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思いがけぬ異世界の助け舟の話②

「同業者……?」


 首を傾げるレフィリアに、キャプテンの男は人差し指をピンと立てながらさり気なくウインクをする。


「おうよ。よくは判らんが、アンタらは空飛ぶ乗り物か何かでドライグ王国までぶっこみをかけに行くつもりだったんだろう? ……違うか?」


「ええと、その通りではあるのですが……」


「ほらな、そんなとこだろうと思ったぜ。……しかし、アンタらみたいな顔ぶれはこの辺じゃ見かけたことが無い。もしかして他所の国から出向いてきた抵抗勢力の一員か何かか?」


「抵抗勢力というか……私たちは正式な王命を受けて、ドライグ王国を支配する魔王軍の管理者、六魔将の一人である竜煌メルティカを討ちにいくところだったのです」


「うはっ! 竜煌メルティカって、よりにもよって敵の頭目トップを討ち取りにいくつもりだったのか! そいつはまた大きくでたなぁ! ……って、まさかおい」


 キャプテンの男は急に神妙な面持ちになると、レフィリアの顔をじっと見つめてくる。


「アンタら、もしかして今噂に名高い英雄の聖騎士様とその一味じゃあねえだろうな……?」


「えっと、一応世間的にはそう呼ばれていたりしますね。はい……」


「マジかよ! そいつは僥倖っつーか、最高の拾い物をしたぜ! ガッハハハハハ!」


 レフィリアの肯定にキャプテンの男は呵々大笑とばかりに破顔して喜ぶと、グッと拳を握って自身の分厚く立派な胸板を叩いてみせる。


「だったら、改めて自己紹介しよう! 俺はこの船の船長だが、それと同時に対魔王軍を掲げる抵抗組織、《蒼の獣団》の団長リーダーでもある!」


「蒼の獣団……ッ?!」


「抵抗組織だって……?!」


「まあ、いわゆるレジスタンスってヤツだ! ドライグ王国を魔王軍れんちゅうに占領されちまった後、生き残った王国民や冒険者らで構成されている」


「そして魔王軍からの王国奪還に向けて動いているのですが、現在は主に敵の戦力を削ぎ落す為のゲリラ活動を中心に行動しています」


「っと、因みにこっちの細目なちょび髭のオッサンは、これでも組織うちのサブリーダーだ。仲間内からは“ドクター”って渾名あだなで呼ばれている」


 キャプテンに親指で差され、ドクターと紹介された壮年の男はぺこりと頭を下げる。


「どうも、宜しく。といっても、別に医者じゃあないんですけどね。ちょっとドルイドを齧ってたことがあるだけと申しますか……。因みに本業は占い師だったりします」


「はあ、こちらこそどうも……」


 二人が自己紹介をしたところで、出入り口の方から救急医療用の道具一式や担架などを運んできた船員たちが慌ただしく駆け込んでくる。


「とりあえず今はそっちの怪我してる兄さんを手当てして、休ませてやらんとな。――アンタらも海水に濡れて気持ち悪いだろ? 船内にも着替えとかタオルくらいはあるから、まずは身体を拭いてくるといい。お互いの話はそれからゆっくりしよう」


「すみません、何から何まで……」


「いいってことよ。それじゃ更衣室まで案内するからついてきてくれ」







 キャプテンたち、蒼の獣団の厚意で海水塗れになった身体を拭き、着替えまで用意してもらったレフィリアたちは身支度を整えた後、船内にある食堂や娯楽室などを兼ねた休憩室へと集まる。


 その際、お礼に加えてレフィリアたちも軽い自己紹介を行ったのだが、ついでにルヴィスとサフィアがせめてもの身分証明の為に見せたアダマンランク冒険者を示すプレートを目にした途端、キャプテンは目を大きく見開きながらまるで興奮を押し隠すような表情で兄妹を見た。


「嘘だろ、アンタらがあの有名なクリストル兄妹だってのか……? ううむ、しかしこのアダマント製プレートの煌めきと、冒険者組合の刻印は紛れもなく本物。まさかこんな場所で、かのアダマンランク冒険者様に巡り合えるなんて、人生分かんねえもんだな!」


