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やおよろず生活安全所  作者: 森夜 渉
三章 やおよろず生活安全所
31/62

29/狐の宮殿

読んで下さってる皆さん、すみません。

この回は直しが難しくて手こずっていまして…。

今しばらくお待ちください。


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申し訳ありません、この回はまだ時間がかかっていて少しお時間頂いています。

人物が複数になると毎回直しが難しいです……。

最近自分の中でエモいと感じたのはマンドラゴラのモノマネをした瞬間でした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

読んで下さっている皆さん、すみません。

まだ直しに時間がかかっています、この回の直しがかなり難しく……。

マンドラゴラも捨てがたいのですが人型の大根はもっと素敵だと思っています。

車に乗せられ、どれ位経ったか。

都内の一角。

街の喧騒から離れ、奥まったビルの中にそこはあった。

ほの暗い照明に大理石の床と壁、天井から下がるシャンデリア、値が張りそうなカーペットとソファー。

宮殿の様なきらびやかな空間が広がる。

「いらっしゃいませ、朝霧様っ!」

狐乃に手を引かれ、ズラリと並ぶ美青年にうやうやしくお辞儀をされた。

「……わゎ」

彼が経営しているという店に連れてこられたが、まさかホストクラブだったとは。

てっきりバーかどこかのラウンジだと思っていた。

なすがままで付いて来たが、男子に免疫が薄い蓮美はとんでもない場所へ来たと後悔する。

ホストクラブに慣れていたり好きな女性ならいいのだが、大勢の男子に囲まれて会話した事などない自分にはいきなり心臓に悪い。

落ち着こうとして手に持つ鞄を動物と見立ててモフるが、落ち着くどころか変な汗まで出てきた。

狐乃が自分をスタッフに紹介しているが全く耳に入らない。

「俺は着替えて来るから待ってて」

「……へぃ」

気の抜けた返事をしてソファーに座らされたが、佇んでいるホスト達をまともに見られなかった。

他に客はいないらしくBGMに静かなクラシックだけが流れている。

緊張し、固まって下を向いていると誰かが近づく気配がした。

「朝霧様」

名前を呼ばれ顔を上げると、切れ長の目をしたメガネの男が覗き込んでいる。

年は三十代後半に見えた。

「ご気分がすぐれませんか?」

「い、いえ……」

「無理に当店へ誘われたのですね」

「え……」

ためらいながらも頷く。

「私は狐乃様のマネージャーをしております、すおうと申します」

手帳に走り書きをした文字を見せ、さんずいの州と王とで洲汪と読むらしい。

「代わってお詫びを致します。あの方はああいう方で、我々も先ほど貸し切りにしろと連絡を受けまして。予約のお客様も急な改修工事だと伝えて別店の方で対応するようにと……」

目的は自分一人の為にだ。

大げさな演出をされてますます居づらい。

「ご、ご迷惑をおかけしてしまって、す、すみません、か、か、帰ります……」

立とうとすると手で合図し、ホスト達が横並びに通路を塞ぐ。

「申し訳ありません、狐乃様が招かれた方はどなたであろうともてなすように言われております。振りだけで構いません、お付き合い願えませんか。お気に召されなければ趣向を変えますが」

