50/付け耳にゃんこ
「蓮美君、バグの待機をどうしようか?」
定時を過ぎたので狸悟が確認をする。
「希望します、命君も心配なので」
バグでは戦力にならないが経験をできるだけ積みたい。
活躍できずとも、参加する意欲を汲み取ってもらえる事は嬉しかった。
「そういえばバグって最近現れないわよね?」
和兎の疑問が自分の考えと一致する。
命にしたあの質問と同じだ。
「ですよね、急に息を潜めたみたいに。いなくなれば俺も残業しなくて済むんですけど」
「彼らの動きはよくわからないからね。だとしたら命君も神として肩の荷が下りるし、人間らしい生活を送れるんだが……」
狐乃と悟狸の会話に蓮美も同じ思いを抱く。
地方へ行けなかったり、幼児帰りをしたり、命の生き方はままならない事の連続だ。
同情ばかりでは成長を妨げてしまうが、できる事なら協力もしたい。
一方でいい加減振り回されてもいる。
彼氏もできない、プライベートも地味なまま。
人の世話を焼くのもいいが自分の幸せも探さねばと悩んだり。
「ふぅ……」
「ん?」
考えあぐねてついたため息を狐乃が見逃さなかった。
「浮かない顔してるね」
「大丈夫です」
「ストレス溜めてる?」
「大丈夫です」
「別店があるけど行かない?」
「ホントに大丈夫なので」
狐乃は色恋で引きずるタイプだが、望みがあれば何度でもアタックする。
ある意味打たれ強く、ある意味執念深い。
しつこい勧誘を断っていたら、傍でガチャンと音がした。
「にゃあ」
命が充電していた狐乃のスマホを猫パンチで弾き飛ばしている。
「あぁっ、おまっ……!」
拾ったスマホは画面がバキバキに割れていた。
「あぁあああっー!」
「うにゃあーん」
凍り付く男性陣。
「機種変したばっかなのに……」
かける言葉が見当たらない。
重苦しい沈黙の中、猛者である和兎が一人腰を上げた。
「命君、こっちに来なさい」
彼女は厚紙の切れ端にマジックで文字を書き、裁縫用の紐を通して首から下げさせる。
『私は同僚のスマホ画面を割りました』
デカい反省札だ。
「しばらくじっとしてなさい」
「にゃん……」
小さく鳴くと命は猫背でイスに座る。
「コイツ、バグが現れたら戦えるんですかね?」
涙目の狐乃に誰も答えない。
いたたまれなくなった蓮美も和兎に続いて立ち上がった。
「私、待機用の夜食を作ってきます」
空気を変えるにはこれしかない。
職員ニコニコお供物タイムだ。
「いいのかいっ!」
「そうよ、蓮美がいるから夜食、じゃなくて、夜にもお供物が食べれるわっ!」
「気分を変えるかの」
「すまない朝霧君……」
「蓮美ちゃん、俺の嫁になっt」
「いってきますっ!」
悟狸、和兎、猿真、犬威、狐乃の声を背に職員室を飛び出した。
気分が晴れるように変わったメニューを考えようと思う。
時間はたっぷりあるので手鞠寿司など作ってみようか。
「ニンジンが残っていたし、味付けして……」
ジリリリリリリッ。
「ひゃあっ!」
家庭科室の手前で鳴り出した、バグの出現を知らせる非常用ベル。
何度聞いても心臓に悪い。
「待機命令、やおよろず生活安全所に待機命令」
スピーカーの放送が廊下に漏れてくる。
「都内でバグと思われる事案が発生、正体の判別は検証中の為、職員はその場で待機。繰り返す、都内でバグと思われる事案が発生、正体の判別は検証中の為、職員はその場で待機」
放送を聞いておやっと思った。
現れる時間が早い、バグの出現は八時過ぎの筈だったが。
「命君は……」
長い廊下を急いで引き返すと、職員室では。
「うそぉーん」
悟狸が嘆いていた。
猫耳のカチューシャと肉球グローブ、足には肉球ブーツを命が身に着けている。
机の上にあった箱が開いているので通販で購入した物のようだ。
猫になりきる為だろうが、どのタイミングで注文したのか。
宿直室の抱き枕もだが、彼のネット注文はいささか到着が早い気がする。
どんな裏技を使っているのか。
「命、そ、そ、そんな装備で大丈夫なのか……?」
「大丈夫だ、問題ない」
茫然自失の犬威にまともな返事で返したが、見た目はどう見てもまともではない。
ちょっとした変態が出来上がっている。
「命君、正気に戻らないかっ!」
危機感を感じた狸悟も叱ってはみたが。
「うなぁ~ん」
また猫に戻ってしまった。
「くそっ、ならば!」
犬威が棚にあったパソコンを取り出して小脇に抱える。
外勤持ち出し専用の物だが、意味がわからず皆が目を丸くした。
「俺がバグと戦う」
「はっ?」
狐乃がポカンとする。
「こうなったのも俺が原因だ、俺の油断から未熟な命をこんな目に。責任は取るつもりだ」
「戦うといったって、僕らの戦い方では通用しないよっ!」
止めようと扉の前を悟狸が体で塞いだ。
「いんたーねっつの化身だか何だか知らんが、こちらもいんたーねっつで応じればなんとかなるやもしれません」
ちなみに犬威はネットどころかメカに弱い。
所持したパソコンのスペックは64ビット、32ギガ。
SDカードスロット搭載、USBポート2口、バッテリー残量0、ネット環境未接続。
モニター画面、12.4インチ。
小さい。
