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冥途へ誘う異世界の暗殺者の話②

 ラグナ宮に囚われていたレフィリアが脱出を果たしてから翌日。


 廃砦で寝泊まりしていた一行が目を覚ますと、船箱アークからのエネルギー抽出が完了して魔力結晶が出来上がっており、早速レフィリアはそれを使ってみることにした。


「ではレフィリアさん、これを手に取って魔力を紐解いてみてください」


「はい」


 虹色の美しい輝きを放つ、手のひら大のクリスタルをエステラから手渡され、レフィリアはその魔力を解放する。


 すると膨大な魔力がレフィリアの中へ一気に流れ込んでいき、乾ききっていたものが潤って満たされていくような、そんな感覚が心身ともに彼女を整った状態へと充足させていく。


 そして数秒ほど経過したところでクリスタルは彼女の手から消失し、代わりに血色が見るからに良くなったレフィリアが、うーんと気持ちよさそうに背伸びをするのであった。


「調子はどうかな? レフィリア殿」


「感覚的にはすっごく良いです。ちょっと武装してみますね」


 レフィリアが身体に魔力を込めると、いつもの白い外套に光のラインが入った淡い金色の鎧が一瞬で出現し、彼女の身を煌びやかに覆う。


 そして右手には十字架型の柄を呼び出すとともに、そこからぶおんと勢いよく光の刀身を発生させるのであった。


「あ、問題なく出せました。全然大丈夫、というか絶好調ですよ」


「それは良かった。その様子なら戦闘への支障もなさそうだね」


 レフィリアの回復が上手くいったことにソノレがにこやかな笑みを浮かべていると、ルヴィスが嬉しそうにレフィリアへガッツポーズを見せる。


「復活ッッ! レフィリア復活ッッ!」


「ぷふっ、急にどうしたんですか兄さん」


「いや、なんかつい言いたくなってな」


「まあ、嬉しいのは私も一緒ですけどね。レフィリアさん復活ッッ!」


 レフィリアの再起を本当に喜んでくれる兄妹二人に、レフィリアもまた拳を強く握り締めた。


「ありがとう、皆さん。今まで動けなかった分、きっちりリベンジしますからね!」









 朝食を済ませたレフィリアたちは、廃砦を出て徒歩かちで森を抜け、再び魔光都市ウドガルホルムへ向かうこととなった。


 普通に移動していては時間が掛かり過ぎるので、超人的な身体能力を発揮できるルヴィスがソノレを、サフィアがエステラを抱えて森を駆け抜け、レフィリアが露払いとして道中で遭遇した魔物の撃退などを担当する。


 結構広大な面積の森ではあったが、それほど時間をかけず一気に突破してしまい、市街に入ったレフィリア達は街の中を堂々と王宮に向かって突き進んでいった。


「もうすぐラグナ宮に到着しますよ!」


 まるで忍者の如く建物の屋根から屋根へ飛び移っては突っ走っていき、街で一番目立つ巨大な王宮目掛けて疾走していく。


 特に途中で妨害を受けることも無く王宮の庭園に降り立ったレフィリア一行は、そこからは不意の罠や奇襲に警戒しつつも、正面から広い庭の中を真っ直ぐ進んでいき、やがて宮殿の玄関前へと辿り着いた。


「――門番がいませんね」


「おそらく敵側もこちらの侵入に気づいているのだろう。各自、油断だけはしないように」


 ルヴィスの言葉に全員が頷いた直後、まるでそれに答えるかのように宮殿の大きな扉が独りでに動き出し、一行を中へと招き入れる。


「……行きましょう」


 レフィリアたちが玄関口を抜けて広いエントランスホールの中へ焦らずゆっくり進んでいくと、奥の空間から静かに現れたメイド服の少女、シャンマリーが恭しくスカートの裾を上げながらお辞儀をして待ち構えていた。


「お帰りなさいませ、レフィリアさん。また戻ってきてくれるとは思っていましたけど、予想以上に早いご帰宅で私とっても嬉しいです」


「私は出来れば貴方の顔なんて、二度と見たくもないですけどね」


 気丈な態度で言い返すレフィリアに、シャンマリーはむしろ嬉しそうな表情で彼女の顔を見つめる。


「ふふ、それだけの物言いが出来るようになるなんて、たった一晩で随分回復しましたねえ。拷問蟲トーチャーワーム吸精蟲サキュバスヒルの影響も受けていないみたいですし、一体どんな手段を使ったのやら……」


「ところで、ここで貴方を足止めしてくれた彼……鐡火のカリストロスはどうなりましたか?」


レフィリアからの予想外の質問に、シャンマリーはついきょとんとした表情になる。


「え、彼ですか? あの人のことを気に掛けるなんて、レフィリアさんも物好きというかお優しいですねぇ。――痛い目見せて追い返してやりましたけど、その後どうなったかは知りません。私も何だかんだ忙しくって」