「そういう事じゃ……」

慇懃な態度とは逆に、洲汪が狐乃に忠実な相手だとは判断できた。

狐乃と同じで抜かりなく、逃がしてはもらえないと。

「朝霧様は狐乃様のお勤め先、やおよろず生活安全所の同僚の方と伺いました。それも人間で手作りの稲荷寿司を作って差し上げたと」

「は、はい……」

「ならば明かしましょう、我々も狐です」

言われて思い出す。

悟狸の知り合いで狸の親子が営む居酒屋を訪れた事を。

彼らも人間の世界で店を持ち、生活をしていた。

「狐?」

「はい、眷属ではありませんがここにいる全員は化けた狐です。当店は狐が人間をもてなす会員制の高級クラブです、もちろん公には秘密ですが」

説明しながら洲汪が一枚の名刺を取り出して渡す。

黒地に金の文字で印刷された店の電話番号、役職名と店名が書かれている。

Club Bluefire。

「クラブ、ブルーファイア……」

蓮美は看板を見てはいない、見ている余裕などなかった。

「狐火という化け狐が起こす青い炎をそう呼ぶと、狐乃様が名付けました」

全員が狐だと知らされ、肩の力が抜ける。

正体が動物なら人間相手という先入観を持たなくていい気がしたからだ。

「我らは狐ですが害を及ぼしたりは致しません、ご安心を……」

「は、はい……」

動揺がおさまり、返事だけでも必死で返すと洲汪がホスト達に振り返る。

「お前達も話しは聞いているだろう、こちらが狐乃様に手作りの稲荷寿司を作られた朝霧様だ。我々が狐だと明かしても大丈夫な人間の方だ」

「え、いいんすか?」

彼の呼びかけで通路にいたスタッフ達がわらわらと集まってきた。

「こんばんはー、俺ら狐でーす」

十数人に囲まれて軽いノリの挨拶をされる。

バレてもいいなら素で大丈夫だろと、大勢で笑い合い賑やかになった。

「君が狐乃さんに好物の稲荷寿司を握ったの、人間なのに?」

初めに人懐っこい感じの、明るい茶髪の青年が話しかけてくる。

「は、はい」

質問には正直に答えたのだが。

「狐乃さんに稲荷寿司を握ったの?」

「えっ、狐乃さんの稲荷寿司を握ったの?」

「マジか、狐乃さんの稲荷を握ったの?」

「稲荷の稲荷を握ったの?」

「すげーな、よっぽどあんた強いんだな。狐乃さんにどんな技を繰り出したの?」

伝言ゲームの様な伝わり方をされ、尊敬の眼差しを向けられている。

「あの……」

「はい」

「稲荷を握ったってなんですか?」

変な言い回しが引っかかり、洲汪に尋ねた。

「失礼しました。この者達は勘違いをしているようですが稲荷を握るはキン玉を握るという意味です、ご存じないですか?」

ろくでもないデジャブ。

「知りません、知らないです、知りたくもないし握っていないです」

稲荷を握るはキン玉握るって格言みたいに謎な言い方されて、今日キャンタマ二回目。

洲汪の知ってて当然みたいな返しと変態じみた誤解をされて蓮美はモヤモヤした。

「握ったのは稲荷寿司ですっ!」

怒ったものの狐の青年達はまだ稲荷の稲荷を握ったともてはやしている。

ムキになって訂正を訴えていると着替えた狐乃が戻ってきた。

集まっていたホスト達は元いた位置に戻り、機嫌が斜めだった彼女も視線が釘付けとなる。

「お待たせ」

黒スーツに黒シャツ、首には狐のネックレス、手には狐のリングをして髪を上げている。

夜の世界を体現したようで、昼間とは別人に思えた。

狐乃は蓮美の隣に座ると彼女にシャンパン、自分には赤ワインをと洲汪に頼む。

かしこまりましたと彼が答え、控えていた一人の青年を呼んだ。

「ナオ」

スタッフの中でもまだ若い、見た目からして幼さが残る未成年にも見えた。

全く気が付かなかったが、青年は蓮美を見ていた。

見た瞬間から驚いたような、ショックを受けたような。

目を逸らさない様子からずっと見ていたようだったが、表情から察するに蓮美を歓迎してはいない。

そんな風に映った。

「ナオ、何をしている。準備をするんだ」

ハッとして視線を外し、すぐにお持ちしますと言って店の奥へと入っていく。

「ナオはまだ研修中でして……」

「いい、教育係りはお前に任せてある」

先程の妨害といい、オーナーとして狐乃は絶対的な存在らしい。

顔色を伺う洲汪の前で足を組んでくつろぐ。

