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やおよろず生活安全所  作者: 森夜 渉
三章 やおよろず生活安全所
26/62

24/やおよろず狂騒曲

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)



「えっ、蓮美が休み?」

出勤してきた和兎は悟狸から蓮美の病欠を知らされた。

「うん、さっき電話があってね」

本日は木曜日。

蓮美の勤務四日目の日だが体調を崩して休んだのだ。

既に来ていた職員は連絡を受けた悟狸から不在については知らされていた。

「初日からお供物を作ってくれたり何かと尽くしてくれたんだ。疲れがでるのも当然だろう、早く治るといいが」

犬威は当たり前の意見を言ったつもりだが、和兎の想像は違っていた。

「ね、ねえ、おかしくない。蓮美の手形って犬威さんが名前を書いたわよね、犬威さんは病からの守護の力を持ってるわ。その犬威さんが書いた文字なら病疫退散の作用が働いて彼女を護るのに、体を壊すなんて」

「考えすぎじゃないのか、俺が書いたから病にかからない保証はないという事だ。こういう事だってあるさ」

実際。

違っていた。

単に蓮美は初日で猿真に言われた事、手形を落とさないようにと退勤後はカバンに入れたままにしていただけだった。

持ち歩いてお守りがわりにはしていなかっただけである。

しかし、一度湧いた疑念は止まらない。

「もしかして、所が嫌になって辞める為の口実なんじゃ……」

この言葉に空気がざわりとした。

「はわぁっ!」

「そんな、まさかっ!」

和兎の推測に命がおののき、狐乃が声を荒げる。

「大げさだよ、蓮美君の声は苦しそうだったし、明日か明後日には出勤できるよ」

「あの子は優しいから気を使ってる可能性だってあるわ、このままフェードアウトするんじゃ……」

悟狸の意見も聞いてはいない。

「私がお供物お供物うるさいから……」

「俺という存在が眩しすぎて……」

「僕が原っぱでウンコしたから……」

和兎、狐乃、命が思い思いの不安を述べたが、命のウンコ発言は自身の不安一杯で誰も突っ込まずにスルーされた。

「三人とも心配しすぎだ。なあ、悟狸さん、猿真さん」

だが悟狸も猿真も不安に煽られ、元気をなくしてしまった。

「しっかりしないかみんなっ!」

犬威一人が必死に鼓舞する。

午前は命に起こった昨夜の件で会議を開く予定だったが、それどころではなくなってしまった。

もはや今は命より蓮美。

そしてお供物である。

勤務時間が始まるとやる気をなくしたまま、皆は仕事に取り掛かった。

その頃。

蓮美の部屋では。

「頭が痛い……」

体温計を見ると三十七度、少しだけ熱が下がった。

本日は体調が悪い。

入所してから飛ばしすぎたのか、やむなく休みを取る事にした。

就職したばかりだが長引けばますます迷惑をかけてしまう。

命に起こったあの出来事も心配ではあったが。

所の電話番号は勤務初日に犬威がくれたメモに書いてある。

「お大事にしてね、回復するまで安静にしてていいから」

番号先に連絡すると悟狸が出て気遣ってくれた。

色々大変だけど上司に、仲間にも恵まれて理想の職場に入れたと思う。

「今日は療養してまた頑張ろ……」

これが夢オチじゃありませんように。

そう祈りながら枕に頭を沈めた。

それから時間が過ぎ、昼近くを迎えたやおよろず生活安全所。

「お供物はまだかね?」

最初に蓮美ロスが始まったのは高齢の猿真だった。

「嫌だわ猿真さん、蓮美はお休みじゃない。お供物はないわよ」

和兎がオホホと笑う。

辞めたりなんかしない、そんな筈はないと独り言を言って。

「今までお供物は生の野菜でしのいでいたじゃない、今更一日蓮美がいないだけで弱気になっちゃダメよ」

「和兎の言うとおりだ、今まで耐えてきたんだから一日ぐらいどうという事はないさ」

「ふぁいっ!」

犬威の励ましに命から妙な反応を返される。

「狐乃も……」

狐乃は蓮美がいないと聞くや、おかしな行動を取り始めた。

禁断症状のように蓮美ちゃん、辞めないで、稲荷寿司を作ってくれた蓮美ちゃんとブツブツ言ってパソコンのキーを叩いている。

白い画面には無数の蓮美ちゃんと文字が打たれ、目がバキバキにキマっていた。

「蓮美ちゃん、蓮美ちゃん、あれっ、蓮美ちゃんっ?」

何もない空間に向かって彼女の名を呼びかける。

末期症状が出ていた。

「落ち着くんだ狐乃、命も大丈夫か?」

「はいっ、蓮美さんがいなくても僕は#“&‘8%‘%$がぁっ!」

命は人語を話さなくなり壊れかけていた。

「もうっ、しっかりしてよ男達っ!」

「そ、そうだっ!」

和兎が怒りを露わにしたので犬威が若干ビビる。

「本当にもう、蓮美が一日いないくらいでいないくらいでいないくらいで、キイェエエエエッー!」

彼女は蓮美が辞める不安とお供物がないせいでヒステリーを起こした。

「お供物はまだかの?」

再び猿真が聞く。

まとめ役の犬威も収集がつかなくなってきた。

「悟狸さ……」

悟狸は目を見開いたまま動かない。

頭の中で蓮美が辞めてしまった後のシュミレーションをして最悪の結末を想像をしていたからだ。

ネガティブ一色に染まる中、いきなり命が椅子から立ち上がる。

「ど、どうした命?」

彼のフォローもそろそろ限界だ。

「ウンコをしてきますっ!」

「そ、そうか、行ってこい……」

「はいっ!」

勢いよく廊下へ出て行き走って行った。

犬威は頭を抱える。

朝霧君が辞める訳がない。

彼女を信じているのだ。

万が一辞めるのであれば事前にきちんと話してくれる筈だ。

疲れを感じて彼は窓に目を向ける。

「ん?」

命が校庭を駆け抜けてどこかへ行こうとしていた。

「待てっ、どこへ行くっ!」

どこへ行くんだ。

どこでするつもりなんだ。

彼は職員室を飛び出すと靴を履かないまま外まで命を追いかけた。

蓮美がいないこの日は。

幸いな事にバグの出現はなかったが。

やおよろず生活安全所では開所以来始まっての、悪夢のような地獄絵図が繰り広げられていた。




オマケのイラスト


キャラ紹介のイラスト 狐乃になります。

適度な手抜きと脱力感満載で描かせて頂いております。

二枚目は彼の内面の危うさを表現したおふざけになります。今後もランダムでご紹介させて頂けましたら幸いです。




挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

皆さん、お世話になっています。

こちら二回目、直しの後のコメントになります。

この回について覚えているのは登場人物の個性がやっと出せたと感じたのを覚えています。

ここまではほぼ蓮美と命の掛け合いが続いていたので、職員がどんな個性を持っているのか、どこかで書きたいと考えていたような……。


現在は直しの途中なのでなかなか続きを書けないのですが、まだまだこの先で職員の事を掘り下げた事を書きたいなと思いつつ、どうでもいいギャグばかりが浮かびます。

なのでここで書かせて頂きます。


「次回予告、57話、命の野郎は絶対来ねぇ、行けたら行くわの巻っ!」



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