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望むらくは異世界で逆転する話③

 そう宣言してレフィリアが垂直に伸ばした光剣の刀身は、あっという間に300メートル以上もの長さにまで及んだ。


 それは紛れもなく彼女自慢の必殺奥義、ディバインソードスラッシャーであったのだが、その刃長はこれまでの使用時と比べて実に3倍超えと明らかにスケールアップしており、会場にいる全ての者の視線が一斉に釘付けとなる。


「こ、これは……ッ?!!」


 このあまりに凄まじい光景を前にしては、かの魔王といえど言葉を失い、その身を意識ごと呑まれたかのように固まってしまった。


 それこそ蛇に睨まれた蛙の状態――いや、剣光の放つ恐ろしくも美しい輝きに目が眩んでは、魅入られてしまったとでもいうべきか。


 そんなレフィリアが発動させている超大な長さの必殺剣は当然、彼女のマントから魔力を都合する事で実現しているのだが、それに必要とされるエネルギー量は普段の倍どころの話では済まない。


 単純な刀身の形成だけでなく、それを維持しながらレフィリア本人が吹っ飛ばされないようにしつつ支えて満足に振るうには、どう低く見積もっても10倍近い魔力コストが要る。


 レフィリア自身の無事と攻撃の精度を計算に入れると、とてもじゃないが補助マント無しの通常条件で扱う事は不可能な威力だ。


 しかし、だからこそそれだけの問題を莫大な外部魔力源バックアップによって無理やりクリアしたその一刀は、魔王をただ屠るだけでは到底済まない壮絶なダメージを叩き出すことだろう。


「アレって、レフィリアちゃんの必殺技!? だけど、なんかすっごい長さになってるよ!?」


「うっわあははは、あの奥義わざは出力を上げるとアレだけの規模にまで拡張させることが出来るんだねぇ。いやあ、アレはホントすっごいなあ!」


 これまでに見せたことのない規模で奥義発動寸前のレフィリアを目にして、面食らっているエリジェーヌはまだしも、やけに落ち着いているどころか、むしろ楽し気にすら見えるゲドウィンにメルティカが焦って声を荒げる。


「すっごいなあ、じゃないですよ! あの奥義わざはいけない、早く魔王様を助けに――」


 そう言っては観客席から飛び出そうとしたメルティカを何故かゲドウィンは彼女のすぐ傍までテレポートし、それから腕を掴んでは引き止めてしまった。


「ちょっ、何を……ッ?!」


「まあまあ、そう慌てないで。確かにあの奥義は見るからにヤバいんだろうだけど、それでも魔王さんを滅ぼすまでは出来ないからさ。それより今から下手に近づけば、メルティカさんの方が巻き込まれかねないよ?」


「……ッ! 馬鹿なこと言わないで下さい! あの奥義わざには“必殺”の概念があるから、殺されると蘇生も再生も叶わないって言ったのはゲドウィンさんじゃないですか! 私はエンドラちゃんの死を忘れてなんてないんですよ!」


 ――そう。メルティカからしてみれば、レフィリアがあの巨大な剣で魔王ごとこの闘技場を叩き斬り、要塞に仕込まれた魔王の完全復活機構を無力化できるかに関しては、もはや問題ではなかった。


 魔王を不死に仕立て上げている要素の有無など、彼女の奥義を以てすれば初めから関係が無い。だってあの必殺技で一度、死亡判定を受けると如何なる手段でも蘇ることは不可能になるのだ。


 その事実をメルティカは、メルティカのオリジナルは、この世界で出来た親友の命を奪われることで誰よりも深く認識している、故の焦燥と狼狽の感情である。


 だというのに、ゲドウィンは全く意に介していないように呑気なまでの落ち着きをみせたままであった。


「大丈夫、大丈夫。確かにそれは僕も知っているけど、魔王さんの復活能力の仕組みは特殊だから問題ないんだよ。逆にメルティカさんが今出て行ってもしアレ食らったら、それこそ治してあげる手段がない」


「んー、だとしてもあんなヤバそうな必殺剣をあのまま使わせてホントに問題ない訳? デモンニグルがぶっ壊れたら元も子もないと思うけど」


 流石に少し引きつった表情で尋ねるエリジェーヌに対し、ゲドウィンは片手をヒラヒラさせながら首を横に振る。


「そりゃあレフィリアさんが、あの剣をぶん回したらこんな異空間バトルフィールドは即強制解除、魔王城は見事に真っ二つで要塞も半分くらいぶった切られてしまうだろうけど……それでもまあ、大丈夫さ。そんな事より僕は、あの何とかカリバーっぽい剣がどれだけの破壊ダメージを生み出すのか計測してみたくてね」


「まあ、あんだけの大技なんてそう何度も使えはしない筈だし、あえて撃たせてその後に隙を晒したところを狙うって手もアリといえば――」


「……話になりません! たとえ無事かもしれなくても、あの悍ましい剣技が振るわれようとしている状況で、ただ魔王様を見過ごす事なんて私には……ッ!」


 そう言うと、メルティカはゲドウィンの手を無理やり払っては再び手摺から身を乗り出し、背中から竜翼を生やしては特攻をかけようとした。


「あっ……」


「ちょっ、メルティカちゃん!」


 だが、その時点でとっくに遅かった。


「ディバインソード――」


 既にレフィリアは剣を振り抜く動作に掛かっており、後はウェディングケーキへ入刀するが如く、眼前に聳え立つ巨大怪獣の図体を思いきり掻っ捌くだけ。


 如何にメルティカが素早く飛び出そうと、もはやレフィリアを邪魔するどころか差し違えることさえ無理なタイミング。まず絶対に、間に合いはしない。


「スラッシャ――」


 レフィリアの光剣が遂に振るわれる。一筋に長く伸びた極光のラインが闘技場全体を一閃し、魔王ごと大地を派手に抉り斬る。


 誰もがそのように一秒先の光景を幻視した瞬間――




「――カット」




 ふと、何者かの声が聞こえたかと思うと、レフィリアと魔王の間を分けるように突如赤い光の壁が現れた。


「――ッ?!」


 まるでサッとカーテンを引くかのように、側面から目にも止まらぬ速度で走って来た――いや、闘技場内を半分に切り分けた真っ赤に輝く隔壁の出現に、会場にいた全員が何事かと目を瞠る。


 それでももう剣を振り回していたレフィリアは、そのまま壁を隔てて対面にいる魔王へと勢いを落とさぬまま斬撃を叩きつけた。


 ところが、これまでにない規模で威力を増強させた筈の光剣の刀身は、結果として魔王へ届くことはなかった。届かなかったという事はつまり、魔王には全くダメージを与えられていない。


(嘘ッ?! 何で……ッ!!?)


 剣を振り切った後の手ごたえに、レフィリアはあまりにも奇妙かつ不可解なものを感じて、思わず困惑した表情を見せた。


 というのも、光剣の一閃はいきなり現れた謎の壁に“阻まれて”防がれたのではない。まるでただ何も無い虚空を斬って空ぶったかのように、何かに触れた感触が一切無かったのである。


 つまり、壁に接触した光剣の刃はそこから先が“別の何処か”へ消えてしまっていたのだ。要するに攻撃そのものが異なる空間に転移させられてしまっている。


「一体、何が起きた……!?」


 レフィリアのすぐ傍で一部始終を見届けていたルヴィスが、その理解に至らない光景に驚きを漏らす。突然の予想外過ぎる事態に、全ての者が赤い壁の発生源へと目を向ける。


 するとそこには、黒い外套に褐色の肌と白い長髪、そして眠っているかのような細い目をした男――スレイアが一人佇んでいた。

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