリストロスからすれば、この穴が地下迷宮そんなものの入口でないことは既に判りきっていた。というのも、これと見た目が全く同じものを過去に目撃した、というか実際に中へ入った事があるからである。


(おいおい、これってどう見ても前にロズェリエと入った地下空間と同じヤツじゃないか……? あと、その辺にこびりついてる黒い液体も、どうやらこの入口らへんから染み出てきているようだし……)


 そう内心で考えていたカリストロスの視界にもまた、地下への入口周辺にグリスの如くあちこち付着している黒液が映っていた。量自体は然程多くないので、気を付けていれば踏みはしないだろうが、もし誤って触れてしまえばどうなるかは判ったものじゃない。


「……カリスト?」


 すると、すぐ傍まで寄って来ては心配そうに覗き込んできた女騎兵に、カリストロスは今になって気づいたように目を向けた。


 それから深呼吸するように長い溜息をついた後、改めて地下への通路奥の闇に視線を戻しては、そのまま女騎兵に話しかける。


「……一つ、忠告しといてやる。その辺にへばりついてる黒いドロドロしたヤツ、絶対に触るんじゃないぞ」


「え? ええ……」


 唐突にカリストロスから深刻そうな顔で告げられ、女騎兵は思わず戸惑いながらも返事をした。


 彼の注意したものが危険な代物であることくらい何となく判ってはいるものの、カリストロスから念を押して言われたことにどうにも意味深さを感じてしまう。


「アンタ、まさかこの黒い液体が何なのか知っているのか?」


 その後、後ろから男魔剣士が怪訝そうな顔で問いかける。だが、それにカリストロスは答えたりなどせず、無言のまま歩き出しては、地下に続く通路の向こうへと進んでいってしまった。


「あっ、待ておい! ……くそっ、無視しやがって」


「行っちゃったわね……。ひとまず、私はカリストの後を追うけれど、二人はここに残っていた方がいいわ。特にそっちは呪眼を使ってすぐだから、無理しない方がいいと思うし」


 そう告げて、自分もまた地下へ向かおうとした女騎兵に、女呪術師は慌てて声を上げた。


「いえ、私も行きます。体調はもう大丈夫ですので、どうか気になさらないでください」


「おい、本当に問題ないのか? 彼女の言う通り、気分が少しでも悪いなら無理する必要はないぞ」


「はい、本当に大丈夫です。というか、むしろ行かなきゃいけないと思ってます。……ですのでどうか、私も同行させてください」


 頼み込むよう、半ば必死についていきたがっている女呪術師の様子に、女騎兵は彼女の顔をジッと見据えて――まだ幾らかキツイのを頑張って押し隠しているようにも思えたが――その上で、はっきりと頷きを返した。


「――分かった。じゃあ皆で気を付けていきましょう。だけど、もししんどくなってきたら、我慢せずすぐに言ってね」


「お気遣いありがとうございます。では、カリストさんとあまり離れないように先へ行きましょうか」


「……全く、あんな勝手な奴は放置しても構いはしないが……さりとて、この地下への入口は正直俺も気になる。中は暗いし、何が待ってるかも判らんからな。用心して進むぞ」




 ◇




 また暫くして。一人足早に、一切光源の無い地下へ続く通路を灯りも持たず、ツカツカ歩いていったカリストロスは、やがて突き当りになっているフロアまで辿り着くと足を止めて、その中をじいっと眺めていた。


(……ここまでの構造。以前入ったのと似ているどころか、全く同じ造りだったな。違うところを上げるとすれば、今回はメカカマキリが一体もいないってのと、代わりにあの黒いヘドロの塊が落ちてるといった点か……)


 地上から今いる地点までの道中を思い返しながら、カリストロスは周辺をつぶさに見回す。彼の立つフロアは、過去にロズェリエと侵入したドナド大湿原の地下空間同様に駐車場のような光景となっていたのだが、そこには以前と違ってメカカマキリことメタビーストの姿は全く見受けられなかった。