「……そうですか」


 王宮の外の荒れ具合を見る限りでは相当派手に戦い合ったみたいだが、見たところ眼前のシャンマリーに目立った損傷などはこれといって見受けられない。


 カリストロスとの戦闘で彼女が少しでも手負いの状態になっていれば好都合だったのだが、いたって万全そうな少女の様子から正直それを期待することは出来ないだろう。


「そんなことより、このラグナ宮へ戻って来たということは私の討伐と――囚われたお仲間の皆さんを取り戻しに来たんですよね?」


 シャンマリーはこれから闘争を始めるとはとても思えないような、非常ににこやかな笑顔で一同を見据える。


「では、お望み通りお仲間の皆さんと再会させてあげますよ。――彼女たちがそちらへ戻りたがるかどうかは別の話ですが」


 そう言ってメイド服の少女が手を二度鳴らすと、彼女の周りに光の魔法陣が浮き上がって、そこから四人の人影が姿を現した。


 それは紛れもなくレフィリア一行の仲間である、賢者妹、女僧侶、ジェド、ノレナたち本人であったが、なんと戦乙女隊ヴァルキュリアスと同じメイド服に鎧といった、シャンマリーの趣味全開の格好に着替えさせられている。


「み、みんな……?! その恰好は……!」


 そして現れた四人は明らかにハイライトのない虚ろな瞳をしており、それぞれが手に魔杖を握り締めては、シャンマリーの周囲を固めてレフィリアたちに敵対的な態勢を取っていた。


「レフィリアさん、何で逃げ出しちゃったりしたんですか? しかも私を置いて出て行ってしまうなんて……」


 賢者妹からの悲し気でほのかに敵意の籠った言葉に、レフィリアは解っていても内心ざくりと心を抉られてしまう。


「でも、また戻ってきてくれて嬉しいです。レフィリアさん、今度こそ一緒にここで仲良く暮らしましょう。もう勝手にいなくなんてならないで……」


 まるで酒にでも酔っているかのようにとろけた表情を浮かべながら、ジェドに女僧侶、ノレナも続けて言葉をかけてくる。


「ああ、捕まった時はもうどうなることかと思ったけど、ここってホントにすっごく最高だよぉ。まるで夢みたいに素敵なところで、シャンマリー様も同じくらい素晴らしいんだ。。みんなも大人しく降伏して一緒に気持ちよくなろうよぉ」


「はああ、あんなヤバイの経験しちゃったらもう神になんて仕えていられない。信仰なんてくだらないわ。私はこれからシャンマリー様のために全身全霊で奉仕させていただきます」


「すみません、皆さん。僕はもうシャンマリー様の虜、この方のためだけに生きる哀れな傀儡になってしまいました……。この方から与えられる快楽ごほうびのためならば、貴方たちの命だって容赦なく奪ってみせます」


 明らかに後から捕まった仲間たちの様子もおかしいのは一目瞭然。


 おそらく三人も賢者妹同様、頭に脳貫蟲マインドワスプを植え付けられて彼女に従うよう洗脳されてしまったのだろう。


 こうなってしまっては会話による説得は無意味となってしまう。人質兼シャンマリーの手駒として、彼女たちと相対するしかなくなってしまうのだが――。


「……ッ! シャンマリー、貴方って人は……!」


「ごめんなさい。昨日は少し苛ついていたせいか、つい色々と嗜虐的に弄り回してしまって……。揃いも揃ってきれいな女性ひとたちばかりでしたからストレス解消にとても楽しませていただきました。昨晩を思い出すと、ちょっと身体の奥底が熱くなってきてしまいます」


 シャンマリーが頬をほんのり赤く染めながら愉しそうな仕草で微笑んでいる中、レフィリアは真顔ですっと右手に光の剣を構えると、ちらりとルヴィスたちの方へ目を向ける。


「皆さん、シャンマリーは私が相手をします。手出しだけはさせないようにしますので、その間にどうか他の方々をお願いします」


 眼前のシャンマリーと戦う以上、周りに控えている四人の仲間達との戦闘も残念ながら避けられないだろう。


 ならばせめて自分がシャンマリーの注意を引き付け、ルヴィスたちがジェドらを行動不能にする邪魔をされないように食い止めるしかない。


「任せろレフィリア。君はとにかく、無影のシャンマリーとの戦闘に集中してくれ」


「あ、そろそろ来ますか? じゃあ5対5の華やかな舞踏会パーティバトルを楽しみましょうね」


 シャンマリーが余裕そうな佇まいで見せつけるように背中の鞘から刀を引き抜いたのを皮切りに、レフィリアは先陣を切って真っ先に彼女目掛けて一気に突撃をかける。


「はああッ――!!」


 そして気合十分に疾走して一直線に飛びかかると、そのまま覆い被さるように光の剣を勢いよく振り回した。


「おっと!」


 瞬時に間合いを詰められて少し気圧されるも、シャンマリーは咄嗟に反応して刀を振り抜き、レフィリアからの斬撃を流すように凌いでみせる。


「よし、いくらシャンマリーといえどレフィリアに食いつかれては、おいそれとこっちの妨害をする余裕はない筈だ。今のうちに周りの彼女たちをどうにかするぞ」


「ええ、兄さん」


「といっても、殺る気バリバリの相手に加減して無力化に留めるのは骨が折れそうだねえ」


 ルヴィスたちが剣を構えた先には、容赦のない殺気と魔力を十分に沸き立たせた四人の女性たちが、仲間であった筈の者たちに対して既に攻撃態勢へ移行していた。

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