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袂を分かつ異世界の銃使いの話②

「――ッ!」


 シャンマリーが得物である日本刀を構える前に、カリストロスは右手に出現させた回転式リボルバー拳銃、コルト・キングコブラを即座に発砲し、彼女の額を見事に撃ち抜いた。


 直撃した357マグナム弾が彼女の赤いアンダーリムの眼鏡を弾き飛ばし、頭部から鮮血と脳漿を吹き出しながらドサリと地面に倒れ込む。


 ――ように見えたが、体液を流して床に転がっていたのは、蝉に似た形状をした虫の魔物であった。


(身代わり……?! 空蝉かッ――!)


 相手を仕留めていないことに気づくと同時に、カリストロスは背後からの殺気に反応して即座にもう片方の手で腰の短剣を引き抜く。


 そして振り向きざまに短剣を振るい、真後ろから飛び掛かって来たシャンマリーの刀を受け止め、そのまま勢いよく押し返した。


 弾き飛ばされたシャンマリーはその反動を利用して後ろに下がりつつ地面に着地すると、流れるような動作で刀を構えなおす。


「流石は銃手ガンスリンガーの動体視力と反応速度。やはり貴方も異世界転移者だけあって、このくらいの不意打ちはどうってことありませんよねぇ」


「ふん、貴方程度のSTRならば、私でも十分対抗できます。白兵戦が不得手だと思って甘く見ない方がいいですよ」


「へえ、じゃあその短剣で私の刀と斬り結んでみますか?」


 両者の総合的な敏捷性はほぼ大差なく、肉体の単純な力の強さではカリストロスの方が上回っている。


 しかしそれでも、いざ接近戦となれば至近距離での瞬間的な動きの速さに特化したシャンマリーの方が遥かに有利であることは明白だ。


 といっても、カリストロスは初めから律儀にクロスレンジで戦おうなどとは考えていないのだが。


「――シャンマリー。貴方、私の事侮ってますよね? 私の銃弾は当たっても痛くないから、安心して楽勝で嬲り殺せる、なんて思ってません?」


「……?」


「ですがそれは、あくまで私が“G.S.A.”のみを用いて戦った時の話です。貴方も私も人の見た目をしていますが、種族的には共に人外。貴方が人外としての能力で蟲の使い魔を操れるように、私もまた人外としての能力を保有しています」


 するとカリストロスは短剣を一度鞘に納め、その手で懐からあるものを取り出して見せた。


「……ッ?! それは――ッ!」


「よーく見覚えがありますよねえ、コレ。だって貴方が作っているものですから」


 カリストロスが指先で摘まんでいるもの、それはシャンマリーがこの国で生産している、ソーマエキスの入った小瓶であった。


「何故、貴方がそれを……まさか!」


 そこでシャンマリーは、地面に倒れているロズェリエの方をちらりと見る。


「ええ、そこの彼女に頼んだら快く譲ってくれましたよ。貴方、ロズェリエに献上品か何かとして、これを渡していたでしょう」


「……なるほど。貴方がそれを取り出して自慢げにしているということは、そういう事ですか」


 シャンマリーはカリストロスが余裕そうにしている理由をすぐに理解し、その内容を口にする。


「――カリストロスさん。貴方の種族、“魔人”なのですね」


「ええ、今までずっと秘してきましたがその通りです」


 カリストロスがこの異世界に来て、頑なに誰にも明かしてこなかった種族としての情報、それこそが“魔人”である。


 そして彼が手に持っているソーマエキスは、飲用することで魔人を始めとした、魔に連なる生物の力を大きく強化することが出来る。


 つまり自身の種族としての基礎能力を上昇させることで攻撃の威力を底上げし、銃撃に少しでも殺傷性を上乗せしようと試みている、といったところか。


「貴方が必死こいて作り続けてきた悪趣味な産物が、貴方の首を絞めることになるのですよ」


 そう言ってカリストロスは小瓶の栓を開けると、ソーマエキスを一気にあおって飲み干してしまった。


 軍服の男は飲んですぐに、空になった小瓶を片手で握り潰して粉砕すると、その手で唇を拭う。


「……奇妙な味ですねえ、これ」


 するとカリストロスの双眸が真っ赤に輝き、彼自身も全身に強い魔力がみなぎっていくことを認識した。


「ですけど、効果はきちんと発揮されています。なかなか悪くないですね。貴方を始末したら、宮殿に貯蔵している分を押収してしまいましょうか!」


 そう叫んでカリストロスは、神速のクイックドロウから三発もの弾丸をシャンマリーに向かって撃ち放った。


「ッ――!!」


 シャンマリーは直感で何かの危険性を察知し、即座に後方へ飛び退いて発射された銃弾を躱す。


 しかし躱された銃弾は明後日の方向へ飛んでいくのではなく、なんと回避したシャンマリーを追尾してそのまま追いかけてきた。


(追尾弾……?! いや、これは――ッ!!)


