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罠と急襲と異世界の魔の手の話⑥

 二つの宝剣を一本に鍛え直した究極の武具によって、竜炎による威力増強ブーストも重ねて放たれた超必殺の魔法剣奥義。


 ルヴィスの繰り出したそれは視界に映る全域をオレンジ色の眩い閃光で包み、広範囲に生じた炎熱の波はメルティカごと正面に広がっていた林の木々を呑みこんでは一瞬にして焼き払ってしまった。


 一度に何百という敵を纏めて火葬させられる程の強烈な魔力投射による斬撃波。


 あまりの高温に積雪が一瞬で気化した蒸気と、同時に舞い上がった土煙、そして炭化して崩れた樹木から立ち昇る黒煙によって、メルティカの姿がはっきりとは見えなくなる。


 さしもの彼女であろうとこれ程の威力を備えた一撃、まともに直撃を食らっては全くダメージを受けないという事もないだろう。


 ――その実、確かにメルティカはけして無傷とはいかなかった。


「……思った程、大した事はありませんでしたね。派手なだけの見掛け倒しな奥義といったところでしょうか、鬱陶しい」


 しかし、その損害はあくまで彼女の肌を軽く炙った程度の軽微なものに留まった。


 せいぜい服の裾が少し焦げては煤で汚れたくらいで、致命的なものにはけして至らない。例えるならば料理中に跳ねた脂がちょっとかかって驚かされたレベルの衝撃。


 異世界の現地人にしてはやる方だが所詮はこの程度か、とメルティカは嘆息しながらいとわしそうに自分を中心として竜巻のような旋風を発生させると、辺りに立ち込めていた蒸気と煙を一瞬で吹き散らす。


「ッ!? これは……ッ!」


 そこで初めて、メルティカは自らの周囲に起きている変化に気が付いた。


 というのも、風属性中級魔法タービュランスに匹敵する突風を起こしたというのに、視界が一向に良くならないのだ。


 濛々と湧き立っていた黒煙や蒸気は消え去ったが、周りの景色はその全てが真っ白なまま――これは何やら濃霧のようなものに周辺の全てが包まれてしまっている。


 目の前にいた筈の人間たちの姿が今では誰一人として視えず、メルティカの感覚を以てしても気配すら捉えることが出来ない。


「――チッ、認識阻害が働いているという事は、ただの霧ではなく幻術の類ですか。しかし、どいつもこいつも私に対して霧なんてものであざむこうとするとは忌々しい……!」


 苛立たし気に舌を打ったメルティカは自身の背中から大きな竜翼を左右に展開すると、それをバサバサと音が鳴るほど羽ばたかせては、荒れ狂う暴風を発生させた。


 彼女の翼から発せられる霧払いの嵐はただ風圧が物凄いだけでなく、フィールド上にかかった魔法効果を解除する効果を備えている。その効力により、メルティカの視界を遮っていた霧の幻術が数秒で掻き消えては、元の景色が露わとなっていった。


「嘘ッ?! 今のはまさか、エフェクトイレイズ!? もう解かれてしまったのですか……!?」


 霧の幻術を展開したのはおそらく彼女であろう、賢者妹の狼狽えて慌てた声が聞こえてくる。きっと自身の施した措置をあっという間に無力化されてしまった事態から動揺を禁じ得なかったに違いない。


「怯んじゃ駄目だ! 気にせず畳みかけるよ、クリスタルクラスター!」


 だが、けして気圧されることはなくジェドが強気に叫ぶと手元からクリスタルを放り投げ、内包されている魔法を発動させた。拘束魔法を破られた反動でまだ呪文は使えずとも、クリスタルに封じた魔法を解凍する事は可能だ。


 そしてカンタビレ神殿のガーディアンから手に入れた地属性上級魔法――空中に出現した無数の巨大な鋭い水晶塊が一斉に、ミサイルの如くメルティカに向かって斉射される。


 それをメルティカはぶんぶんと高速で尻尾をぶん回しては、一つ残らず全ての水晶塊を砕ききってしまった。多少手傷を負っていようと、彼女の背後から蛇のようにうねる竜の尾の驚異性が失われることは無い。


「――鞘走ッ!」


 ところが、今までの一連の攻撃はその全部が陽動に過ぎなかった。


 気配を殺しつつ、いつの間にかメルティカの死角側へ回り込んでいたハンターが燐めきの短刀ナイフを手に、一息で飛び掛かっては彼女の首筋目掛けて荷電粒子プラズマ化させたその刃を振るう。


