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絶体絶命の異世界の敗北者の話

 ――時間は更に遡り、魔光都市ウドガルホルムから数十キロ離れた、とある森の中。


 片腕を切断され、心臓を穿たれたカリストロスと気絶したままのロズェリエは、魔法による空間転移によって戦場から強制離脱し、ひとまずは敵の脅威から逃れていた。


(くっ……こんなもの、使いたくは無かったというのに……!)


 森の樹木に背を預ける形で倒れているカリストロスは、手に握っている、薔薇のような紋様が刻まれたペンダントを見つめる。


 それはカリストロスの身を案じたロズェリエが、もしもの時に備えて作成した超一級品の魔道具マジックアイテムであり、使い切りではあるが使用すると超級規模の転移魔法を発動させ、装備者を遠く離れた場所へ瞬間的に避難させるという代物である。


 ただし、あくまで緊急離脱を目的としたものであるため、転移距離が長い代わりに場所を指定することが出来ない欠点がある。


 また、ロズェリエも同じ装飾品アクセサリーを装備しており、片方が効果を発動させるともう片方にも連動させる機能によって、彼女もまたカリストロスのすぐ傍に転移を果たしていた。


「あぐっ……!」


(くそっ、シャンマリーから逃げたのはいいが、身体に力が入らない……! 動けん、っつうかスゴく痛えッ……!)


 カリストロスは寄りかかっている木から身体を何とか起こそうとするが、傷を負った部分から激痛が走るばかりで、少しも立ち上がることが叶わない。


 そうしている間にもすっぱり断ち切られた肩口の断面と、胸に空いた傷口からとめどなく血液が溢れ出て、体力を奪っていく。


(拙い、魔人の治癒能力が全然働いていない……このままだと、俺の身体といえど本当に死んでしまう……。あのクソメイド女がぁ……ッ!)


 首を刎ねられることは避けたとはいえ、死の問題そのものから逃れられた訳ではない現状を把握し、カリストロスは焦燥に駆られる。


 このまま何もせず放っておけば、衰弱にそれなりの時間こそかかるが、確実に死亡してしまう。


 それだけは絶対に嫌だ。どうにかして、何としてでも状況を解決したいものであるが――。


「ロズェ……リエ……。おい、ロズェリエ……!」


 カリストロスはすぐ傍に倒れているロズェリエを力なく呼ぶが、シャンマリーの麻酔によって深い眠りにつかされた彼女が起きる気配は一向にない。


 あんなでも魔王の娘。この異世界の住民においてはトップクラスの魔法の使い手である彼女の技術ならば、もしかしたらカリストロスの傷を治療出来るかもしれない。


 しかし、当の彼女が覚醒しなければ意味はないのであるが。


(ちっ、肝心な時に役に立たない……! 何のために俺がお前を連れてきてやったと思っているんだ……!)


 彼女に作ってもらったアイテムで生きながらえておきながら、勝手なことを考えるカリストロスであったが、そこで彼は銃でロズェリエの手足を撃ち、その痛みで無理やり起こすことを思いついた。