 それどころか、他に別の何かが潜んでいるような気配も一切感じない。あるとすれば、先に彼が内心述べたように、黒くて汚らしい粘液が所々付着しているというだけ。それに触れないよう気をつけてさえいれば、この場に危険な要素はこれといって存在していない。


 そうしてそのままぼうっと突っ立っていると、後ろの方から三人分の足音と、それに伴って暗闇を照らす光が近づいてきたことに、カリストロスはチラリとだけ背後に視線を向けた。


「あっ、カリストいた……。やっと追いついたわね。もしかして、ここから先はもう行き止まり?」


 発光魔法メイジライトを照明にここまでやってきた女騎兵が、合流したカリストロスへ声を掛ける。そんな彼女のすぐ後ろには、男魔剣士と女呪術師もついてきていた。


「それにしても貴方、こんな真っ暗の中をよく灯り無しで進めたわよね。もはや、眼が良いとかいうレベルじゃないと思うんだけど」


「魔力による視力強化も限度ってものがあるしな。……さてはアンタ、人間じゃなくて地底人か何かか? それとも単なる変態か?」


 呆れ気味にそう言ってきた男魔剣士の言葉に、カリストロスは思わずムッとしては、詰まらなそうな反応を返す。


「誰が変態だ、誰が。人のことをモグラみたいに言いやがって」


「はいはい、軽口の言い合いはそこまで。――ところでここ、ダンジョンっていうよりは、まるで倉庫みたいな感じよね。特に何かが保管されてる訳じゃないけど、あそこに見えるのってなんか魔導器っぽいし。あと、今も稼働してるみたいだし」


 そう言いながら、女騎兵は一同のいる場所の少し先にある貯水タンクのような見た目の物体を指した。それはカリストロスも前に見たことがあるもので、確かロズェリエによれば、この周辺一帯から吸い上げた土地の魔力を今いる地下空間に収納されていたであろう、メカカマキリ共に供給する為の設備だとかいった筈である。


 しかしそれの表面にもまた全体的に例の黒いヘドロがべっとりとこびりついていて、とてもじゃないが傍まで寄って調べてみる気にはならなかった。どの道、魔導器について詳しくないカリストロスがどうにか出来る代物ではない。


「……おい。アンタ、さてはこの場所について何か知ってるんじゃないだろうな? 普通に考えたら、このような謎の地下空間へ灯りもつけずに、迷いなく入り込んでいったりはしないぞ?」


 すると、訝しむように尋ねてきた男魔剣士に対し、カリストロスはめんどくさそうに溜息をつきながら視線を逸らす。


「……さあてね」


「あのな、一応パーティとして行動している以上は最低限の情報共有くらい――」


(そういえば、魔導器アレをロズェリエに調べさせてる時、俺がたまたま発見した隠し部屋でコイツを手に入れたんだったか……)


 クドクドと続く男魔剣士からの小言に一切耳を貸すことなく、カリストロスは視界の先の魔導器を目にしてふと、首から下げていた晦ましの青眼石ナザールを手に取って眺める。


 彼の思いだしたように、未だ自身の命を繋ぐのに役立ってくれているその古代のアイテムは、元はカリストロスが偶然見つけた部屋の中にあった大昔の死体と共に放置されていたものだった。


(……待てよ? てことは、あそこと今いるここが全く同じ構造ってんなら、もしかしてこの場所にも……)


 途端、急に何かへ思い至った顔をしたカリストロスは、魔導器のあるところまで歩いていくと、それからその近くの壁をペタペタと触り始めた。


「アンタ、聞いてるのか――って、何をしている?」


(確か、この辺りだったような気がするが……)


「おい! 一体、何をしているのかと訊いている!」


 自分の話を悉く無視されたばかりか、よく判らない行動を取り始めたカリストロスに怒鳴り声を上げる男魔剣士。


「は? 別に何だっていいだろうが。俺が何をしようと」


「いい訳ないだろうが! アンタ、やはり何か知っているな――」


 その時、カリストロスが触れた壁の一部が突然、シャッターのように勢いよくスライドしだした。


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