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助太刀する異世界の協力者の話②

 レフィリアたちが魔法陣によって転移すると、如何にも地下牢の入口といったような石造りの空間へと景色が切り替わる。


 床に魔法陣が敷かれた小部屋には、武装した二人のハーフエルフの少女が立っており、レフィリアの姿を視認すると途端にぎょっとした顔を浮かべた。


「ロズェリエ様! これはどういうことですか?! まさか聖騎士を牢から出してしまうなんて……!」


「急ぎ面会したいということでシャンマリー様への取次もなく御通ししましたが、いくら魔王様の御令嬢といえど、許されることではございませんよ?!」


 困惑した表情で食ってかかる二人の少女兵士に、ロズェリエは人差し指をピンと向ける。


「黙りなさい、ソウルリパルション!」


「あぐっ……!」


 突然、見えない力に突き飛ばされた少女兵士二人は激しく壁に身体を打ち付け、そのショックで気を失ってしまう。


「……あの、ちょっといいですか?」


「何です? ここからは時間との勝負ですので、無駄話はできませんよ」


 ぎろりと睨んでくるカリストロスに、レフィリアは少し威圧されながらも意見をする。


「すみませんが、私にとって大事な話ですので。この宮殿には、私の大切な仲間も一人囚われているのです。どうか彼女も一緒に連れ出すことはできないでしょうか?」


 そんなことを言うレフィリアに、カリストロスは今日一番の非常に深い溜息をついて、呆れたように彼女を見返す。


「馬鹿ですか、貴方は。そんな余裕がある訳ないでしょう。私の目的はあくまで貴方だけです。もし変な注文をつけて駄々を捏ねるようでしたら、この場で気絶させて無理やり連れだしますよ?」


「貴方は自分の立場と幸運がまだ理解できていないようですね。カリストロス様にお目をかけて頂いてるだけでも光栄に思いなさい。ワタクシだって本当は貴方なんて助けたくはないのですよ!」


「………………」


 言う前から望みが薄いことは判ってはいたのだが、やはり無理だったかとレフィリアは内心項垂れる。


 ここで無駄に揉めていても仕方ないので、まずは自分が無事に脱出を果たして、後からでもまた彼女を救出しに帰ってくるしかない。


「ほら、ぼけっと突っ立ってないで早く行きますよ」


 カリストロスに急かされ、レフィリアは彼らの後をついて宮殿の地下通路を足早に走り抜けていく。


 そして一階の広い回廊に出ると、そこには既に何かしらの連絡がいっていたのか、武装した戦乙女隊ヴァルキュリアスや魔蟲の群れが大挙して待ち構えていた。


「ロズェリエ様、カリストロス様。どういうつもりか存じませんが、これ以上ここを通す訳には参りません」


「速やかにその聖騎士をこちらへ引き渡さなければ、貴方がたへ攻撃を行うことになりますよ」


 エルフやハーフエルフの少女たちから警告を受けるも二人が大人しく引き下がる筈はなく、ロズェリエが前に出るとすぐに持ち前の膨大な魔力を沸き上がらせる。


「蹴散らします、ネガティブストリーム!」


 するとロズェリエは、光を反転させたかのような黒い極光を収束させ、眼前に並び立つ少女兵士たちへと解き放った。


 流石は魔王の実娘というだけあって、敵軍を一撃で蹴散らす、というか消し飛ばす威力の上級魔法を一工程シングルアクションで素早く撃ちだすだけの極めて優れた技量を持ち合わせている。


 ところがシャンマリーの手塩にかけた親衛隊である戦乙女隊ヴァルキュリアスの方も、けして何の用意や対策もしていない訳ではなかった。


「対魔法結界術式展開! リフレクトフォースフィールド!」


 少女兵士たちが一斉に、魔法による加工が施された盾を前に構えて魔力を同調させると、回廊の少女たち側全体にハニカム状の膜のような光の障壁が出現する。


 それは高火力の魔法による飽和攻撃を想定した防御及び反撃を行う用途の、地形や空間そのものに効果を及ぼす連携術式であり、なんとロズェリエの放つ強力な魔法を防いだばかりかそのまま反対に打ち返してしまった。


「なっ?! 嘘……ッ?!!」


 全員が一級品の魔法装備で身を固めているとはいえ、元々兵士ですらなかった少女たちの集まりに自分の魔法を遮断されるどころか反射までされた事実に、ロズェリエはつい動揺してしまう。


