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戦場となる異世界の大宮殿の話②

 道幅と天井のどちらも広く長大な回廊の中を、ルヴィスたちは幾度となく迫りくる魔蟲の群れを撃退しながら、今のところは順調に進撃を続けていた。


「煈燐火斬――ッ!!」


 回廊のど真ん中を重戦車のように突撃してくる、腐海の王たる蟲を彷彿させるような、全身の外殻にびっしりとスパイクのようなトゲが生えた超巨大なダイオウグソクムシ型の魔蟲、鎧王蟲アーマークロウラーをルヴィスは炎を纏わせた剣の奥義で一撃の下に、真っ二つに両断する。


 よもやよもやとも言ってのけそうな炎熱の刃は、物理的な強度ならばロケットランチャーの直撃にすら耐えそうな鎧王蟲アーマークロウラーの分厚い外皮を、まるでケーキの如く焼けた断面を覗かせながらきれいにぶった斬ってしまった。


「雪華烈風刃――ッ!!」


 間髪入れずに今度はサフィアが、振り抜いた双剣の刀身から凍てつく冷気による風の刃を無数に放ち、周りの空間に蔓延る大勢の魔蟲たちを撃ち落とそうとする。


 うねりをあげる猛吹雪ブリザードのような鎌鼬の広範囲殲滅攻撃が、刀の如き大鎌を備える蟷螂カマキリ型の裁断蟲ヘルズリッパーや、魔刃蟲デスフライ毒龍蟲グランセンチピードの群れを一斉に瞬間凍結させると同時に、すぱっと鋭利に斬り刻んで細かく解体してしまった。


 回廊中に跋扈していた敵の群体がいとも容易く一掃されたことで、ジェドが頼もしそうに笑いながら魔杖を肩に預ける。


「流石はクリストル兄妹のコンビネーション! 前衛の二人が強すぎるから、後衛の僕たちまでなかなか出番が回ってこないや」


「二人とも完全に剣と鎧の力を自分のものにしているわね!」


 素直に称賛してくれるジェドと女僧侶の言葉は嬉しいが、ルヴィスもサフィアもけして油断して警戒を解くことは無い。


「ですが安心は出来ません。ここの主は神出鬼没と畏れられる無影のシャンマリー、いつどこから奇襲を仕掛けて来るのか判ったものではありませんから」


「……よし、この回廊の突き当りまで来たな。次の区画への扉を開けるぞ」


 ルヴィスたちは罠や急襲に警戒しながら扉を開けて次の回廊へと進む。


 中に入ってから程なくして、一行は広い回廊の向かい側に、大挙して大勢の人影が並んでいることを認識した。


「むっ?! あれは……!」


 視界の先に隊列を組んで待ち構えていた者たちは、その全てがエルフやハーフエルフの見目麗しい少女たちであり、その全員が制服のように可愛らしいメイド服を着用していた。


 しかもそのメイド服の上から専用にデザインされた、凝った意匠の鎧も着込んでおり、サークレット、ガントレット、アンクレットなどの整った武具を身に纏っている。


 そしてそれぞれが剣や槍、斧、弓、杖などの多種多様な武器で装備を固めていた。


「――貴方がたが何の許可もなく王宮に忍び込んだ無礼なお客人……いえ、姑息で不届きな鼠の皆さまですか」


「私たちはこの国の支配者、シャンマリー様にお仕えする《戦乙女隊ヴァルキュリアス》。この場にて、美しき宮殿を汚す不潔な鼠の掃除をさせていただきます」


 明確な敵意と殺意を向けて来るメイド服の少女たちであったが、ルヴィスたちは彼女らが魔族などではなく、れっきとしたこのウッドガルドの住民だった者たちであることを即座に把握する。


「兄さん、この人たち……!」


「ああ、おそらくこの国の住民たちだろう。ブレスベルクの時のように洗脳か何かを施して徴兵しているのか……?」


(――しかし随分とまあ、武装が整っているな……。どれもこれも魔法付与エンチャントがかけられた一級品の具足じゃないか)


 ルヴィスは一目で敵の装備の質などを見極めると、いきなり攻撃はせずにひとまず落ち着いて彼女たちへ声をかけた。


「連絡も無しの急な来訪、誠に申し訳ない。見ての通り、俺たちはこの王宮を攻め落としに来た。君たちが無理やり魔王軍に従軍させられているのなら、俺たちに戦うつもりはない。どうか武器を下げて、道を譲ってほしい」


 無益な戦闘をするつもりはないと気丈に述べたルヴィスであったが、彼の言葉を受けた少女たちの反応はとても冷ややかで、まるで小馬鹿にして失笑するような声まで聞こえてきた。


「愚かな。私たちは身も心もシャンマリー様に捧げた親衛隊。この命はシャンマリー様の為だけにあります」


「汚らしい鼠の声を聞く耳など持っておりません。貴方がたにはここで死んでいただきます」


 するとメイド服の少女たち、戦乙女隊ヴァルキュリアスはこれ以上の会話はしないとばかりに、全員がその身に魔力を巡らせ始める。


(ちっ、そんな気はしていたが、やはり戦闘は避けられないか……!)


