大魔導師と異世界で対峙する話①
――城郭都市ガルガゾンヌ。
エーデルランドへ逃げ延びたシャルゴーニュの民から得られた情報により、レフィリアたちは地下用水路内の抜け道を通り、無事に外から都市内部への侵入を果たした。
ひとまず敵に見つかっていないレフィリアたちは、事前入手した情報を元に物陰などに隠れながら路地裏を進み、城の近くにあるという倉庫を目指す。
倉庫の傍には市街と城内を行き来できる要人脱出用の隠し通路があり、そこから城の内部へ侵入するという手筈だ。
そして、これまで会敵して騒動を起こすこともなく隠し通路を進んでいったレフィリアたちは、これより城内に出るという扉の前で一旦、立ち止まっていた。
先頭の竜騎士が向き直り、後ろの男賢者に声をかける。
「この扉を開ければ、ついに城内だな。――では、また“アレ”を頼む」
「あいよ」
そう言うと男賢者は自身の両目を片手で覆い隠した。
その姿勢のまま数十秒ほど無言で立ち尽くしていたかと思うと、急に口を開き始める。
「――ビンゴ。いやがるぜぇ、とびきりでかいのがよぉ」
男賢者の様子を眺めながら、レフィリアは感心そうに小声で女僧侶と話す。
「それにしても便利な能力ですね。えっと、《生命の探眼》でしたっけ。彼のお陰でここまで、ほとんど戦わずに進んで来れました」
――生命の探眼。
この男賢者は生まれつき、そう名付けられた彼固有の特殊能力を持っている。
その内容は自分の中に意識を向けて集中することで、認識できる範囲内の生命の数と質、量と場所を視ることが出来るというものだ。
これは一種の透視能力で障害物など関係なく、生きているものの立体的な位置と数を知ることが出来る。
厳密には生体反応感知ではなく、生きているように動けるかという動力を熱量として視る一種の概念的な探知で、アンデッドやゴーレムといった本来、生物ではないものも見通すことが可能と融通も利くとか。
また、探査に魔力を用いていない、あくまで超能力の一種なので魔導妨害によるジャミングを受けることもない。
把握できる範囲も、男賢者の脳の容量もあってか今いる王城全体をギリギリ見通すくらいには認識できた。
この能力により事前に近くの生命反応を感知し、それを避けることでレフィリアたちはほぼ敵と出会わずにガルガゾンヌへの侵入を果たせたのである。
「この能力が無かったらこいつの存在価値の半分は失われるけどね」
「おい、聞こえてっぞゴリラ僧侶。……しかし妙だな」
男賢者の神妙な呟きに、杖でどつこうとした女僧侶は怪訝そうに手を止める。
「妙って何よ」
「でかい反応が城の最上階近くと地下にそれぞれ二つある。――最上階の方はレフィリアの姉さんと同じような万単位の力の塊が一つ……多分、こっちがゲドウィンだ」
そう言って男賢者は手を両目から離し、足元を訝しげに見下ろした。
「だが、地下の方は何とも異質だ。なんていうか、一の力の塊が千だか万だかの数で一カ所に無理やり集められている……そんな感じだ」
男賢者の言葉に数秒の沈黙が流れ、ルヴィスが口を開く。
「地下の反応というのも気になりますが、まずはゲドウィン討伐が優先でしょう。とりあえずゲドウィンがいると思しき、本丸へと向かいましょうか」
「そうだな。ゲドウィンの野郎を倒した次に地下の方を確認してみるか。――ひとまず今視た限りじゃ扉の傍に反応はねえ、安心して開けていいぞ」
「ああ――では行くぞ」
竜騎士が先導し、隠し通路から城内への扉をゆっくり開く。
扉の先に見える通路には、ひとまず敵の姿はない。
レフィリアたちはいつ襲われてもすぐに攻撃できるよう武器に手を添えながら、城の奥へと進んでいった。
◇
――ガルガゾンヌの王城内には、今のところほとんど魔族や奴隷にされている人間の姿は見受けられなかった。
代わりに人骨の魔物であるスケルトンの兵士や、石で出来たゴツイ人型の警備用ゴーレムが通路内を巡回している。
スケルトンに至っては剣や槍といった武器だけでなく、きちんと一人一人に鎧まで与えられた徹底ぶりだ。
レフィリアたちは男賢者の“生命の探眼”によって事前に敵の位置を探り、隠れたりやり過ごしたりしながら城内を進んでいく。
しかし中にはどうしても戦わざるを得ない場面もあり、その時は大きな騒ぎにならないよう奇襲などで速やかに敵を屠っていった。
幸運なことにこれといった罠や仕掛けに遭遇したり、全員が痛手を負うこともなく、やがて一行はゲドウィンがいるであろう一室のすぐ傍まで辿り着く。
レフィリアたちが足を踏み入れたそのフロアは不自然なほど室内が広くて天井も高く、もはや部屋というよりホールといった構造であった。
そして一番奥には、明らかに玉座か何かがあるといったような、豪奢で大きい扉が存在している。
――加えてその扉の左右には、まるで金剛力士像のように物々しい巨人のような像が置かれていた。




