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罠と急襲と異世界の魔の手の話⑤

「――疾空卂雷波ッ!」


 ルヴィスは稲妻と旋風の魔力を混ぜつつ纏わせた剣を一閃すると、雷電光剣と風嵐閃刃が組み合わさった瞬速の奥義を放つ。


 彼の持ち技の中でも、出の速さと射程の両方において特に優れた攻撃手段であったが、それが顔面まで迫ったところでメルティカは蚊でも払うようにその魔力投射を容易く片手で打ち消してしまった。


「氷牙の棘よ、アイススパイク!」


 しかしその結果に怯む事なく、今度は賢者妹が続けて間髪入れずに魔法を発動させる。


 正面に立つメルティカを中心に彼女の足元――その360度全方位から無数の鋭利な氷柱を勢いよく飛び出させては、彼女を串刺しにせんと遠隔包囲攻撃を試みた。


 ところがその鋭く伸びた切っ先はメルティカの身体に触れても、ほんの少しも突き刺さることはなかった。それどころか当のメルティカはその場から微動だにせぬまま、自身の周囲に青白く光る火災旋風の如き魔力放出を一瞬だけ発生させる。


 コンマ数秒の短い展開ではあったが、竜の吐息ブレスと変わらぬ威力の炎熱により、彼女を包むように飛び掛かっていた夥しい氷の棘は粉々に飛び散りつつ瞬時に融解、蒸発してはあっという間に消え去ってしまった。


「……ッ!」


「この程度で終わりですか?」


 攻撃が一切通じていないことに思わず歯噛みしてしまった賢者妹に対し、メルティカは実に詰まらなそうなすまし顔を向けながらも、淡々と挑発的な言葉を投げる。


「そんな訳ないだろ! 聖なる鎖よ、ホーリーバインド!」


 だが、それを跳ね付けるようにジェドが賺さず呪文を唱え、メルティカの周囲の空間から光輝く魔力の鎖を何本も出現させては、彼女の首や手足に巻き付けて全身を瞬く間に拘束した。


 その捕縛とほぼ同時のタイミングで、ハンターが既に準備していたクリスタルを野球投手ピッチャーのように大きく振り被ってからメルティカ目掛けて全力で投げつける。


「そらあっ、メルトアウトッ!」


 形だけでも身動きの封じられたメルティカのすぐ傍まで届いたクリスタルは、その直前で破裂しては魔法を発動させると、不思議な色をした妖しい閃光で彼女を呑み込んだ。


 今、彼が解き放ったメルトアウトという魔法は、対象の物理防御力を低下させる、いわゆる弱体化デバフ系の効果を齎すもの。たとえ岩や鉄のように頑強な外皮であろうと、水でふやかしたように柔らかくし、攻撃が身体の内部へ到達しやすいようにしてしまうのだ。


「コイツも受け取りなッ――!」


 それだけでなく、ハンターは流れるような動作で続けざまにもう一つ別の何かをメルティカに向けて投擲した。


 それはなんと蝕みの短剣ダガー。強靭な魔獣であろうと生物であればその刃先から生じる猛毒で即座に命を奪う、紛れもない死の贈物プレゼントがメルティカの美麗な顔へ容赦なく叩きこまれる。


 しかも狙いはあろうことか、彼女の眼球であった。如何に彼女の肉体が見かけによらず竜種並みの耐久性を誇ろうと防御低下の魔法を掛けた状態で、おおよその生き物共通の弱点部位に凶撃を食らっては全く効かない、なんて事は無い筈である。


 たとえ深々と突き刺さらなくとも、ほんのちょっとさえ掠り傷をつけられればそれで充分なのだ。


「――ッ!」


 だというのに、ハンターが全身全霊を込めて投げつけた蝕みの短剣ダガーは、メルティカの瞬き一つで瞼に阻まれると刃が瞳に届く事なく、まるでコンクリートの分厚い壁にでも接触したかのように虚しく弾かれてしまった。


 カキンと甲高い金属音が一回鳴っただけで、せっかく放った弾丸の如き投刃は何処かへと飛んでいっては消え去ってしまう。


 一応、彼の得物は仮に手放して見失ったとしても魔力による遠隔操作で探知と回収自体は可能だ。だが今の戦闘中である状況では当然、悠長にそんな事をしている暇などある筈がない。


(おいおい、マジかよ! 今ので傷一つつけられないとか冗談じゃねえぜ、全くよぉ……ッ!)


