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助太刀する異世界の協力者の話③

 カリストロスが信号弾を撃ってから五分以上の時間が経過したが、結果として誰かがレフィリアの迎えにやって来ることはなかった。


 普段なら一分もしないうちに我慢できず悪態をつきそうな彼が珍しく黙って待ち続けている中、痺れを切らしたロズェリエがついに沈黙を破る。


「……現れませんね。もしかして信号弾を見落としたのか、あるいは哨戒中の魔物に見つかって撃墜されたのでは?」


「いいえ、確実にこの周辺の我々が見える位置にいる筈です。正確な座標までは判りませんが、明らかに誰かからずっと見られている視線を感じます」


(ええ、確かにそれは私も感じるけれど……)


 カリストロスの言った通り、信号弾を撃ち上げてから今もずっと、誰かに見られている、というか遠い場所から見下ろされているというような感覚を明確に認識している。


 彼の話に出てきた、視えない乗り物とやらが何処かに隠れているのは確かなようだが……。


「おそらく信号弾そのものには気づいているのでしょうが、信号弾の上がった場所にいる人物の中に知った顔がいない、もしくは六魔将である私がいることで警戒されている、などの理由で出るに出てこれないのかもしれません」


「まあ! カリストロス様がせっかく合図を送ったというのに、なんて不敬で失礼な輩なのでしょうか」


「あと数分待っても寄って来ないようでしたら、私のV-22でこの場所から離脱しましょう。一度、国外にでも出てその後のことはそれから――」


 すると突然、宮殿の上の階からガラスが派手に割れ、窓そのものが壊れるような音が聞こえてきたかと思うと、それ程離れていない位置に何かが飛び降りて着地でもしたような衝撃を一同は感じ取った。


 レフィリアたちが反射的にそちらを振り向くと、音と衝撃を感じ取った方向から誰かがこちらに向かって、大急ぎで走り寄って来るのが見える。


 その人物たちの顔を視認した途端、レフィリアは本当に心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「サフィアさん……?!」


「レフィリアさん!! 良かった、やはり貴女だったんですね……!!」


 王宮の上階から飛び降りて正面玄関に向かっていたサフィアもまたレフィリアの姿を確認すると、安堵と歓喜からつい頬を綻ばせるが、彼女のすぐ傍にいる他二人が目に入った途端、またもや固い表情に戻って武器に手をかけた。


「ッ……?! 鐡火のカリストロス?! それに魔王の令嬢まで……!」


「おいおい、これはどういう事だ……?!」


 サフィアの後ろに続いて、負傷したソノレを背負って走って来たルヴィスもまた、カリストロスとロズェリエの存在に険しい顔を向ける。


「ルヴィスさん?! それにそちらの方はサンブルクでの……!」


「やあ、闇の神殿以来だね。無事なようで何より――と、再会を素直に喜べるような雰囲気ではなさそうだ」


「まさか、この場に他の六魔将がいたなんて……! しかもよりによってコイツらとは……!」


 急に現れた連中から一方的に敵意を向けられたことでカリストロスは面倒そうに小さく息をつき、ロズェリエは不服そうに眉を顰める。


「何処かで見覚えがあるような気はしていましたが、貴方の仲間ですか。宮殿に突入したかと思えばわざわざ迎えに戻って来るなんて、ご苦労なことです」


「しかし仮にも聖騎士レフィリアの“命の恩人”であるワタクシたちに対して、あまりに礼儀がなっていませんね。ここは即座に跪いて感謝の言葉を述べるところですよ!」


「お前たちが、レフィリアの命の恩人……?!」


 冗談にしても酷過ぎて俄かに信じられない、とばかりにルヴィスとサフィアは困惑した表情を浮かべる。


「えっと……まあ、一応そういうことになっちゃうんですけど……はい」


「そう小汚い野良猫のように警戒しなくとも、今の私たちに戦闘を行うつもりはありません。最も、貴方がたが愚かな自殺志願者だというのなら話は別ですが」


「……レフィリアさん。本当にカリストロスから助けてもらったというのですか……?」


「ええ、それは事実です。今の彼らは一時的ではありますけど、敵対関係ではありません」


 レフィリアからの解答を受けて、サフィアは非常に複雑そうな表情をしながらも構えていた武器を下げる。


「賢明です。では仲間と合流できたということで手短に説明を」


 そう言ってカリストロスはレフィリアの方をちらりと一瞥しつつ、彼女を指差す。


「今の聖騎士レフィリアはシャンマリーによって魔力を奪われており、戦える力がないほど弱っています。おそらく貴方がたと殴り合いをしたとしても、今の彼女なら簡単に負けるでしょう」


「そ、そうなのかレフィリア?」


「はい、残念ながら今の私は剣を出すどころか武装も出来ません。それにその……シャンマリーから身体の中に魔物を仕込まれてしまって、自分では魔力の回復もままならないんです」