 縮地じみた一切無駄のないアクロバティックな動きによって、跳躍しつつ一気に距離を詰めての急所攻撃。必滅の猛毒が竜鱗に阻まれ通じぬのなら、必殺の光熱でその装甲ごとそっ首を断ち切るまでだ。


「――ふん」


 だというのに、ハンターが全霊をかけて繰り出した暗殺技法を、メルティカは微塵も驚かないどころか眉一つ動かさぬまま、造作もないとばかりに容易く受け止めてしまった。


 それも人差し指と中指の二本でナイフの刃を挟み込むように。


 ハンターはそのまま無理やりぶった切ろうとナイフを握った手へ力を込めるが、押し込むことも引くことも叶わない。まるで狭い岩の隙間にでも食い込んでしまったかのようにガッチリと、ふざけた怪力で固定されてしまっている。


「馬鹿なッ……!?」


 ――あり得ない。燐めきの短刀ナイフの刀身は現在、鋼鉄すら簡単に融解させられる荷電粒子プラズマの魔力を形成しているのだ。たとえ竜種の強固な外皮で覆われていようと、直に触れて無事で済む筈はない。


 そう思ったハンターは、すぐにメルティカがナイフを受け止めていられる理由を知るに至った。なんと彼女の二本の指、その爪先もまた彼のナイフと同じように荷電粒子プラズマ化していたのである。


(クソッ、ふざけんじゃねえぞ! 涼しい顔してなんっつう器用な真似をしやがる……!)


 それに気づいた矢先、蝿でも追い払うように振るわれたメルティカの尻尾によってハンターは激しく地面へと叩き伏せられた。


「ごはあッ……!!」


 思いきり落下して身体を強く打ち付けたハンターは、まるで水風船が破裂したかのように思えるくらい、口から多量の血を吐いてはぶちまける。


 今の尻尾の一撃だけで彼の身体中の骨が悉く粉砕骨折しては、内臓破裂まで引き起こす致死レベルの重傷を負ってしまった。


 アイギスシールドによる堅固な物理保護ですら殺しきれなかった強烈な衝撃によって、なんと背骨も砕かれてしまい事実上、不随の状態となってその場から逃れるどころか指一本動かす事も叶わない。


 竜呪血晶により人の身を超越した肉体の頑強さを誇る彼が、たった一発の尻尾の一振りでである。とはいっても、メルティカには竜種由来の能力へ特攻効果を持つスキルを備えているので、初めからダメージを軽減することなど無理だったのではあるが。


「なるほど、竜息の光熱を発する刃物ですか……ただの人間には過ぎた武器オモチャですねえ、コレ」


 しかしメルティカの反撃はそれだけに終わらなかった。彼女は二本の指で挟んだままの燐めきの短刀ナイフをまるで手裏剣かダーツのように放り投げる。


 雑に投げ捨てたようで実際には正確無比な指弾の如き一投は、音速を優に超えて荷電粒子プラズマ化された刀身による光の軌跡を描きながら――いつの間にか、ジェドの胸部を見事に斬り開いていた。


「あぐうッ……!!」


「じ、ジェドさん!?」


 その傷の深さは紛れもない致命傷であった。アイギスシールドの魔力装甲に阻まれて刃が後ろまで貫通しなかったとはいえ、肺と肋骨を裂いては心臓まで破ってしまっている。ザックリと断たれた切創からは飛び散るように鮮血が溢れ出ては、周りの白い雪原を一気に赤く染め上げていく。


 気が付いた瞬間、自分がとんでもない深手を負ってしまったことに驚きながらも、ジェドは力なく崩れ落ちては意識を失い、魔杖を手放してはドサリと倒れ伏してしまった。


「ジェドさん! そんな、ジェドさん……ッ!!」


「落ち着いて! まだこの状態なら私の魔法で蘇生させられますわ! だから彼女の身体を保護しつつ、戦闘に集中してください!」


 仲間の危機的状況に酷く狼狽してしまった賢者妹に対し、コメットが冷静になるよう大声で叫び掛ける。確かにこんな時こそ、彼の本領である蘇生魔法の出番だろう。


 とはいっても、魔法による蘇生の成功率は対象が死亡してから時間が経過するほど著しく失われていく。ハンターも辛うじて生きてはいるが、ほぼ死に体と変わらない状態だ。そして戦闘状態が継続している以上、今すぐその場で味方を復活させる余裕などある筈もない。


 ――こうなっては、もはや一刻の猶予もない。仲間の命を救うことを優先するならば、メルティカとの戦闘にこれ以上の時間を掛けられない。


「メルティカッ! 貴様ああああああッ!」


 事は急を要する、とルヴィスは覚悟を決めるとともにラスターソードへ魔力を収束させつつ、メルティカへ向けて一か八かの突撃を仕掛ける算段に出た。


 疾走してくる彼の様子に、メルティカは先ほど燐めきの短刀ナイフを摘まんで投げつけた、光の爪を伸ばした竜化状態の手を閃かせては、その場からけして動くことなく彼の到来を待つ。


(遂に彼が来ましたね、今度は何を企んでいるのか……!)


