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待ち受ける異世界の襲撃者の話②

 ――魔王令嬢ロズェリエが指定した、空に浮かぶ光が示す地点。


 そこは岩山が切り開かれて造られた、採石場のような場所であった。


 目的地に辿り着いたレフィリアたちは、とにかくだだっ広いその場所の中央に一人の少女が立っているのを確認する。


 それは紛れもなく、街に入ってすぐ目にした黒髪に白い軍服の女、ロズェリエであった。


「ようこそ、おいで下さいました。約束通り、聖騎士レフィリアとその従者おまけたちだけで来てくださいましたね」


「オマケで悪かったな」


 ロズェリエの煽りにルヴィスはつい悪態をついてしまうが、彼女の視線はどうもレフィリアだけを見ているように思える。


 まるで他の人間達は気にするに値しないとでも言うかのように。


 すると賢者妹は目の前の景色を訝しむように睨みつけつつ、レフィリアへと声をかけた。


「レフィリアさん、早速罠の気配というか……あのロズェリエとかいうのの、後ろの景色全体に“認識阻害の魔法と幻術”がかかっています。何もないように見えますが、何か背後に沢山隠していますよ」


「おや、これは感心ですね。人間にしてはなかなか優秀な術者さんです」


 賢者妹に魔法の存在を看破され、ロズェリエは余裕そうに笑顔を向けながら初めてレフィリア以外の人間を意識する。


「まあ、これから見せるつもりでしたので別にバレてしまっても構わないのですけれど」


 そう言うとロズェリエは手元に、槍のように鋭い突起と薔薇の飾りがついた豪奢な魔杖をどこからともなく出現させる。


 そして同時に、彼女の周囲にかかっていた幻術を解除し、何も無かった筈の空間に大量の構造物が姿を現した。


「なっ、これは……ッ?!!」


 それは、大きな“檻”であった。


 その中には一つ一つに百人近い人間やドワーフたちが満員電車のようにギッシリと閉じ込められており、そんな檻が十数個と乱雑にロズェリエの背後に並べられている。


 今まで認識阻害の魔法により目に映る景色だけでなく、音声から振動、匂いにいたるまで完全にシャットアウトされていたが、それが解かれた今、ずらりと立ち並ぶ檻からは人々の助けを求めざわめく悲痛な声が一斉に聞こえてきた。


 そんな人々の嘆きをバックに、ロズェリエは自信たっぷりな表情で大仰にレフィリアへ語りかける。


「さて、聖騎士レフィリア。貴方をここへお呼び立てしたのは他でもありません。ワタクシは貴方との一騎打ちを所望します」


「何ですって……?」


 ロズェリエの提案にレフィリアは眉を顰める。


「……一つ質問です。私たちが一騎打ちをするのに、後ろの方々は必要なのですか?」


「彼らですか? ――ええ、必要ですよ。ただ人間どもを鏖殺するのも芸がないので、人類の希望が目の前で打ち倒される瞬間の絶望を味わわせてあげようと思いまして」


「悪趣味ですね。ていうかそれ、どう見たって人質でしょう。魔王の令嬢とは随分と狡いのですね」


「いえいえ、あくまで観客ですよ。それだとワタクシがまるでみっともない保険をかけているみたいではありませんか」


 レフィリアがロズェリエと言い合いを繰り広げている傍で賢者妹は注意深く眼前の敵である女を観察しており、そこであることに気づいてロズェリエを指差し声を上げた。


「レフィリアさん! あの女が身に着けているペンダント、装備型の小型魔力炉にして“蘇生アイテム”ですよ! 賢者の石と同じ代物で、身に着けている者の魔力をバックアップする上に、一度だけなら絶命しても即座に自動回復させます」


 あまりに全てを一度に説明されてしまったので、流石のロズェリエも表情が少し冷たくなる。


「……よくそこまで判りますね。もしかして魔法や魔道具の効果が一目で判る先天的な能力でも持っているのでしょうか」


 ロズェリエは手に持った、槍のような薔薇の魔杖を構えると、全身に魔力を滾らせて半歩前に歩み出した。


「それでは、あまり長々と喋っているのもアレなので、そろそろ始めましょうか。貴方の無様な死に様を以て、哀れな人類に最高の絶望を見せつけてさしあげます」


「――そうですか」


 レフィリアが感情のない声で一言呟いた途端、ロズェリエの視界から一瞬でレフィリアの姿がかき消える。


「――ッ?!」


 そして反応する間もなく、背後からぐさりと光剣によって身体の中央を刺し貫かれてしまった。


 空間転移からの容赦ない不意打ちである。


「がはっ……!」


「すみませんね。自分でも汚いやり口だと解ってはいるのですが、人質をとって余裕かましてる相手にかける情けはありません」


 相手を再生させないために、レフィリアは斬りつけるのではなくわざわざ“刺して”攻撃した。


 相手が可愛らしい少女の見た目をしていようと、この際関係はない。


 反撃すら許さぬよう手早く仕留めなければ、人質たちに何をしでかすか分かったものじゃないからである。


 だが、ロズェリエは口から血を流しながらも薄笑いを浮かべると、藻掻いたり逃げたりすることもなく魔杖を握る手に力を込めて、杖から大量の茨の蔓を出現させた。


「……ッ?!」


 茨の蔓は瞬く間にロズェリエの背後にいるレフィリアを逃さんと全身に巻き付いて、彼女を拘束する。


「――今です!!」


 ロズェリエが精一杯の声量で叫んだ瞬間、採石場の建物に偽装されていた幻術と認識阻害の魔法が解除され、そこから何か巨大なものがレフィリアとロズェリエに向かって真っすぐ突っ込んできた。

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