「そんな……身体の中に魔物を入れるだなんて、なんて卑劣……!」


 大切な友人に対する酷い仕打ちに、サフィアの目つきがより厳しいものになる。


「その魔物が私に蓄えられる筈の魔力を吸い取ってしまうので、いつまで経っても力が戻らないんですよ」


「――ソノレさん。サンブルクの時のように、レフィリアを一気に回復させるようなことは出来ませんか?」


「ああー……すまない。あの時の魔力結晶は本当にとっておきで、あれ一個限りだったんだ。君たちにさっき使った小さな魔力結晶ならまだ幾つかあるが、小出しの回復ではレフィリア殿に巣食う魔物に餌を与えるだけだろう」


「なんと……」


 悔しそうな顔で視線を落とすルヴィスに、ソノレは再度声をかける。


「しかし何も手がない訳ではない。レフィリア殿を再起復活させるためには、体内の魔物を逆に焼き切るだけの膨大な魔力を一気に注ぎ込む必要がある。――ならば」


 ソノレは懐から、先ほどエステラと連絡を取った時に使った魔導通信機を取り出して起動させる。


「――エステラ、こっちに降りてきてくれないか?」


「オーケー、ちょっと待って」


 するとレフィリアたちのいる正面玄関前の正門広場に、船箱アークが姿を現して垂直着陸し、扉を開けて中からエステラが出てきた。


「えっ、ちょっ……?! スゴイ、何ですかコレ……?!」


「か、カリストロス様……これは……?!」


「ふん、これもまた古代の遺物アーティファクトの類ですか……」


 レフィリアだけでなく、他の二人も驚いた表情を浮かべている最中、降りてきたエステラにソノレが手招きし、自分の傍へと近づいてきてもらった。


「エステラ、端的に言うとレフィリア殿の救出に成功した。至急、私たちを連れて船箱アークでこの街の外まで向かってもらいたい」


「それはいいけど……なんか三人足りなくない? ――それにソノレ、よく見たら腕大怪我してるけど大丈夫なの?!」


「私のことは心配ない。今いない三人はシャンマリーに捕まってしまったが、それよりまずレフィリア殿を回復させることが先決だ。急いでくれ」


「う、うん分かった。それじゃあみんな、早く船箱アークに乗って!」


 そう言ってエステラは踵を返すと、急いで船箱アークの操縦席へと駆け足で戻る。


「――貴方たちはこの後、どうするのです?」


 レフィリアに問われたカリストロスは、小さく首を横に振る。


「別に貴方たちとこれ以上、行動を共にするつもりはありません。貴方たちがここから離脱したのを確認してから、私たちは自前の移動手段で撤退――」


 するとそこでカリストロスは何かに気づいたように、会話を切ってふと宮殿の方向へと視線を向けた。


「……どうかしましたか?」


「拙いですね、シャンマリーがこちらに近づいてきています。私の兵士たちが一気に数を減らしていますので」


「ッ――?!!」


 カリストロスの発言に、その場にいた一同は一斉に顔を強張らせる。


「今すぐここから脱出しなさい。ヤツにその乗り物を見られれば、余計この国で逃げ隠れるのが困難になりますよ。――特別サービスで撤退の時間くらいは稼いであげます」


「なっ……! 貴方がここでシャンマリーを食い止めてくれるというのですか?!」


 とてもカリストロスの口から発せられたとは思えない言葉に、レフィリアはつい唖然となってしまう。


「いいから早く行きなさい。私の兵士といえど、彼女相手にはそんなに長くは持ちません。それに、私がせっかく出向いてきた手間を無駄にしてくれるつもりですか?」


 しっしと手を振って鬱陶しそうに睨みつけて来るカリストロスに、レフィリアはくるりと背を向ける。


「分かりました。――約束通り、お礼は言いませんよ」


 そう言いながらも、レフィリアはほんの少しだけ微笑んでみせ、ルヴィスやサフィアたちと共に船箱アークの船内へと駆け込んでいった。


「――当然です。礼など言われる筋合いはありません」


 そして船箱アークの扉が閉まり、垂直離陸しつつ光学迷彩を展開して上空へ飛び立ったことを確認すると、カリストロスは横目で隣に佇むロズェリエの方を見る。


「別に貴方まで戦いに参加する必要はありませんよ。きっと戦力になりませんので」


「いいえ、それでもワタクシはカリストロス様のお傍に仕えさせていただきます。この身体、場合によっては使い捨ての肉壁くらいにはなるかもしれません」


 カリストロスに盾にされたレフィリアに対抗意識を燃やしているのか、ロズェリエはそんなことを宣ってみせる。


「愚かですね。そんなこと私は望んでいませんし、貴方なんて風除けにすらなりませんよ」


「え、それはどういう――」


 途端、ロズェリエは急に糸が切れた人形のように気を失って、カリストロスの方へふらりと倒れてきた。


 カリストロスは彼女を優しく受け止めると、ゆっくりと地面に寝かせて再び宮殿の方向を振り向く。


 するといつの間にか正面玄関の大扉が音も無く開ききっており、メイド服を着た少女――無影のシャンマリーが彼を眺めながら静かに佇んでいた。

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