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風精の谷と異世界の避難民の話④

 結局、レフィリアたちは緑色の肌の少女に連れられて、彼女たちが隠れ家として利用している山賊団のアジト跡までやって来ることになった。


 崖の中に坑道を掘るようにして作られた住居の中には、レフィリアたちに襲い掛かって来た小人の妖精たち以外にも、毛むくじゃらで小動物のようなブラウニーや大きな葉っぱを携えたコロポックル、鉱夫を思わせるノッカーといった、多種多様な妖精たちの姿がちらほらと見受けられる。


 だいぶボロボロではあるが木製のテーブルと幾つかの椅子がある、少し広めの部屋まで通されたレフィリア一行は案内された席に腰かけると、それに面と向かう形で緑色の肌の少女と先ほどの少年が机を挟んで座った。


「それでは改めまして、ここが各地から逃げ延びた妖精たちの隠れ家です。埃っぽくて色々汚いのですけど、どうか我慢してくださいね」


「いや、そんなことは気にしないが……。それより良かったのか? 善性妖精とはいえ、妖精たちの住処に俺たち人間の集団を招いちまって」


「今回は特別です。それにここにいる妖精たちは結局、こんな世の中になっても人間と袂を分かつ生き方を選べなかった――良くも悪くも人間と関りを持たなければ生きていけない妖精の集まりですから」


「そうか……。ところで失礼な話に聞こえたら申し訳ないんだが、嬢ちゃんは――」


「おいオッサン」


 キャプテンが緑色の肌の少女に問いかけようとしたところで、急に隣の少年が話に割り込んでくる。


「ん、どうした坊主?」


「あんまコイツのこと、変わったもの見るような目で見るんじゃねえよ。他の連中も同じだけどな」


 少年の露骨に苛立ちが混じった発言に、レフィリアを含めて内心ドキッとしたものたちが表情には出さずとも心の中で焦りを見せる。


 しかし当の少女はやんわりとした表情で微笑みながら首をゆっくり横に振った。


「いえ、いいんですよ。私を始めて見た人間の方にとっては当然の反応です。オジサマも私の見た目のことが気になっていたのでしょう?」


「……すまん。別に気味悪がってたつもりはないんだが、それでも不快にさせてしまったのなら謝る」


「その必要はありません。奇妙な物を見る目を向けられるのは慣れてますし、オジサマが良い人なのは一目見て分かりましたからね。――実は私、ハーフゴブリンなのです」


「ハーフゴブリン……ッ?!」


 緑色の肌の少女の回答に、部屋の中には隠し切れない程のざわっとした空気が広がり、女発破師がつい口を開いてしまう。


「ハーフゴブリンって……。てことはゴブリンの血が混じった“人間”ってこと……?!」


「はい、そうなりますね。因みに父がゴブリンで母が人間になります。珍しいでしょう?」


「珍しいってもんじゃないよ! 希少も希少! 雌性体のゴブリンですら超珍しいのに、ハーフゴブリンとか途方もない確率でしょ!」


 女発破師が興奮気味に話す中、その理由がいまいちよく分かっていないレフィリアが小声で隣に座るサフィアへと質問する。


「えっと、女性のゴブリンってそんなに珍しいんですか?」


「はい、ゴブリンは魔物としては妖魔や悪性妖精にカテゴライズされるのですが、オーク等と同じく基本的に雄性体しかいません。ですので子孫を残す際は他の生き物の雌性体を狙うのですが、ごく稀に雌性体のゴブリンが生まれることがあります」


「それってどのくらいの確率だったりするんです?」


「通説では、100体いるうち1体いれば良い方と言われていますね」


(茶トラネコの雌が希少なのと同じものかな……?)