「蓮美ちゃん、ここは俺が人間世界で経営してるクラブなんだ。良ければ感想聞かせてよ」

事情は悟狸から聞いて知ってはいたが、感想と言われても来てからキャンタマの話ししかしていない。

「狐乃さん、それよりも騙す形で誘うのはやめて下さい」

「……え、意外だな」

抗議を受けても悪びれる様子がない。

「ここが気にいらなかったなら場所を変えようか、他の店もあるし。つまらないならシャンパンタワーでもして盛り上げるよ」

「気に入らないとかじゃなく、無理やり連れてこられるのは困ります」

「ゴメン、俺、狐だから人間の細かい考えとかよくわかんなくてさ」

「はぐらかさないで下さい」

やりとりの中、ナオと呼ばれた青年がおしぼりを持ってきたので中断する。

蓮美と狐乃にどうぞと渡し、タバコは吸われますかと聞かれたので吸わないと慌てて答えた。

確認を終えると今度はワインクーラーに入ったシャンパン、赤ワインを運んでくる。

酒が運ばれると洲汪が蓮美の片側に座り、準備に取り掛かった。

が、置かれた状況に気が付いて後悔する。

両サイドに座られ立ち上がれる空気ではない、完全に呑まれていた。

「乾杯しようか」

狐乃が酒の入ったグラスを手に取り差し出す。

洲汪を見ると合わせてくれと目が言っていた。

「……」

渋々グラスを持って掲げる。

こんな機会など滅多にない。

飲もう。

「乾杯」

グラスを軽くぶつけるとワインクーラーの氷がカランと音をたてる。

深酔いは避けよう。

そう思い口にしてみたが、思いのほかこれが美味すぎた。

シャンパンが泡をたてて再び口にする。

半分まで飲み、美味さに浸っていると隣で狐乃が微笑んだ。

「酒は気にいってくれて良かった」

笑顔で言われて顔を赤くする。

結局彼の思うままだ。

意地を張っても無駄だった。

「仕事はどう、所での居心地は」

個人的ではなく、たわいない会話ならいいだろうと気を緩める。

「やおよろず生活安全所ですか、すごくいい所です。皆さんも親切だし……」

「人間と違って正直で嘘をつかない、だろ?」

ギクリとした。

「蓮美ちゃん人間嫌い、か、苦手だろ。見てればわかるよ、妙に俺達に優しいし」

心を覗かれた気がする。

何となくは意識していた。

人よりも人以外に向ける関心と愛情に。

「ち……」

違います、と。

言おうとして言葉が出ない、嘘がつけない。

今の狐乃は知っている彼とは違う。

水の様に冷たく、深い水底の様で。

怖い。

「俺も嫌いなんだよね、人間が。似てないかな俺達?」

無表情になり、冷めた目でワインを口にする。

「スタッフはみんな化け狐でね、人間に住処を追われたり、マガツカミに家族を喰われた連中なんだ。狐で才能があるヤツを俺が東京に集めた」

マガツカミが生き物を食べるなんて初めて知らされた。

彼は持っていたシャンパンのグラスを一旦テーブルに置く。

「悟狸さんからどこまで聞いてるかな。命の相手はバグ、眷属の俺達が戦う相手はかつて人間が祈ったいにしえの神々だ」

蓮美ではなくグラスを見つめて話す。

「マガツカミは人間が捨てた神なんだ。おかしいよね、かつて捨てた神をどうして仕えた側の俺達が殺すんだよ。人間は歴史の中で畏れた神を捨てて文明にすがり、都合が悪くなれば再び祈ってあやかろうとする。人間側の言い分だと所の仕事は共存の為だってさ、笑わせる。俺が戦うのは行き場を失った哀れなマガツカミに引導を渡してやる為だ」

冷たい眼差しのまま、再びワインを口にした。

矛盾。

悟狸からマガツカミについて話しを聞かされた時に矛盾を感じてはいた。

感じた矛盾を表現できず、口に出して尋ねる事はしなかったが今の言葉で答えを教えられ、理解した。

人間がマガツカミを生み出すで元凶であると。

元凶となる人間が嫌いであると。

なら、人間である自分を連れてきた理由がわからない。

「俺達の一族、狐の稲荷は人間が貧しかった時代に穀物の実りを祈願された存在だったんだ。だけど時代のニーズに合わせ、今じゃ商売で利益をもたらすと世間じゃ認知されてる。口にする恵みだけじゃ飽き足らず、金や権力をよこせと乞われて。人間の欲望に最も近く生き長らえているのが俺達一族だ、代わりに他の眷属はどんどん数を減らしてね」

