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女主人公が異世界で巡り合う話②

 通路を進んでいくと、少し開けた場所へと出た。


 そこにも剣や槍、石弓などで武装した十数人の男たちが、穴だらけになった体から血を流して所々に倒れている。


「……酷いな」


「…………」


 三人は物陰に敵が潜んでいないか、注意深く周りを見渡す。


 気を抜くと吐き気が込み上げてきそうな血の匂いが、部屋中に漂っている。


 ――レフィリアは恐ろしかった。


 何がかというと、目の前に広がる死屍累々の光景――ではなく、そんな地獄を見てもわりと平然としている自分にである。


 本来の自分なら、人が一人死んでいるのを見ただけでも、絶対に卒倒するかパニックになっていただろう。


 しかし、今の自分は沢山の死体を目にしても嫌悪感を覚えはすれど、恐怖という感情は何故か全く湧いてこない。まるで自分が自分ではない、別の者になったような感覚。


 そんな、死体をじっと見つめて難しい表情をしているレフィリアの姿を、ルヴィスは彼女が殺された者たちの死を悼んでいるのだろうと思った。


 彼女は人の心がきちんとある女性だ。魔王の配下と同じ呼ばれ方はしたが、決して人類の敵にはならないだろうと、ルヴィスは自分の心の内で確信していた。


 そんなことをふと考えながら向かい側の出入り口に目を向けた時――ルヴィスは気づいてしまった。


 反対側の通路の暗がりに、赤く光る眼が六つ。こちらを見ている。


「二人とも危ない――!!」


 ルヴィスは咄嗟に駆け出し、まだ敵の存在に気づいていないサフィアとレフィリアを、入って来た入り口側へと突進しながら両腕でラリアットするようにして突き飛ばす。


「ひゃあっ――?!」


 同時に、無数の銃声がたて続けに鳴り響く。


 先ほどまで三人が立っていた場所の地面が細かく弾ける。


 ずさっとスライディングするかのように、二人を抱えたルヴィスは出入り口の影へと倒れこみ、何とか銃撃から彼女らを守ることが出来た。


「な、何?!今の……!」


「あっ、兄さん!血が……!」


 しかし、ルヴィスは肩や太ももに何発か銃弾をくらい、血を流していた。


 覆いかぶさってしまった二人から離れると、ルヴィスは気丈に振舞って見せる。


「こんなのはかすり傷だ。――くそっ、あいつら……全然、気配が無かったぞ」


 向かい側の出入り口から不気味な赤い双眸を光らせ、猟犬兵と呼ばれた黒い兵士が三人、明るみに姿を現した。


 全員がM4カービンという騎兵用小銃をその手に構えており、レフィリアたちが身を隠している出入り口に銃口を向けている。


(ちょっ、本当に銃持ってる?! ていうか何あれ、全っ然ファンタジーじゃないんですけど……!)


 明らかに近代装備で身を固めている兵士の姿にレフィリアは面食らってしまう。


「まだ猟犬兵が残っていましたか。……ここは私が引き受けます、レフィリア様は兄さんを――」


 しかし、レフィリアは頭を振ってサフィアの前に出た。


「いえ、私が行きます。サフィアさんは魔法でルヴィスさんの治療を」


「ですが……!」


「大丈夫です。やれます――きっと」


 すると、レフィリアの右手にどこからともなく、金色をした十字架のような物体が出現した。


 それはまるで、刀身がない剣の柄のようにも見える。


 覚悟を決めたレフェリアはその物体を強く握り締めると、出入り口の影からその身をさらけ出した。


(――この姿での戦い方。何となくだけど――判る!!)


 同時に、レフィリアの着ている鎧や衣装に青白い光のラインが所々現れ、激しく光を放つ。


 そして、彼女の握っている十字架型の物体の先端からも蒼く眩い光の奔流が発生すると、それは瞬く間に剣のような両刃の刀身を形作った。


「撃て――ッ!」


 三人の猟犬兵は眼前に躍り出た、光を放つ女剣士に対して、アサルトカービンを発砲する。


「はあっ――!」


 レフィリアは大地を蹴ると、一気に猟犬兵まで急接近する。


 その様は宛ら縮地のようで、毎分700発の速度で放たれた弾丸は一発としてレフィリアに命中することはなかった。


 肉薄したレフィリアは一番前にいた猟犬兵を袈裟から勢いよく、光の剣で斬りつける。


「がああッ……!」


 一撃で両断された猟犬兵の一人は、霧散するように黒い煙となって消滅してしまった。


 残りの二人が、目の前に接近してきたレフィリアに急いで銃口を向けなおす。


「ッ――?!」


 しかし、先ほどまで視界に入っていた筈の女がいない。


 途端、猟犬兵たちはいつの間にか背後に回っていたレフィリアによって、二人纏めて横一文字に斬り捨てられた。


「ぬ……があっ……!」


 残り二人の猟犬兵も煙のように消えてなくなる。


 レフィリアは他に敵が残っていないか周りを確認し、ひとまず安全を確認すると、呼吸を整えながら自身の手に握られている光の剣を改めて見つめなおした。


(おおー、もう咄嗟に夢中でやっちゃったけど何とか出来ちゃったよ……。ていうか、このライトなサーベルすっごぉ……ビームのセイバーでぶしゃーって敵やっつけちゃった。これで私も時代の騎士に……?!)


 とりあえず、刃の出しっぱなしは危ないと思ったので、光の刀身を一旦引っ込める。


 すると、後ろからサフィアとルヴィスが駆け寄ってきた。


「お見事です、レフィリア様!流石は異世界からの使徒であらせられますね」


「いえ、それ程でも……それより、ルヴィスさん。怪我の方は……」


「ええ、妹のお陰でこの通りです。大丈夫ですよ」


 ルヴィスは、サフィアの回復魔法で治った肩を元気に回して見せた。


「先ほどは見苦しい姿を見せました。申し訳ない」


「何言ってるんですか! ルヴィスさんのお陰で私たちは撃たれずに済んだんですよ?! むしろ、私はお礼を言わなくてはいけないのです」


「ははは、そう言っていただけるとありがたいです。――猟犬兵がいたということは、カリストロスもまだこの場所にいるかもしれませんね」


 猟犬兵が現れた通路の先を、ルヴィスは睨みつける。


「猟犬兵はカリストロスのいるエリア内でしか出没が確認されていないので、あまり遠くへは派遣できない使い魔の類ではないかと考えられています。だとすれば……」


「――行きましょう。この場所にまだいるのだとすれば、立ち去られる前に接触しなければ」


 レフィリアの言葉に兄妹は頷いてみせる。


 三人はそれぞれ手持ちの剣を構えると、暗い通路の先へと歩みを進めていった。




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