 これまであの紅い髪の男には非常に不愉快ながら、事実として何度も足を掬われてきた。もう油断はするまい、とメルティカはルヴィスに対してのみ、ただの人間ながら警戒の念を強く抱いて慎重になる。


 というのも、彼が肉薄してくる時は無謀な特攻を仕掛けて来るようにみせかけて、常に何かの小賢しい策を忍ばせては状況の打開や逆転を謀ってきたからだ。


 もう何度もしてやられる訳にはいかない、この身の元となった彼女オリジナルの名誉の為にも。


 故に、彼にはあえて即死するような一撃は与えない。せいぜい半死程度で身動きが取れなくなる程度のダメージを与え、あわよくばそれから捕縛してレフィリアへの人質に利用できれば御の字だ。


 そう思案しつつ、メルティカは向かってくるルヴィスを迎え撃つ為に竜化させた片手を振るおうと身構える。


 だがその時、振り上げようとした腕に背後から何かが急に巻き付いては彼女の動きを止めた。


「何……?!」


 それは魔力によって構成された光の鎖であった。しかもその鎖は、先ほど虫のように叩き伏せた男――ハンターの籠手ガントレットから伸びていたものだった。


「舐めん、なよ……!」


 彼は不随状態に陥って指先すら満足に動かせず、そもそも内臓の著しい損傷と失血のせいで意識も朦朧とした状況であった。おまけに籠手ガントレット内の魔力は初撃の防御に費やしたせいで空の状態の筈。


 だというのに何故、光の鎖が放たれているのか――それは、彼が生命力を直接魔力に変換して籠手ガントレットへそのまま補充したからである。加えて魔力の遠隔操作によって鎖の射出から続けて軌道を操り、意識を失う前にメルティカへ一矢報いようと拘束を仕掛けた訳だ。


「やれッ! ルヴィス!!」


「はあああッ! クリティカル――」


 急接近してきたルヴィスの剣が強い光を放ち、動きを止めたメルティカへ彼必殺の奥義が振るわれる。


「小癪な……この程度、邪魔にすらならないッ!」


「ぐがッ……!」


 しかしメルティカはハンターが悪足掻きで講じた鎖の束縛を持ち前の腕力と魔力放出で力任せに引き千切ってしまった。


 光の鎖が無理やり砕かれ、彼女の腕が自由になる。とはいっても、今の動作でろくに迎撃の構えも取れなかったメルティカには、ほんの僅かながら隙が出来てしまった。


「ブレイドオオオオオオッ!!!!」


 それを逃すようなルヴィスではなく、メルティカへ光の剣による勢いをつけた上段からの袈裟斬りを正面から叩きこむ。


 ところが、それだけの決定的な攻撃の瞬間だったというのにも関わらず、あろうことかメルティカはルヴィスの剣をその手で掴み取ってしまった。


「なッ……!?」


「ふふっ、残念でしたね……!」


 一瞬面食らったものの、ルヴィスは諦めずに剣を押し込もうと腕へ更に力を込める。だというのに、メルティカの手は光熱の刀身を完全にガッチリ掴んでは離さず、全く断ち切る事が叶わない。


 そんな彼女の手へ目を向けると、なんとメルティカの爪先だけでなく手のひら全体がルヴィスの剣と同じ荷電粒子プラズマの魔力光によって覆われてしまっていた。だからこそメルティカはルヴィスの奥義を直接素手で受け止める事を可能にしたのである。


 ルヴィスの戦慄した顔を目にして、今まで表情の変化が薄かったメルティカもつい、ニッと口元を歪ませてしまった。決死の覚悟を決めて相手の懐へ飛び込んだというのに、必殺の一撃が防がれてしまっては絶望に暮れるしかないだろう、とほくそ笑むように。


 ――だが、ルヴィスにとってメルティカに攻撃を防がれてしまう事など、実は予想の範囲内の出来事であった。


「オーバーエッジッ――!!」


 途端、ルヴィスはラスターソードに秘められていた機能を解放し、内包魔力を最大出力で噴き上げては、荷電粒子プラズマの刀身を三倍以上に引き伸ばした。

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