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男子禁制の異世界地下迷宮の話②

「――では不肖ながら私が、罠の探知と索敵を担当させて頂きます」


 ダンジョン内にレフィリアたちが侵入してすぐ、焦らずに中を歩いて進みながら、賢者妹がそう言って手に持った魔杖をグッと握り締める。


「命の灯火を探れ――ライフディテクション」


 彼女が今、発動させたのは生命探知の魔法であり、その言葉通り自身の周囲にいる生き物の生体反応を知覚することが出来るようになる。


 ただし彼女の兄であった男賢者が生まれつき所有していた固有能力、“生命の探眼”ほどの範囲と精度はなく、あくまである程度近い距離までの生物の存在証明がざっくりと認識できるだけだ。


 また、あくまで生体反応の感知であるため、ゴーレムやオートマタといった非生物までは識別することが出来ない。


 しかしそれでも、これから進む先に自分たち以外の何かがいるかどうかを事前に知ることが出来るのは、安全面において大きなアドバンテージとなる。


 加えて、賢者妹は魔力や魔法で動作しているものを一目で認識、解析できる“魔審眼”の所有者でもあるため、魔導式のトラップならまずもって知らずに引っかかるようなことはない。


「とりあえず今のところ、魔物の反応は感じられませんね。ですけど、気をつけて進みましょう」


 しばらくは会敵することはない、との判断が下され、一行は道中の罠に気をつけながらダンジョンの内部を進んでいく。


 そして石造りの通路を数分ほど歩いたところで、部隊パーティの最後列にいる蒼の獣団の女性二人のうち、桜色の髪をした背の低い魔導士の少女が、ふと賢者妹に声をかけてきた。


「ねえ、君。ちょっといいかな?」


「はい、何ですか?」


 歳の近そうな少女の声掛けに賢者妹は親し気な調子で答えるが、魔導師の少女はあくまで無表情かつややドライな口調で問いを投げる。


「君って別に冒険者とか傭兵って訳じゃないんでしょ? 何で魔王軍の、それも六魔将討伐なんて任務に参加してんの? もしかしてエーデルランドの王国から派遣された直属の精鋭だったりする?」


「え? いえ、別にそういう訳じゃなくてですね……。王国から派遣されたのはあくまで私の兄だったのですが、戦いで亡くなった兄の意志を継ごうと、無理してパーティへの同行を頼み込んだといいますか――」


「ふーん、それは立派だね。ていうか“賢者”って職業クラス自体、簡単に名乗れないとは思うけど。アレって全世界基準の超難解な国家試験通らないと、公式に称号使っちゃダメじゃなかった?」


「えっと……。その試験は一応、通りました。私、王立魔導学院を卒業してまして――」


「へー、その歳で学院出てるんだ。君、私よりも少し年下なくらいでしょ? 天才なんだね。そもそも賢者って二十代でなっても超凄いってのに、十代でなるなんて天才の中の天才なんだね」


「そ、それ程でも……」


 賢者妹は素直に自分が褒められているものだと認識して照れくさそうにしていたのだが、魔導師の少女――女発破師の口調は次第に冷たいものへと変わっていく。


「君さ、お勉強が出来たのもだけど、王立の学校に通わせてもらえるだけの裕福な家庭に生まれて幸運だったよね。ウチなんて身寄りのない孤児だったから、学校で魔法なんて学んだことなかったよ」


「あっ……。えっと、それは……」


「それでも魔法の才能があったから武力組織に引き抜かれて食いつないでこれたけどさ。教えてもらった、もしくは独学で習得した魔法は全て、仕事で必要な――何かを壊したり誰かを殺したりするためだけの野蛮なものばっかりだよ」


「う……」


「まあ、だからこそ今、その攻撃と破壊に特化したウチの魔法が蒼の獣団の役に立ってるんだけどね。でもウチは君のことが羨ましいな、色んな魔法が学べるのって楽しいでしょ? 本当に羨ましいな」


 幾らかは本当に羨望の気持ちもあるのだろうが、明らかに皮肉の籠ったトゲのある口調の言葉に、賢者妹はどう返していいか困ってしまい、口ごもってしまう。


 何だか嫌な空気だなあ、とレフィリアが内心思っていると、今度はモスグリーンの服を着てクロスボウを装備した茶髪の女性――女狙撃手が、レフィリアに向けて声をかけてきた。


「ねえ、聖騎士さん。聖騎士さんはシャルゴーニュとブレスベルクを救ったって話だけど、他にも別の国に行ったりしたの?」


「あ――えっとですね、ナーロ帝国とウッドガルドにも行きました。ナーロ帝国の方はちょっと上手くいかなかったのですが、ウッドガルドの方は首都のみなら一応、解放した状態です」


「はー、そうなんだー。じゃあとりあえず敵の居城を三つは落としたんだねぁ。――んじゃあ、もしかして六魔将ってもう、三人しか生き残ってないってこと? それはホントにスゴい! だったら竜煌メルティカで四人目になるんだ。流石は噂に名高い英雄様!」


 とても感心したように早口で喋る女狙撃手に、レフィリアはバツが悪そうな声色で返答を行う。


「その、言いにくいんですけど別に六魔将たちを倒せた訳ではなくてですね。あくまで追い払っただけというか……」


「えっ、何で?! 何で仕留めてないの?! まさか国は救ったけど、誰一人も倒してないとか言わないですよね?!」


「……はい。実はその通りなんですが……」


 レフィリアの言い辛そうな答えに、女狙撃手は如何にもわざとらしい口調で声高に話を続ける。


「いやいや、トドメを刺してないってそれ救ったとは言わないでしょ。確かに六魔将とやり合って生きてるだけでも超凄いですけど、いくら国を解放しても連中を生きて返したら、また攻め込まれちゃうじゃないですか!」


「仰る通りです、すみません……」


「うーん、救国の聖騎士っていうくらいだから、もっと一方的に六魔将たちを片っ端からやっつけてるものかと思ったんだけどなあー」


 何だか説教を受けているような感じになってしまい、レフィリアのやる気に溢れていた気持ちが次第に滅入ってきてしまう。


 明らかに鬱屈とした空気になってきてしまったため、先頭を歩くサフィアが見かねて小さく息をつくと、静かではあるがやや厳しい声で後続の彼女らを窘めた。


「――お二人とも、お言葉ですがダンジョンの探索中ですよ。私の仲間を過度に困らせて、集中を乱さないでほしいのですが」


 サフィアの言葉に、やれやれといった感じで肩を竦めながら、女発破師が返答する。


「え? この程度で気が散っちゃうの? そんなんじゃ龍都ブリダインの攻略なんて、とてもじゃないけど無理なんじゃないかなぁ?」


「それこそ、また六魔将を倒せずに取り逃してしまうことになるんじゃないですか?」


「………………」


 サフィアに注意されても態度を改めるつもりのない女二人であったが、その時、賢者妹は何かを感じ取ったようにピクリと反応して眼前を差す。


「サフィアさん! あの通路の曲がり角の先から、生体反応を感じます! 数は一体のようですが……!」


「――ッ! 皆さん、魔物かもしれません。警戒を厳に!」


 サフィアが双剣を構えなおしながら全員に言い放ち、レフィリアもまた光剣を強く握り締める。


 今いる位置からでは、通路の曲がり角の先にいるという存在の姿は確認できない。


 しかし何かの気配に関しては、レフィリアも微弱ではあるが少し感じ取れている。確かに何かが、この先に潜んでいる。


 レフィリアたちは警戒を緩めないようにしながら、落ち着いてゆっくりと通路の突き当りまで歩みを進めていった。

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