 そしてすぐに魔力を充填させたメイド少女たちは、一斉に呪文を詠唱して各々が得意とする攻撃魔法をぶっ放してきた。


「焼き焦がせ、バーンブレイズ!」


「凍てつく冷光、フリーズレイ!」


「斬り刻め、スラストエッジ!」


「裁きの雷霆、ライトニングボルト!」


「炸裂せよ、フォトンブラスト!」


「刺し穿て、ダークネスランス!」


 様々な種類の魔法攻撃が一度に乱れ飛び、ルヴィスたちに向かって襲い掛かる。


 おそらく会敵する前に“エンハンスキャスト”の魔法を使用していたことで、強力な魔法を短詠唱化させて素早く撃ち放つという事前準備まで行われている始末。


 しかもエルフやハーフエルフは生まれつき、人間よりも種族的に魔力量も魔法の扱いも遥かに優れているので、武装の補助も相まってその威力は非常に凄まじかった。


「わわっ?! 光の盾よ、フォトンシールド!」


 ジェドは慌てて呪文を詠唱すると、味方全員を覆う大きな光の障壁を発生させて、怒涛の連続攻撃魔法を何とか防いだ。


 しかし周りに逸れた高火力魔法が周囲の窓や柱、床に調度品なんかをめちゃくちゃに破壊していき、周囲に煙や埃が舞い上がる。


「ちょっと! メイドの自分たちで宮殿の中、散らかしてどうすんのよ!」


 悪態をつく女僧侶の隣で、ソノレとノレナは冷静に状況を分析する。


「流石はエルフ族、固定砲台として魔法を放つだけなら上位ランクの冒険者に匹敵しますね」


「だが魔法自体は盾で防げても、このままじゃ天井が崩落して瓦礫が降って来るかもしれないぞ!」


「くっ、仕方ないが……ッ!」


 ルヴィスは意を決して前に出ると、剣を深く構えてその刀身に竜巻の如く渦巻く風の魔力を収束させ始める。


 因みにフォトンシールドは術者の内側からは攻撃が可能なので、これから彼の放つ奥義を阻害するようなことはない。


 そして束ねた風の魔力が臨界に達したタイミングで力強く一歩踏み込み、ルヴィスは勢いよく剣を振るった。


「嵐王滅砕破――ッ!!」


 剣の斬り払いとともに、風の王の鉄槌の如く振るわれた嵐の塊が、周囲のガラスを全て吹き飛ばしながら回廊全体を突き抜けていく。


「ひゃっ……?!」


「きゃっ――!!」


 その烈風は隊列を組んで並んでいた戦乙女隊ヴァルキュリアスの少女たちを木っ端の如く吹き飛ばし、全員を壁や柱へと強かに激突させた。


「ううっ…………」


 身体を強く打ち付けたショックで失神したり動けなくなったことで、武装した少女たちは一人残らず戦闘不能の状態となる。


(悪いな、だけどこれでも加減はしたつもりだ……!)


 ルヴィスはなるべく過剰に少女たちを傷つけないよう、風圧のみによる攻撃で彼女らを沈黙させたが、それでも強打による全身打撲や骨折、中には内臓破裂などの死に至るような重傷を負った者も出たかもしれない。


 それでも閃熱や雷霆によって焼き払うよりは幾分マシだろうと考えて技を選択し、それは他の仲間たちもきちんと理解していた。


 せめて当たり所が悪くないようにと願いながら、弱々しい呻き声が所々から聞こえてくる回廊の中を、敵が復活する前にルヴィスたちは急いで駆け抜ける。


 その後、回廊の突き当りから扉を開けると、下階へ通じる階段や反対側へ渡る通路のある、広いホールのような場所へと出た。


「あら、ちょっと開けた所に出たわね。ここから下の階へ降りれるみたいよ」


 女僧侶が差した先には大きな階段が伸びているが構造上、下の階の様子は今いる位置からだと全貌がよく見えない。


「どうしますか? 一応、向こう側の回廊にも渡れるみたいですが」


 今後の行き先を問うノレナに、ジェドが難しい顔をしながら意見を述べる。


「うーん、普通に考えるなら捕虜を捕らえておくとしたら地下牢とかじゃない?」


「あのレフィリアを普通の部屋に軟禁しておくとは考えにくいしな。だとしたら、下の階か」


「ならまずは、そこの階段から下へ降りて、地下へ通じる入口を探してみましょうか」


 一行はひとまず方針を決め、下の階へ向かう為に階段の方へ移動しようとする。


 しかしその時、すぐ近くで急にどさりと何かが崩れ落ちるような音と衝撃が伝わって来たかと思うと、ジェドと女僧侶が床に倒れ伏していた。


「ちょっ、どうしたんですか……?!」


 気づいたサフィアとソノレが慌てて駆け寄り、倒れた二人を起こそうとするが、どちらもいつの間にか意識を失ってしまっている。


「……死んではいない。気絶――というか、ただ眠っているだけのようだ。でも一体何が……?」


 ジェドたちの脈や呼吸を確かめながら、ソノレは訝しむようにそう呟く。


 すると――




「あれれー、おかしいですねー」




 まるで超有名な小学生探偵を思わせるわざとらしい口調で、ルヴィスたちの背後から女性の声が聞こえてきた。


「ッ――?!!」


 ルヴィスたちが咄嗟に振り向くと、そこには赤いメガネにメイド服の少女――シャンマリーが佇んでいた。

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