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意志を継ぐ異世界の新戦力の話①

 ブレスベルク攻略に向けた会議を終え、レフィリアとクリストル兄妹は別室にて、ハーフドワーフの若旦那と話をしていた。


 クリストル兄妹は既に国王から提供されたスターペンダントを身に着けており、レフィリアもまた最後の一つを手渡されている。


 ルヴィスは先の会議で若旦那に意見したことを申し訳なさそうに陳謝していた。


「先ほどは疑いをかけてしまってすみませんでした。いくら警戒していたとはいえ、自分の非礼な物言い。どうか許していただきたい」


「いや、私の方もつい睨みつけてしまってすまなかった。以前、魔王軍に謀られたとあっては疑ってかかるのも当然のことです」


 若旦那はもう頭を下げんでくれ、とばかりに温和な表情を向ける。


「聖騎士レフィリア様だけでなく、かの勇者と同じ血を継ぐ者たちにも同行していただけるとは、私は本当に幸運だ。どうかこれから宜しく頼みます」


「そう言ってもらえるとありがたい。こちらこそ、宜しくお願いします」


 深々とお辞儀をする若旦那に、レフィリアは気遣うように声をかける。


「あっ、聖騎士様だとか、レフィリア様だなんて呼ばなくても大丈夫ですよ。私、様付けで呼ばれるのは正直苦手で……もっと気軽な感じで話しかけてもらえると寧ろ嬉しいです」


「そうなのですか? では、これからはレフィリア殿とでも呼びましょうか」


「でしたら、自分もルヴィスと呼び捨てで構いません。年下相手にずっと敬語は疲れるでしょう」


 その言葉に若旦那は少し困ったようにぽりぽりと頬を掻く。


「ううむ、私本来の話し方となると少しばかり荒っぽいのですが……その辺はそういうものということで、どうかご容赦頂きたい」


「いえいえ、その方が俺も共に戦うものとしてやりやすいので」


 ルヴィスはわざと馴れ馴れしいくらいの、にかっとした笑みを浮かべてみせた。


 続けてレフィリアも話題を変えようと、少し大げさに思える動作で若旦那の顔を覗き込む。


「それにしてもそのお髭、スゴい編み込みですね! セットとか手入れにかなり時間がかかるんじゃないですか?」


「ん? こいつですかい。まあ、ドワーフやハーフドワーフの男にとって髭は一番大事な身だしなみですからね。……もしかしてレフィリア殿は、ドワーフを見るのは初めてで?」


「あ、はい。それだけ立派なお鬚を蓄えている人を直接実際に見るのは初めてですね――」


 すると、がちゃりと部屋の扉が開いて、外からサフィアが姿を見せた。


「兄さん、ちょっといいですか?」


「ん? どうした?」


「私たちの討伐隊に加わりたいと志願しに来てくれた人を連れてきたのですけど」


 レフィリアたちが視線を向けると、サフィアの後ろには十代前半頃の可愛らしい少女がいた。


 その少女は背が低めで、大きな帽子にコートを身に着けており、手には自身の身長より長い魔法の杖を握っている。


「お初にお目にかかります。私は、皆さんがガルガゾンヌ攻略の折、共に同行させていただいた賢者の妹です」


 その自己紹介にレフィリアは内心、ぎょっとするくらい驚いて衝撃を受けた。


 まさか、あの男賢者にこんな可憐な妹がいたとは。


 そして同時に、レフィリアの心の中にはどこか罪悪感めいた暗い感情が沸き上がって来た。


 そんな彼女の心情など露知らず、かの男賢者の妹を名乗る少女は、はきはきと言葉を続ける。


「この度は皆さんのブレスベルク攻略の任に私も加えていただきたく、お願いに参りました。どうか私を討伐隊の一員として参加させてください」


 突然訪れた少女の訴えにレフィリアやルヴィスが言葉を詰まらせていると、それを見かねた若旦那が口を開く。


「お嬢ちゃん、判ってるかもしれんがこの任務はものすごく危険だ。死ぬかもしれんし、死ぬより酷い目に合うかもしれん。いくら聖騎士レフィリア殿と行動できるとはいえ、生きて帰れる保証はどこにも無いのだ」