 ハンターは内心舌打ちをしながらも、渾身の投擲を難なく弾いた時のメルティカの様子を分析するように思い返した。


 どうも彼女が蝕みの短剣ダガーを瞬きによって防いだ際、辛うじてではあるが瞼の部分が黒く変色しているように見えた――ような気がする。つまり、彼女は手首と同じように皮膚を竜化させていたのだ。


 読んで字のごとく一瞬でそんな器用な真似を熟してみせた目の前の少女に、彼は改めてその恐ろしさを実感しては息を呑む。


「ふん――ッ!」


 するとメルティカはいつまでも大人しく縛られてやるつもりは無いとばかりに、鬱陶しそうに力技だけで自身に纏わりついていた光の鎖を無理やり引き千切ってしまった。


 腕力のみで砕かれた縛鎖が、細かく白い粒子となって崩れるようにサラサラと大気中へ消え去っていく。


「あぐッ……! あんにゃろう……ッ!」


 その反動を受けて術を使用していたジェドに、接続を強制的に切られたかのような嫌な感覚と痺れが神経へと流れ込んでくる。


 リインフォースの効果などによって魔力的に肉体が補強されている今、スタンしてその場から全く動けなくなるような事までにはならなかったが――それでもしばらくの間は呪文などの魔法行使が叶わなくなってしまった。


「――話になりませんね」


 嘆かわしいとため息交じりにそう答えたメルティカは憐れむように一同を見据えると、いまだに構えすら取らずぼうっと佇んだまま、空中に雷を収束させたような一本の光の槍を出現させた。


「……ッ!?」


「ですが、女性の顔に物を投げつけるなんて無礼千万も甚だしいです。相応の返礼をしますので、受け取りなさい」


 そう冷淡に告げると、メルティカは傍らの空間に作り出した雷の投槍を容赦なくルヴィスたちに向けてノーモーションで射出した。


 たとえ彼らが回避に成功して直撃から逃れたとしても、地面に突き刺さった槍は榴弾のように即座に炸裂して雷電の波が放射状に広がり、今いる六人のうち半数以上を吹っ飛ばしては戦闘不能に追い込んでしまうことだろう。


 メルティカにとっては本来、この槍は連続で放つ弾のうちのたった一発。それも威力を幾らか加減セーブしたものではあったが、たとえそんなものでもこの世界の人間にとっては必殺にしかならない驚異の一射だ。


 ところが、メルティカの放った雷槍はそんな彼女の予想を裏切って、狙った筈のルヴィスたちのいる位置から離れるように弾道を逸らしていった。


「何……ッ?!」


 予期せぬ方向へ軌道を変えた雷槍は、いつの間にか少し距離を離した場所へ単独で移動していた、一人の十字架型をした杖をもった人物――コメットの元へと向かっていく。


「こっちですわ! はああッ――!」


 まるで誘導されるように飛んでいった雷槍はコメットの掲げた杖――魔封じの十字杖クロスへ吸い込まれるが如く着弾すると、爆裂して雷電を撒き散らすこともなく一瞬の閃光を伴って跳ね返り、攻撃を行った張本人であるメルティカのところへと帰っていった。


「――ッ!!」


 ただ単に反射された訳ではなく、威力と速度を明らかに増して戻ってきた雷槍に対し、メルティカはここにきて咄嗟に背後から竜の尻尾を出現させた。


 そして賺さずその先端を自身の正面へ持ってきては、打ち払うように雷槍の直撃を受け止める。


 彼女の尾へ接触した雷槍はその瞬間に破裂しては猛烈な放電現象と衝撃波を生じさせると、爆風の如く雪の混じった土煙を辺りに巻き上がらせた。


「よっしゃあ! これは良いの入ったんじゃないの!?」


 これまでと違ってメルティカがはっきりとした防御の姿勢を取ろうとし、それでも予想外の事態からか完全に防ぎきれていなかったように思えた様子に、ジェドは拳をグッと握る。


 どれだけ彼女が出鱈目に頑丈であろうと、自分が繰り出した技をそのままくらってはノーダメージという事もない筈だ。


 今まで試みた反撃の中で最も確かな手ごたえを感じた一同は、そんな敵の状態をよく確認しようとすると――メルティカは乱暴に尻尾を一度振り回しては周りに漂う土煙を払い除けた。


