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復讐したい異世界の主人公の話①

 ――魔王城カリオストロ。


 魔王軍の最大拠点にしてカリストロスの居城でもあるその場所には、なんと城内の敷地に彼専用の射撃訓練場が設けられていた。


 その施設は、主にカリストロスが自身の能力で出現させた銃器の使い心地を確かめるために利用されている。


 何かと足を運んでは気の向くままに銃をぶっ放している彼だが、そこに今日もまたカリストロスの姿が見受けられた。


 しかし今回は人の形をしたターゲットの板を狙い撃つわけでも、クレー射撃を行う訳でもなく、広場の真ん中にカリストロスが佇み、彼を中心としてその周囲に十数人の魔族の魔導士たちが、一定の距離を取って立ち並んでいる。


 カリストロスの両手には45口径のМ1911、コルト・ガバメントの通称で知られる軍用自動拳銃が握られていた。


 黒とシルバーのそれぞれ異なった色の拳銃を二丁構える様は、スタイリッシュな悪魔狩人か、はたまた無敵の吸血鬼か。


 どちらにしても真っ赤なコートが無いのが残念である。


「――それでは、いつでもどうぞ」


 カリストロスの合図を受けて、周囲の魔導士たちが一斉に魔法を使い始めた。


 すると無数の“小さな何か”が姿を現し、カリストロス目掛けて襲い掛かるようにビュンビュンと高速で飛び回り出したのだ。


 ――それは鳥や羽虫を模したような、金属板を加工して作られた傀儡くぐつの使い魔であった。


「ふッ――!」


 カリストロスはその場から一歩も動かず、時速300キロ近くの速さで飛び回るそれらを確実に拳銃で一発一発撃ち抜いていく。


 その正確無比な動作にはただの一度も撃ち漏らしはなく、まさに言葉通りの百発百中である。


 銃弾を撃ち尽くしたあとのリロードも見事なもので、両手に拳銃を握っているはずなのに、超高速でいつの間にか弾倉の取り換えを行っており、周りの魔導士たちには彼が何をやっているのか、その動きが一切見えていない。


 傀儡を操っている魔導士たちも、本気でカリストロスを攻撃するつもりで魔法を行使していた。


 少しでも手心を加えるような素振りが見受けられた場合、即座に脳天をぶち抜くと脅されているのである。


 鳥の傀儡には鋭利な刃や爪、羽虫には鋭い棘がついており、そのどれもが死角からカリストロスを仕留めようと空中を縦横無尽に飛び回って急速接近してくる。


 しかしカリストロスはまるで機関銃でも撃っているかのような発砲音を鳴らしながら連続で襲い来る傀儡を撃ち抜いていき、程なくして全ての標的を破壊しつくしてしまっていた。


「……これで全てですか」


「はい、お見事です。流石はカリストロス様」


 使い魔を操っていた魔導士たちが一斉にカリストロスへ平伏す。


「つまらないですね。これでは、昼食前の運動にすらなりませんよ」


「でしたら、おやつなど如何でしょうか?」


 すると、カリストロスの後ろから長い黒髪に白い軍服風の衣装を着た少女が歩いてきた。


 それは魔王の愛娘、ロズェリエだった。


 彼女はにこにこしながら、菓子や飲み物の瓶が入ったバッグを片手に、カリストロスの傍へ歩み寄って来る。


 ロズェリエが訪れたことによって、周りの魔導士たちは更に深く平伏した。


「……はあ、貴方ですか」


 カリストロスは鬱陶しそうな、うんざりした表情で彼女を一瞥する。


「そんな邪険になさらなくても……でもそんな冷たい目で見られると私、ぞくっとして何かが漏れ出てきちゃいそうです」


「相変わらず気持ち悪い」


「ところで、小腹が空いてたりしませんか?」


「甘いものは気分じゃないので、結構です。……そうですね、飲み物だけいただきましょう」


「どうぞどうぞ! よく冷えてますよ」


 魔法によって冷えた状態を維持された瓶からロズェリエは容器へ飲み物を注ぎ、カリストロスへと手渡す。


 カリストロスはそれをぐびっと一気に飲み干してため息をつくと、容器をロズェリエに返しながら彼女に話しかけた。


「ところで、わざわざここまで来たということは、私に何か用事があるのではないですか? ――ああ、他の方々はもう帰っていいですよ」


 カリストロスの命令で、周囲にいた魔導士たちは速やかに射撃訓練場から立ち去る。


 彼らがいなくなり二人きりになったのを確認すると、ロズェリエは仕事モードの真面目な顔つきになって静かに口を開いた。


「カリストロス様、エーデルランドの王城に忍ばせていた私の配下から連絡がありました。――ゲドウィン様の領地を攻め落とした聖騎士レフィリアの次の目的地は、ブレスベルクのサンブルクだそうです」


「ブレスベルク?! っということはあのクソアマ――エリジェーヌの支配地じゃあないですか」


 カリストロスはほんの一瞬だけ驚いて見せたあと、すぐに苛立たし気な表情で考え込むように腕を組む。


「他の六魔将の面々が管理している支配地の中でも、あそこが一番行きたくないんですよね。特に住民全員が揃ってあの女を信奉しているのが、ものすごく不快です」


「カリストロス様、もしかしてブレスベルクへ向かうつもりでいらっしゃいますか?」


「聖騎士レフィリアがそこに向かっているとなれば仕方がないでしょう。たとえ足を運ぶのが億劫でもですね」


 途端、カリストロスは暗い殺意を秘めた目つきをロズェリエに向ける。


「ですが、エリジェーヌと共闘するつもりはありません。そもそもあの女騎士は私の獲物です。獲られるくらいならいっそ、ゲドウィンのヤツと同じようにあのアバズレもやられてしまった方がいいです」


「流石にそれは魔王軍としては困ります。ただでさえ、シャルゴーニュが奪還されたことで、戦場へ送る資材や兵糧の供給量が大きく減ってしまいましたので」


 これでもし兵士の武器や鎧、建材や衣服などの加工品を大量生産しているブレスベルクも落とされてしまったら、いよいよもって魔王軍は組織集団として更に厳しい状況に追い込まれてしまう。


「そんなものは私の知ったことではありません。そもそも貴方の意見など聞いていないのですが」


 カリストロスのギロリとした視線に、ロズェリエは慌てて頭を下げる。


「申し訳ありません。出過ぎたことを言いました……」


「……ふん、くれぐれもこの話は他言しないように。もし口を滑らせたら、今度は本当に殺しますよ」


 そう言うとカリストロスはロズェリエから視線を外し、顎に指をあてて一人思案に耽る。


「しかしブレスベルクならば、何処でどのタイミングで襲撃するか……あの女の邪魔が入らない場所となると……」


 そもそもカリストロスはこれといって、レフィリアと戦う上での有効打が思いついている訳ではない。


 かれこれ最初の戦闘から数十日が経過しており、あれからずっと一日も欠かさず考え込んでいて幾つか案は出ているものの、決め手となる作戦がいまだに出来上がっていない状態である。


 そんな思い悩むカリストロスの横顔を見て、ロズェリエは決意したように声をかけた。

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