「応じるってどうするつもりなんだい!」
常軌を逸し始めた犬威に悟狸は焦りまくる。
「殴ります」
「犬威さあぁーんっ!」
狐乃が絶叫。
「もしくは挟めるな」
12.4インチで。
「手をかけるかもしれませんが命の事を頼みます。特に狐乃、任せたぞ」
「……嫌でs」
「新しい弟分ができたと思って可愛がってやってくれ」
「嫌でぇえーすっ!」
狐乃が拒否すると、我慢ならなくなった和兎が命の両肩を掴んで揺さぶった。
「いい加減目を覚ましなさい、犬威さんが代わりに戦おうとしているのよっ!」
「うにゃあ?」
「君を必死に育てた人が身代わりになるかもしれないの、大人になりなさいっ!」
「いにゃ~ん」
気持ちが伝わったのか、嫌そうに顔を背ける。
「命君っ!」
「うなぁ~、和兎さんのメスゴリラ」
「やかましい」
スパァーンッ、と彼女のビンタが左頬に入った。
「わぁーっ!」
命がさらにぶっ壊れる想像を全員がする。
固唾を呑んで様子をみていると。
「おや、僕は……?」
真顔で我に返り、辺りを見回す。
「命君っ!」
ここで再び放送が流れてきた。
「連絡、やおよろず生活安全所に連絡」
六人が揃ってスピーカーを見上げる。
「先ほどの件はシステムエラーと判明、繰り返す、先ほどの件はシステムエラーと判明、待機命令は解除、待機命令は解除」
はぁ~、と、うなだれた全員が下を向いた。
「バグではなかったのだな……」
犬威はミニパソコンを閉じると、棚にそっと戻す。
「猫耳取った方がいいよ……」
「猫耳?」
蓮美がカチューシャを指すと、命は室内にあった鏡の前に立ってみた。
「カワイイではないですか……」
「……カワイくない」
この時ばかりは蓮美も本音が出る。
変態にしか見えない、という感想はぐっと飲みこんで。
「お疲れ様……」
結局、夜食は食べずに解散となった。
疲れ切った表情をそれぞれが浮かべて。
※今回の呟き
(もっと早く投稿する予定が、バタバタしていて遅くなってしまいました。)
ところでまた大事な事をわすれていました。
ここで動物の事を書かせて頂いていますが、正直な話し、自分は本当に浅くしか動物について知識がありません。
研究されている方が読まれたら、動物の表向きな側面しか書いていないと憤慨されるかもしれません。
申し訳ありません。
実際、動物は本能のままで生きていますし、種族同士で争う事もあるかと思います。
今はまだ掘り下げて書いてはいないので、そういった至らない点などはお許し頂けたらと思っています。
きれいごとだけを書いていたら、誤った情報や誤解も生まれますし……。
また、先日そういう点も踏まえてもっと動物の姿を知らねばと動物園の飼育員さんの解説動画を拝見させて頂きました。
狐乃「いや、ドキュメンタリー見ろよ……」
笑顔で解説される朗らかな飼育員さんに脇で動物が激突していました。
フフッてなりました。
最近ではそんなに笑いを狙ってこの小説を書いていないのですが
(ところでこれって小説なんでしょうか……、真面目なのか不真面目なのか、正直よくわからなくて……。下ネタとかギリギリな事書いてる気しかしない……。キノコとか……。知らない所で色々な方にご迷惑をおかけしていたら本当にすみません、この話しの中でお怒りになられたらすみません。悪意は本当にありません、ごめんなさい。悪目立ちしようとかなんて下心は一切ありません。)
狙った笑いも面白いのですが、やはりこういう予想しない、できないアクシデントの方がユニークだなぁと感じました。
動物は自分の本能に従ったままなので。
あと、それを笑って流す飼育員さんの愛に深さを感じます。
熱中症にはどうか気を付けて、お仕事に励まれてください。
こんな駄文でもお目を通して頂いてくださる皆様も、どうかお体には気を付けて水分を取られてください。
皆様の安全と健康を祈って。
しかしこれ長いですね、後書きじゃないですね。
なんでSNSをしないかがおわかり頂けただろうか……。
狐乃「ところで次の話しはどうした?」
……今、考えている。(汗)
※そういえば忘れてました!(忘れ物多いな……)
動物園に限らず、水族館の飼育員さん、生き物に慈しみを持ってお世話される皆様、お子さんと過ごす毎日がフルパワー全開なお母様も熱中症にはどうかお気をつけて水分を取られてください!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※読んで下さっている皆様、そうでもないという皆様、いつもありがとうございます。
こちら二回目の直しの後のコメントになります。
遅くなってしまい大変申し訳ありません。
この回もまた、時間をかけすぎてしまいました。
登場する人物が多いと話しがこんがらがり、頭を抱えて小説から離れる事が最近多くなってしまいました。
気持ちの上では早く先に進みたいと思っているのですが、中々進まずやきいも、やきもきする日々です。
気長にお待ち頂いている皆さんには感謝ばかりです。
まだ気温が不安定な事もありますので風邪などひかれないように、皆さんどうかお体を大事にされて下さい。




