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待ち受ける異世界の襲撃者の話③

「えっ! ちょっ――?!!」


 それはなんと、一台の“戦車”であった。


 けたたましく地を削りながら駆ける走行音と猛烈な土煙を上げて時速70キロ超えで爆走し、44トンもある超重量の塊が二人に襲い掛かる。


 しかもその戦車は、日本の陸上自衛隊が運用する主力戦車である10式戦車であった。


「う、動けない……!」


 レフィリアはすぐに避けようとするが、身体中に巻き付いている茨の拘束が思った以上に頑丈で身動きが取れない。


 それだけ目の前の少女はレフィリアを絶対に逃さないと、自分も巻き込まれてしまうのにも関わらず全力で魔力を薔薇の杖に込めている。


 ――因みに戦車というものは、戦地や被災地で道を塞ぐ車両などを突破できるように設計されている。


 加速した状態で突っ込めば、普通自動車程度なら紙袋を押し潰すかのような勢いで軽く一発でペシャンコにしてしまえるほどの馬力があるのだ。


 そんな威力のものがただの人間ではないとはいえ、真っ向から少女二人に容赦なく迫りくる。


 そして、巨大なチェンソーやグラインダーを彷彿とさせる大きなキャタピラが遂にレフィリアへと覆い被さった。


「あ”あああああッ!!!!!!」


「レフィリアーーーッ!」


 ルヴィスが慌てて叫ぶも間に合わない。


 結果としてロズェリエは偶然にも車体の真ん中に入り込みダメージは比較的少なく済んだが、レフィリアは思いっきり全身から履帯に巻き込まれてしまった。


 轟音とともに一瞬で通り過ぎ去った10式戦車は一度旋回すると、また二人の方へ向き直ってきれいに制止する。


 本来であれば戦車に轢かれた人間など説明の必要もないくらい原型を留めずぐちゃぐちゃになってしまうのだが、レフィリアは地に伏せながらも何とか人の形を保っていた。


 ロズェリエは身体から剣が抜け、装備品ペンダントの影響もあってかギリギリのところで爆散せずに済んだが、気を失って倒れてしまったことでレフィリアへの拘束が解ける。


 身体に絡みついていた茨が無くなったことで、レフィリアはよろめきながらも無理をして立ち上がった。


 全身に耐えがたい激痛が走り、特に右腕は完全に感覚を失って力が入らず、ダラリと垂れ下がっている。


 どうやら骨折しているようで、剣を握ることすら出来ない。


「っ……げほっ……痛ッぅ……!」


 レフィリアが何とか意識を保ちつつ自身の状態を確認していると、戦車のハッチが開いて、中から以前見たことのある青年が颯爽と姿を現した。


「――やあ、聖騎士レフィリア。お久しぶりですね」


 それは紺色の軍服に長い黒髪の男、鐡火のカリストロスであった。


「あなたとの再会をずっと心待ちにしていました。……それにしても戦車に轢かれたのに生きているとは、相変わらず人類とは思えない頑丈さですねえ」


 しかし服をズタボロの泥まみれにして全身から血を流し、苦悶の表情を浮かべているレフィリアを見下ろすことが出来て、カリストロスは絶頂でもしてしまいそうなくらい上機嫌になる。


「カリストロス……!」


「ですがまあ、このくらいで死なないのは予想通りです。これからあの時受けた屈辱を倍にして返してあげましょう」


 戦車の上に乗りながらカリストロスが指を鳴らすと、武装した黒衣の猟犬兵たちがぞろぞろと現れ、銃剣バイヨネットやハチェット、ウォーハンマーなどを持ってレフィリアへ群がって来る。


「くっ……このっ!」


 だがそれでもレフィリアは左手で光剣を握ると、即座に攻撃をかわして十数人の猟犬兵を瞬く間に返り討ちにしてしまった。


 満身創痍であることには変わりないが、それでもまだ雑兵相手なら十分に戦うことは出来る。


「レフィリアさん! 今、援護しますから!」


 賢者妹は傷ついたレフィリアを見て、いてもたってもいられず魔法で支援しようとするが、咄嗟にルヴィスから制止を受けた。


「待て! 今、それは拙い!」


「何でですか?!」


「連中相手に戦うにはまずやることがある。――サフィア!」


 ルヴィスたちがいる所へもアサルトライフルを手にした猟犬兵が接近してこようとする中、サフィアは既に急いで詠唱を行っていた。


「そそり立て、堅牢たる自然の防壁――クラフトウォール!」


 サフィアが呪文を唱えると、三人を覆う形で大きな分厚い土壁が出現した。


 その直後、雨のように9㎜弾が連射されて防壁の表面を細かく削る。


「ひゃっ?!」


「アイツらの攻撃に魔法障壁や結界は意味をなさない。せめてなるべく物理的な手段で防ぐ必要がある」


「なるほど。でしたら、こんなのはどうでしょうか!」


 そう言うと賢者妹は杖を握り締め、魔法詠唱を開始した。


「進軍阻む邀撃機構――インターセプター!」


 すると土壁の表面に鋭く尖った小石が大量に浮き出てきて、それらは一斉に高速で射出されると、散弾のように猟犬兵へと襲い掛かった。


「ガッ……!」


 予想外の攻撃に前列にいた数人の猟犬兵がダメージを受け、他の兵士たちも警戒して一旦距離を取る。


 その様子を傍目に観ていたカリストロスは、まるで児戯でも目にしたかのように嘲笑った。。


「はっ、小癪な異世界原住民むしけら風情が。いいでしょう、今の私は気分が良いので一つサービスをしてあげます」


 戦車の上に乗った状態でカリストロスが足元を小突くと、砲塔が回転して即座にルヴィスたちがいる方向を向く。


「――やれ」


 10式戦車の主砲、44口径120㎜滑腔法から砲弾初速1670m/sで徹甲弾が発射された。


 2キロ先の目標にも600㎜ほどの走行貫徹力を発揮するAPSFDS、そんなものとてもじゃないが人間が生身で防げる筈がない。


「させないッ――!!」


 しかしレフィリアは咄嗟に反応してから跳躍すると、飛翔する徹甲弾を空中で斬りつけて仲間へ届く前に破壊した。


 切断した際に生じた金属片を浴びながらもそれによってダメージを受けることはなく、レフィリアはそのまま落下して地面へと着地する。


 ところが――


「ああ、雑魚を狙えばそっちの方へ行ってくれると思いましたよ」


 レフィリアが降り立ったと同時に、足をつけた地面が大爆発を起こした。


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