緊急会議で異世界の城に集う話②
しばらく時間が経過して、シャンマリーからカリストロスの所業について全て聞かされたゲドウィン、エリジェーヌ、オデュロは唖然としてしまっていた。
メルティカは魔王と同じく事前に内容を聞かされていたのか、驚いた様子こそ見せていないものの、なんとも呆れ返って疲れたような面持ちをしている。
「説明、ご苦労であった。纏めるとヤツは、ウッドガルドに捕らえていた聖騎士の脱獄幇助、及び味方陣営への攻撃によって魔王軍へ多大な被害を発生させた。そして――」
そこで魔王はドンと円卓を拳で叩き、感情を露わにした怒りの表情で憎悪の籠った言葉を吐き出す。
「何より、ヤツはあろうことか我の愛娘であるロズェリエをかどわかし、共に連れ去ってしまったのである!!」
(あー、魔王ちゃんがブチ切れてる理由これかー……)
(確かに彼女なら、自ら喜んでカリストロス君についていきそうですしねぇ……)
「そもそもヤツは以前から、味方である六魔将にも何かと攻撃や妨害を仕掛けていたと聞く。もはや、情状酌量の余地すらない。逃亡したカリストロスに関しては発見次第、その場で即刻処刑するものとする!」
(あーあ、遂に死刑宣告くだっちゃったよ。アイツも馬っ鹿だなぁー……)
エリジェーヌが呆れ顔で息をつく中、ゲドウィンがシャンマリーの方を向いて質問を投げる。
「だけど逃げたカリストロス君は、シャンマリーさんとの交戦で既に致命傷を負っているんだよね? 衰弱しきってもう死亡してしまっている場合もあるんじゃない?」
「まあ、私の刀で心臓を刺しましたので、そのまま放っておけばいくら魔人であるカリストロスさんでも死んでしまうでしょう。――ですが、何か特別な手段を用いて生きながらえている可能性もあります。死体はきっちり確認しないと」
シャンマリーの言葉に魔王もしっかり頷いて同意する。
「その通りだ。そこでカリストロスと我が娘ロズェリエの捜索任務を――オデュロ、お主に頼みたいと考えている」
「……俺ですか?」
急に話を振られ、オデュロは自身のことを指差す。
「ああ、今のところ比較的手の空いていて余裕のある者がお主くらいしかいない。ゲドウィンとエリジェーヌには明日から、アーガイア侵攻に向けた作戦準備に取り掛かってもらうつもりなのでな」
「………………」
「あー、オデュロ君。アレだったら私が代わってあげようか? ほら、私って空飛べるから捜すの少しは楽だろうし」
「僕の方でも構わないよ。使い魔を大量に用いた人海戦術で、片っ端から捜索してみせよう」
気を使って話しかけてくる二人に、オデュロは手を横に振る。
「いや、気持ちは嬉しいが捜索任務は俺が請け負う。二人の能力はアーガイアを手に入れる上で役立ててくれ。――では魔王殿、反逆者カリストロスと御息女捜索の件、この俺に任せてもらおう」
そう宣言して、オデュロの兜に空いたスリットの奥から、暗い決意のようなものを秘めた金色の眼光がギラリと輝く。
「うむ、そう言ってくれると有難い。ただ、我が娘だけはどうか傷つけないように留意してほしい。何ならカリストロスの抹殺よりも、我が娘の身柄の方が優先すべきだと心得よ」
「……了解した」
(それに関しては、正直ちょっと心配だよねぇ……。だってオデュロ君、シャンマリーちゃんがレフィリアちゃんにやられる原因作ったカリストロスをぶちのめす気満々で、そのこと以外はどうでもいいって感じだろうし……)
(そうだねぇ……。万が一、生きていたカリストロス君と戦闘になった場合、割って入ったロズェリエ嬢をその場の勢いで殺しかねない。最悪、どれだけ重症だろうと生きてさえいればいいとすら思っていそうだ)
そんなことを内心考えながら、エリジェーヌとゲドウィンが目線でこっそりやり取りしていると、今までずっと黙っていたメルティカが魔王に声をかける。
「魔王さま、ロズェリエ様の捜索でしたら私も彼に同行した方が宜しいのではないでしょうか? 私も今のところ急務はありませんし、一人より二人の方が捜索もずっと効率的だと思いますが」
「いや、お前はお前でこの後にやってもらいたい“特別な仕事”がある。それにそちらの領地であるドライグ王国はまだ件の聖騎士が全く脚を踏み入れていない。襲来に備えてより警戒を厳にしておくべきだろう」
「特別な仕事……。承知しました、ではそのように致します」
メルティカが頭を下げて会話から引き下がると、次に魔王はシャンマリーの方へと目を向ける。
「シャンマリー、お主は無理をせずにしばらく療養に努めよ。万全な状態に快復できたのなら、その時は追って指示を出すので、また我に声をかけてくれ」
「分かりました。お気遣い、感謝致します」
その後は幾つかの報告や連絡、情報交換などの話し合いを行い、わりと手短に会議そのものはお開きとなった。
各々が別れて全員が会議場から退室した後、別の場所でオデュロは首だけになった状態のシャンマリーへと話しかける。
「――なあ、シャンマリー。元の姿へ戻るのに何か必要なものはあるか? 人間の身体などが材料にいるなら、俺が用立てて来るが……」
「大丈夫ですよ、オデュロさん。ボディの再生に必要な素体は既に確保済みですので。王宮に保管していた資材も出来る限り、こっちに転送してきましたし」
「そうか、それならいいのだが……」
「こっちこそ、ごめんなさい。せっかく譲ってもらったレフィリアさんを取り逃してしまって……」
「いや、それはシャンマリーのせいなんかじゃない。あの拗らせた捻くれ野郎が全て悪い。生きていようが野垂れ死んでいようが、俺がきっちり見つけて落とし前をつけさせてやる」
「……しかし彼も一体、どこに消えてしまったんでしょうねえ。あくまで携帯品のアイテムによる緊急転移で、いきなり国外まで逃げるなんてことは難しいと思いますけど……」