アイドルは異世界の女悪魔の話⑦
「ぐうっ……!」
アックスを打ちつけられた衝撃でレフィリアは吹っ飛ばされる形で鍔迫り合いから抜け出し、地面をごろごろと転がる。
若旦那の攻撃は普通なら人間どころか魔族の兵士でさえも鎧ごと胴を叩き斬る威力があるが、幸いレフィリアにはほんのかすり傷程度のダメージにしかならなかった。
味方から本気の攻撃と殺意を受けたことによる精神的な衝撃はけして少なくなかったが。
「ふーん、レフィリアちゃんって種族的には人間だけど、私たちと同じで“頑丈”なんだねぇ。きっと私らと同じ規格じゃないと、殺しきれないんだろうなあ」
「くっ……!」
レフィリアは隙を見せないようすぐに身を起こし、光剣を握って立ち上がる。
すると今度は彼女の頭上に、数十本の光の槍が出現した。
「悪しき罪心穿つ光の聖杭――シャイニングパイル!」
賢者妹の詠唱とともにその槍は雨の如く一斉に降り注ぎ、レフィリアを串刺しにしようとする。
それらを避けきったレフィリアの移動地点に、またもやルヴィスとサフィアが息の合ったコンビネーションで彼女を挟み撃ちにしてきた。
「レフィリア、すまないが仕留めさせてもらう!」
「ごめんなさい、レフィリアさん!」
レフィリアは二人からの攻撃を受け止めつつ、身体に剣の刀身が当たらないよう配慮しながら、二人を勢いよく跳ね飛ばす。
二人はともに実力者なので傷つけないよう攻撃する加減が難しく、それもタッグで来るものだから非常に神経を使う。
レフィリアは一旦距離を取って態勢を立て直そうと後ろへ大きく飛び退いた。
「おっとレフィリアちゃん。あんまり遠くへ行かない方がいいんじゃないかなぁー?」
わざとらしいくらい意地悪く声をかけるエリジェーヌは大仰に得物の鎌を振り上げる。
その刃の先には、賢者妹の首があった。
(ちょっ、それはダメッ……!)
レフィリアは慌てて向き直り、エリジェーヌへ向かって走り出す。
しかし今の位置からでは、どれだけ急いでもエリジェーヌの鎌の方が早い。
ならば――
「させないッ――!」
途端、レフィリアの姿が一瞬でかき消える。
前回のエリジェーヌ戦で見せた、空間跳躍からの斬撃。
レフィリアはエリジェーヌの死角となる斜め後ろから出現して、思いっきり斬りかかる。
しかしエリジェーヌはまるで初めから判っていたかのように振り向きつつ、易々と大鎌でレフィリアの不意打ちを受け止めた。
「なっ……?!」
「そう来ると思ったよ。でも私、“眼”も“勘”も良いからさぁ、一回視た戦法なんて対処できちゃうんだよねェ!」
そう言うとエリジェーヌはスタイルの良い脚で派手にレフィリアの胴を蹴り上げた。
レフィリアは後ろへ真っ直ぐ吹っ飛ばされつつ、何とか態勢を立て直して踏みとどまる。
しかしそこに、またもやクリストル兄妹の連携攻撃が飛び込んできた。
「動き回るな、レフィリア!」
「レフィリアさん! なるべく楽に終わらせますから逃げないで!」
「ああもうっ、そうは行かないでしょ!」
レフィリアは何とか攻撃を受け止めつつ、二人を引き離すために光剣の出力をわざと落とし、その状態からの殴打と斬撃でルヴィスとサフィアを大きく突き飛ばす。
二人が離れてからエリジェーヌの方へ向き直ると、先ほどまでいた筈の場所に彼女の姿は無くなってしまっていた。
(嘘、どこ行ったのッ――?!)
咄嗟に頭上を見上げる。
すると闇の神殿内の高い天井ギリギリを、エリジェーヌはいつの間にか翼を広げた状態で滞空し、レフィリアを見下ろしていた。
「それじゃあ、ここでいっちょ“大技”イッてみようか!」
エリジェーヌは鎌を構えると、その刃に赤黒い魔力の波動を纏わせる。
そして自身の周囲にも影のような黒い魔力を乱気流のように発生させると、レフィリアにも捉えられないほど超高速で上空から真っ直ぐ降下突撃してきた。
「ハートレス・デスサイズッ――!!」
激しいソニックブームを伴って突っ込んできたエリジェーヌの強烈な斬撃は、レフィリアへ当たると同時に、ステージの床に地割れのような大きな切断面を作り上げた。