「そもそもゴブリンが孕ませた他生物の雌性体はゴブリンしか産めなくなるのですが、それこそ神の手違いレベルの低確率で人間ベースとして生まれてきたのが彼女ということになるのでしょう」


「はあ……」


「ですが私の生まれなんて確率が少ないというだけで、何の自慢や誇りにもならないのですよ。むしろ忌むべき呪いです。ゴブリンから見れば私は人間、逆に人間から見ればゴブリンですからね。ただただ私の母が野蛮で薄汚いゴブリンに襲われた結果、出来てしまった子供が私というだけです」


 ハーフゴブリンの少女は儚い笑顔でそう述べるが、その表情の奥には今まで様々な迫害や辛い目にあってきたのだと思われる悲壮な雰囲気が垣間見えてしまう。


 それを感じ取ったキャプテンが、気まずそうな顔をしながら彼女へと手のひらを向ける。


「……悪い。別にそこまで話を広げるつもりはなかったんだが……」


「構いませんよ。それに生まれで言ったら、横にいる彼の方がよっぽど素晴らしいのです。彼は何ていったって“ハーフフェアリー”ですからね」


「おい、おまッ……!!」


 まるで我が事のように誇らしげな表情になりながら隣に座る少年に手をかけて少女は述べるが、その発言に一同は更に驚きの反応を示す。


「は、ハーフフェアリーだって……?!」


「それは確かに凄い……!」


「君、ただの人間ではなかったんだね。何ていうか、普通じゃない不思議な雰囲気は感じてたけど……」


 口々に驚きの言葉を述べられ、少年は戸惑いながら唐突にカミングアウトした少女に食ってかかる。


「ちょっ、お前何勝手にバラしてんだよ……!」


「だってどうせ、この後の本題について話す時に必要になってくるでしょう? なら先に話しておいてもいいじゃない」


「にしてもだな……!」


 部屋の中が余計ざわつき出す中、またもや今一つよく分かっていないレフィリアが小声でサフィアへと問いかける。


「サフィアさん、ハーフフェアリーって何なんです? 名前的に何となくニュアンスは判りますけど、何で皆そんなに驚いてるんですか……?」


「ええと、ハーフフェアリーとは文字通り、人間と妖精の合いの子のことですが……。まず妖精とは生殖で増える生命体じゃないので、生殖機能がないのです。よって普通なら混血というのは有り得ないのですよ」


「えっ?! でも、この子はハーフフェアリーって……」


「ですが極めて超稀なケースで、どういう理屈かは不明ですが人間と妖精の間に子供が出来る事があります。その場合、その子供は非常に優れた能力と資質を備えることになりますので、だいたい神童として持て囃されるか、真逆に忌み子として迫害を受けるかの両極端な人生を送る訳ですが」


「た、確かに妖精と人間の間に生まれた子供って凄そう……。なんか物語の主人公とかにいそうって感じで……」


「そういえばドライグ王国王家の祖先もハーフフェアリーだったという話です。本当かは判りませんけどね」


 レフィリアとサフィアがこそこそ喋っている中、ルヴィスが何かに思い至ったように所感を述べる。


「なるほど、だから混血の君たちは妖精たちの仲間としてこの隠れ家で共に生活をすることが出来ているのか。いくら善性妖精とはいえ、ただの人間がずっと一緒にいることを認めてもらえるかは怪しいし、そうでなくても何かしら影響を受けかねないからな」


「あー、確かノーマルな人間だと幾ら関係が良好でも妖精とずっと一緒にいれば何かしら変異しちまうって話だな。そこんとこ、お前さんなら大丈夫なんじゃねえか?」


 キャプテンに指差された女狙撃手はうーんと腕を組みながら、これ見よがしに尖ったエルフ耳をピクピクと動かす。


「どうだろうねー、確かにアタシはハーフエルフだけど。まあ、キャプテンたちよりは少しマシって程度なんじゃない?」


「――さて、私たち二人のことについてお話したところでここから本題に入りますけど」


 ハーフゴブリンの少女の言葉にざわざわしていた室内が急に静まり返った直後、ちょうどのタイミングで出入り口のドアから、エプロンドレスを着た女性型の妖精であるキキーモラが入って来たかと思うと、手に持っていた小さな木箱をテーブルの上に置いてまた部屋の外へと出て行ってしまった。


「私は龍都ブリダインへ赴き、魔王軍を討伐せんとする皆さんに、コレを託したいと思っています」


 そう言って、少女は木箱を開いてはその中身が部屋にいる全員に見えるよう、テーブルの中央に持っていく。


 それは角錐の形状をした紫水晶のような美しい宝石に黄金の鎖が繋がれた、一見するとアクセサリーにも思える何らかのアイテムであった。

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