無職青年が異世界に降り立つ話②
ところ変わって、ここは剣と魔法のファンタジーRPG風の世界。
この世界では数十年前、世界の裏側である魔界から、魔王率いる魔族の軍勢が突然攻め込んできて、人間や亜人の国々に侵略戦争を仕掛けていた。
魔王軍の魔の手は瞬く間に世界中へと及び、破壊と殺戮によって人類は一度、滅亡の危機に瀕した。
しかし、それも数年前に勇者と呼ばれる英雄とその仲間たちが魔王を打ち倒したことで魔族の軍勢は崩壊し、人類に再び平和な世界が戻ってきていた。
……ところが、魔王は倒されこそしたものの、死んではいなかった。
実は生きており、人間のふりをしながら戦いの傷を癒しつつ、密かに人類への再度侵攻を目論んでいたのである。
だが、魔王の企みは簡単にはいかなかった。
彼は、地上での拠点も配下も全て失い、加えて地上と魔界を繋ぐ唯一の補給線であった地獄門も勇者たちによって消滅させられてしまったのである。
地獄門は一つ造るのに多大な労力と資材、年月を要するので、魔界側から地獄門が造られるのを待っているほど、魔王は悠長に過ごしているつもりはなかった。
魔王は勢力再建と地上侵攻のきっかけとなるものを見つける為に各地を巡り、そして偶然一冊の古文書を手に入れた。
その古文書には超古代の旧文明人が遺した地下遺跡の存在と場所、そしてそこに眠る宝についての記述が書かれていた。
地下遺跡の宝とは、願いの宝珠と呼ばれる古代のアーティファクトであり、なんと異世界より強力な戦士や使い魔を召喚できるとされる。
その宝珠は全部で七個あり、一つにつき一人呼び出せるので、全て集めれば合計七人も召喚することができるという。
「こんな便利な物があるのなら、初めから使いたかったわ!」
遺跡内の通路を歩きながら、吸血鬼の伯爵を連想させるようなナイスミドルの髭親父が一人で叫んだ。
彼こそが魔王。配下を失い一人でいるようになって久しく、独り言が多くなってしまっている。
「だが、ものは考え様だ。こんな凄まじい魔力を秘めたアイテムの存在を人間どもに知られなかったのは幸いだった。私はまだ、やり直せる」
魔王は、迷宮といえるほど広い地下遺跡の仕掛けや魔物を攻略し、着々と宝珠を集めていった。
集めた宝珠の数は全部で六個。しかし、いくら探しても残り一個が見つからない。
最後の一個を探しだしてから二週間ほど経過し、魔王は考えを改めて一度地下遺跡から外へと出た。
「残り一つがどれだけ探しても見つからんが……まあ、六個もあれば戦力としては十分だろう。私が見つけられないものを人間ごときが見つけられる筈もない」
しばらくして、遺跡の近くにある森林地帯の奥に佇む廃城へと場所を移し、そこの大広間を召喚の儀式を行う場所へと選んだ。
床に六芒星の大きな魔法陣を描き、その角にそれぞれ宝珠を配置していく。
六個全ての宝珠を置くと、魔王は満足気ににやりと笑い、そして大仰に腕を突き出した。
「では参れ、異界よりの使徒よ!これより、魔王による新たな地上侵攻が開始されるのだ!」
魔王が魔法陣へと魔力を通し、六つの宝珠と魔法陣が激しく光り輝く。
次第に竜巻のような旋風が巻き起こり、稲妻のような轟音と閃光で視界は真っ白に塗り潰された。