 シャンマリーは何かを見極めるためにわざとしばらく追って来る弾丸から逃げ続けたが、彼女の出鱈目な動きに合わせたメチャクチャな軌道で弾丸はシャンマリーを捕捉し続け、速度を落とさぬまま追跡してくる。


(ちっ、そういうことですか……ッ!)


 メイド服の少女は急に回避行動を止めると、刀を一気に三閃振り抜き、今まで追いかけてきた弾丸を全て正確に斬り払ってしまった。


「なるほど。貴方のG.S.A.――イマジナリ・ガンスミスに魔人としての能力を重ね合わせているのですね」


「ええ、その通り。相変わらず無駄に賢しいですねぇ」


 そう言って、カリストロスは不敵な笑みを浮かべてみせる。


「私が弾丸に付与した特性は二つ。一つは、狙った標的に当たるまで追い続ける『魔弾』、もう一つは当たった対象の急所を破壊する『凶弾』です」


 カリストロスの話した通り、先ほどの弾丸には『魔弾』と『凶弾』、二種類の特殊効果が付与されている。


 『魔弾』は有名なオペラ、魔弾の射手に登場するものの如く、射撃対象として捕捉したものを自動追尾し続ける“必中”の弾丸。


 『凶弾』は弾丸が対象に接触した際、どこの部位にあたろうと脳や心臓などの即死する箇所に損傷を転写させる“必殺”の弾丸。


 非情に強力であるが、弾丸の一発一発に強い魔力を込めなければならない関係上、魔力消費量が著しく跳ね上がってしまう。


 また絶対に必中必殺という訳でもなく、厳密には対象が高い抗魔力を備えていた場合、弾丸の呪いに抵抗して判定を失敗させてしまう場合もあるので、相手によっては効きにくかったりする。


 何にしろ、一定以上の魔力抵抗ができない者には防ぎようのない極めて凶悪な兵器と化してしまうのだ。


「――こんな芸当が出来たのなら、何故今までの戦闘で使って来なかったんですか? 別にソーマエキスが無くとも、使用するだけなら問題なかったでしょう」


「出来ればこの能力は極力使いたくなかったんですよ。この“魔人としての能力”を用いるということは、私の呼び出す兵器の絶対性を自分で否定することになる。まるでそれ単体では完璧ではない、役に立たないみたいではないですか!」


 カリストロス本人にとっては変なプライドが邪魔して使って来なかった部分が大きいのだが、それでもこの能力を使うに適した機会がこれまで多かったかというと実はそうでもない。


 魔人としての特性付与を行うのはカリストロスにとっても負担が少なからず増える上に、異世界の住民たちにとっては無駄なオーバーキルでしかない。


 かといって他の六魔将相手においそれと見せてしまうとカリストロスの底が露呈して、いざという時に後が無くなるので、余程の緊急事態でもなければ使うことは憚られる。


 だとしても、完全な物理耐性を持つオデュロや無敵の飛び道具耐性を持つレフィリアには一切効かないだろうが。


 それでも、今のカリストロスの弾丸には単純に魔力を帯びた物理攻撃としての特性が乗っているので、あたれば他の異世界転移者にはそれなりのダメージを与えることが可能になっている。


「流石にただの銃弾をちょっと撃っただけでは、貴方相手だと今のように弾かれてしまうでしょう。――ですが、これならどうですか?」


 するとカリストロスが右手に握っていたコルト・キングコブラが消え去ると同時に別の物体が出現し、横長の四角い箱のような形状をした大型の武器が現れた。


「……ッ!!」


 それは、M202という携行式の多連装焼夷ロケットランチャーであり、シャンマリーも元の世界において何かしらの映像媒体で見た覚えのある物騒な銃火器であった。


 その武器はサイコロの四の面を思わせる四つの発射口が設けられており、筋肉モリモリマッチョマンの変態が登場する映画や某生物災害のゲームなどでお目にかかることが出来る代物である。


「あえて教えますが、この兵器に搭載されているのは焼夷ロケット弾です。斬れるものなら斬ってみてください。ああ、因みに爆炎にも『凶弾』の特性は付与されていますのでご注意を!」


 そう言って、カリストロスは肩に担いだM202ロケットランチャーの砲口をシャンマリーへ向けると、賺さず焼夷兵器であるM74ロケット弾を四発同時に発射した。

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