 すると、雷槍を受けた彼女の尻尾は表面が焼けた鉄のように赤光を放ちながら焼け爛れつつ、外皮が捲れあがって抉れた状態となっていたのをルヴィスたちはしっかり視認する。


「……驚きました。まさか私の一射を凌いだだけでなく、同時にこれ程の手傷を負わせるなんて」


 内部の肉が幾らか露出して焼け焦げた匂いを漂わせる尾をしならせながら、メルティカは形だけの賛辞を淡々と口にする。


 その眉一つ動かさぬ平然とした表情からは特に苦痛を感じているようには思えず、無理して強がっているという風にも考えられなかった。


 だが今の出来事によって、メルティカの興味と敵意がコメットただ一人に向けられてしまった事は明らかだ、とパーティ全員が彼女の発する殺気と視線から察して戦慄に駆られる。


「武器の性能だけではない。その身に秘めた魔力量……貴方、ただの現地人にんげんという訳でもないようですね。でしたら――」


 途端、メルティカは自身の周囲にサッカーボール程の大きさをした真っ赤な火球を五個ほど作り出しては、瞬時にそれらを空中へ並べた。


「今度はこんなもので如何でしょうか? 凌ぎきってみせる事は出来ますか?」


 まるで試すようにそう述べた彼女はすっと片腕を差し向けると、返答を待たずして展開したその火球を連続発射する。それらはコメットだけでなく、勿論他の仲間達をも攻撃対象に含んでいた。


「ふッ――!」


 コメットは応じるように十字杖クロスの先端を向けて掲げると、パーティ全体に対して放たれたその火炎弾を全て、自分一人の方へと誘導する。


 だがそれは、先ほどの雷槍と違って悪手となるとメルティカは内心嘲笑った。というのも、雷槍の時と同じように杖持ちの神官が火球を吸い寄せて反射した場合、後から来る火球に接触して爆裂するようわざと間隔を調整して断続的に連射したからである。


 火球の一つ一つは、これまた威力を抑えたとはいえ、賢者妹のファイアボムレインすら上回る程の火力を有する。誘爆させてしまえば、神官だけは助かったとしても他の味方達は巻き添えを食って一溜りもないだろう。


「いただきますわッ!」


 ところが、コメットによって引き寄せられた火球は十字杖クロスに接触した瞬間、前と異なり反射されるのではなく、分解されるように消え去ってはそのまま杖の内部へと吸収されてしまった。


「なッ……!?」


 メルティカが驚いたのも束の間、並んで飛んできた火球の連弾をコメットは杖で同じように掻き消しては即座に吸い込んでいく。


 そして最後の五発目の火球だけに対し、彼は十字杖クロスを野球のバットの如く振り回しては、魔力と勢いを乗せてメルティカへと跳ね返してみせた。


「…………ッ!!?」


 またもや威力と速度を上乗せされた反射攻撃に、メルティカは咄嗟に竜化させた片腕を薙いでは撃ち返された火球を手刀にて一閃する。


 斬り払われた火球の破裂によって生じた爆炎を同時に手元から生じさせた暴風の防護壁によって吹き散らしつつ、何とかダメージを緩和した。


「ルヴィスさん! こちらを!」


 しかしメルティカがそうしている間に、コメットは手にした十字杖クロスを賺さずルヴィスのいる方へ向けると、その先端から今溜め込んだばかりの膨大な炎の魔力を光線状にして彼の元へと放った。


「ああッ! 来いッ!」


 ルヴィスもまたそれへ示し合わせたかのように応じ、ラスターソードを掲げては送られてきた炎の魔力を剣の刀身にて受け止める。


 その動作によってラスターソードの光刃はより強く輝きを増しては、赤く赤く煌めいて刀身が倍近い長さへと伸びていった。それからメルティカが火球を凌いで再び眼前の敵へと視線を戻した頃には、既にルヴィスは剣を構えて奥義を繰り出す体勢に入っていた。


「天輪陽焔嘯――ッ!!」


 直後、ルヴィスは竜の炎を宿して魔力に変換した光剣を勢いよく振り回すと、その刀身から凄まじい灼熱の烈風と火炎の津波を発生させてはメルティカを斬り払った。

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