「それは十分承知しています。私の兄だって、生きて帰っては来ませんでしたから」


 その言葉にレフィリアは動揺を隠しきれず、咄嗟に目を逸らしてしまった。


 それに気づいた賢者の妹は慌ててレフィリアに頭を下げる。


「あ、いえ! 別にレフィリア様を責めている訳ではありません! むしろ私は感謝しているのです。貴女と一緒に戦えて兄は光栄だったと……」


「だったら尚更、お嬢ちゃんは俺たちに付いてくるべきじゃねえ。見れば俺の娘とあまり歳が変わらねえじゃねえか。兄貴の敵討ちなんぞ考えてるのかもしれねえが、もしお嬢ちゃんに何かあったら、それこそ天国の兄貴も悲しむってもんよ」


 若旦那は少女の身を案じているつもりだが、賢者の妹は引き下がらず気丈な振る舞いを見せた。


「私が足手纏いになると考えておられるのですね。これでも私はエーデルランド一の王立魔導学院を主席かつ飛びスキップで卒業しています。自分で言うのもなんですが、魔法の腕ならば国が認めているほどなんですよ」


「そいつはすげえが、勉強が出来るのと実際の戦いは全然違う」


「別に私だって実践を舐めているつもりはありません。ですが私は戦闘でも魔法なら攻撃、補助、回復、そのほか幅広くこなせます。パーティ構成的にも私が一人いれば、とても便利だと思うのですがッ!」


 賢者妹の熱烈なアピールに、ルヴィスは顎に手を当てながら頷きを返す。


「まあ、確かに。魔法特化のエキスパートが一人いれば、全然違ってくるな」


「でしょうでしょう! 結界の作成も罠や敵の位置の探知も出来ますし、魔導具や薬品の生成だって出来ますよ! それに……」


 賢者妹は仰々しく自身の瞳を指差した。


「私、“魔審眼ましんがん”持ってるんですよ!」


「えっ、マシンガン?!」


 賢者妹の言葉に、レフィリアはつい驚きの声を上げてしまう。


 するとルヴィスが感心したように、賢者妹へ言葉を返した。


「魔審眼……先天的に優れた魔法使いとしての才がある者が持つという特殊体質だった筈。確か、“視た”だけで魔法や魔力で動作しているものを瞬時に解析できる能力じゃなかったか……」


「はい、この魔審眼を持っている人は世界的に見ても数える程しかいないんですよ!」


(何だ、ましんがんって機関銃のことじゃないんだ。てっきり、カリストロスと同じような能力が使えるのかと……)


 勝手に勘違いしていたレフィリアは心の中で一人、納得する。


 そんなレフィリアの顔をサフィアは不思議そうに見つめる。


「レフィリアさん、どうかしました?」


「あ、いえ……」


「私、絶対に皆さんのお役に立てる筈です。それに私、兄の敵討ちが目的で同行したい訳では……いえ、正直少しそれもありますけれど、そのこと以上に祖国と世界の為に戦った、立派な兄の志を継ぎたいのです」


 真っ直ぐ意志の籠った目で見つめる賢者妹に、若旦那もそれ以上反論を返すことは出来なかった。


 ルヴィスはレフィリアの方を向くと、おもむろに問いかける。


「レフィリア、最終的な判断は君に任せるよ。俺個人としては彼女の参入は良いと思う。彼女がいてくれるのは、確かに大きなプラスになる」


「…………」


「聖騎士様! どうか、どうかお願いします! 私を討伐隊に参加させてください!」


 賢者妹は必死になって頭を下げて頼み込む。


 しかし――


「……駄目です。申し訳ありませんが、参加は認められません」


 絞り出すような心苦しい声でそう言ったレフィリアに、賢者妹は泣きそうなくらい縋るような表情で詰め寄って来た。


「どうしてですか! 私の何に不満があるというのですか?!」


「いえ、貴方に不満があるという訳ではなく……」


 レフィリアとしては直接、男賢者の死を看取った訳ではないとはいえ、少しの間だけでも一緒に戦った彼の親族をまた戦場に連れて行くのは、あまりにも気が進まなかったのだ。


「私、絶対についていきますからね!」


 しかし今のままでは、彼女はいつまでも引き下がることはないだろう、ということは簡単に見て取れた。


 そこでレフィリアは一つの案を思いつく。


「――分かりました。私たちに同行したいというのであれば、一つ条件があります」


「そ、それは何ですか?!」


 するとレフィリアは、国王から手渡されていたスターペンダントを荷物の中から取り出した。

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