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高く聳える異世界の大鐘塔の話①

「――近くで見ると、改めて大きな塔ですね。一体、何メートルあるんでしょうか……」


 ドライグ王国本土全体に作用している魔術式の基点があるとされる塔の敷地前までやって来たレフィリアは、100メートルを優に超える高さの石と鋳鉄で出来た荘厳な巨塔を見上げてはその天辺てっぺんを眺める。


 塔の屋根部分はまるで空に突き立てた槍を思わせるように鋭くなっているのだが、最上階の辺りにはこれまた大きな“鐘”が設置されているのが確認できた。


(いくら魔法技術があるとはいえ、重機とかがある訳でもないのによくこんな建物造れたなぁ……どうやったんだろう……)


「今でこそ魔王軍に接収されてバロウズの塔なんて呼ばれているが、ここは元々ノースバジリスカ寺院という大きな宗教施設だったんだ。この辺も平和な時は結構栄えて賑わっていたもんだが、こうも人通りがなけりゃ寂れる一方だろうよ」


 昔の光景を知っていると思われるキャプテンが何とも物悲し気に言うが、周りをキョロキョロと警戒していたルヴィスが彼に声を掛ける。


「しかし国の重要施設がある区域だというのに、まさか警備兵が一人もいないとは……。せめて門番くらいは置いて然るべきだろう」


 ルヴィスの言い通り、バロウズの塔の周囲一帯には巡回している魔族の兵士はおろかワイバーンすら一向に見かけない。まだ立ち入り禁止の看板があった辺りにはそれなりにウロウロしていたものだが、一番守るべき場所である筈のこの地点には誰の姿も全く見かけられないのだ。


「ああ、それについては俺も正直思うところはあるが……。だが、必要ないといえば必要はない。それだけこの塔の周りに張られている結界は非常に強力なんだ」


「そうなのか? 普通には視認できないが……」


「ああー……、確かにすっごくヤバいのが張られていますね。ここ……」


 魔力で動作しているものや魔法の罠などを見破ることが出来る賢者妹が、驚くのを通り越してもはやドン引きしたような顔でそう呟く。


「肉眼どころか魔力で強化した眼でも中々見えないようにしてありますがここの結界、メチャクチャ強力ですよ。触れたら一瞬でジュッて焼けます。というか、多分蒸発します」


「そ、そんなになのか……?」


「はい、これはきっとこの塔の地下に龍脈の“ツボ”があって、そこから組み上げたマナを攻性防壁ファイアウォールに仕立ててるんですね。――言うなれば、龍脈結界といったところでしょうか。接触すると、ドラゴンブレスの直撃と同程度のダメージを受けます」


「賢者の嬢ちゃんが詳しく説明してくれたが、まさしくその通りだ。俺たちも尋問した魔族から聞いたが、この結界は竜煌メルティカ本人が直々に張ったもんらしい。だからもしこの塔に用事があるときは、魔王軍の連中もボスが一緒じゃなきゃ入れないんだそうだ」


「この塔の結界、ウチにとってちょっとトラウマなんだよね……。前にここを破壊しようと来た時、先に歩いてた仲間が突然焼死しちゃったからさ。それも一瞬で……」


 本人にとってあまりに衝撃的で嫌な記憶だったのだろう、女発破師は辛い思いを顔に出さないようにしつつも視線を落としてしまう。


「メルティカ本人が張った、ドラゴンブレスと同威力の結界か。それは俺の鎧でも流石に無効化は出来ないだろうな……」


「当然、飛び道具も魔法も問答無用で結界に弾かれちゃうからね。だから他の施設と違ってここは手の出しようがなかったんだ」


 やれやれといった感じで肩を竦める女狙撃手であったが、その隣でキャプテンは腕を伸ばして塔の最上階に見える大きな鐘を指差す。


「これも尋問した魔族から聞いた話だが、塔の一番上に見えるあの大時鐘がくだんの魔術式の基点になっているみたいだ。勿論、元々は時刻を知らせる為の鐘なんだがな」


「確かにそうですね。キャプテンさんの仰る通り、あの鐘の部分に魔術式が仕掛けられているのが私にも確認できました」


 魔力で視力を強化しつつ魔審眼で遠く離れた鐘を視認した賢者妹がそのように述べ、女狙撃手もまた持ち前の超視力で塔の天辺を見据える。


「なるほど、じゃあ最初の予定通りに塔の最上階まで行ってあそこで例のアイテムを使えばいい訳だね」


「その為にはまず塔まで近づかないといけないがな」


「因みに聖騎士さまは塔の中に入らなくても、外からあの位置まで一気に行くことって出来たりします?」


 女狙撃手の問いにレフィリアは塔の最上階部分を見上げて答える。


「一応、塔の壁を走っていけば辿り着けると思います。ジャンプでひとっ飛びはちょっと厳しいかもですが……」


「へええ、走ってってこの塔を垂直に駆け上がってくってこと?! 魔法も使わずに?! それはそれでヤバいなあ……」


「ですけど、申し訳ないですが私一人であそこまで行ってもどうしようもないんですよね……」


 ばつの悪そうに話すレフィリアの言う通り、ただ塔の目的地まで行くだけならば結界も塔の高さも気にせずにレフィリア単騎で楽々乗り込むことが出来る。


 しかしレフィリア本人はたとえ使い捨てのスクロールやワンドのような、魔力を通すだけで魔法を発動させられるアイテムでも何故か扱うことが出来ないので、それ故に妖精女王ティターニアの涙も使用することが出来ないのだ。


