意志を継ぐ異世界の新戦力の話③
(嘘ッ?! いつの間に……!?)
レフィリアは驚きつつも、落としたスターペンダントを拾おうとする。
しかしペンダントは先に、眼前にいた騎士の土人形が器用にランスの先でひょいと拾い上げてしまっていた。
「えっ、ちょっと……!」
「えへへ、これで私の勝ちですね! レフィリア様!」
賢者妹は本当に嬉しそうににっこりと笑いながら、レフィリアの身体から離れる。
しかしすぐに、自分がやってしまったことを思い出して気まずそうな表情で顔を赤らめた。
「あ、その……おっぱい触っちゃってごめんなさい」
「いえ、それはいいんですけど……いつの間に私の後ろへ移動していたんですか?」
腑に落ちないというか、単純に試合の結果より疑問の方が勝るとして、レフィリアは彼女に質問した。
賢者妹はその問いに対して、自身あり気に説明を返す。
「えっとですね、レフィリア様は私がずっとあの場所から動いてないと思っていらっしゃいますけど、あれは“幻像”なんですよ」
「幻像……?!」
「はい。魔法で作り出した蜃気楼のような光のいたずらというか……初めにレフィリア様を魔法で爆発させた後、こっそり別の魔法も使ってたんですよね」
つまり開幕直後でくりだした派手な爆発は、あくまで目くらましだったのである。
賢者妹は爆風で生じた土煙に乗じて自身の幻像を作り出した後、逆に本体は透明にして気配を消し、密かにレフィリアの背後へ回り込んでいたのだ。
「マッドパペットで追い立てたら丁度この辺りに来てくれると思っていました。あとは自分に身体強化をかけて一気に体当たりでフィニッシュです。……まあ、失敗しちゃってたらもう手がなかったんですけど」
「まさかこんなにあっさり負けるなんて……どんな時も舐めてかかってはいけませんね……」
レフィリアは彼女に勝負を仕掛けたことが返って裏目に出てしまったこともだが、予想外にも自分が簡単に破れてしまったことに、内心少しショックであった。
だが、今回の試合で判ったこともある。
レフィリアの護りは、“レフィリア自身を対象”とした害的な魔法には絶対的な防御効果を発揮するが、今回のようにあくまで映像を投影するだけのような、魔法で作り出された事象自体を見破るような力はないのだ。
「レフィリア様は少しばかり、視覚による情報に頼りすぎてしまったんですね。……ですが、これは先ほどのようにレフィリア様が手加減してくださっているのを前提とした作戦です。もし実戦なら、そもそも初めに魔法を撃つ前に私がやられているでしょう」
「いいえ、武器も鎧も身につけなくても勝てるだろうと勝手に油断していた、浅はかな私が招いたれっきとした敗北です」
レフィリアは申し訳なさそうに賢者妹へ頭を下げる。
「ごめんなさい。私、無意識のうちに貴方へ失礼なことをしてしまって……」
「いえいえ、いいんですよ! 私がレフィリア様の足元にも及ばないのは事実なんですし! ――あっ、それはそうとですね!」
賢者妹はあたふたしながらも、手に入れたスターペンダントをレフィリアへと掲げて見せる。
「私、スターペンダント手に入れましたので、討伐隊に入ってもいいんですよね?!」
「…………」
自信満々な瞳でまっすぐ見つめて来る賢者妹に、レフィリアは観念したというように小さく息をつくと、彼女の顔を見つめ返して頷いた。
「――分かりました。貴方を討伐隊のメンバーとして認めます」
「やったぁぁーーー!」
賢者妹は満面の笑みを浮かべると、万歳するように両腕を大きく広げた。
「ありがとうございます、レフィリア様! 私、絶対にレフィリア様のお役に立ってみせますね!」
「その代わり、一つ約束です。今後は私のことを様付けでは呼ばないこと」
「えっ、それはどうし――」
「私、仲間から様付けで呼ばれるのは好きではないのです。もしレフィリア様なんて呼んだら、すぐにメンバーから外しますのでそのつもりで」
「は、はい。分かりました……レフィリアさ……ん」
訓練場の端で一部始終を眺めていたルヴィスたちは、良い場面を見せてもらったとにこやかな表情になっていた。
「あのお嬢ちゃん。若いのに大したもんだなぁ。レフィリア殿から実際に一本取ってみせやがった」
「ああ、この結果には俺も驚いた。あの様子なら実戦でも全く問題ない筈だ」
「単に魔法の実力だけでなく、機転も利きますしね」
「あの子なら俺たちと旅をしても大丈夫だろう。なあ、サフィア」
「ええ。彼女を討伐隊のメンバーに加えたことを元帥閣下に報告して、ブレスベルクへの旅の準備を進めましょう」
この一件により、討伐隊最後のメンバーが決定し、レフォリアたちはブレスベルク攻略に向けて本格的に動き出すこととなった。
彼らと魔王軍の新たな戦いの舞台が幕を上げる――




