意志を継ぐ異世界の新戦力の話②
――王都内訓練場。
ここは王国に仕える戦士たちが戦闘訓練を行う為の、周囲を高い壁に囲まれた広いグラウンドのような場所である。
この広場の中央には、レフィリアと賢者妹が50メートルほど距離を取ってお互いに向き合っており、場内の端の方にはルヴィスとサフィア、そして若旦那がその様子を見守っている。
レフィリアの手にはスターペンダントが握られており、レフィリアはそれを賢者妹に向かって掲げると、大きく声を上げて言い放った。
「今から貴方には、制限時間内に私からこのペンダントを奪ってもらいます。それが出来たら、討伐隊への参加を認めましょう!」
レフィリアは帯剣どころか、私服のままで普段の防具すら一切身に着けていない。
「私からは一切攻撃をしませんが、貴方からは何をしても構いません。どんな手段を使っても、ペンダントを奪えればそれでオーケーです」
「なるほど、討伐隊のメンバーに必要なスターペンダントは自分の力で奪ってみせろということですか。――分かりました。私の決意、見せつけてあげます!」
賢者妹はやる気に満ち溢れているが、レフィリアには別に覚悟を見せてほしいとか、そんな高尚な理由は無かった。
単に無理難題を吹っかけて、彼女に討伐隊参加を諦めてほしかっただけである。
我ながら浅ましいというか、狡いというか――しかし、彼女を退けるためには、レフィリアにはこれくらいしか思い浮かばなかった。
「では今から号令をかけますよー! 二人とも、準備はいいですかー?!」
訓練場の端から大声をかけるサフィアに、レフィリアと賢者妹は手を振って準備完了の合図を送る。
「それじゃ行きまーす! ――試合開始ーッ!!」
サフィアの号令を聞くとすぐに賢者妹はその場で魔杖を構え、魔法を放つ為の詠唱を紡ぎ出す。
「震えろ大気、轟け大地。それは全てを吹き飛ばす爆炎の絶叫――フィアフル・エクスプロード!!」
途端、レフィリアの眼前を中心として半径数十メートルが業火と轟音を伴って派手に爆散した。
その凄まじい爆風と衝撃波にもくもくと土煙が舞い上がり、攻撃を受けたレフィリアの姿が見えなくなる。
突然目の前で起きた大爆発に、ルヴィスと若旦那は半ば驚いた様子で唖然とその様子を眺めていた。
「うっわ、ビックリしたぁー。まさかのっけから大呪文ぶちかましてくるなんてな……」
「あのお嬢ちゃん、可愛い顔して恐ろしい呪文を使うんだな……」
パラパラと吹き飛ばされた土や小石が降り注ぎ、次第に土煙が晴れていく。
そこには初めにいた場所から全く動いておらず、平気な顔をしているレフィリアが佇んでいた。
衣服にも破れや汚れ、焼け焦げどころか一切の乱れすら生じていない。
「……流石は聖騎士様。“やっぱり”私の魔法なんて全く効きませんでしたね」
「いきなりなんて火力の魔法をぶっ放してくるんですか……私でなかったら大怪我してますよ」
この少女、可愛らしい見た目とは裏腹に容赦がない。
確かに手段を選ぶ必要はないと言ったのはレフィリアだが、それだけ彼女もなりふり構ってられないくらいに本気なのだろう。
「しかしこれほどの魔法、もしかして魔力がすっからかんになってたりしませんか? ほら、どこかで聞いたことあるような爆発の魔法ですし」
「このくらいで魔力切れおこす訳ないじゃないですか。――でしたら次、これはどうですか!」
賢者妹は魔杖を握り締めると、更に次の魔法を詠唱しだす。
「母なる大地の精霊よ。土と泥を捏ね上げ、仮初の命を生み出し給え――マッドパペット!」
すると賢者妹の周囲の地面がむくむくと盛り上がり出して、成人男性ほどの大きさをした人型を形作り、瞬く間に騎乗槍と盾を装備した鎧騎士の姿となった。
それもその数は全部で五体。賢者妹の前に矢じり型の規則正しい隊列で並んでいる。
広場の土で作られた騎士の人形は、まるで生きているかのように自然な動作で槍を構えると、一斉にレフィリアに向かって駆け出し突撃を行った。
「なるほど。これなら、ぼーっと突っ立っている訳には行きませんね。――ですが!」
レフィリアは素早い動作で軽々と槍を持った騎士たちの攻撃をかわすと、後方へ大きく飛び退いた。
「その程度では私を捉えることなんて――ひゃっ?!」
突然、何かがレフィリアの背後から高速でぶつかってきて、背中から彼女を勢いよく抱きしめた。
というか、半ばタックルに近いハグでちょうど胸を両手で鷲掴みにされた。
そのことに驚いて、レフィリアはふと握っていたスターペンダントを手から落としてしまう。
「あっ……?!」
後ろを確認すると、抱き着いているのは初期位置から動かず魔法を詠唱していた筈の賢者妹であった。