 つまり結局は魔法を扱える誰かが実際に鐘のある最上階まで昇っていかないと魔術式の書き換えは行えないのである。


「大丈夫、誰もレフィリアさん一人に任せようなんて思ってねえぜ。その為の結界突破法もきちんと考えてきたじゃねえか!」


 ニカッと笑って元気づけるように言うキャプテンの言葉に、ルヴィスも続けて頷く。


「その通りだ。ということで――早速フォーメーションを組むぞ!」


 突然号令を掛けるようにそう言って、ルヴィス、キャプテン、女狙撃手の三人は真上から見ると三角形を描くようにして手を組み合った。


「レフィリア、君が話していた騎馬戦というものの……騎馬役の組み方はこれで合っているよな?」


「はい、それでオーケーですよ!」


「ようし、じゃあ早速乗ってくれ! 鍛えてる大人三人だからまず落とすことはない筈だぜ!」


「見ての通り、アタシが真ん中だから安心してねー。……っていうか、聖騎士さまの元いた世界って変な競技やってるんだねぇ。人間が人間に乗るとかさあ」


 女狙撃手を先頭にルヴィスとキャプテンが左右それぞれの後方へついた人間による騎馬にレフィリアが乗っかることで、学生が体育祭に行う騎馬戦で見られる体勢がそのまま完成する。


 そしてその両サイドに杖を構えた賢者妹と女発破師が並んだのを確認すると、レフィリアは光剣を出現させてそれを目の前に突き出し叫んだ。


「ブロードシールドッ――!!」


 途端、レフィリアの周囲に光の障壁が展開され、キャプテンが全員に声を掛ける。


「制限時間は20秒だ! それまでに塔の入口まで辿り着くぞ! 横の二人もバリアの外に出るなよ!」


「了解です! 結界は三重になっていますが、入口まで行ったら安心していいですよ!」


「おう、それじゃあ行くぜ!」


 キャプテンの号令とともに、まさしく騎馬戦の如くレフィリアを乗せた状態のまま三人は足並みを揃えて塔の入口まで一気に走っていく。


 ――実はレフィリアのブロードシールド、味方を守ることが出来る強力な防御特技ではあるのだが、シールド展開中は自分で移動できなくなるという欠点がある。


 しかしこのように“何か”や“誰か”に動かしてもらえばレフィリアを基点として張られる障壁の位置を動かすことが出来るので、パーティ全員が安全に龍脚結界を超える為の手段としてレフィリア自身が前以て考案していたのであった。


 本当ならば戦術的に考えて、対メルティカ戦前に使うべきでないことはレフィリアも解っているのだが、考えても代案が浮かばないものに対していつまでも出し渋っている訳にもいかない。


(騎馬戦なんて中学の運動会ぶり……! しかも前やった時はたしか馬の方だったから、騎手役は初めてだなぁ……!)


 自分で案を出しておきながらちょっと恥ずかしくも内心テンションの上がっているレフィリアであったが、彼女のシールドのお陰もあって難なく一行は塔の入口前まで到着する。


 入口には頑丈そうな鉄製の大扉があって当然鍵がかかっているのだが、やって来てすぐに賢者妹は魔杖を構えると呪文を唱え始めた。


「音断つ領域、サウンドプルーフ!」


 すると賢者妹の魔杖の先から淡い光の膜が広がり、周囲の半径十数メートル程を包み込んでいく。


「防音の結界を張りました! 派手にやっちゃって下さい!」


「了解、それじゃこんなものを使っちゃおうかなあーッ!」


 賢者妹からの合図に答えると、女発破師は自身の纏う黒いマントの中から何やら、ワイヤーに平たい板のようなものが鎖状に幾つも並んで繋がれた道具を取り出す。


 それを鞭のようにしならせて伸ばすと、彼女は鉄扉に向かって鎖状の何かを張り付けるように投げつける。


 そして板のようなものが扉にペタリとくっついて数秒経った後、それらは連鎖的に爆発を起こして鉄扉を粉々に吹き飛ばしてしまった。


「よし! 扉だけをきれいに破壊して見せたよ!」


「えっ、今の何だったんですか?! 魔導具ではなかったみたいですけど……」


「ウチ特性のチェーンマイン。魔法や魔力を一切用いない、絡繰り仕掛けの爆弾だよ。もし魔法が使えなくなった状況のことも考えて、色々と装備してるんだよねぇー」


 そう言って女発破師はマントを捲ると、その中にダイナマイトのような筒状の爆薬や手榴弾のような何かを幾つも携帯している様子を見せつける。


「う、うわぁ……。もし火炎の魔法とか食らっちゃったらどうするんですか……」


「大丈夫、ウチのマントは火精サラマンダーの加護で炎耐性はバッチリだから! 誘爆対策はきちんとしているよ!」


「でもあんまり傍に寄ってほしくないです……」


「えー、何でよー。ウチら友達になったんじゃなかったのー?」


「はい、そこ。無駄話してないでちゃっちゃと入るよー!」


 念のため、騎馬状態を崩さないまま塔に開いた入口から中へ入ろうとする女狙撃手が二人の少女たちを窘める。


「す、すみません……!」


「あ、ちょっと待ってよー!」


 慌てて二人は離れないように着いていき、一行は全員無事に塔の中へ侵入を果たすのであった。

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