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女主人公が異世界へ呼ばれる話②

「おお……」


 兄妹二人はその光景に息を呑み、しばらく我を忘れて見入ってしまっていた。


 魔法陣の中央にいたのは、一人の鎧姿をした若い女性であった。


「――あれ?」


 その女性は数秒、兄妹二人の顔を見た後、ここはどこだと言わんばかりに周りをキョロキョロ見回した。


「え? あれ、私って何してたんだっけ……ん?」


 鎧姿の女性はふと、自分の姿を見下ろす。


 すると、彼女は自分が今まで着たこともないような、まるでゲームやマンガ、アニメのキャラクターみたいな恰好をしていることに気づいた。


「え、何これスゴイ! もしかして夢? ――あ、まさか……もしかして、異世界転移ってヤツ……?!」


 鎧の女性は自分が寝る前、何故か部屋に置いてあった異世界転移の書類に何となく書き込んでしまったことを思い出す。


「えー、でもまさか本当になんて……いやいや、ありえない……でも夢にしては実感が有りすぎてリアルというか――」


 一人で何やら訳の判らないことをブツブツ喋っている鎧の女性に、サフィアはゆっくりと近づいて話しかける。


「あの、ちょっと宜しいでしょうか……?」


「あ、はい! 何でしょう?!」


 鎧の女性は急な声掛けにびっくりしながら、話しかけてきた蒼い髪の女剣士の方を向いた。


(うわ、この人すっごく可愛いしキレー……後ろの人も超イケメンだぁ……)


「えっと、異世界から来ていただいた使徒様であらせられますよね? 私はサフィア、向こうは兄のルヴィスといいます」


 サフィアの後ろにいるルヴィスも礼儀正しく会釈をする。


 まだ心の準備も定まっていない中、異世界の住人に話しかけられた鎧の女性はわたわたしながらも、どうにか受け答えた。


「ご、ご丁寧にどうも……」


「どうか、使徒様の御名前をお聞かせ頂いても宜しいでしょうか?」


「わ、私の名前?! えーっと、私はあや――あやや?」


 そこで鎧の女性は、大事なことに気づいた。


 なんと、自分の本名が思い出せないのである。


 それどころか、自分の個人を特定できる事柄が一切頭に浮かんでこない。


 私は21歳で大学に通っていて――というような、ざっくりとした情報までなら判るのだが。


 代わりに、自分が今この世界に降り立っているキャラクターの名前だけは明確に認識できた。


「……使徒様?」


「あ、ごめんなさい! 私の名前は――レフィリア。レフィリアといいます」


 鎧の女性はとりあえず、今自分が認識できる名前を自信満々に答えた。


「レフィリア様……素晴らしいお名前ですね。どうかこれから、宜しくお願いいたします」


 恭しくお辞儀をするサフィアに、レフィリアも反射的に礼を返した。


 何を宜しくお願いされるのかは、よく判らないが。


「は、はあ……どうも。――あの、ところで鏡とか持ってたりしませんか……?」


 恐る恐る聞くレフィリアに、サフィアはきょとんとする。


「はあ、鏡ですか? 水鏡でよければ、魔法で作り出せますが……」


 そう言うと、サフィアは片腕を伸ばして呪文を唱えた。


「魔の本流を弾け、聖なる水鏡の盾よ――アクアリフレクター!」


 すると、直径二メートル近い大きさの丸い水の盾が目の前に造り出された。


 その盾は水でありながら透明ではなく、きちんと鏡のような鏡面体になっており、十分姿見として利用できる。


「本来なら敵の攻撃魔法やブレスを反射する魔法ですが、即席の鏡としても一応使えます」


「おお! 本物の魔法だ! すご――いやいや、ちょっと使わせていただきます」


 え、貴方魔法知らないんですか? 的な反応を恐れたレフィリアは、苦しげだがなんとか取り繕いながら水鏡の前にたった。


 異世界にきて変わった自分の顔や全体像をきちんとチェックしておきたいのだ。


(うわぁぁぁー……うっそー、これが私――?!)


 ――そこには、肩程まで伸びた美しい金髪に、瑠璃のような蒼い瞳をした見目麗しい女性がいた。


 年齢のほどは十代後半から二十代前半といったところか。


 服装は純白の外套の上から、シャンパンゴールドの薄い金色をした鎧を各所に身に着けている。


 いかにも女騎士や聖騎士、戦乙女といった感じの風貌。


 元の自分より明らかにスタイルも良くて、胸も大きい。


 そして何より彼女が嬉しかったのが、裸眼で明瞭に周りの景色が視えることであった。


(あ、そういえば今の私ってメガネ無しでこんなにはっきり視えるんだ……なんか嬉しい……!)


 レフィリアは感激しながら一頻り鏡で自分の姿を見て回ると、今まで静かに待ってくれていた二人に向き直った。


「ありがとうございます。待たせてしまってごめんなさい」


「いえ、身だしなみの確認は大事ですから。それはそうと、すごくお綺麗ですね」


「それ程でも……っと、大事なことを忘れるところでした」


 佇まいを直すと、レフィリアは気を引き締めて二人を見据える。


「お二人が私をこの世界に召喚したんですよね。私はこの世界について、ほとんど何も知りません。ですので、色々教えていただきたいんですけど……」


「それについては、自分から説明いたしましょう」


 サフィアの後ろから、今までずっと静かに見守っていたルヴィスが会話に入って来た。


 彼から聞かされる話によって、レフィリアは何故自分がこの世界に呼ばれたのか、この世界では今何が起こっているのかを知ることとなる――。




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