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災禍を招く異世界の最強竜の話⑦

 しばらくしてサフィアの治療魔法により、昏睡しているジェド以外が何とか自分で動けるようになるまで回復したレフィリアたちは、エステラの工房がある辺りまで足を運んできた。


「――うわあ。予想はしてたけど倉庫の中、こっぴどくやられてるなあ。というか、見事にもぬけの殻になってるし」


 自身の工房より手前側に建てられている、蒐集した遺物アーティファクトなどを纏めて保管していた資材倉庫を先に覗いたエステラは、力の抜けた呆れ顔でそんな言葉を吐いた。


 おそらくは大量の物品が収納されていたであろう広い空間は、今では伽藍洞としてしまっており、代わりに残っているのは無造作に転がっている何体ものワイバーンや魔族の死体と、それらと戦ったと思われる警備用のゴーレムやオートマタの残骸といったところである。


「ノレナの記憶を元にこの島へ遺物アーティファクトを強奪しに来たのなら、真っ先に倉庫ここを狙う筈だよねえ」


「ええ。でもこの倉庫は島で一番、侵入者対策を施していて警戒が厳重な場所でもあった筈。そもそも本来なら強力な結界が張られているんだけど、それがこうも正面からぶち破られているということは――」


「竜煌メルティカ、ここに来てたんだろうなあ」


 ソノレの呟きに、エステラは浮かない顔をしながら倉庫の中をきょろきょろと見回していく。


「………………」


「……私が先に工房の方を確認してこようか?」


「いえ……大丈夫。気にしないで」


 どこか落ち着かない様子でそう言って、エステラは足早に自宅である工房に向かって歩いて行く。


 エステラの工房へ辿り着くと、建物自体は形を保っているという意味では割と無事だったが、やはり何者かに侵入された形跡があり、室内は加工場や研究室を中心に荒らされていて、とにかく色んなものが持ち去られていた。


「うはあ、コイツはすごいねえ。工具や資料どころか、作業台まで丸ごと持っていくなんて、まるで強盗というより引っ越し業者か何かだ」


「この物のあからさまな無くなり様……何とも、不自然ね。もしかしたら連中は、私たちがクリスタルへアイテムを保管するみたいに、物を簡単に持ち運ぶ技術を何かしら持っているのかもしれない。じゃないと物理的に運搬したにしては、現場がきれいすぎる」


 冷静に分析しながら所感を述べるエステラであったが、しばらくしてまたもや何かを心に押し隠したような表情で工房の中を、落ち着かない様子でうろついて回る。


「あの、兄さん……」


「どうした、サフィア?」


「もしかしてエステラさんは、こちらにいたオークの助手の方を探しているのでは……」


「あっ、そういえば確か前に会ったあの――」


 ルヴィスとサフィアがそんな会話をしていると、急に玄関の方からガタンと何かが倒れるような物音が聞こえてくる。


「――ッ?!」


 その音に全員が玄関口へ向かうと、そこには全身傷だらけになった一体のオーク――エステラの助手が、息も絶え絶えに辛そうな様子で扉口に寄りかかっていた。


「助手君ッ……?!」


 そんな彼を見て急いで駆け寄って来たエステラに、オークの助手は何とか顔を上げて返答を返す。


「エステラ先生、戻って来てたんですね……無事で良かったです。すいません、工房とか倉庫のもの、みんな魔王軍に持っていかれてしまいました……」


「そんなことはいいよ、貴方が生きてて本当に良かった……! ちょっと待って、すぐに治療魔法をかけるから――」


「そう慌てなくても大丈夫ですよ。僕自身もヒールライトくらいの心得はありますので、既に止血は済ませています。……しかし、おっかない連中がやってきましたねえ」


「……ねえ、助手君。奴らが来た時のことを教えてくれる?」


「ええ。――いつも通り工房の掃除をしていたら、急に盗難対策用結界の警報音アラームが鳴ったんで、慌てて倉庫の方を見に行ったんですけど、その時には既にワイバーンの群れが沢山飛んできててですね……」


 きつそうに身を起こしながら体勢を変えるオークの助手の傍にサフィアが静かに駆け寄り、ジェドの魔杖を片手に彼へと治療魔法をかけてあげる。


「あ、すみません……。それで十何匹かは何とかやっつけたんですけど、魔族の騎兵たちに囲まれてから不意打ちをくらって、そこからは情けないことにボコボコにリンチされてしまいました。……まあ、その後のことを考えると、そこでやられた事である意味運が良かったのでしょうけど」


「もしかして……鎧を着こんだ女騎士なんかが乗り込んでこなかった?」


「よく分かりましたね。……はい、後からすごくヤバそうなドラゴンと一緒に甲冑姿の女がやって来たんですけど、倉庫の結界を剣の一振りで破壊して、中に魔族の部隊を侵入させていったんですよ」