 だが冷静に意識を切り替えると、そのまま返って来た自分の魔法を打ち消すために防御魔法を展開しようとする。


「カリストロス様! どうか私の後ろに――」


「いえ、下がるのは貴方です」


 そう言ってカリストロスはロズェリエの前に出つつ、強引にレフィリアの身体を引き寄せる。


「えっ、ちょっ――?!」


 そしてあろうことかレフィリアをそのまま自分の前面に突き出すと、反射してきた魔法攻撃を防ぐための“盾”として使ってしまった。


 当然、レフィリアの能力によって黒い極光は分散して周りに逸れ、周囲の床や壁のみを抉り取るように破壊していく。


「酷い! まさか人を盾に使うなんて!」


「即席のガードベントです。そこにいた、貴方が悪い」


「凶悪犯か何かですか、貴方は!」


「流石はカリストロス様! 咄嗟の機転にワタクシ、感激しちゃいました!」


 そんな会話をしている間にも、向かい側に立つ戦乙女隊ヴァルキュリアスたちは一斉攻撃を仕掛けてこようと身構えている。


「さて、仕事の出来ない役立たずに代わってここは私が片づけましょうか」


 そう言いつつカリストロスがパチンと指を鳴らすと、彼の周囲から闇のようなもやと共に黒ずくめの武装兵士たち、猟犬兵がぞろぞろと姿を現した。


 その手には既にM16などの小銃が握られている上に、中にはパンツァーファウスト3やSMAWなどの無反動砲を装備しているものもいる。


「――焼夷榴弾、敵戦列中央」


了解ラジャー


 猟犬兵たちは無機質な声で返答すると、無反動砲を構えた者たちが一斉に成形炸薬弾の雨を少女兵士や魔蟲の群れに対して撃ち放つ。


 当然、対魔法防御に特化した障壁が発射された榴弾を防げる筈も無く、着弾して炸裂した榴弾の爆風が木っ端のように密集した敵兵たちを焼き、吹き飛ばしていった。


 もちろん、対物理に特化した魔力障壁だったとしても、カリストロスの攻撃には何の守りにもならないのであるが。


「きゃああああああ!!」


 いくら魔法の武具で武装して、寄生された蟲の影響で能力を引き上げられた少女たちといえど、無惨に身を裂き、焼き焦がす異世界の銃火器の洗礼を受けては、パニックになる者が出たとしても致し方ない。


 魔法による防御があるからと安心して一カ所に固まっているような敵など、カリストロスからしてみればただの肉で出来た的でしかないのだ。


「突破口を開きなさい」


「ハッ……!」


 カリストロスの指示を受け、隊列が乱れた戦乙女隊ヴァルキュリアスのもとへ小銃を構えた猟犬兵たちが包囲攻撃を仕掛ける。


「あ、あの……」


 流石に引いているレフィリアであったが何も言わせまいとカリストロスは彼女を睨みつけ、通路の先にある扉を指差した。


「敵の戦列に穴が空きました。今のうちに突破し、先に進みます。ぐだぐだ文句を言っている暇なんかありませんよ」


「………………」


「ほら聖騎士、グズグズしない!」


「……はい」


 おそらくこの少女たちもシャンマリーの手に堕ちたウッドガルドの罪なき民たちなのだろうとレフィリアは認識しながら、心の中でとにかく必死に謝りつつ、カリストロスとともに回廊を駆け抜けていく。


 そして道中で他の少女兵士や魔蟲と会敵する度にカリストロスが猟犬兵をけしかけながら、一行はしばらく通路を突き進んでいき、ついに王宮の玄関口まで辿り着いた。


「ようやく外へ出ましたね」


「ここが宮殿の外……」


 ラグナ宮の正門から外へ出たレフィリアが周囲を見回してみると、既に待機していた猟犬兵たちによってレフィリア救出と同時遂行で掃討が行われていたのか、玄関口の周りに敵兵の姿はなかった。


 ――動いている者、生きている者という意味では。


「……これからどうするつもりなのです?」


「当初の予定では私の輸送機ガンシップで離脱する予定でしたが、どうもこの戦域には貴方の仲間とやらがいるみたいですからね。後々の世話までは面倒ですので連れて行ってもらいます」


「えっ、私の仲間って……どういうことですか?!」


 仲間という単語を聞いて食ってかかるレフィリアを鬱陶しそうに払いのけ、カリストロスは返答を行う。


「私は事前に、貴方を連れ出すタイミングを計るため潜入部隊を派遣していたのですが……その彼らが“視えない乗り物”で宮殿に近づき、侵入する貴方の仲間と思われる連中を確認したのですよ」


「視えない乗り物……?」


「光学迷彩がどうとかいう単語を口にしていたようですが、異世界の連中にしては生意気な技術を持っていますね。――あと、その乗り物は撤退に備えて空中に待機しているから、呼び出す時は信号弾を使え、という話の内容も聞いています」


 するとカリストロスは、右手に銃身の短い拳銃のようなものを出現させた。


 それはベリーピストルと呼ばれる信号拳銃で、文字通り信号弾を放つためのものである。


「この世界の住民にとっての信号弾とは魔力による光弾を用いたものでしょうが、これでも代用できる筈です」


 ただ魔力光による信号を放つだけならロズェリエに任せればいいのだが、単にカリストロスが信号弾を撃ってみたいだけなので彼女への指示は出さなかった。


「とりあえず撃つだけ撃ってみましょう。まあ、しばらく待って来なかったら初めの予定通りにしますがね」


 そう言って、カリストロスは信号拳銃を高く掲げると、上空に向かって彩光弾を撃ち放った。

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