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今後向かう異世界の出発先の話①

 天翔ける船箱アークにてエーデルランドへ戻って来たレフィリア一行は、すぐに王立病院へと向かい、ジェドを入院させる手続きを済ませてきた。


 その後、一旦ソノレとエステラ、そしてオークの助手をクリストル兄妹の自宅に待機させて、ルヴィス、サフィア、レフィリア、賢者妹の四人は急遽、王城へと足を運んで国王との謁見を申し出る。


 急な来訪ではあったが、王都への襲撃事件後からすぐに旅立ってしばらく音沙汰の無かったレフィリアたちの帰還を知り、国王は急ぎ支度をしては快く出迎えてくれた。


「おお、よくぞ戻ったな。ナーロ帝国に旅立たせてから同行が判らなかった故に心配していたが、無事なようで何よりだ。また、お主たちのその勇ましい顔立ちを見れて嬉しく思う」


「我々には勿体ないお言葉、誠に感謝致します。国王陛下」


「うむ。連れ去られたという賢者の少女も救出して帰ってこれたということは、ナーロ帝国の方も魔王軍の支配から解き放ってきた、ということでいいのかね?」


「ええと、それがですね……」


 しばらくの間、ルヴィスとサフィアから国王に対して、エーデルランドを出立してから戻ってくるまで何があったかについてを掻い摘んで報告、説明が行われる。勿論、ラスター族やアルバロン島に関しては省いた上での内容になるが。


 ナーロ帝国の魔王軍は未だ健在。隣国のウッドガルドは首都のウドガルホルムのみ解放。六魔将であるオデュロ、シャンマリー、メルティカとの交戦及びカリストロスが魔王軍を抜けたこと等について……。


 また、旅の途中で仲間に加わり、命をかけて協力してくれたというジェド、ソノレ、エステラについても余計な情報は外した上で伝え聞かせると、国王は気前よく彼らにも最大限の援助をしてくれることになった。


 ジェドの入院費や面倒はなんと王国が全て見てくれて、ソノレとエステラにも立派な住居を手配してくれるという。人柄の良い国王の心優しい措置に、ルヴィスたちは敬服の念を抱くしかなかった。


 ――しかし、これまでのレフィリア一行の動向を説明する上でどうしても外せない情報もある。それは今現在の彼女らの便利な移動手段である、天翔ける船箱アークの存在だ。


 これについては情報を開示しておかないと、レフィリアたちの国から国への移動時間があまりに早すぎて、説明の内容が不自然になり破綻してしまう。


 だが、大空を自在かつ安全に素早く飛べる大きな乗り物、という超技術オーバーテクノロジーの産物を国側が見過ごす筈もなく、ソノレとエステラが過去に古代遺跡から発掘した彼らの所有物という風に説明したが、魔王軍とのいざこざが済んだ後に国の技術発展の為に提供してほしいということになった。


 そのことに関しては後にソノレとエステラも、半ば投げやり気味に承諾を返す。


「まあ、ぶっちゃけ追放されてる身としてはどうでもいいけどねえ。住居も生活も、何から何まで保障してくれるっていうんだし、交換条件としては私的に問題はないかなー」


「私たちが超古代の技術に精通したラスター族であることを隠した上で、王国が一から船箱アークを解析するって言うんなら……。多分、技術革新的な問題は良くも悪くも出るだろうけど、背に腹は代えられないしね。もう知ーらない」


 ただしエステラは戦後に船箱アークを王国へ譲渡する代わりの条件として、自分が魔工技師であるという立場を明かしたうえで、魔道具などの作成や加工が出来る施設を提供、もしくは利用させてほしいという要望を申し出た。


 勿論、それは快諾されることになるのだが、エステラとしてはまず片腕と片脚を失ったジェドの為に、魔力で稼働する義手と義足を作ってあげたいのだという。


 ひとまず諸々の報告を済ませた一行は帰路に着き、翌日にはクリスタルに保管して持ち帰った女僧侶の葬儀を行った。


 そして更に次の日には病院でジェドが目を覚ましたということで、先に手の空いていたレフィリアと賢者妹が、彼女のお見舞いに向かう。


「はあー、まさかこんな事になっちゃうとはねー。見てよこれ、こんな格好だと一人でトイレにも行けないんだよー」


 病室のベッドに寝転がりながら、ややわざとらしいが呆気らかんとしたような様子でそう述べるジェドに、賢者妹は暗い表情で俯いてしまう。


「ごめんなさい、ジェドさん。私のせいで……」


「あっ、いやいや! そういうつもりで言ったんじゃないんだよ! 寧ろあんな超ヤバいドラゴン相手にしてこの程度で済んで超幸運っていうか……ほら、君に怪我がなくて僕も守った甲斐があったってもんだし!」


「でも、それで手足が無くなってしまっては……私なんかの為に……」


「僕はまだいい方だよ、自分のことが自分でちょっと出来なくなっただけ。……それどころか、何もかも全部出来なくなってしまった人たちもいるんだし、こんなんで挫けてなんかいられないよ」


「………………」


 まるで自分に言い聞かせるように、やや強がった様子で答えるジェドの様子に、賢者妹は何も言えず言葉を詰まらせてしまう。


 そんな彼女の辛そうな姿と何とも重い空気に耐えかねて、レフィリアが今度は口を挟んだ。


「えっと……そういえば、エステラさんが王国の施設を借りて、ジェドさん用の義手と義足を作ってくれるみたいですよ。それが完成すれば、とりあえず自分で動いて生活できるようにはなるって話ですけど」


