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男の正体と異世界で挑む者の話①

「――――――え……?」


 デモンニグルでの戦いにおいて、形勢逆転しかけた局面に突如現れたスレイアによる、正体不明な能力での強制退去を受けてしまったレフィリアたち。


 自分たちを魔王や六魔将らときれいに分断した赤い壁が眩く光ったかと思うと、次の彼女らの視界には今まで戦闘を繰り広げていた闘技場とも、または謁見の間とも異なる――それでいて、数日前に全員が見た覚えのある景色が広がっていた。


「あれ、ここって……?」


 大半を積雪によって覆われた、路面も建物も空も見渡す限りがとにかく白と灰色の無機質で静かな街並み。


 そして今では須らく凍り付いてしまった、無惨な有様で其処彼処そこかしこに散らばっている大量の獣人たちの死骸。


 そこは紛れもなくロスタリシアの首都であった白銀皇都モースカヴァ、それもレフィリアたちが宿泊しては夜襲を受けた宿屋傍の街の広場であった。


「なッ……?! 一体、何が起きたってんだ!?」


「ていうか、ここモースカヴァじゃん! しかも僕たちが寝込みを襲われた宿のとこ!」


「もしかして、また強制転移させられた……? それもこんなに遠い距離まで……」


 仲間達が一斉にキョロキョロと辺りを見回す中、ルヴィスが眉間に皺を寄せながら、ついさっきまで戦っていた闘技場での直前の記憶を思い起こす。


「それに突然乱入して来たあの男、紛れもなくレフィリアに呪いを負わせたくだんの剣士だったな。確か、緋劔のスレイアと名乗っていたか……」


「ええ、ですがヤツはレフィリアさんがちょうどこの場所にて、きちんとトドメを刺して確実に仕留めた筈。それがまさか生存しているだなんて……」


 信じられないと言いたげに頭を悩ませるサフィアへ同意するように、ルヴィスもまた頷いては息をつく。


「そうだな。加えてヤツは今回“レフィリアまで”俺たちと一緒に転移させてきた。あのゲドウィンですら、得意の魔法を以てしても干渉出来ないレフィリアをだ」


「言われてみれば、そうですね……彼が生きていた事実にも驚きですが、本当に得体の知れない事ばかりする恐ろしい相手です」


 そう口にはしたが、レフィリアはスレイアの生存に関して実はそこまで不思議には感じていなかった。


 確かに直接屠りこそしたものの、あれだけの難敵だったというのに倒した時の手ごたえがあまりにあっさりとし過ぎていたからだ。


 やはりこちらに自分を倒したと思い込ませる為の敗北をわざと演じたのか、それとも何らかの回復措置を施していた、または施されたのか――何にせよ、これで安心出来ない危険要素が再び戻ってきてしまった事になる。


「チッ、ホントにあと一歩ってところだったが、飛ばされちまったもんは仕方ねえ。それより今は一刻も早くここから離脱するべきだと俺ちゃんは思うがな」


「そうですわね。要塞の外へ出たからといって、まだ私たちが敵の手から逃れられたとは限りません。あくまで向こうの講じた手段によって退去させられただけですから、第二ラウンドを仕掛けて来る可能性も十分あり得ますわ」


「だね。せっかくサフィアも取り戻して結果的に戻ってこれたんだから、ここはいっそ最初の予定通りに移動した方がいいんじゃない?」


「ですね。ならば、すぐにエーデルランドへ帰還を――」


 言いながら、レフィリアたちは直ちにモースカヴァを発つ為、機竜ヴィーヴルを呼び出すカプセルをそれぞれ取り出そうとする。


「――お前達、そこで何をしているのです?」


 するとその時、急に聞き覚えのある男の声がレフィリアたちの背後から聞こえてきた。


「……ッ!?」


 その声に反射的に振り向くレフィリアたち。


 その方向にはレフィリアたちが泊まった宿屋があったのだが、そこの玄関先から一組の男女――なんと、カリストロスとロズェリエがいつの間にか、こちらに向かって歩いてきていた。


「カリストロス!? 何故、貴方がここに……!?」


「それはこちらの台詞です。というか、先に質問したのはこっちですよ」


「この周辺一帯にはワタクシが警戒の為に結界を張っていたのです。今までこの廃墟同然の街に目立った生命反応など無かったところへ急に纏まった反応が出たものですから、何が現れたのかと思ったら……」


 ロズェリエがそこまで言ったところで、カリストロスがやれやれといった感じで大きく白い息を吐く。


「まさかお前たちだったとは。てっきり刺客でも侵入してきたのかと思ってたのを拍子抜けですよ。……その様子ですと、別に我々へ用があって来たという訳でもないのでしょう?」