 鼻息を荒くして早口で喋るキャプテンの横で、やれやれとやや困り顔でドクターが肩を竦めてみせる。


「実はキャプテン、こう見えて冒険者界隈のマニアだったりするんですよ。まあ、彼本人もゴールドランク冒険者なんですけどね」


「今は休業中だけどな。俺なんか、アダマンランクの皆さまになんて足元にも及ばねえ。……後で個人的にサインとかもらってもいいですかね?」


「え、ええ……。それは構いませんが」


 キャプテンの興奮を隠しきれていない、まくし立てるような様子にやや気圧されてしまうルヴィスたちであったが、それはそれとしてと、キャプテンは咳払いを一つして話を元の路線に戻す。


「そんじゃま、ウチらのことについてもっと詳しく話をするとしようか。――先にも話したが、俺たちは王国奪還を目指すレジスタンス組織、蒼の獣団。そして今、俺たちがいるこの船は組織の旗艦である潜航艇、その名も《キング・ノーティラス号》だ!」


「キング・ノーティラス号……?!」


「な、なんかカッコいいな……!」


「だろ? 解ってくれて嬉しいぜ、ルヴィスさんよ!」


 したり顔で腕を組むキャプテンの横で、ドクターが特に表情も変えない真面目な顔つきのまま説明を続ける。


「まあ、本来の名称は《海裂く鯨艇ノーティラス》っていうんですけどね。キング・ノーティラス号ってのはキャプテンが後からつけた名前で」


「だって、そっちの方が呼びやすくてカッコいいやろがい!」


「海裂く鯨艇ノーティラス……」


(その名前、明らかに古代の遺物アーティファクトっぽい……。じゃあ、やはりこの船も……)


 レフィリアが内心そのように考えていると、キャプテンが更に饒舌になって自分たちの旗艦についての詳細を語り出す。


「この船は、俺がまだ冒険者やってた頃に偶然手に入れた古文書を頼りに発見した“海底遺跡”の奥から見つけ出したもんだ。海中を自在に移動できるコイツがあったからこそ、俺たちは魔王軍相手に何とか生き残って来ることが出来た」


「因みに僕たちの組織はこの潜航艇の他にも、商船だったものを改造した魔導ガレオン船のフリゲイトを保有しています。キング・ノーティラス号は旗艦フラグシップではありますが襲撃作戦時は主にサポートへ周り、王国本土へ直接近づいての人員輸送はフリゲイトの方にて行います」


「そんで王国各地の沿岸部から本土へ潜入して、魔王軍の施設に放火や爆破といった破壊工作をして回っているんだ。姑息な手だが、俺たち程度じゃ流石に魔王軍と正面からやり合うことは出来ない。せいぜい嫌がらせをしてやるくらいが関の山だ」


 困ったもんだ、というふうにキャプテンは首を横に振る。


「だが、何もしない訳にはいかねえ。竜煌メルティカ率いる魔王軍どものドライグ王国での役割は、竜騎兵団の練兵とそいつらが乗る飛竜の育成――つまりは兵力の増強だ」


竜騎兵ドラグーンは機動力が高く小回りが利き、火力もあって制圧能力に優れる、極めて強力で厄介な存在です。そんなものが増え続ければ、ドライグ王国どころか世界全体にとって大きな脅威となってしまう」


「だから連中の飼育施設や練兵場、食糧庫や資材倉庫なんかを襲撃しては焼き払って回ってるんだ。ちっとでも数を減らしていかないと、取り返しのつかないことになるからな」


「――ちょっと待ってください。皆さんが神出鬼没なゲリラ活動を行っているのは判りましたが、そもそもどうやってドライグ王国本土へと侵入しているのですか?」


 ふと気づいたサフィアの質問に、隣に座るルヴィスもまた同意して問いを重ねる。


「そうだな。今のドライグ王国領海はワイバーンの偵察部隊が飛び回っていて、船舶で王国の海を渡ることなんか出来ない。この海の中を進める船ならともかく、帆船による航行なんて不可能じゃないのか?」


「まあ、普通ならそうだな。しかし、俺たちにはもう一つの“秘密兵器”がある」

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