 一通り治療効果のある魔力光を受けて、オークの助手はサフィアへ礼を返すと、疲れたように大きく息を吸って吐く。


「もし生きてることが気づかれたら確実に殺されると思ったんで、必死に死んだふりをしてその場はやり過ごしていました。……それで、連中が撤退してから茂みの中に咄嗟に逃げ込んで、急いで傷を治したり、少し気を失ったりしていた訳です」


「そっか……。何にせよ、生きていてくれて本当にありがとう。本当に……」


「先生……」


 その後、工房の中を更に確認して、エステラの自宅である生活スペースの部分はほぼ無事だったことから、そこにジェドとオークの助手を休ませ、レフィリアたちはひとまず落ち着くことにした。







 ジェドの容態も何とか安定して日が暮れてきた頃、レフィリアとクリストル兄妹は島内にある集落の様子を見て回ってきた。


 居住区全体に広がっていた火の手は、住民たちの生き残りの誰かが使った、局地的に雨を降らせる天候操作系の魔法や消火魔法などによって既に消し止められていたが、住むことの出来る住居は全体の1割未満しか残っていないという有様である。


 加えて生き残った住人も、元の人口の2割くらいしかいないという、あまりに悲惨な状況であった。


「……酷い」


「ああ、遺物アーティファクトを奪い去るだけでなく、わざわざ住民たちの殲滅まで謀ってきているからな。……なあ、レフィリア」


「何でしょう?」


「俺たちはこの島で暮らす人たちにとって、厄介ごとの種を持ち込み、平穏を台無しにした張本人に映るだろう。……覚悟はしていた方がいいかもしれない」


「………………」


 ルヴィスの嫌な予想は当たってしまい、翌日、元々このアルバロン島の住民であったソノレとエステラは、結果的に集落から追放されることになってしまった。


「まあ、こうなるだろうとは思っていたよ。この島の集落と一族の存在を外部へ大きく漏らした者は処罰を受ける。――元からそういう“掟”だからね」


 ソノレとノレナが初めにサフィアたちを連れてきた頃は、世界を救うために魔王軍と戦う者たちにこっそり協力をしているということで住民たちからも大目に見てもらっていたのだが、流石に今回は被害があまりに甚大なのでそうもいかない。


 経緯はどうあれ、集落の住民たちからはソノレたちがしくじって魔王軍へ島と一族の情報を魔王軍に露呈させてしまったとしか思われないからだ。


 特別にノレナの葬儀だけはきちんと執り行わせてもらえたが、それが済んだら一行は速やかにアルバロン島の外へ出ていかなければならなくなった。


「とりあえず船箱アークを取り上げられなかっただけでも僥倖だと思いましょう。まあ、私たちから力づくで奪い取ることなんて出来ないと思って、諦めて放置することにしたんでしょうけど」


 どちらにせよ、この島の住民たちはこんな壊滅的な状態に陥っても島の外に出るつもりは全く無いという。


 その気になれば、妖精門フェアリーゲートの他に存在する妖精道フェアリーロードという抜け道で、ドライグ王国内に渡ることも出来るのだが、他所の土地へ移ったところで自分たちは生きていくことなど出来ないと、島の住民全員がそのように思っているのである。


 そうなれば天翔ける船箱アークなどという乗り物など、彼らにとって無用の長物。せいぜい世界でも救って、島を台無しにした罪滅ぼしでもしてこいという半ばやけっぱちな意味合いで、船箱アークはこれからもソノレたちが所持してよいことになったのだ。


「……ソノレさん、エステラさん、色々と助けてもらったというのにその――」


「サフィアさん、私たちに謝ろうなんて思うんじゃない。私たちはあくまで、自分の意思で君たちに協力したんだ」


「そうそう、そのおかげで良い仕事もさせてもらったんだし。こんな結果も言うなれば自業自得。間違っても私たちに悪かった、なんて気にかけたりしないでよね」


「……はい」


 サフィアを元気づけるようにそう述べたソノレとエステラは、わざとらしいくらい明るく振舞って今後の事へ意識を向ける。


「さあて、これからどうしようかな。島を出るとなれば、行き先を決めなければならないけど」


「それならばエーデルランドはどうですか? もう一人の葬儀も故郷の地で済ませてあげたいですし、あそこなら俺の紹介で手早くジェドを王立病院へ入院させてあげることが出来ます」


 ルヴィスの提案にエステラが納得して頷き、コートの中から船箱を取り出してみせる。


「オーケー、私もそれがいいと思う。じゃあ早速、エーデルランドに向けて出発しようか!」

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