「ええ、貴方たちがいる事なんて今初めて知りましたけど……」


 やや困惑したように答えるレフィリアをロズェリエは奇妙そうな目をしながら見つめる。


「ですが些か不可解でもあります。貴方がたの反応は何処かから接近してきたのではなく、突然何もないところからポッと出現したように検知されました。何らかの姿隠しを使っていたとしても、それを解くタイミングとしてはあまりに不自然過ぎますし。……もしや、別の場所から転移でもしてきたというのですか?」


「まあ、そうですね……転移してきたというか、させられたというか……」


「させられた……? どういう事です?」


 訝しむように聞いてくるカリストロスの質問へ、とりあえずレフィリアは手短に答える姿勢をとった。


 今のところ彼から特に殺気らしいものは感じないが、雑な対応で機嫌を悪くさせ、余計な戦闘状況へ発展させたくはない。本当はあまり呑気に会話している場合でもないのだが。


「実は私たち、ついさっきまで魔王軍の最大拠点であるデモンニグル――貴方がたが言っていた空中要塞の中にいたのですよ。そしてそこで魔王本人と戦っていたのです」


「「何ですって!?」」


 レフィリアの回答にカリストロスとロズェリエの驚きの声が思わず同じタイミングで重なってしまう。


 そしてカリストロスはより食ってかかるように、レフィリアの傍へと近づいては声を荒げた。


「聖騎士レフィリア、お前はあの要塞の中へ侵入したというのですか!? ……それで、結果はどうなったのです? 魔王と戦ったというのなら、当然六魔将の連中も出てきた筈ですが?」


「はい、ですけど色々あって城内では魔王としか直接戦っていません。それに魔王をあとちょっとで倒せそうってところで予期せぬ妨害を受けて、数日前に訪れたこの街へ強制転移させられてしまって……」


「――要するに誰も倒せてはいないという事ですか。 というか、この街の死骸だらけな光景はお前たちの仕業だったのですね」


 まるで呆れながらもどこか安堵したように深く長い息を吐きつつ、カリストロスは隣にいるロズェリエの方を向く。


「しかし良かったですねぇ、ロズェリエ。貴方の間抜けな御父上はまだ生き汚くご存命のようですよ。相変わらずしぶとさと悪運だけは大したものです」


「あら、むしろホッとしているのは貴方の方ではありませんか、カリストロス? お父様に死なれるとワタクシはせいぜい悲しいだけですが、貴方にとってはそもそも死活問題になってしまうかと思いますけど」


「ぬ……この私へ即座にレスバし返すとは、本当に恐れ知らずで生意気な女ですね……」


 しかしロズェリエは、肉親が殺されかけた事など少しも意にも介していないとばかりに涼しい表情で返答し、嫌味を簡単に切り返されたことにカリストロスはぐぬぬといった不満げな顔で口ごもっては彼女を睨む。


 というのもロズェリエが述べたことは紛れもなく事実でしかない。もし彼の父である魔王が絶命してしまえば、今頃カリストロスは召喚者を失った事でこの世界から消え去っていたのだから。目的である復讐を果たす事も叶わずに。


「――なあ、あのロン毛の兄ちゃんと美人な角の姉ちゃんは一体、何もんなんだ? 見るからにこっちの味方ではねえって事だけは判るが……」


 そんな会話の様子をレフィリアの少し後ろから眺めていたハンターは、小声でこそっと傍にいた賢者妹へ耳打ち気味に話しかけた。


「ああ、ハンターさんはまだ見た事ありませんでしたっけ。男の方は元六魔将の鐡火のカリストロス。女の方はさっきルヴィスさんが戦ってた魔王の娘にあたる人物ですよ」


「えっ、マジか!? そういや、サンタマリオにそんなのがいたって話は聞いてたが、あの二人がそいつらだってのか?」


「その通りです。今は魔王軍と立場的に敵対しているみたいですけど、相変わらずレフィリアさんの命も狙っているので、私たちにとっては敵のままです。といっても近頃は魔王軍の方にばかり専念していて、あまりこちらへ攻撃は仕掛けてこないですけど……」


「なるほど、要警戒対象には変わりないって事だな。そこまで分かれば充分だ、レフィリアの姉さんに手を出そうってんなら俺ちゃんも容赦はしねえ」


「でも下手に刺激はしないで下さいね。戦えば当然すごく強いですし、そうならないようレフィリアさんも慎重になってるみたいですから……」


「分かってるって、俺ちゃんだって空気くらい読む。心配すんな、嬢ちゃん」


 こそこそと二人が話している中、カリストロスは髪を掻き上げながら一息つくと、再び声を落ち着かせては質問を続けてきた。

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