 事は一刻を争う為に早速試そうと試みたのだが、なんとカリストロスは銃の一丁も呼び出すことが出来ない程、体力を失っており、結果的に失敗してしまう。


「くそっ、マジかよ……ヤバい……本当にヤバい……」


 今の最悪な状況を打開する方法が全く頭に浮かんでこず、カリストロスの感情を絶望が支配する。


「畜生、何で俺だけがこんな目に……ふざけやがって、こんなのおかしい……こんなつまらん異世界があるか……死にたくない、死にたくない……ッ!」


 無念に満ちた言葉を呟きながら、カリストロスは悔しそうに目を伏せる。


 もう何を考えても無駄だ、疲れた、と彼が思考を停止しようとすると――。




 突然、誰かが音も無くカリストロスの目の前に現れた。


「ほっほっほ、何ともまあ酷い有様になったものよのう」


 それは現れた、というより、気が付くといつの間にか立っていた、というような感覚。


 急に聞こえてきた知らない人物の声にカリストロスが視線をあげると、そこには一人の老人が佇んでいた。


「誰だ……お前……?」


「誰ってお主……見て分かんない?」


 その老人は長く白い髭を蓄えた、恰幅のよい男性で、まるでイメージ通りのサンタクロースといったような顔をしている。


 しかし服装は真っ白な布のローブを纏い、手には絵に描いたような木製の杖を握っていた。


 そして何故か、どことなく全身が仄かに光を放っているようにも見える。


「……?」


「マジで分からんのか……。ほら、見たまんまじゃよ。ワシのこの姿を見て、率直に何だと思った?」


「……神?」


 カリストロスからの解答に、謎の老人は大袈裟なリアクションを取りながらビシッと指を差す。


「ピンポーン! そう、神! ワシ、神様! 手違いで人の人生奪っておいて、そのお詫びにチート能力とか与えて異世界に転生させたりする、“あの”神様だよーん! よんよんよーん!」


 なんともふざけたテンションで話しかけてくる老人の様子に、カリストロスは酷く疲れを覚えるが、確かに言われてみればテンプレートなデザインの神様……に、見えなくもない。


 そう、例えるならギリシャ神話や北欧神話の主神とか、あとは仙人といった感じのイメージといえば判りやすいか……。


「……それで、その神様とやらが……俺に何の用があるってんです……」


「んふふー、カリストロス・カリオストロ。――いや、奈浪 信二くん。君はまだ、ここで異世界ライフを終わらせたくはないであろう?」


「……ッ?!!」


 急に、今まで記憶から失われていた自分の本名を告げられ、カリストロスは驚愕から目を見開く。


「楽しい愉しい異世界無双で、元の世界の溜飲が下がると思っていたのに、現実は非情だった。よりによって他の異世界転移者たちの存在で、異世界蹂躙特化に構築された君の能力は上手く活かせず、結果的に悶々とした日々を送るばかり……」


「………………」


「ワシはそんな君が見ていられなくてねえ……。あまりに可哀想なもんだから、こうして手助けに来てあげたのじゃよ」


「憐れんでいるというのか……? 余計なお世話だ……」


「ほほう、そんなザマでも意気だけはまだあるようじゃの。――ますます気に入った。お主が望むなら、より強い力を与えてやることもやぶさかではない」


「何……?」


「神は言っている、ここで死ぬ運命さだめではないと……!」


 お前それが言いたかっただけだろ、というような台詞を口にしながら、髭の老人はカリストロスの目を真っ直ぐ覗き込んでくる。


「たった一度だけ問う。異世界の蹂躙を諦めていないのならば、自分をコケにした連中への復讐を望んでいるのならば……たとえ、どんな事があろうとそれらを果たしたいのなら、ワシの問いにイエスと答えよ」


「……ッ!」


「月並みな台詞じゃが、言わせてもらおう。――力が欲しいか?」


「――――――」


 数秒ほどの沈黙が流れたあと、カリストロスは残った体力全てを込めて、静かにだがはっきりと回答を告げる。


「――寄越せ。一番、能力頼む」


「ほい、きた。ならば、くれてやる!!」


 そう言って、髭の老人は手に持っていた杖の先を、カリストロスの胸に空いた傷口へと勢いよく突き刺した。


「あ゛がああッ……?!!!!」


 ちょうど自身の心臓の位置まで届いた杖の先から、何か溶岩のように物凄く熱い何かを流し込まれているかのような感覚をカリストロスは感じ取る。


「あ゛あああああああッ……!!!!!!!!」


 熱い、そして痛い。


 全身の神経と血管に、その熱い何かが急速に染み渡っていく刺激によって、カリストロスは絞り出すような絶叫とともに身体を激しく痙攣させ、そして気を失ってしまった。


「ほっほっほ、目が覚めたらカタルシスを楽しむとよい。異世界ものの主人公とは、一度周りから見放されてからが本領発揮というものだろう?」


 あまりに胡散臭い笑みを浮かべながら、髭の老人はくるりと踵を返してその場を立ち去っていく。


「――そう。ここからがお主による異世界蹂躙劇、真のイマジナリ・ガンスミスが始まるのじゃ」

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