酒を飲みながらかわす話題ではない。

複雑な気持ちを打ち明けられ、なんと返すか悩んでしまう。

「その話しを聞かせたくて私を連れてきたんですか……?」

強引に連れてまで来たのは人間として謝罪の言葉を聞きたかったからなのか。

「私が謝れば……」

「違うんだ」

ワインを飲み干し、洲汪が再びグラスに注ぐ。

「見せつけたかったんだ、誰かに。誰でもいい人間に」

グラスを揺らして香りを嗅ぎ、深いため息と共に吐き出す。

「集めた連中には人間を憎んでたヤツもいるんだ。だが恨んだ所で何も変わらない、むしろ仲間の分まで生きる事こそ救いだと俺は思っているし、こいつらにも言って聞かせてる。獣は獣で生き抜く力が備わってると、人間だけが社会を支配している訳じゃないと知って欲しかったんだ」

酒が入ったからか。

プライベートだからか。

日頃は澄ましている彼が感情的でおしゃべりだ。

「俺は人間側の神に仕えた身だが神の代理でも、生き物に代わる代表でもある。消えゆく眷属や動物や生物を守りたい、この国の神々はこの国の命あるものに本来は平等だ。やおよろずの神があればやおよろずの命を等しく育む」

彼のグラスの向こう側でナオは蓮美から顔を背けていた。

露骨なその態度が物語っている。

自身もまた、居場所を失くした狐だと。

蓮美を見て驚いていたのは彼らの正体を知っても、変わらない態度を示したのが意外に感じたのかもしれない。

けれど、今の彼から伝わる感情は一つ。

人間に対する嫌悪。

「蓮美ちゃん、こちら側にこないか?」

一度にワインをあおり、酒を注ごうとボトルを持った洲汪にもういいと断る。

「君は俺達と似た物を感じるんだ、人間でそんな相手に出会った事がない。俺は君が気にいってる、これは嘘なんかじゃない」

狐乃が膝に置いていた彼女の手に手を重ねた。

「いい返事を聞かせてほしい」

手を重ねて笑みを浮かべるが、見つめ返した瞳の奥は狐だった。

黒目が縦長に、欠けた月の様に弧を描いている。

笑う彼は狐そのものだった。

「狐乃さ……」

こちら側とは何かもわからないまま、重ねられた手に力が込められる。

見つめられ、身動きが取れないでいるとスタッフの一人がやってきて洲汪に耳打ちをした。

耳打ちされた洲汪は顔をしかめ、立ち上がって狐乃側へ周ると声を落として囁く。

「りきゅう様からお電話だそうです、京都から起こしでお会いしたいと……」

漏れた囁きがわずかに届いた。

途端に狐乃が重ねていた手を離す。

首筋に血管が浮かび上がり、撫でつけた髪がザワリと逆立った。

「クソッ」

カンッ、と。

グラスを勢いよく置き、残っていたワインがテーブルに飛び散る。

飛沫はおしぼりにこぼれると赤く染まり、血の様に滲んだ。

「お勤めの件で本日はいらっしゃらないとお伝えしましょうか……」

「いい、今から行くと伝えろ」

「……わかりました」

洲汪が伝えに来たスタッフに頷くと、スタッフは頷き返して入口へと向かう。

「めんどくせぇ……」

狐乃がだるそうにソファーから立ち上がる。

「蓮美ちゃん、悪い。急用が入って俺は出かけなきゃいけない、代わりに誰か相手をさせるから今夜はここで楽しんでってくれ」

「え、でも……」

去り際。

「嘘をついて連れて来てゴメンね」

それに。

「話しを聞いてくれてありがとう」

振り返らないまま言い残し、店から出て行った。




















読んで下さっている皆さん、そうでもないという皆さんもお世話になっています。

この回は今までにない掘り下げ方でかなり苦戦しました。

確か初回でこの回を書きだした時、全然想定していない方向性に書きあがってかなり悩んだ記憶があります。

というか、もっと軽いノリで書き進めるつもりでいたのですが、この回から決定的に方向性が逸れて、全く考えていなかった流れになってしまったからです。

こうなると、読んで下さる対象の方がかなり大人向けになってしまうと考え込みました。

(下ネタを出している時点で大人向けだと自覚はありましたが)

書いた自分でも驚いていて、こんなに話しの幅を広げるつもりはなかったというのが本当の感想です。

結局流されるまま、この後続いてしまうのですが。

一つだけお詫びをさせて頂くとしたら。

狐乃ですが、過激な発言を話したりしていますが、ここでは「狐乃の言葉」という上で表現をさせて頂きたいです。

自分はここまでの考えは持っていないので、各キャラの言葉として受け止めて頂けましたら幸いです。



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