大魔導師と異世界で対峙する話⑧
――王城の最上階。
レフィリアとゲドウィンが拮抗したまま激しい攻防を繰り広げていた戦場が、急激に変化を見せ始めた。
「むっ、これはまさか……?!」
なんと、ゲドウィンが空間操作で拡張していた室内が元の大きさに戻ったのである。
ゴーレムは周囲が突然狭くなったことで壁に激突し、バランスを崩す。
(ルヴィスさん達、やってくれたんだ……!)
好機到来とレフィリアは即座に倒れたゴーレムの前に躍り出て、剣を深く構える。
レフィリアの持つ光剣の刀身が強く輝きだしたことに、ゲドウィンは警戒を強めた。
(この構え、前に使ったあの技が来るか……?!)
ゲドウィンは、フルメタル・ゴーレムを仕留めた光の刀身を伸ばして斬り払う斬撃を思い返す。
しかし、レフィリアの剣はその時よりもずっと強い光を放っていた。
それもその筈。レフィリアはここぞという時の為に、この決め技を使うために力をなるべく抑え、温存していたのである。
いわゆる必殺技。それを使うタイミングがまさしく、今だ。
「ディバインソード――」
レフィリアが剣を垂直に構えると、十字架型の柄から発生している光の刀身が一気に天井まで伸びたかと思うと、そのまま城の屋根を貫通して突き抜けていった。
なんと光の剣は刀身が100メートル近くまで伸びていったのである。
「スラッシャアアアアアアッ!!!!!!」
レフィリアが技の名前を叫びながら剣を垂直に振り下ろす。
まるでケーキに入刀するが如く城の屋根ごと両断されたゴーレムは、そのままVの字に素早く斬り払われた。
「えっ、ちょ――ぐえっ……!」
最後の一閃は、ちょうどゴーレムの斜め上辺りを浮遊していたゲドウィンも併せてぶった斬られた。
その巨体を解体されたゴーレムは再生することもなく、まるで飴細工が溶けるかのように形を崩していく。
「……ふう」
剣を振り終わったあと、光の刀身は一瞬で元の長さへと縮んでいった。
使ってみて分かったことだが、この技は魔力の消費が著しく激しいので連発は難しい。
加えて伸びた刀身の出力を支えるため、光剣の維持は数秒が限度であり移動しながらは放つことが出来ない。
必殺技のセオリー通り、相手がある程度消耗した上でのトドメの一撃として使うべきだろう。
レフィリアが呼吸を整えていると視界の外から気配を感じ、咄嗟にそちらを振り向く。
するとそこにはまた、五体満足な状態で復活したゲドウィンがいた。
レフィリアに気づかれた途端、何ともわざとらしくあたふたした様子でゲドウィンは話し出す。
「ちょっとちょっと今の何?! レフィリアさんって宇宙世紀出身のスゴイ人?! あのビーム剣って13キロメートルくらい伸ばせたりすんの?!」
早口で立て続けに喋るゲドウィンに、レフィリアは少し呆れながらも言葉を返す。
「そんなには伸びないと思いますけど……。それはそうと、まだ残機があるんですか?」
「いやあ、これで打ち止めだよ。地下のエリクシルが壊されちゃったもんだから、この城にある残りのリソースを全て僕の予備の身体を作るのに使ってしまった」
ゲドウィンはやれやれと首を横に振る。
「しかし驚いたねぇ。君ならともかく、ただの人間がここから地下まで辿り着いて、よもやエリクシルを破壊してしまうなんて。――まあ、特殊能力持ちはいたみたいだけどさ」
「貴方が人間を舐めすぎなだけです。――さて、最後のスペアを用意したところ悪いですが、ここで引導を渡しましょうか」
レフィリアはけして人に向けたことのない、感情の冷め切った処刑人の目でゲドウィンを見据えると、手に持った剣を構えなおす。
「おお、怖い怖い。だけど僕の方も、何とか首の皮一枚繋がったようだね」
圧倒的に不利な状況に立たされながら、ゲドウィンはいまだに余裕そうな態度を崩さない。
そのことが内心、気にかかりながらもレフィリアは彼を仕留めるために近づこうとする。
その時――
「やっほおうううう! おっまたせええええ!!」
レフィリアが斬り裂いて空いた天井の隙間から、突然何かが目にも止まらぬ速度で室内に侵入してきた。