「ええっ?! それ、マジで?! 流石は超古代の遺物も扱える天才魔工技師! そいつは超楽しみだなあ!」


「しーっ。そのことは黙ってないと駄目ですよ、どこで誰が聞いてるか分かんないんですから」


「おっと、いけない。ごめんごめん」


 そんな会話をしていると、ジェドたちのいる病室にルヴィスとサフィアが入室してきた。


「やあ、ジェド。思っていたより元気そうで驚いたな」


「こんにちは、具合の方はどうですか?」


「あっ、ルヴィスにサフィア! いやあ、手足がちょっと千切れたくらいじゃ僕はへこたれないもんねー。それに天下の天才魔工技師様が僕にカッコいい義手作ってくれるんでしょー? ありがたやー」


「無理して騒ぐと疲れますよ。体力をかなり消耗している筈なので、今はとにかく安静にしていないと」


「むー、そんなに心配しなくても僕は大丈夫だよ、サフィア」


(やはりちょっと無理して元気なように見せていますね。彼女らしいといえば彼女らしいですが……)


 サフィアが内心そのように考えていると、ルヴィスがレフィリアと賢者妹に声をかける。


「そういえばここへ来る前に王城で元帥閣下にお声掛けされたんだが、明日にある今後の作戦に向けての会議、どうやら俺たちの意見を参考、というか主軸にして話を進めたいらしい」


「えっ……と、いいますと?」


「つまり、俺たちが何処の国に行きたいかで作戦の方針を決めるということだ。王国軍は再編成こそほぼ済んでいるそうだが、ナーロ帝国やウッドガルドといった離れた国の情報は殆ど持ち得ていない。故に、そういった情報を知っている俺たちの話を元手に考えたいそうだ」


 ルヴィスの説明に、隣に立つサフィアが更に話を付け加える。


「一応、魔王軍の大きな拠点がある国で私たちが拠点攻めできていないのは、ナーロ帝国、ドライグ王国、そして魔王軍の最大拠点、魔王城があるグランジルバニア王国の三つになります」


「ただし現状だと、どうあってもグランジルバニア攻めだけはするべきではないな。故に選択肢は実質、二つだ」


「えっと……どうしてその、グラン――何とか王国ってところは駄目なんですか? 敵の本拠地だから総力戦の全面対決になってしまうのは解りますけど……」


 疑問を浮かべるレフィリアに、サフィアが人差し指をピンと立てて質問に答える。


「うちの国、エーデルランドとグランジルバニアより手前側にあるガリアハンの間には、ちょうど《バルバス山脈》が跨っていて、天然の要害と化しているのですよ。これが上手い具合に邪魔してくれているお陰で、いまだに魔王軍はこの国へ本格的に大軍を送り、攻め込むことが出来ていないのです」


「バルバス山脈は一帯の地形そのものが特別な力を秘めた、大自然の結界というか神域というか……つまるところ霊峰なんだ。故に魔獣や魔族なんかの魔界出身の生まれつき強い魔性を持った生物は立ち入れないし、無理して入り込むと極端に弱体化する。それこそ魔王ぐらいの強大な力を有していないと、ろくに身動きも取れなくなる程に」


「あ、もしかしてその山って……」


「そう。実はレフィリアさんも既に行ったことはあるんですよ。レフィリアさんが召喚されてから、この国へ来る途中に通った峠もその一部です」


「まあ、あの山道ルートは俺たちがあの辺りを根城にしてる傭兵団と付き合いがあったから、一番道のりが緩い所を知ってたんで通ってこれたんだけどな。本来なら、魔族じゃなくても人間だって環境が厳しすぎて長居できるような場所じゃないんだぞ」


「つまり、わざわざ地の利を捨ててまでこちら側から軍を纏めて攻め込むのは自殺行為なのです。山脈を抜けて国一つ越えた行軍となれば、辿り着くまでの消耗も大きいですし。それにグランジルバニアの首都、カジクルベリーの周囲にはガルガゾンヌ同様の攻性城壁も存在します」


「俺たちだけで船箱アークに乗って魔王城までひとっ飛びっていうなら、話は別だけどな。だけど、それが言うほど簡単に出来るんなら苦労はしないだろ?」


「……はい、無策に強襲を仕掛けても絶対に返り討ちに会うような気がします」


 ルヴィスとサフィアの説明を受けて、いきなりの最大拠点ラスダン攻めが有効ではないことに改めてレフィリアは納得する。


 それこそ今から急に魔王城なんかへぶっこみをかけようものなら、当然凄い物量の兵力だの罠だの仕掛けだのが待っているだろうし、下手をすれば何らかの手段で六魔将が一同に集まって来て、袋叩きじみたボスラッシュにもなりかねないのは想像に難くない。


「じゃあ当初の予定通り、ナーロ帝国を攻略対象にしますか?」


「うん、しかしそれなら隣国のベルヴェディアと同盟軍を結成したいところだな。ついでにアーガイアなんかとも結託できれば――」


「いえ、私はドライグ王国の方を攻めるべきだと思います」


 すると、今まで静かに黙っていた賢者妹が急にしっかりした声で発言し、割って入ってきた。

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